《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

部員同士の壮絶な暴力事件も、廃墟爆破の重罪も問われることなく部活再開☆

POWER!!(7) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

女の子らしいって、どうすればいいんだっけ――!? あの大事件から2週間が過ぎ、ようやく千晴(ちはる)が部屋に戻ってきた!! 嬉しさのあまり千晴にじゃれつく香(きょう)だけど、女だと意識したくない千晴は、香を「女のカケラもない!!」と罵(ののし)ってしまった!! なんとか女の子として認めてもらいたい香だったが、その大奮闘が裏目に出て、大変な事態に……!? さらに、あのモテない男・浜谷(はまや)が主役(!?)の「HAMER!!――POWER!! 番外編――」も同時収録!!

簡潔完結感想文

  • 由良の出現で中止になった男女同室の寮生活が復活。それは再放送の始まり!?
  • 笑いを優先した結果、小学生男児が喜ぶような下ネタに走る。迷走の始まり!?
  • 由良の復活により彼が男性ライバルポジションになり千晴の心を動かしていく。

ケメン新キャラのバスケ部 復活により、目指せ全国優勝!の 7巻。

新キャラ・由良(ゆら)によって作品がシリアス路線になっていたが、闇堕ちしていた彼が見事に漂白されたことによって由良登場前の雰囲気に戻っていく。

役割を終えた由良は作品にとって邪魔な存在になりかねないので、作品外に追放という手法もあり得たのだろう。しかし本書では由良はヒロイン・香(きょう)の秘密や恋愛事情を知る全知全能の恋のキューピッドとして彼は作品内に留まる。由良の香に対する感情は、香の性別がどうであれ基本的に友情であると思われるが、由良が香の秘密を知っていることによって、千晴(ちはる)が嫉妬を覚え、その感情の動きによって千晴が香への想いを自覚していく。由良は作品内に留まることによって、勝手に千晴のライバルポジションになっていったのであった。ここから三角関係が本格的に始まっても恋愛漫画的には面白かったと思うが、そうなると由良は完全に当て馬となり、いずれは香という存在を失う。それでは由良のトラウマが再発してしまうので、さすがに そのような安直な手法には走らなかったようだ。

シシリアスから恋愛路線に変更するために由良がいる。(仮想)ライバルがオレを強くする。

そもそも由良は自作の毒物を人に飲ませたり、部活内で暴力事件を起こしたり、最後には廃墟を爆破する重罪を犯している。彼を作品内から追放する理由は いくらでも用意できる。それでも彼がいる意味は、香との友情を継続させることで彼を安定させなければいけなかったし、不器用同士で進展しない香たちの恋愛を進める役目も担っているからだろう。闇堕ちしていた頃も様々な役割を与えられていたが、善人化しても彼は作品に便利に利用されている。

以前も書いたが由良がバスケ部に戻って来たことで欠けていたピースが揃い、ここから本格的に部活漫画として復活しても面白かった気がする。香・千晴・由良、そしてキャプテンと浜谷(はまや)の5人でレギュラーも揃う。でも千晴と由良ってポジションが被っている設定だっけ? そんな細かい設定を本書の読者は気にしないから、大会に出場して女性である香が活躍するという夢のような展開も読んでみたかった。


動から2週間、大怪我を負った由良は入院している。香たちは身体の痛みはあるものの入院することなく過ごす。千晴も再び寮で香と同室になることを選び、何もかもが元通りになる。ってか由良は爆弾を製造し、廃墟とは言え爆破したことの罪には問われないのだろうか。ちょっと ご都合主義すぎやしないか。そもそも由良は どういう理由で入院してるんだろうか。家族も病院側も怪我の理由を知りたいだろう。

由良という新イケメンが久々に作品外に撤退していったので、香と千晴の関係を修復する話を作る。今回は香が千晴だけに女子力の高さを見せようとして失敗するというコメディである。そして香は千晴に意識してもらおうとバスケ部の練習中に彼にスキンシップをしまくる。あからさまなセクハラである。シリアスが終わった途端に急に作風も元に戻っているが、その変化の速さに ついていけない。

一緒にバスケをするのが2人の仲直りの儀式。でも今の香にとってはセクハラ目的のスポーツ。

が千晴にセクハラをすることで、学校内で男同士の2人が そういう関係だと噂されてしまう。笑いの対象となるという侮蔑的な意味も含めて「ホモネタ」に走るのは低俗に思う。

香と千晴の噂に激昂したのが香を愛するマネージャーの あかり。刃物を振り回してライバルである千晴の存在を消そうとする。そこで以前と同じように あかり を失望させることで香を嫌わせる作戦に出る。明らかに再放送っぽい内容だが、前回の千晴に対する女子力作戦は全て空回りして失敗したが、嫌われようとする今回の作戦は全て成功してしまうという展開となる。こういう作戦の時の連絡手段がトランシーバーであることが時代を感じさせるなぁ。

シリアス展開で匙加減を間違えたように、この辺りから笑いを取るために下ネタ(丸出し)が多くなったような気がする。小学生男子が笑うような内容にしか思えない。初キスも あかり だし、香が不憫になってくる。


院生活が終わったようで由良が何事もなかったように部活に復帰する。社会的制裁を受ける訳でもなく、部活に迷惑をかけたことに対する詫びもなく由良は自由を謳歌する。普通の人間になったことは喜ばしいが、それでいいのか、という気がする。

部活で普通に喋るようになって千晴は、香が女性だという自分だけの秘密が由良も握っていることを知る。上述の通り本格的な三角関係は少女漫画読者が望む展開だが、そうなれない制約が本書にはある。

千晴の態度は香への好意が滲み出ていると由良に言われてから香は千晴のことが気になって仕方が無くなる。
同時に千晴は、自分が抱く香への苛立ちが、彼女が由良と仲良くしていることへの嫉妬であることに気づき、自分が香に好意を抱いていることを初めて自覚する。おそらく由良登場前の『4巻』以来の、改めて香が女性であることを意識して千晴は空回ってしまう。

全てを見通す天才児・由良は この状況を楽しみ、2人にちょっかいを出して楽しむのだった…。


「HAMER!! ーPOWER!! 番外編ー」…
捨てられた仔猫を見つけた浜谷 真二(はまや しんじ)と小園 えみり(こぞの えみり)。彼らは猫をきっかけに話し始め、小園が来週 転校することを知った浜谷は彼女のために千晴とのデートを計画してあげる。だが その当日までの日々で彼らは互いに恋愛感情を持ち始め…。

本編では笑いを取るために損な役回りを与えられる浜谷だが、この短編では彼の優しさに触れられる。でも初めての彼女が出来た翌日に彼女と遠距離恋愛になってしまう、というのは十分 損な役回りか。
しかし正直、彼に思い入れを持っている人が どれだけいるかは疑問。使い捨てキャラの多い中、熾烈な漫画内のレギュラー争いには ちゃんと勝ち残っているが。