《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

全19話の折り返し地点である9話と10話の間の9.5話で芽生える オトナくん の自覚と自戒。

となりのオトナくん(3) (別冊フレンドコミックス)
るかな
となりのオトナくん
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

隣に住むサラリーマン・日野っちに片思い中の莉々花。少しずつ日野っちとの距離を縮めていきたいのに、想いがあふれて日野っちに気持ちがバレてしまう。最初は“オトナの対応”を続けていた日野っち。でも少しずつ本音が見えてきて、莉々花の恋心も急加速!! “お隣さん”から一歩踏み出して―!? ギャル×サラリーマンのおとなりラブ、第3巻!

簡潔完結感想文

  • 違うクラスなら同じ教室に、違う学校なら同じ学校にいたいという恋する者の願い。
  • 自分が決して信頼できる人でも お兄ちゃんでもないから、線引きを明確にする。
  • ギャルっぽい積極性と10代らしい繊細を持ち合わせる莉々花の奮闘と日野の嘘。

気なギャルが大人しくなるのが彼にはギャップ萌え!? の 3巻。

ヒロインの莉々花(りりか)には辛い現実が続く。文化祭にオトナ男子の日野(ひの)を招待したかったが、彼への好意を匂わせたため、日野から それとなく線引きされる。告白したような、フラれたような、そんな つかず離れずの状況が ずっと続くのが『3巻』である。自分たちの関係は何と名付けたらいいのか分からないままの現状を変えていくまでを描く。

莉々花にとって自分が日野の何になりたいのかが悩む日々が続く。その一方で日野側の心理を考えた時、彼もまた揺らいでいることが分かる。特に謎に設けられている9話と10話の間の9.5話で彼は一層 自制を強めていることが分かる。その中で莉々花の父親から「信頼できる人」「お兄ちゃん」と言われることで、彼は自分の「オトナ」としての立場を思い出す。社会的にも そして莉々花の父親との個人的な関係の上でも間違ったことは出来ないと改めて思ったからこそ、莉々花との間に明確に線引きをし、その強化を果たしている。
でも逆に言えば それは、日野にとって自分が莉々花にとって「お兄ちゃん」などではないという自覚が芽生えたからこそ自戒も生まれるのであって、莉々花を悲しませる全ての言葉は、実は その裏側に希望が隠されていると思われる。これまでは自然に出来ていたことが してはいけないことになった。まるで突然 近親に愛情を抱いた人のように、彼はタブーの存在に気づいたのではないか。

そして日野が莉々花に好意を抱いた『3巻』での2つには共通点があるように思った。1つ目が文化祭の日。この日の莉々花は日野からの線引きに悩み、目の前にいる日野のことを無視するように沈んでいた。そこに彼女らしからぬ部分を感じた日野だったが、その後、莉々花と学生服のコスプレをすることで彼女は復活する。落ち込んでいたと思ったら ひとりで立ち直る莉々花の強さや明るさに触れて、日野は心底 安堵し、そして口を滑らせる。それは自分が どんな莉々花が好きなのかを明白にさせた場面だったのではないだろうか。

この約束を果たすためか、莉々花は『3巻』のラストでも何とか笑顔を保つことに成功する。

2つ目はターニングポイントとして用意されている9.5話。この日、給湯器のトラブルから莉々花は日野の家のお風呂を借りる。この時点で日野は莉々花と2人きりで自室にいることに躊躇はない。髪の長さからドライヤーを遠慮する莉々花に対し、日野は自分が乾かしてあげると彼女の髪を梳(す)きながら乾かす。この時、風呂あがりの莉々花はドライヤーの温かさと安心感で少し うとうとするのだが、その動と静のギャップも日野に刺さったように思われる。そして莉々花が年下っぽく感じられ、ドライヤーの間だけは自分が年上ぶれて嬉しいと気持ちを吐露する。その声はドライヤーの音で莉々花には届かなかったが、彼女に対する愛おしさが溢れているように感じられた。

この2つの出来事では どちらも日野が自分の気持ちが溢れていくことが止まらないという点が共通している。そんな予想外の出来事が2回続けて起きた後に、莉々花の父親から信頼という言葉を出されたため、それを裏切れないという気持ちが濃くなったのだろう。日野の莉々花への拒絶は、彼女を受け入れる可能性が彼の中で芽生えたからこそ生まれる発想で、日野の態度が頑なになればなるほど、そこに彼の逡巡が見える。

きっと現実は莉々花が思っているよりも好転している。それを彼女に伝えたい。問題は恋愛感情の有無ではなく2人の立場の差なのである。

しかし当て馬かと思われた横原(よこはら)という男子生徒が まさか偽装彼氏としてだけの役割だとは思わなかった。横原が参戦しても日野との接点が作りづらいから三角関係になりづらいのかもしれないが、そんな役割のために思わせぶりに新キャラを投入したのかと勝手に肩透かしを食らった気分である。あと莉々花が偽装彼氏を無断で発表するのも あまり好ましくない。この頃から自分の父親を意図的に排除して、日野との時間を肉食的に確保しているのも いまいち。表情に出ないものの日野はオトナとして悩んでいるのに、反対に莉々花の自己中ばかりが悪目立ちしている。


々花の好意のこもった文化祭への招待を日野は断り、莉々花は一線を引かれたと落ち込む。しかし莉々花は日野への好意が関係性の消滅に直結すると気づき、彼との関係の現状維持を望む。

来校しないはずだった日野だが、会社の同僚に この高校の出身者がいたため、そちらのルートから日野が登場する。その際に、日野との関係を気まずくしないために莉々花はクラスメイトの横原を彼氏役に仕立てる。ちょっと自分勝手すぎないか…? ギャルだけど親の離婚とか家事の分担とか人とは違う私生活があって、莉々花は その辺の配慮がしっかり出来る子だと思っていたので落胆が大きい。事前に横原に説明するとか莉々花の行動を自己中にさせない作品側の配慮があっても良かったのではないかと思う。

だが横原は物分かりが良く、頭も良い子なので莉々花の事情を知り、そして彼女の背中を押す。こうして莉々花は あっという間に日野に再アタックし、友人たちの配慮で日野と一緒に文化祭を回ることになる。
莉々花は日野との距離感や、彼の女性の好みに頭を悩ませるあまり、今 目の前にいる日野を ないがしろにしてしまう。楽しくなさそうな莉々花を見て、日野に彼氏を誘いなと言われてしまう。そんな日野に すぐにウソカレだと言うことを白状する(えっ、横原って この25ページだけの嘘のためだけに存在するの…⁉)。そうと分かっても現役JKとオトナ男子では年齢差から楽しみ方や熱量の違いを莉々花に伝える。ここでは日野が一線を何回も引いてきている。

それでも2人で一緒に回り、少女漫画の文化祭といえばコスプレが必須なのか、衣装を貸し出す写真館に2人で入り、日野の高校時代の制服の形である学ランとセーラー服を着た莉々花が並ぶ。日野の高校生の姿が見られた莉々花はテンションが上がり、元気になり、その姿を見た日野は彼女に対し かわいい と言いかける。日野にとって莉々花は元気の象徴らしく、莉々花の元気が復活したことに安堵して口が滑ったらしい。決定的な破局もないけど、希望的な進展も見えないトンネルの中の日々が続く。


化祭回の9話に続いては9.5話。なぜ この回だけ0.5扱いなのか謎だった。確かにページ数が ちょっと少ないが、いつも通りの胸キュン展開が見られるし、問題はないように思われる。もしかして、ここが日野の気持ちの転機だから0.5なのだろうか。実際、次の話では日野は莉々花に対しての意識や線引きが厳しくなっているように思う。

この日の朝、莉々花の住む部屋の給湯器が壊れた日に限って莉々花は天気予報を知らず雨に打たれて帰る。雨に降られた莉々花を早々に帰宅していた日野が発見する。平日に18:00に人の家に食事を食べに行く日野って どれだけホワイトな会社に勤めているんだか…。出勤は遅く、帰宅は早い。朝、自転車に乗っていくような描写があったから勤務先が ものすごい近いのか!?

給湯器が壊れて、雨に濡れて、日野に会うということは、当然 彼から彼の部屋での入浴を勧められる。日野の部屋着を借りて「彼シャツ」みたいな状況にしたいのだろうが、シャンプーを持参させるような気配りがあるのなら、着替えも持っていけとツッコまざるを得ない。髪の長さから長時間のドライヤーを遠慮する莉々花に対し、日野は自分が乾かすと申し出る。日野にとっては実家の犬の世話を思い出すらしく、好きな動作なのだろう。

その後、莉々花の父親が帰宅して3人で宅配ピザを食べることになる。その注文の間、莉々花の父親は日野の今日の働きに感謝する。そして日野を「お兄ちゃん」「信頼できる人」と称賛する。だから日野は その期待を裏切らないよう、莉々花を自宅に上げるのはやめようと心に誓う。その決意の裏には自宅では間違いを起こしかねない、という心の揺らぎもあるように思う。

日野は遅ればせながら目の前にいるのが犬ではなく女性であることに気づいたのかもしれない。

れからは莉々花の試験勉強があったため、密になっていた日野との交流だが、その後は日野は自炊すると距離を取る。明確に告白はしていないが、気持ちは伝わっていて、その上で線引きされているというのが現在の莉々花の現状分析である。

そんな中、日野が自宅にソファーの購入を検討していることが発覚し、莉々花は家具屋に同行する。本当は父親と3人の予定だったが、父を裏切り なんとか日野と2人きりになろうと必死。へこたれない子である。日を改めようとする日野に対し、デートではなく買い出しだと理由をつけて2人は出掛ける。
莉々花は苦し紛れに自分も家具屋で買いたい物があると言ってついてきたのだが、その品が鉢植えの外側のカバー(?)。なんと『1巻』の7月の莉々花の誕生日に日野が贈ったハイビスカスが元気で、来夏に再び花を咲かせるために冬を越せるようにしたい。あれ花束じゃなくて鉢植えだったんだ、と見直してみると確かに葉っぱも描かれており、鉢植えに見えないこともない。

家具屋を巡る中で、日野の天然発言は連発し、莉々花は そういうところが好きだわ、と好意を口にしてしまうが、日野はスルーしてくれる。だが店員からラブソファという呼称の2人掛けの品を勧められると、日野は一人暮らしだから、と小さい品を選ぼうとする(そもそも あの広さの部屋に独りで暮らしていることが不自然で、あの広さのリビングに小さいソファは変だと思う)。

日野は結局、ソファを選びきれず、自宅に帰ってからネットで再び選定すると言う。それに参加を申し出る莉々花だったが、日野は これまでのように莉々花を自宅に気軽に上げられない。それは莉々花の好意が理由ではなく、日野が莉々花に対する自制心に自信がなくなったからだった。


れから再び日野は莉々花の家に寄り付かなくなる。隣であるが社会的な立場の差を利用して会わなくなることは即座に可能となるのが この設定の便利な部分である(莉々花にガッツがあれば朝待ち伏せしたり、夜の帰宅を狙うことも出来ていたが…)。

そんな消極的な莉々花に喝を入れるのはギャル仲間たち。即断即決の莉々花は自宅ではなく、日野の勤務先に出向く。ギャルJKがオフィス街にいることに街は騒然となり、莉々花は日野の会社の隣の芸能プロへの出待ちだと思われ警備員から尋問されていた。そのピンチに登場するのは日野。社会的身分を使って莉々花を救い出す。

そして2人は食事をしながら会話を始める。莉々花は自分の疑問である、なぜ部屋に入れないかを問うが、日野は もっともらしい答えで彼女を騙し乗り切る。莉々花は日野の態度は いつもの自分の過剰反応だと納得するが、今回は違う。日野は意図的に嘘をついている。その動機は莉々花を裏切る嘘をつくためではなく、彼女に言えない秘密の気持ちであることを莉々花は まだ知らない。

この日、莉々花は自分の行動が どこまで許されるのか線引きのラインを確認する。そして日野の中で一線が設けられていることを再確認し、それが莉々花の好意に由来するものだと理解する。それでも莉々花は初めて言葉にして彼に好きだと伝えるのだが…。