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少女漫画と小説の感想ブログです

買い物でも迷子でも犬の散歩でも、夜道を2人きりで歩くと 流れ星のように恋が光を放つ。

流れ星レンズ 7 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
村田 真優(むらた まゆ)
流れ星レンズ(ながれぼしレンズ)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

街で偶然武智に会った凛咲は、武智の家の複雑な事情を聞かされます。夕暮くんには、武智が自分から家の話をするのは珍しいと言われ…。そんな中、凛咲は大事な日を忘れていたことに気づき!? 【同時収録】流れ星レンズ─all over with stars─/流れ星レンズ─フジモンの憂鬱─

簡潔完結感想文

  • 不用意に家庭の事情に踏み込んで、不必要に感情移入して、涙ぐんで良い人アピール(悪意)。
  • 母がくれなかった愛をくれる君はオレの聖母。朝から偶然 好きな人に会うのは誰でも嬉しい。
  • 統牙の誕生回。待ち合わせから2人きりの初めてのデート。だが その1日は穏やかに終わらず…⁉

に女性が歩けば恋に当たる 7巻。

この頃の作者の中では「夜」は恋の大事な要素みたいだ。それは本書が『流れ星レンズ』という題名だからではない。『5巻』収録の統牙(とうが)の兄・環(たまき)と香織(かおり)の出会いを描いた番外編、そして本編とは全く関係のない読切短編「ショコラ接種」(『6巻』収録)でも夜に出会った男女が恋に落ちている。
その傾向は続き この『7巻』では初めて日が暮れてから会った凛咲(りんさ)に武智(たけち)が恋に落ちた。また巻末の番外編も夜に出歩いた男女が愛を深めている。

この理由について作者は『5巻』で統牙に語らせていたが、夜に会うと「静かで目の前のものしか見えな」くて「研ぎ澄まされて互いしか感じな」くなるからだろう。

これを武智に転用するのならば、彼はレンズの汚れたダテメガネをかけることによって、視界を曇らせていた。そうして自分の本心を誰にも見せず、そして相手のことも よく見ようとしなかった。
だが、夜に凛咲と会ったことで、その狙った鈍感さが働かなくなってしまったのではないか。昼間に比べて落ちる視界に対して、感覚は鋭敏になる。そうして武智は努めて見ようとしなかった凛咲の良さに触れてしまった。武智自身も昼間で、学校内だったら絶対に言わなかったであろう自分の家庭の事情を自分から凛咲に明かしている。それもまた夜のマジックだろう。この時点で もう武智は無意識・無自覚に凛咲に自分のことを知ってもらいたいという気持ちが働いている。同じ日の環の学校の学園祭での出来事が影響しているのだろう。でも その時は日中だったので武智も自分の気持ちを無視できた。だが夜に予期せず出会ったことは冷静さを失わせる。それは『1巻』で統牙と夜の学校前で会った凛咲と同じような心境だろう。周囲が暗いからこそ、恋に落ちた自分が見る世界の輝きが鮮明になってしまう。

本書で特別な「夜」という時間に、ヒロインが弱い男性のトラウマ話を聞く。恋が始まるのは必至。

しかも この時、凛咲は無意識的に、武智が浴びなかった母親や家族からの愛情を彼に与えている。人に感情移入してしまう凛咲だから咄嗟に出た言葉なのだろうが、これが武智の恋心の決定打となる。統牙といい武智といい、少女漫画の他の訳ありヒーローたちが求めているのは母の愛なのだ。特に最初から人のために生きる聖母のような凛咲に訳あり男子たちは弱い。結局、この親友同士の男たちは家族の背景やトラウマ、そして好きなタイプも似ているのだ。武智が恋心に気づくのが遅くなったのは、彼がメガネをして自分を守っていたからであり、そして夜に凛咲と会う機会に恵まれなかったからである。

さて似たような男性から好かれることになった凛咲。博愛精神を持つ彼女が、どう2人の男性を区別するのか、ハッキリと自分の意思でどちらかを選び どちらかを選ばないという選択をするのかが見ものである。作品的にも同じに見えかねない2人の、どこに違いを出していくのかは興味深い。
しかし、当て馬の活躍で統牙が少し不遇である。幸せなのは統牙の方なんだけど折角の初デートが武智の前座みたいになっている。序盤から夢見ていたデートなのに。

それにしても皆でお出掛け回や体育祭、学園祭、初デートと 高確率で巻を跨いでいるなぁ。本編の収録本数が少なくて、巻末を番外編や読切を埋めるのと同じように出版社側の商法だろう。ここが売り時とばかりに短いスパンで出版し、そして次も買わせるように仕向けている。作者にとっては待望の人気作となったのだろうが、その分 仕事量が半端ないように見える。ここで身体を壊さないタフさも人気作家には必須の条件なのだろうか。


の高校の文化祭で、武智は愛美(まなみ)に諦めてもらうように話す。だが愛美は一方的に好きになる分には構わないだろうと退かない。この辺は蜂野(はちの)に対するトモの関係に似ている。一度、凛咲を好きになった男性は、ずっとずっと想われることで、ヒロイン以外の女性に態度を軟化していくのだろうか。無自覚の凛咲の魔性=他の女性の100の頑張り、で やっと等式になるというのか…?

凛咲は一足先に学園祭から帰るのだが、環に付けてもらった髪飾りが そのままなことに気づき、統牙の家に返却しに行く。だが『5巻』に続いて統牙の家の場所は あやふやで道に迷う。

辺りが暗くなってきた頃に出会うのが武智。せめて暗くなる前に出会っていれば未来は違ったか。
武智との2人きりの会話で凛咲は彼の家庭の事情を知る。武智に母親がいないという状況は統牙と同じだが 同じではない。死別した統牙とは違い、武智の母は武智を育てずに、いつも知らない男とフラフラして、結局 最後は いなくなった、という。そんな人を武智は「クソ女」と侮蔑する。誰でもいいから顔の良い男を求めているように見える愛美を嫌悪していたのは、この辺が理由か。

その人生によって統牙が特別に見えたように、武智もまた その生い立ちから不思議な雰囲気を出していた。凛咲は統牙の時と同じように、自分には想像もつかない人生を送っていた武智に対して その悲しみを自分のもののように背負い込んでしまう。
ただ武智は そんな凛咲の態度が めんどくさくも感じられ、電話で統牙を呼び出し、彼女を引き渡す。凛咲は優しいのだろうが、可哀想な子と同情されるのも武智としては惨めになるだけなのだろう。

ただ凛咲は自分に出来ることとして、武智が家に帰っても言ってもらえない、家族からの当たり前の言葉「おかえり」「おやすみ」「また あしたね!」と告げる。
それは きっと武智にとって母がくれなかった愛に感じられたのではないか。統牙は母を失って、母のような優しい人を好きになった。そして武智も凛咲の聖母としての力を目の当たりにする。少女漫画の訳ありヒーローというのは いつだってマザコン気味だ。無意識に母のような言葉を選ぶ当たりが凛咲の聖母たる ゆえんだ。

そして やはり夜に出会った男女は恋に落ちる。『1巻』で凛咲が統牙に感じた恋の星々が放つキラメキを武智も見てしまう。それはメガネでもガードできない強い輝きだった。


朝、凛咲は武智のことを考えて眠れずに遅刻をしてしまう。武智が遅刻したのも同じだろう。凛咲のことを考えて眠れず、そして眠った後は凛咲の「おやすみ」が効果覿面(てきめん)で いい夢を見て寝坊の原因となったようだ。

それに統牙が偶然 朝に凛咲と下駄箱前で会ったことが殊の外 嬉しくて、その後 凛咲と登校の時間を合わせをしようとしたように、この日の凛咲との偶然の出会いは武智にとっても嬉しかったのではないか。彼女もまた自分を考えてくれていた、という喜びもあるだろう。
こうして親友同士は恋のライバルになる。


の放課後、凛咲は統牙に道案内されて統牙の家を教えてもらう。昨夜も統牙に迎えに来てもらって家に入ったが暗かったので もう一度。

その道中、凛咲は武智に家の事情について統牙と話す。凛咲は親友の彼女だから教えてもらったと無自覚を発揮するが、統牙は自分のことを話したがらない武智が女性に事情を少しでも話す異変を感じていた。武智から心を見せたということは自分を知ってもらいたいのではないか。統牙が母親のことを話したのは家族の話になったからで、関係性が深まり、凛咲に隠すことではないと考えたから。そういう自分の心の動きを考えると、武智の心境が見えてくるような気がするのだろう。似た者同士だからこそ思考がトレース出来る。

統牙の家に到着しても、今は家に誰もいないから凛咲は お邪魔しない。部屋という最高のパーソナルスペースに入ることは彼女の証であり、彼のオープンマインドの証明でもある。だが凛咲は淑女なので、不健全を疑われるようなことはしない。きちんと自律して中学生らしい交際を守る様子が微笑ましい。

ただ武智は友情を壊すつもりはない。けれど凛咲を好きだという気持ちは止められず、統牙を待って教室で眠っている凛咲の おでこにキスをする。

人の罪を被ったり、皆が持ってる携帯電話を望まなかったり、教師を手伝ったり、PTA推薦図書を狙ってる?

んな事件が起きていることに無自覚なままの凛咲。だが彼女は ある一つの事実に気づき、大きく慌てる。それが明日が統牙の誕生日であること。急いで統牙の教室に駆け込み、誕生日当日の土曜日に初めて2人だけのデートをすることになる。

凛咲は急いで統牙と別れ、急いでプレゼントを買いに行く。贈る物に悩んだ凛咲が選んだのはスマホケース。統牙は当初はガラケーだったのに2012年の段階でスマホに機種変した流行に敏い人。この時代(『7巻』は2013年)だからこそ、スマホケースも1社1機種に限定されているようなものの、それから10年経過した2023年現在では相手の機種を知らずケースを選ぶのは無理だろう(まして凛咲はスマホ知識ゼロの状態だし)。

お互いに着る物に悩んでいる描写は、デート前から彼らがどれだけ楽しみにしているかが伝わってくる。少女漫画なので女性側の描写は多いが、統牙もデートに対して悩んでいる描写を挿んでいるのが本書らしい。凛咲は前回(『3巻』)の失敗を踏まえスカートを選び、統牙は彼にしては落ち着いた服装で、初々しさに溢れている。


ち合わせ後は まず映画館に向かう2人。だが凛咲は お誕生日様なのにプランを統牙に考えてもらったことに落ち込む。でも2人で会うたびに反省点が尽きないのは、それだけ彼を好きだという証拠だし、成長する伸びしろでもある。

凛咲は街中で統牙のスマホにケースを付ける。この日のプランを自分で立てたわけではないので さっさと渡してしまおうと考えたのか。おそらく作品的には この後の展開を用意しているため、プレゼントを渡す機会は1日の終わりではダメだったのだろう。携帯電話の話題にしているものの、やや唐突に感じられるのは、このタイミングしかなかったからだろう。
そしてどう考えても自分の好みで選んだクマのスマホケースは どうかと思う。もちろん統牙は喜んでくれたが、この後、周囲の人たちからツッコまれまくる案件だろう。

その後は街をブラブラし、日が暮れる頃に凛咲は自分の お気に入りの場所に彼を連れていく。そこは統牙も知っている場所で またも落ち込む凛咲だったが、彼は最後に凛咲が近々 購入するかもしれないというので、貰った物と色違いのクマのスマホケースを彼女に渡す。その彼の心遣いに凛咲は涙を流す。2人にとって、自分のしたことに相手が喜んでくれることが こんなにも嬉しいということを知った一日だったのではないか。その幸せを抱きしめてキスして共有する2人。そこに武智からの電話が…。

凛咲は結局、作中で携帯電話を持つことは無い。これは伏線を回収し忘れたのではなく、やっぱり持たないことが凛咲らしいと考えたからではないか。親の負担になるぐらいなら なくても困らない、と考えるのが凛咲だろうし、最後にスマホケースを渡した統牙も持つことの強要ではないことを ちゃんと伝えている。こういう相手の事情や意見を尊重すること、周囲に流されないこと、など携帯電話を持たないことで表現できることも多いので、やっぱり伏線回収ミスではない はず。

「流れ星レンズ─all over with stars─」…
『3巻』収録の番外編で両想いになった小学校時代の ゆっこ とハルの その後の話。

ヒロインの親友だけど やや影の薄い ゆっこ。そして本編では亡霊のようなハルの恋愛に私は興味が持てない。本編以外のサイドストーリーを用意して単行本発売の間隔を出来るだけ短くする必要があるのだろう。でも ゆっこ ぐらいしか番外編を作れる人物が該当しないのだろう。

それにしても本書は本当に人のために動くことを美徳とする作品ですね。でも ゆっこ も本編の武智も親切になると凛咲の特徴が消えていくような気もするが…。また この話でも夜に好きな人に会うと良いことが起こる。