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少女漫画と小説の感想ブログです

マイペースなオトナくん に振り回されるだけで、下降と上昇の胸キュン装置は作動する。

となりのオトナくん(1) (別冊フレンドコミックス)
るかな
となりのオトナくん
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

パパと2人暮らしの莉々花。ある日、隣の部屋にスーツ姿のイケメン・日野耀二郎が引っ越してくる。仕事中はキリッとしてるのに、プライベートでは生活能力ゼロ(!?)な日野についつい世話を焼いてしまう莉々花だけど―!? ギャル×サラリーマンのおとなりラブ!

簡潔完結感想文

  • となりのオトナくん は喜怒哀楽が茫洋としているので、その相方はギャル。
  • シチュエーション重視なのも人間的魅力に乏しいのも別冊フレンドって感じ。
  • もう少し料理を前面に出して、2人の空気感 × ギャル料理でも良かったかも。

入社員と勤続25年が同じ間取りの部屋に住む悲哀を描く 1巻。

作品の空気感が良かった。外見は派手だが恋愛初心者なギャルの莉々花(りりか)と、スパダリになり得るハイスペックなサラリーマンなのに それを感じさせない日野(ひの)の掛け合いは いつまでも見ていられる。特に相手に対して恋愛感情を薄っすら持ち始めている この『1巻』は恋愛に前のめりではない2人が、少しずつ相手を知っていき、惹かれていく様子は心地の良い むず痒さを覚えた。

『新しい隣人はど天然』。母性本能をくすぐるタイプなのだろうが彼氏としては どうだろう。

掲載誌の別冊フレンドと言えば、尋常ではないシチュエーションの注力と、毎回ノルマが課される「胸キュン」だと私は思っているが、後者に関しては本書は上手く機能していたと思う。
ヒーローである日野はマイペースな人間で、彼の言動で莉々花は振り回されるのが基本的な構造となっている。胸キュンにも色々な種類があると思うが、本書の場合、日野が甘い言葉を呟くことは まずなく、彼の言葉が足りないことで莉々花の心が変動する。例えば朝の挨拶を無視されたり、LINEが既読にならず一方通行になり莉々花は落ち込むのだが、最後に日野の行動の理由が明かされることで、曇っていた莉々花の心は一転して晴れ渡る。その心の天気の変化が胸キュンを生じさせる。

男性側に わざとらしい言動をさせて胸キュンを発生させる作品もある中で、本書は乙女心の動きだけで それを達成している。もちろん日野も動く時には動くし、莉々花の悲しみを掬い上げたりするのだが、日野が自然体を失わない姿が私は好きだった。上述の通り、本書は何が起きる訳ではないのだが、そういう自然な「好き」の降り積もり方だから いつまでも読んでいられる気になる。

日野は天然だけど相手の気持ちは思い遣れる。だから ちゃんとヒーローになれている。

かに雰囲気のある作品だが、全体的に見ると山も谷もなかったのが惜しい。思わせぶりに当て馬っぽい人や女性ライバルっぽい人が配置されているのに、それらは機能することなく、良くも悪くも淡々と2人だけの世界で終わる。
この設定なら、青年誌で連載して、なぜだか自分を気に入ってくれるグイグイギャルに翻弄される新人サラリーマンという男性読者の夢を体現して、『きのう何食べた?』みたいに料理描写を詳細に描いても面白かったかもしれない。料理の蘊蓄(うんちく)を混ぜながら、くっつきそうで くっつかない2人の奇妙な日々を描くと一定の需要はあったのではないか、と思った。

しかし本書は少女漫画であった。シチュエーションとメインの2人の造形に凝るのは掲載誌別冊フレンドだなぁという印象を受ける。そして毎度「別フレ」作品では言っているが、シチュエーション以上の感動に乏しい。本書も なぜ独身の新人サラリーマンが、家族向けであろう賃貸マンションに住むのか合理的な説明がなくてモヤモヤする。結局は間接的な『L♥DK』(渡辺あゆ著)がやりたいんだなぁという意図が見え透いて さげぽよ である。また莉々花父子が日野を善人認定するのが早すぎる。家に招く善意は分かるが、年頃の娘に初対面の若い男を接近させるのは不自然だし、日野が莉々花を2人きりでご飯に誘うのも、莉々花がホイホイと呼び出されるのも漫画ならではの早い展開である。新人作家である作者には時間(連載の回数)がないのは分かるが、恋愛初心者なのに莉々花が尻軽に見えてしまっている。

そして作者のギャルに対しての理解や造形、または熱烈な好意が乏しいため、ヒロイン・莉々花のギャル設定は あるようでない。ここも どうして莉々花がギャルマインドに目覚めのかなど背景があれば良いのだが、部屋の不自然さ同様、そういう説明は用意しておらず、設定があるだけ。両親の離婚の寂しさから彼女は自分を武装したとか理由は用意できたし、それが彼女を知る一助にもなっただろうに。設定だけなので好きなことをとことん突き詰めるギャル特有のパワーが感じられない。漫画世界で「ギャル」に対する需要が大きいのは、空気を読むことを優先しがちな現代社会や日本を違う側面から描けるからだと思うのだが、莉々花はギャルというには一般的な思考すぎて特徴が埋没している。
描きたいものを描いている、というパワーが感じられず、ギャルに対しての戸惑いが最後まで残っている。本来は真面目なのに編集者側から(設定上)派手な物語を描かされた、という印象だった。


校2年生の逢坂 莉々花(おうさか りりか)はギャルである。髪色が明るく、派手なアクセサリーを付ければギャルなのである。彼女が10歳の時に両親が離婚し、現在は父親との2人暮らし。莉々花は料理をはじめとした家事を担当し、苦手意識はない。

見た目は派手だが莉々花は この年まで好きな人が居たことがない。そんな彼女が出会うのが最近 隣に越してきた日野(ひの)。彼の寂しい食生活を知って父親の公認を得て、莉々花は日野に手料理を振る舞うことになる。
独特のテンポと空気感を持つ日野なので、莉々花に訪問を予告されながら半裸で玄関を開けてしまうなど、感覚と距離感が色々と おかしく、莉々花(と読者)の印象に残る行動を繰り出す。

この日野は営業1年目のインテリア系商社で働く会社員。エリート大出身。そんな日野の経歴を知った莉々花の父親は娘の勉強を見てもらう代わりに食事の提供を申し出る。家庭教師経験のある日野も それを受け、彼らの交流が始まる。

初日は勉強せず、しばらくテレビを見る2人(父親は自室に戻る)。だがテレビ番組でギャルが料理をするのを見て、日野は「苦手」と呟く。異性との時間に少なからず浮ついていた莉々花はショックを受けるが、最後に日野が嘲笑前提の番組のスタンスが苦手だったということが分かり、莉々花の落ち込みは救われる(=胸キュンのはじまり)。日野はギャルに対しても偏見なく、彼女自身の生き方を認めてくれた。そんな日野の笑顔は莉々花の心に いつまでも残る。


かし初日以降は連絡がなく、一緒に食事することもない。しかも朝に遭遇しても日野のリアクションは薄く、莉々花を無視するような行動をする。LINEも無視され、莉々花の一方通行は続く。

そんな中、父親の帰りが遅くなる日、突然 日野から連絡が入り、外での食事に誘われる。で、ホイホイと出て行く莉々花。日野に会うために服装に気合いが入るのは彼女の心の表れか。
そして会ってみると莉々花の落ち込みは全て日野のマイペースによるもので彼女の心は救われる。勝手に空回りして落ち込んで、何もしないのに回復するという自然な胸キュン心理グラフが日野の武器なのかもしれない。おそらく これまでも勘違いする女性がいっぱいいただろう。初めての2人きりの会話で彼らは距離感を測り、縮めていく。またスーツの上着を脱ぐ姿、ワイシャツの腕まくり、大人の財力を見せつけて、日野は無自覚に莉々花を魅了させていく。この辺は計算し尽くされた萌えが見え隠れする。


ある休日、莉々花は暇だった。父親も友人も他の用事があり、莉々花は日野のことを思い出す。彼の部屋を訪問し、鍵は開いたが、反応がないため中を覗くと日野が倒れていた。鍵だけ開けて寝たらしい。そんなキッカケで莉々花は初めて日野の部屋の中に通される。警戒心とか危機感とか そういう躊躇は少女漫画に必要ないのだろう。部屋には入れれば それでいいのだ。ここでは部屋干ししている自分の下着に日野が焦るのが珍しい光景か。

のんびりした時間を過ごすが、日野にフットサルの誘いの電話がかかってきて、彼らは外出する。誘ってきたのは日野の会社の人たち。この時点で6月7月ぐらいだと思うが、社内で仲が良い。
これまでとは違う集団の中の日野は莉々花に新鮮。そして彼らから日野情報が引き出され、大学時代はミスターコンテストにも出場した経験がある高学歴・高身長の高スペックで、仕事も出来るという評判である。

ど天然だがハイスペックな日野。この人に対抗できる高校生の当て馬も見てみたかったような。

日野は その後の懇親会には参加せず、莉々花を抱き寄せて帰ることを宣言する。2人は お酒ではなく お茶をして、莉々花のタピオカミルクティーを日野が横から飲むというイベントが起きる。2020年の連載なのでタピオカで当世風を出しているのが、2024年からすると新しいものから古くなっていく。そして日野は天然であっても、人の飲み物を勝手に拝借するような人ではないような気がする。タピオカで どうにかギャル感を出そう、日野に無自覚行動をさせよう、という作者の意識が丸出しで、不自然に思えた。

街中で並んで立つ2人はデートに見えるのではないか、という莉々花の心配に、彼女がいるときは紛らわしいことをしない、と日野は彼女なし宣言と、彼女がいたことのある経歴を発表する。まぁ たとえ彼女がいたことなくても、この信念の発表は出来るけど…(笑)


ストは莉々花の誕生回。
その直前に父親はフランスに出張して、現地にいる母親と一緒に帰国する予定となっている。莉々花の両親が婚姻関係があると上手くいかなかったが、別れて見ると上手くいっているらしい。莉々花は家族が集合するのが自分の誕生日であることを日野には伝えない。

だが飛行機のトラブルで誕生日の家族の帰国が叶わなくなる。そこで遭遇した日野にも予定を聞くが、彼も休日出勤で莉々花は いよいよ独りになってしまう。

その寂しさを埋めるように莉々花は本来 家族のための料理を作り、机に並べる。達成感の後に虚しさが去来する莉々花のもとに、日野が花を抱えて登場する。彼はフットサル仲間からの情報で この日が莉々花の誕生日であることを知った(その前の回でインスタや連絡先の交換場面があると良かったのに)。

日野は前日の莉々花の空元気が気になっていたこともあり、莉々花の心を助けに向かう。こうして落ち込みからの回復が胸キュンの鉄則である。莉々花に淋しさを吐き出させて、自分の胸に莉々花を引き寄せ、日野は彼女を慰める。気丈に振る舞ってしまう莉々花の性格を見越した上での日野の質問の仕方が良かった。これは機会があれば実生活でも使ってみたいと思った。