清野 静流(せいの しずる)
POWER!!(パワー!!)
第03巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
本当は女なのに、今じゃ男子バスケ部No.1の“モテ男”――!? 千晴(ちはる)に女だとバレないよう、“男らしく”振る舞おうとして、笑顔までなくしてしまった香(きょう)。そんな香を元気づけてくれたのが、なんと千晴だった!! 千晴の優しさに触れ、香は千晴に思いっきり惹(ひ)かれていくが……!? そんななか、香の“過去”を知る人物が聖修学園に乗り込んできて、香、またしても大ピンチ!!
簡潔完結感想文
- 中学時代から香を知る艶華先輩が転入してきて、香を「女性」に戻そうとする。
- バスケは仲直りか勝負事の手段でしかない。しかもバスケっぽい何かが始まる。
- 秘密を知ることは秘密を背負うこと。互いに自分の行動を見失い、香は失踪する。
強制カミングアウトでの女バレは品がない、の 3巻。
この『3巻』で早くも香(きょう)の男装が千晴(ちはる)にバレる。でも その方法が第三者が香の服を破って、彼女の胸部を千晴に確認させるというのが下品すぎる。こういう男装での潜入が好きな読者は、ヒロインが好きな男性にだけ男装がバレてしまうというシチュエーションに萌えるのだ。本書も それに当てはまっているとはいえ、第三者による秘密の暴露では作品を楽しめない。もうちょっと同居生活の中で少しの油断やミス、高熱でバレてしまったなどの特殊なシチュエーションが欲しい。こういう部分が作者の大雑把なところというか情緒を感じられない部分である。
また全体的に自分の不機嫌を相手にぶつけることで衝突しているのも読んでいて気分が悪い。彼らの気持ちの流れは分かるのだが、そんな不器用さが繰り返されるばかりで少しも成長が感じられない。笑いに走るところは走ってもいいが、不愉快にならないような物語を お願いしたい。よくもまぁ 好きな人に そんな態度取れるよね、という口喧嘩ばかりで辟易する。
性格が大雑把なのは仕方ないが、間違えてはいけない部分で色々と踏み外している気がしてならない。まだ真面目な恋愛パートだった『3巻』でこれなのだから、これ以降の蛇足が どうなるか怖い。
キッパリと「蛇足」と言い切ってしまうのは、作者も今回の「オマケまんが」でキャラに語らせているが、連載が伸びても3巻分ぐらいだと思っており、この3巻で物語を終わらせにかかっているからである。『2巻』が本来なら4話のところ 本編は2話のみのイレギュラーな収録形態になっていたが、『3巻』のラストから あと2話で物語を終わらせることは可能で、『2巻』の読切の収録が無ければ全3巻で作品は完結していたのではないか。なので この辺までが本来の本編で、これ以降は作品の設定を借りた何かだと思うのが正しいように思う。
今回、香が女だとバラすのは艶華(つやか)という中学時代の香のバスケ部での先輩女性。香の過去と現在の秘密を知る彼女が登場することで物語は大きく動くのだが、その秘密の暴露の仕方が下品すぎた。役目を終えた艶華は作品内で活躍することもなく行方不明になっていく。艶華は嫌な役目を押し付けられて嫌な印象になってしまって可哀想である。
上述の通り、女性だという秘密の露見が香と千晴の2人だけのものなら、それが新たな2人の絆になるのだが、艶華がいることで秘密が作品内に充満しない。一気に緊張感が抜けてしまい、秘密に価値がなくなってしまった。作者は何のつもりで艶華を登場させ、彼女に何をさせたかったのかが全く理解できない。現実の連載の続行とは逆で、まるで編集側から打ち切りを命じられたので艶華という乱暴な人間によって秘密のカミングアウトをさせたのかと思うぐらい粗雑な展開だ。
私には誰の性格も共感できないし把握できないのに、その中で人気があるキャラがいたりするのが不思議でならない。ここからの「蛇足」を読み返すのが憂鬱だ。
千晴への恋心を明確にした香。そのせいで自分が男装していることを忘れて千晴の言動で いちいちポーッとしてしまう。
でも一緒に出掛けても香は荷物持ちだし、男女に流れるムードは決して味わえない。今日は その苛立ちを千晴にぶつけてしまう。そんな仲違いからのピンチ、そして救出と いつも通りの展開が見える。バスケをして機嫌が直るのも一緒。この どうでもいい話を1回 挿んで、今後の展開でも考えていたのだろうか。
香が女性だということを知る、中学時代の先輩・艶華(つやか)が登場する。しかも彼女は この学校に転入してくるという。その目的は中学時代の香とのバスケのプレーが忘れられないから、香を追って高校でも同じチームでプレーするためだった。転入を利用すれば いくらでもキャラは増やせるということか。
彼女は本書で初めて香が男装していることとその事情を知る人物となる。その割に この騒動だけの登場で後の出番は ほぼないから覚えなくてもいい人でもある。今回ばかりは艶華を悪者にしてしまった作者に責任があるだろう。
艶華は香を女性に戻した上で、女子バスケ部員として彼女を迎え入れたいのだが、香はチームメイトを裏切る行為は出来ないという。もう かなり長い期間 男装して暮らしているため、嘘の発覚による傷の方が大きいのだろうが、本来の香にとってデメリットがなにもない。香は女性として生きたかったし、恋愛的にも障害が無くなる。
この時点では千晴は艶華を香の恋人だと思い、艶華を仮想ライバルとして敵視している。だが素直になれない千晴は自分の香への気持ちを誤魔化す。もう あまり同性(という誤解)であることは問題ではないように見える。
いつもの通り、自分が抱える苛立ちから千晴は香に当たり散らし、2人に再び距離が生まれてしまう。本書は ずっと どちらかがイライラしていて嫌な雰囲気ばかり漂っている。どちらも自分の気持ちを他者にぶつける幼稚性が目に余り、読んでいて楽しいとは思えない。
転入早々 この2人の関係性を見抜いた艶華先輩は男子バスケ部に勝負を挑み、商品として香の女子バスケ部への編入を望む。もう こんな話が出る時点で香が女であることを半分カミングアウトしているようなもんだと思うが…。
しかも男女の能力差を超えさせるためなのだろうが、バスケ勝負は もう無茶苦茶。最初は全国大会を目指すような雰囲気があったが、完全に お遊びになってしまっている。バスケ漫画と聞いて読んだ読者は怒り出すのではないだろうか。
こうして特殊能力を発動させた艶華が千晴に勝利して、艶華は香を もらい受ける。そんな艶華の強硬手段に香は何も言えない。なぜなら自分が本当に居るべき場所は コチラ側だから。こうして またもや香と千晴に物理的な距離が出来る。艶華は全てを知っているため下手に刺激してはいけない。嘘に嘘を重ねると自分が苦しくなるだけなのだ。
だから千晴に文句を言われても香は何も言い返せない。
それでも香は艶華に書かされそうになった女子バスケ部の入部届を拒絶する。しかし艶華は香の弱点を握っているから香は逃れることが出来ない。
1人で悩んでいたら日が暮れてしまい、そこで香は千晴が特訓をしていることを知る。彼は艶華に再戦し勝利することで香を男子バスケ部に取り戻すつもりだったのだ。艶華に勝つための研究をすることで2人は再びバスケをして心を通じ合わせる。
こうして千晴は艶華に勝利するのだが、香を諦めきれない艶華は香の服を破り捨てて、香の胸を露出させる。上述の通り、艶華の行動は最低で、作品としても粗野な印象ばかりが残ってしまった。
香の胸を見たのは=香が女性である事実を知ったのは対戦相手だった千晴のみ。彼は混乱のあまり、香を避けて過ごす。混乱はしているけれど千晴は香が女性である事実を自分の胸にだけ仕舞う。過去の試合の映像から香が女子バスケに出場していることがバレそうになると証拠を隠滅して彼女の秘密を守ろうとする。誰かに秘密を知られたくないが、だからといって自分が秘密を抱え続けることも出来ない。
そんな自分がどうしたいのか分からない千晴に、香が声を掛け、謝罪と経緯を説明する。でも その話を聞いたからと言って千晴に何が出来る訳でもない。このまま黙っていることは彼も罪を背負うということなのだ。こうして進退窮まった香は一度 学校を離れる…。