《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

繰り返された「するする詐欺」と結婚式の予行演習。その どちらも本番を迎える最終巻。

オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(11) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
オレ嫁。~オレの嫁になれよ~(オレよめ。~オレのよめになれよ~)
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

アメリカへの旅立ちを前に、ついに結ばれる夜を迎えた2人―。『好き』よりもっと深く…。恋は愛へと変わっていく。いくつもの危機を乗り越えた2人は、ついに最幸のウェディングロードへ。「オレの嫁になれよ」その一言から幕を開けた運命のウェディングラブ、堂々完結!!

簡潔完結感想文

  • 聖夜に迎える初めての夜。これ以降 恋愛トラブルは一切 起きません。
  • 最後はハリウッド映画並の大掛かりなアクションシーンと命の危機。
  • 10代後半から背が伸びる理想のヒーローと、気になるヒロイン無職。

を追って留学はしたけど、自分の目標は見つけられなかった 最終11巻。

最後の最後まで本書は驚くような展開を用意しており、最後はハリウッド映画 顔負けの大掛かりなアクションに ひなた と前(ぜん)は挑戦する。これまで車に撥(は)ねられたり、ナイフで刺されてみたり、早くも中盤で もう これ以上エスカレートすると死ぬしかなくなるところまで到達していた2人。なので中盤以降は命の危機は無かったが、最後は やっぱり死と隣り合わせの大仕事をさせられる。少女漫画のヒロインや御曹司という お仕事が こんなに楽じゃないとは知らなかった。最後はアクション俳優ばりの活躍を見せる2人を是非 見届けて欲しい。

よくよく考えてみると、ヒロイン・ひなた が最後の大事件に巻き込まれたのは偶然である。前からの連絡が途絶え、彼女は彼の住むアメリカへと内緒で渡航する。そこで前の兄・創(そう)に出会ったことで この日に前が どこにいるのかを知り、どうにか そこに潜り込むことで大きな事件に巻き込まれた。
そして ひなた が この日に渡米し、そして無理に前と一緒にいることを選んだから、前の命は助かったと言える。前が単独行動していたら、彼は あの船の中で意識を失ったまま溺死していただろう。そうなる未来を回避できたのは ひなた が前と一緒に行動し、最強のふたりで いたからだった。騒動後に前が ひなた に感謝するのは当然で、これにより彼は絶対に ひなた を裏切ることがなくなる。もしかしたら これは長い結婚生活で前が絶対に浮気しない足枷として機能するのかもしれない。命の恩人を悲しませたら自分が不幸になると前が考えることで、前の行動は抑制される、という安全弁になっているのかも。そして この日、ひなた が前を助けたことが、今後の前の活躍と成功、そして地位の向上は全て ひなた のお陰と関連付けることが出来る。ある意味で前の全てを ひなた が支配したのが この日だったのかもしれない。

ピンチに際して 共闘を申し出るほど強くなった ひなた だが、彼女の個人の目標と達成は描かれず。

初から嫁=結婚がゴールの作品で、途中からは それを どれだけ先延ばしに出来るかに作者は注力していたように思う。だから結婚がゴールになることは当然で、その先に温かい家庭を作る未来があるのも分かる。ただ一つ 気になるのが、21世紀においても結婚=女性が家に入ること、のように描かれている部分である。せっかく作品は ひなた は守られるだけでなく、ひなた が前を守る場合もあるという対等な立場で描いているのに、ヒロインを社会進出させないのが気になった。

最終話によると ひなた は前を追ってアメリカ留学をしたようだが、そこで学んだことを活かしている形跡がない。前の成功はもちろん、これまでの登場人物は それぞれに収入を得て生活をしていているのに ひなた だけは何も未来が描かれていない。
少女漫画では結婚=人生のゴールなのは分かるが女性の幸せを そこに限定するのは今の時代に見合っていない。低年齢向けの作品だからこそ、女性が外に働きに出ることを当たり前のように描いて、啓蒙していくことも大事なのではないだろうか。

ただ ではヒロインは どんな職業に就けばいいのかが難しいところ。ヒロイン=読者の分身だから最初は平凡でなければならないし、その後も根拠なく仕事を選ぶと そこでヒロイン=読者の絆が途切れてしまう。だからこそヒロインは無職=無色のままが平和なのかもしれない。ただ本書の場合は、大きな責任を担う前に見合う自分を ひなた は探し続けていたので、彼女の道を描いて欲しかったと思う。

そして大人になった前が大きくなるのも、画一的な男性像の描き方だなと思う。渡米から1年で ひなた と並ぶぐらいの大きさになっており、彼の成長は描かれ続けていたが、結局 女性より頭一つ大きいのが一般的な理想像という感じを押しつけられて嫌だった。まぁ ちびっこヒーローは10代後半から大きくなりがち、というのは少女漫画あるある の一つだろう。ちびっこヒーローが あまり成長しなかったのは私の読書履歴の中では くまがい杏子さん『あやかし緋扇』ぐらいだろうか。

とんでもない展開の連続だった作品の割に、最終巻は普通の少女漫画の範疇に収まっているのが残念に思えた。


距離恋愛を控えた聖夜、2人は いよいよ結ばれる。前が周囲を警戒するのは「するする詐欺」が繰り返された教訓か。性描写は低年齢向けの作品にしては踏み込んだ描写をしているという感じである。ちなみに ひなた の刺された傷跡(『6巻』)は まだ残っていて芸が細かいと感心した。前は ひなた に傷があっても、どんな体形をしていても彼女の存在を愛しているから問題はない。

こうして あっという間に前はアメリカに出発し、ひなた は実家に戻る。そして1年の月日が経ち、ひなた は前に会いにアメリカに到着する。

ひなた がアメリカに向かったのは1年間 毎日 連絡を取っていた前からのメールが途絶えたからだった。サプライズで前に会いに来た ひなた だったが さっそく道に迷う。そこに現れたのは前の兄・創だった。そこで前には客船のパーティーで会えると伝え、ひなた を送り届ける。だが彼は條森グループが抱える闇についても語っていた…。

直前で出航の汽笛が鳴り響くが、ひなた は走り続けて、なんとか客船に乗り込む。ここは『7巻』の島での場面を思い出す。


わなかった1年間で前は ひなた と同じぐらいの身長になり、そして ひなた は前に言わせると予想を超えて綺麗になったらしい。2人は お互いを確かめ合った後 並んでパーティーに参加する。

そのパーティーには前の両親である條森夫妻も参加していた。ひなた が2人と並んで会うのは初めて。ここで ひなた は両親から正式に婚約者と認められる形となった。
だが その直後、非合法な組織が前の父親を拉致し、連れ去ってしまう。どうやら彼らは條森グループにビジネスを持ち掛け、それが断られ実力行使に出たらしい。そして前の父親は自分の身に危険が迫るかもしれないことを予測し、前をアメリカに呼び、そこで彼を後継者として育ててきたようだ。

そして前のもとに脅迫電話と身代金の要求がされる。彼は要求を聞く前に乗り込むことを宣言(父親の命が危ないのでは…?)。前も また父親にトラブルがあった時のために父にGPSを黙って装着していたようで、居場所は簡単に判明。そんな前を ひなた は止めない。それどころか自分も乗り込むという。根拠は2人で「最強」だから。そして前は 離れたくないという彼女の要望を聞き入れる。


うして2人は水上バイクで目的地に進む。誘拐グループは小型ボートで社長に暴行を加えるが、父親は屈することなく息子の活躍を信じていた。迎撃する銃弾の嵐の中、前はバイクで突進し、船に乗り込む。

前は敵を制圧していくが、ひなた は あっという間にナイフを突きつけられ、前の お荷物になる。だが ここから ひなた は反撃。この1年 ひなた は「花嫁修業」で自分の身を護れる力を手に入れていた。前は それを知っていて戦力として ひなた を連れて行ったのかもしれない。すぐに敵を追い詰めた2人だが、窮鼠猫を噛むで、彼らは小型ボートを爆破し、沈没させようと起爆スイッチを押す…。

まず沈み始めるボートから父親を救い、脱出する(ちなみに すぐに気絶して父は無力化)。だが前は船の中にエンゲージリングとペンダントを落としていることに気が付き、船内に戻る。それを発見した途端に船が大きく傾き、倒れてきた棚に足を挿まれる(固定されてないのね…)。ひなた は彼を助け出そうとするが、棚は重く、水が迫る。だから前は ひなた にキスをして、彼女を突き飛ばし、彼女だけでも助けようとするのだった…。


は一人で海に沈もうとするが、それを ひなた は許さない。再度 前を救出しようとするが、海水は流入し続け、彼らは共に沈む。すぐに ひなた は海水と船内の僅かな空間に顔を出し酸素を取り込むが、前は水の中で意識を失っていた。そこで ひなた は前に口移しで空気を送り続け、彼が意識を取り戻すことを祈る。

その後の描写が よく分からないのだが、前は意識を取り戻した直後に救助隊が扉を開けて彼らを発見した、という描写なのだろうか。かなりの水圧で扉が開くとは思えないのだが、そこは ご都合主義だろう。ここで2人に死なれては意味がない。2人は無事に元の豪華客船に運ばれ、前は ひなた の献身によって生き永らえたことを深く感謝する。

最後は当然、條森家ゆかりの教会での挙式。でも予行演習が何回もあって見飽きたかな…。

の数年後、彼らは本当の結婚式を挙げる。参列者は これまでの登場人物たち。留衣(るい)以外の剣道部の2人がいないのか。留衣(たち剣道部員)は せっかく前の友達という大事な役目をもらったのに、特に友達として活躍することなく終わったのが残念。ひなた と距離が出来た時に前に寄り添うとか、前のピンチに駆けつけるとか、もう少し役割が欲しかったかな。
そして参列者は それぞれに成功している様子(聖奈(せな)は怪しいか?)。聖奈によると ひなた は前を追ってアメリカ留学をしたらしいが、その目的や成果が描かれることはない。

そして教会の中で ひなた を待っていた前は背が伸び、すっかり大人になっている。そして式の中で 前は ひなた に「俺の嫁になれよ」という誓いの言葉を告げるのであった…。
そういえば結婚式の場面でも ひなた の父親は描かれることがなかった。ひなた の格差婚を心配したり、前を一度は拒絶する役割は父方の祖母が担ったからなのかな。まぁ婿と義父が出会っても前が父親を威圧して終わりそうだから いいけど。あとは條森一家では創と父親の会話が一度も見られなかった。後継者を放棄した創を 父親がどう思っているかなど背景が欲しかったところ。

結婚式から数年後には、ひなた は陽(はる)と静(しず)という2人の子供に恵まれていた。少女漫画におけるヒロインの子供は男女2人が 一番 多いような気がする。しかも姉弟という順番が その中でも多いと思う。考えてみれば、子供がいることを幸せの主張にしているけど、この少子化の時代、子供を持たない・持てない人も多いだろう。配慮を重ねていると何も描けなくなりそうだが、女性の幸せを一つのルートで描くことに色々思う所が ある人もいるのは確かだろう。

「番外編 1」…
2人で迎える初めてのクリスマスの話。エロシーンが少し挿まれ、ヒロインのドジも彼にフォローされ、ヒロインの願いを彼が叶えるという分かりやすい展開の1編。『10巻』の過去編でもそうだったが、昔の前は偉そうなだけで何の魅力もないと今は思ってしまう。それだけ彼が成長したのかな、と思う。

「番外編 2」…
ひなた が條森の屋敷で遠慮なく飯を食って太ったという話。以上。