《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

美しさが衰えないまま この世を去った白百合のような母と、今のオレが愛する凛と咲く花。

流れ星レンズ 5 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
村田 真優(むらた まゆ)
流れ星レンズ(ながれぼしレンズ)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

彼氏がいる初めての体育祭を楽しみにしていた凛咲。でも夕暮くんが出る応援合戦の直前、高熱で倒れてしまい…!? そして、凛咲が知らなかった夕暮くんの過去が明らかに! 夕暮くんの兄・環の番外編も収録の第5巻!! 【同時収録】流れ星レンズ―感染経路─/流れ星レンズ my STAR(描きおろし)

簡潔完結感想文

  • 体育祭後編。統牙が練習を重ねた応援団なのに演舞中に母親との会話を継続するのが疑問。
  • ヒーローにはトラウマが必須。現実の女性の初産年齢が上がっても「りぼん」内は無関係。
  • 夕暮兄弟が、偽善的にも見える嘘みたいな良い子が好きなのは母親の影響なのだろう。

てたフラグを折りまくる 5巻。

『5巻』で最も気になったのは、作中で06月25日が誕生日だと明示されているヒーロー・統牙(とうが)が小6の夏休みに「11歳」だという矛盾ですかね。おおむね丁寧な お話の作り方に好感を持っている本書ですが、ここは残念だった。雑誌連載時でのミスは単行本化の作業で修正されることが多いですが、ここは そのまま。『1巻』の交際直後で統牙の口から発表されているのに…。作者自身はもちろん、読者からもミスを指摘されなかったんですかね。作者は作品への集中力が高い人なので このミスは少し残念。

作品は相変わらず高品質・高水準なのですが、気になるのが人物の配置と その役割の不徹底ですかね。例えば蜂野(はちの)。見た目が派手な統牙とは真逆の御曹司ライバルとして登場したのに、その役割を果たさないまま別の人と恋愛フラグを立て続けている。彼の心変わり、または当て馬への立候補を撤回するような描写があれば納得できるのだが、特にヒロイン・凛咲(りさ)への感情は変わらないまま、アクションを起こさないままフェイドアウトしていく。その辺がモヤる。

また『1巻』では統牙のライバルキャラとして張り合っていた雄大(ゆうだい)の立ち位置も よく分からない。どうやら統牙とは小学校時代からの友人なのだが、中学では仲良しグループに入ったり入らなかったりで立ち位置が あやふや。一時は上述の蜂野に、統牙のライバルの座を奪われたが、『5巻』では巻末に描きおろしを用意されるぐらいのキャラとなる。作者は雄大を大事にしたいのか したくないのかが分からない。何のためにいるキャラなのかが不明で落ち着かない。


して武智(たけち)である。『5巻』では年上のお姉さん・愛美(まなみ)とのフラグを成立させたように見えた。だが彼は この後、生き方がブレる。別にフラグを立てたからと言って順番に回収しなきゃいけないという約束はないのだが、あっちに行くと思わせて別の方向に進むと意外な展開と喜べずに気持ち悪さが買ってしまう。それは蜂野も同じ。当て馬宣言後は この後、蜂野がどれだけメインの2人を揺さぶってくれるのかと期待した分、肩透かしになった。武智も愛美とのフラグを回収しないまま、意外な役割を押しつけられていて説得力に乏しい。まぁ作品の終盤を支えるのは彼ぐらいしかいなかったのだろうが、それにしても行き当たりばったりだ。凛咲と統牙の2人の関係は丁寧だが、実は周辺の人間の配置は適当なのだろうか。恋愛は早々に成就しているので、連載を引き延ばしているのは明白だが、それにしても大局的な構成を用意しないままだから、キャラの立ち位置がブレブレになっている。

そして女性の顔が全て同じなのは変わらないが、男性の顔も時折 怖い。特に武智は瞳孔が開いているようで苦手だ。統牙のリレーの時の顔も怖いなぁ。猫っぽい瞳が苦手意識を増幅させるのかなぁ…。

この時の武智の思わせぶりな言動の真意も分からないまま。フラグクラッシャー・武智は迷惑系!?

熱を出して校内で倒れた凛咲は保健室に運ばれる。凛咲に見てもらいたくて応援団の練習を重ねた統牙は本番10分前に その情報を聞く。

保健室から養護教諭が いなくなったのは少女漫画的な合図で、直後に保健室の窓から統牙が入ってくる。本書では統牙は窓周辺に現れることが多いが、この場面は校庭にいた統牙が最短距離で凛咲に会いに行くなら窓が効率的なのだろう。

統牙は凛咲の熱を確かめ、そして教師からの嫌味について話す。統牙は自分のせいで凛咲に迷惑がかかることを気に病み、教師に合わせた生活にしようとするが、凛咲は それは統牙らしくないと制止する。統牙が凛咲に、変に意識して変わろうとして凛咲らしさを失わないでと言ってくれたように、そのままの統牙でいて欲しい。没個性的に良きるのではなく、今の感性で生きることが個性ではないか、と。

やがて集合の時間が来て、統牙は凛咲にハチマキを巻いてもらう。別れの際、凛咲から統牙に初めてキスをして彼を見送る。それこそ教師や大人側から見れば たかが応援団なのだが、彼らにとっては切実な問題。まるで出征する恋人との別れのようにも見える。

それに驚き、目を丸くした統牙。彼もまた自分に残された時間を最後まで凛咲に使い、風のように去っていく。


よいよ応援合戦が始まる。
凛咲は車で迎えに来てくれた母親に ワガママを言って、校庭が見渡せる場所から応援団を見ることを願う。つき合ってる人がいることを正直に伝え、母親の理解を得る。

統牙が両耳にピアスをしている派手な子であっても、母親は過剰な心配はしない。それは自分が手塩にかけて育ててきた娘への絶対的信頼があるから。そして自分の子育てへの自信でもあるのだろう。そして母親は娘が交際をしていることも分からなかったぐらい、凛咲は何も変わっていないことを安心の根拠とする。統牙が恋人を所有物のように自分好みにカスタムするような人でないことは明らかだ。凛咲にとって母親も理解がある側の人であることは安心できただろう。

ただ少し疑問なのは応援団の演舞中に2人が会話をし続けていること。若く、そして特に今は感傷的になっている凛咲は一分一秒を その目に焼き付けたいだろうに、母親と会話をしていて演舞への意識が中途半端になっている。自分の交際相手が誰かを伝えたら息をのんで見ていて欲しかった。あと この距離からピアスの有無を確認するのは至難の業なんじゃないかと思う。

競技のラストを飾るリレーでも統牙は活躍する。それはスタート直前に帰ったと思っていた凛咲が自分を見ていることに気がついたから。凛咲に活躍を約束した統牙だったが、それ以上の働きを見せる。しかし少女漫画は運動神経の良い男性しか存在を許さないのでしょうか。徒競走で4位でも その人の美質は変わらないと思うけど、やっぱり分かりやすい活躍が求められるのか。顔が良いのに死ぬほど運動が出来ないヒーローが出てくる作品はないのだろうか。那波マオさん『3D彼女』ろびこ さん『僕と君の大切な話』など男性主人公の話だと割と情けないヒーローも可能なのだが、ヒロイン視点では男性の欠点を描かない方向に進むのか。


咲は、統牙の活躍を見届けた後、病院で点滴治療を受ける。

統牙は その夜、凛咲の家に向かう途中で、統牙に連絡を入れようと公衆電話を使っていた凛咲に遭遇する。彼らは日が暮れて暗くなってから偶然に道で会うということが多いですね。暗い方が「流れ星」が見つけやすいのだろうか。ちなみに 凛咲が公衆電話を利用するのは母親が家の電話を使っているから。統牙の方は凛咲に会いに行こうとした訳ではなく凛咲の家の周辺で快癒を願おうとしただけ。なので凛咲が進んで家から出ないと会えなかったところで会えるのが運命的だ。ただ凛咲は何のために風邪の治療したんだか、という軽率な行動ではあるが。

2人で凛咲の自宅へ歩く道すがら、運動会に来ていた統牙の兄の話になる。そこから凛咲は統牙の両親の顔も見てみたいと言うが、統牙の母親は死別していた。この事実に凛咲は驚く。そういう事態を全く想像が出来ないほど凛咲は恵まれて育ったのだろう。

読者としては統牙のヤンキーっぽさや精神的に大人びた感じや少し擦れているところなどから そういうことを想像していた。私は統牙の両親は10代で子供を産んだか、死別かなと思っていた。
それに何と言っても少女漫画のヒーローの家庭ですもの。本書は初期から その設定があったのかは不明だが、トラウマは後付けも出来て、こうやって中盤になって明らかにすることも可能だ。家庭環境に問題を出すことも簡単で、少女漫画はサクッと親を死なせる残酷なジャンルである。

統牙の母親は彼が小6の時に病気で亡くなったと言う。何と言っても彼はまだ中学2年生だ。小6の夏の母との別れから まだ2年も経っていない。それは生々しく、乗り越えられていない記憶かもしれない。


後の話の流れがあったからから凛咲に事実を伝えたが、統牙は彼女を困らせたことを知っているから翌日は見舞いに行かない。
だが凛咲の方は居ても立っても居られず、以前に統牙から聞いた あやふやな情報で彼の家を探していた。近所の人に聞いて回る凛咲を見つけるのは統牙の兄・環(たまき)だった。凛咲は環の口から彼らの母親のことを聞く。

母親は37歳で亡くなる。この時、環は14、統牙は11歳。母親の年齢は若いが予想よりは最初の出産が遅かったかな。16歳もしくは18歳ぐらいで第一子・環を生んでそうな予感がした。しかし どんなに女性の平均出産年齢が上がっても、少女漫画(特に「りぼん」などの低年齢層向け)では若く生むことが純愛の証拠みたいになっている。少女の憧れを凝縮した このジャンルでは高齢の母親と言うのは夢がない、ということなのだろうか。単純に慣例に沿っている部分もあるだろうから、先述のヒーローの運動神経といい この辺もアップデートされた新しい作品が生まれないだろうか。

若く生んで若く死ぬ とか 身分違いの恋で失敗するとか ヒーローの母親は過酷な運命を背負わされてる。

ここで彼ら兄弟がピアスを開けているのは、母に倣って「同じことをして心に焼きつけて 離れても大丈夫って お守りみたいな 自分への自立の証」だということが判明する。ちょっと前後が説明ゼリフっぽいのが気になるが、こういうエピソードの作り方は本当に上手だ。
そして実は統牙は夜が苦手だったことも判明する。母が この世からいなくなってしまう不安や哀しさなど痛い気持ちばかりが浮かぶ時間帯。それを凛咲が反転させてくれたのだろう。『1巻』で夜に出会ったことは統牙にとって大きなことだったのかもしれない。凛咲と夜に会うのは統牙にとって安心することで、彼の痛みを忘れさせてくれる ひと時なのかもしれない。2人での場面に夜が多いのは意識的だったりするのだろうか。

統牙たち兄弟は しっかりと母と向き合って、互いに心残りがないように努め、別れる。ここで辛い現実から逃げずに、向き合って なすべきことをしたという経験が彼を成長させ、大人にさせたのだろう。


環から全てを聞いて落涙する凛咲。それを統牙が発見する。統牙は凛咲と2人で歩き、彼女が母の思い出を持っていることを知る。そして凛咲は確かに母親は統牙の中にいることを彼に教える。見た目は派手だが統牙が誰かに迷惑をかける行為をしないのは母に顔向けできる生き方をしようと心に刻んでいるからだろう。

生前から母の死を乗り越えられるだけの勇気と、支えてくれる家族や友情の存在があって、彼は真っ直ぐと育っている。

「流れ星レンズ―感染経路─」…
統牙の兄・環と、恋人である立花 香織(たちばな かおり)との馴れ初め。
香織は ほぼ凛咲である。どうして こうも利他的で品行方正な人が もてはやされるのか。品行方正は決して悪いことではないが、本書の描き方は ちょっとわざとらしいというか鼻につく。ただ本編を読んでわかるのは、彼ら夕暮(ゆうぐれ)兄弟の恋人が似通っているのは、彼らが そういう人を理想としているからだろう。結局、2人とも母に似た人を好きになっていると思われる。
香織は環と交際して以降、ちょっと派手になったか。

「流れ星レンズ my STAR」…
小学校からの悪友である統牙と雄大の ほんわかした話。上述の通り、雄大の作品的・統牙側からの立ち位置が分からない。