《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

予測のつかない時間と場所に現れ、私を一瞬で魅了する君は 流れ星。

流れ星レンズ 1 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
村田 真優(むらた まゆ)
流れ星レンズ(ながれぼしレンズ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

恋愛経験ゼロで、地味めな凛咲。学年で1番人気者の夕暮くん。全然接点のない凛咲と夕暮くんが夜の学校で、2人っきりになり…!? 「好きすぎて泣けてくる」そんな想いに溢れた話題沸騰の第1巻!

簡潔完結感想文

  • 突然 割れた窓から現れたのは これまで接することのなかったタイプの 世界の違う男性。
  • 彼我の間に 見えない一線を引いてしまうのは自分の脳。同じ地平に立って想いを伝える。
  • 短期連載後の続編では、2人の交際の様子と交際開始による男女双方の余波を描く。

分を変革する話だが、変わらない部分が素晴らしい 1巻。

本書は境界線を越える物語である。
中学2年生のヒロイン・花籠 凛咲(はなかご りさ)廊下を歩いていた時に突然 目の前のガラスが割れ、そこから学校で1番人気の同級生の男子生徒・夕暮 統牙(ゆうぐれ とうが)が現れる。穏やかな日々は窓ガラスと共に突然 壊れ、これまで接する機会のないタイプの男子生徒と出会い、そして惹かれていく。だが同じ学校に通いながらも、校舎が違い、知名度・カリスマ性・存在感が違うことを凛咲は気にする。自分の彼の間には一線が存在する。そう思っていた凛咲だが、彼女自身が作った その一線を壊し、同じ世界に生きる者として存在する覚悟を持つことで統牙の隣に立つ資格を持つ。そんな凛咲の自分の中の革命を鮮烈に描いた作品である。

中学2年生の春という学校生活の途中から始まるが、窓ガラスが割れることで新しい世界が広がる。

ただし、早々に始まった交際によって2人の本質が劇的に変わる訳ではない。それが本書の隠れた長所なのではないかと思う。彼らは これまでの生き方を大きく変えたりしない。その美質を失わないまま、優しさを持ち寄り、違いを楽しみ、相手を慈しむ。周囲や世間からは お似合いの2人とは思われないままだろう。だけど相手に無理に合わせないのが彼らの真の強さで、それが良好な関係のように思えた。


えば地味めの凛咲が無理に背伸びをして化粧をして見たり、派手に着飾ったりしない。大人っぽくなりたい、綺麗な服を着たいという願望はあるけれど、自分に似合わないことはしない。派手な男子グループの一員である統牙と関わっても、彼好みに自分を合わせない。学校一の男子生徒の彼女になったからと言って、調子にも乗らないし、綺麗でいなきゃとも思わない。特に彼と いつでも連絡が取れるアイテムである携帯電話を持たないままでいるのは、自分を律する凛咲のポリシーを感じた。交際後も基本的に これまで通りの生活をしているのが良い。

それは統牙の側も同じ。見た目は派手だが純粋で、そして物分かりが良い。例えば上述の携帯電話。凛咲が持っていれば いつでも連絡が出来て彼氏としては便利だし安心するだろう。だが統牙は それを強要しない。思慮が浅く柄の悪いヒーローなら携帯 買えよ と気軽に言ってしまうところだが、統牙は相手の家の事情に簡単には踏み込まない。それは自分の家の事情に踏み込まれたくないという防衛本能もあったのかもしれない。交際後 一瞬だけ統牙が凛咲に引っ張られて真面目になったような描写もあるが、そこまで性格は変わらないまま。

世界を越境するような話で、凛咲は想いを伝える勇気を持ったが、何もかも恋に染まっていかない部分があるのが本当に良かった。

それは2人が中学生だからではないだろうか。帰る家の方向が違うと言っても それでも徒歩圏内の同じ地元に生きる。世界は同じ。そして その地元の公立中学校だろうから学力によって生徒が振り分けられる受験を経ていない。そう思うと公立中学校とは ちょっとした地域差があり、学力差も上下で かなり開きがあるような混沌とした場所なのかもしれない。そして中学校は高校ほど学校内でのヒエラルキーが明確ではないだろう。個人差が出始める時期だが、まだまだ学校生活の中でヒエラルキーが それほど影響しない。

もし高校時代で2人が出会い、交際したら周囲はもっと騒がしかっただろう。容姿や見た目の派手さで格付けされ、それが個人のパワーに繋がる高校時代なら、凛咲は嫌がらせを受けたかもしれない。また統牙とも初恋同士の恋愛は出来なかった可能性が高い。お互い初恋で初交際だったから凛咲は統牙に引け目を感じずに、いつもの自分でいられた。
というか上述の通り、学力で分けられる受験を経たら、高校は同じではない可能性が高い。中学校だからこそ出会え、中学校だからこそ余計なトラブルが無く、笑うことの方が多い恋愛を出来ただろう。


れにしても「地味め」だという凛咲が完全にヒロイン顔なのが気になる。掲載誌が「りぼん」なので仕方がないが、登場人物の とにかく目が大きい。大きすぎる。全てプリクラの機械や画像加工したような目になっていて、リアル読者には理想的な顔に見えるかもしれないが、私は不気味に思える部分もあった(割と すぐに慣れたが)。ただ女性は この顔、男性は この顔、とハンコで押したような顔ばかりなので、ヒロインだとばかり思っていた女性キャラが実は別の人だった、ということが多々あり、その点は読みづらかった。

3話の短期連載が好評で その後の続編、そして定期連載化になった作品で、はっきり言って短期連載部分で全てのイベントは終わっており、その後は交際の様子を生温かく見守る、という感じである。
ただ短期連載が好評なのは とても納得がいく。人の心の掘り下げ方、言葉の選び方、構図や道具立てなど全てが揃っている。印象として私が咲坂伊緒さん に初めて触れた『ストロボ・エッジ』を読んだ時と同じ感覚だった。『ストロボ・エッジ』も短期連載のはずが長編化した作品だったか。また彼我の間にある見えない線を越えようとするのは『アオハライド』を連想した。奇しくも本書と『アオハライド』は、連載雑誌は違えども同じ2011年02月号から連載が開始している。自分で壁を越える、というヒロイン像が流行するような社会だったのだろうか。


咲は恋を知らない中学2年生。
そんな彼女の穏やかながら代わり映えのしない毎日を壊すのは、目の前で割れた窓ガラスから現れた統牙だった。この日常を壊すこと、そして窓から統牙が現れることが非日常の入り口となっている。

彼は学年で1番目立つメンバー。しかも統牙のクラスは凛咲と校舎から違っており、これまで交流がなかった。この校舎の違いもまた境界線だろう。

ガラスの破片が凛咲の髪についており、それを統牙が払ったことが2人の最初の接触となる。それは1回きりの遭遇であるはずだった。だが それ以降、凛咲は統牙を目で追うようになる。ある時はメンバーで禁止されているベランダに出るのを見る。

ただ他の恋愛をしているようなクラスメイトの女子たちがベランダに出ても、凛咲は そこに参加しない。ベランダに出るのは いわゆる1軍の生徒たちだけなのだ。ただ凛咲もベランダに出ている人たちのように なりたい という願望はある。


して統牙も誰かのために動く凛咲を知っていく。ある日、父の帰宅後の楽しみであるサイダーを凛咲は買いに行くと申し出る。凛咲が誰かのために奉仕するほど統牙との接点が増えるというのが隠れた見返りになっている。情けは人の為ならず。品行方正に生きよ、という「りぼん」読者へのメッセージだろうか。

夜の学校前で2人は遭遇。統牙は宿題のプリントを忘れたので取りに来たという。彼が意外にも真面目な面があると知る。統牙は夜の学校の閉門する門を越境して入っていく。本来なら ここで別れる2人だが統牙が凛咲に一緒に来るかと問う。そうして凛咲は初めて統牙の側の世界に入る。

統牙は「夜の校舎」に入っても「窓ガラス壊してまわった」りはしない。2つは別の事件です。

夜の校舎、そして自分とは違う世界にある統牙のクラス。そのクラスの前にも凛咲には境界線があるらしく、統牙が教室に入っても 廊下で待っている。彼の席から見える景色、彼が出るベランダから見える景色を知りたくて統牙に問う。自分では出ることは無いと躊躇していた凛咲だが統牙に手を引かれて、彼のクラス、そしてベランダへと次々に誘われる。まるで統牙はピーターパンのようである。

2人きりの会話で凛咲は自分が統牙に その性格まで認識されていることを知る。そして凛咲に遠慮して生きることは無いと正しい凛咲にエールを送る。こうして お互いの笑顔を見たことで2人の距離は近くなる。

学校を出てからの帰り道、統牙は自分の家に近いと凛咲を家に送る。自転車の後ろから見る統牙の背中は輝いていた。それは恋の入り口。この場面、画面を綺麗にするだけならば相応しいトーンがあっただろう。だが手描きのアナログ感が かえって印象に残る。こうして凛咲が恋に落ちるまでが第1話となる。


校で一番の彼への恋が始まった。そして凛咲は、夜 統牙が送り届けてくれたのは、彼にとって相当な遠回りだったことを知り、申し訳なく思う。律儀な凛咲は その お礼を言う機会を うかがう。

凛咲に その機会が訪れるのは またもや彼女が人のために動いた時。友人の手伝いを申し出たら、その先に統牙がいた。凛咲が お礼を言う前に統牙は凛咲の言いたいことを先回りしてくれた。もう凛咲の思考回路は統牙の中に根付いているらしい。

凛咲の特技は どんな人でも長所を見つけられることだろう。いわゆる学校が押しつける価値観とは違った場所に立っていられるから、統牙たちのような生徒たちとも分け隔てなく接することが出来るのだろう。だからこそ色々な人から好意を持たれやすく、無自覚にモテて、自分や他者が翻弄されてしまうのだろう。
今回も他の男子生徒が凛咲の良さに気づきそうになるが、統牙が それを察知し、その男性よりも自分が優れていることを示して周囲を威嚇する。

格好良さのバロメーターが跳び箱、というのは中学生らしい。だが こういう小さな点で人を見直したり、より好きになっていく感覚は分かる。作者は当時の感覚を忘れずに持っているから、今の読者に刺さる描写が出来るのだろう。

統牙の世界に入ることを諦め、自分の心に立入禁止テープを貼る凛咲。世界は重ならない?

咲がベランダに出るのを躊躇しているまま、ベランダが使用禁止になってしまう。学校側が問題にし、統牙たちは1週間 罰を受けるらしい。
彼らがベランダに出ないと挨拶も出来ない。その現実を知り、凛咲は統牙に会いに彼のいる校舎に足を運ぶ。だが そこは別世界。自分が統牙に会いたくても、逆はそうじゃないかもしれない。そんなネガティブ思考が心理的な距離を遠ざける。

2人の距離感を冷静に見つめた地点から短期連載の最終話が始まる。
偶然を装って統牙に会いたくて校舎の前で待つ凛咲。そこに統牙が不意打ちで現れる。あっという間に会話の時間は終わってしまうが、そんな名残惜しそうな凛咲の表情を的確に統牙は見抜く。1話の夜の校門前でも そうだったが、統牙はエスパーのような力がある。そして凛咲を見送る統牙の目には、凛咲が かつて見た恋の輝きが宿っている。

そうして本人たちは知らずに両想いの準備が整う中、凛咲は親友に恋の相談を始めてする。凛咲のことが大好きな彼女は告白に向けて凛咲の背中を押す。

そうして得た告白の勢いを失わない内に凛咲が統牙のもとに走る。だが目の前に困っている人が現れる。凛咲は それを放っておけない性格。こうして告白から遠ざかるが、彼女の親切を統牙は見逃さない。
凛咲を追って美術室に入ってくる統牙。2人きりになり凛咲は自分と統牙の境界線の象徴のような、ベランダへの立入禁止のテープを剥がす。こうして世界が違うと思っていた統牙と一緒の世界になることで、告白の道は拓かれる。

告白をしてくれた凛咲を統牙はベランダに連れ出し、自分の気持ちを伝え、つき合ってください と凛咲に言う。凛咲は それに応え、2人はキスをしてハッピーエンドとなる。


初の3話が終わり、続いての続編は2話の短期連載部分となる。交際編は あの告白の日から2週間後から始まる。

中学生の交際なので、学校内で少し会話をする程度。この続編では最初の短期連載では省略されたであろう凛咲や統牙の兄弟情報(統牙には3つ上の兄)とかピアスの由来、誕生日などが明かされる。
中でも統牙にとって凛咲が初恋で初めての彼女というのは意外な情報。この辺も中学生だからか。高校で出会っていたら元カノとかトラウマとか もっと大きくて面倒くさい問題が続出したんだろうなぁ…。

統牙にとって初カノだと知り、凛咲は嬉しくなる。交際の記念に何かを交換したいという凛咲の願いを聞き、2人はシャーペンを交換する。彼の物を いつも持ち歩けることになり凛咲は喜色満面。凛咲は小さなことでも嬉しくて、それを包み隠さず表現する その性格が統牙は ますます好きになっただろう。


る日の英語の授業中に、教師が置き忘れたCDプレイヤーを凛咲が統牙のクラスに取りに行く機会が訪れる。そこで初めて授業中の統牙を見る凛咲。授業中に眠っている彼。だが その手には凛咲と交換したシャーペンが握られていた。胸キュンだ。ただ「(眠っていても)シャーペンは離さねんだよな」「ノート開かないくせ これは ずっと握ってんだよ」という他生徒の説明台詞が わざとらしい。こういうのを読者の気づき・読解力に委ねてはダメなのだろうか。

そして統牙は凛咲の名前を聞いた途端に目を覚ます。そのぐらい彼女は特別なのだろう。教室に帰る前に、凛咲を統牙が追いつく。プレイヤーに入れるCDを届けて来てくれた。クラスメイトが気を利かせて先に教室に帰り、凛咲には少しだけ統牙と話す時間の余裕が出来る。

そうして他の生徒が授業中に2人で話せること、そこで秘密のキスを交わすこと、誰かが悲しんでいても自分には譲れないものがあること、わがままに貫きたいものがあることなどを凛咲は交際の中で初めて発見する。
この凛咲に生まれる罪悪感などは、長編作品で かなり時間を割くようなテーマだが、交際編も2話限定と短いため、サクサクと処理される。この辺のネタは長編でこそ使いたかったのではないか。


の日、凛咲は統牙に教科書を貸す。それで会えるだけでも凛咲は嬉しい。その際に統牙は自分の携帯電話の番号を凛咲の手に書く。携帯電話を持っていない凛咲は自宅番号を統牙の手に書く。

この辺も中学生設定、かつ2011年のスマホ普及前だからこそ生まれるアナログ感である。現在、2023年では中学生設定にしてもスマホでLINE交換が当たり前になりそうだ。それでも好きな人の連絡先はドキドキするものだろうから、その辺の変化していくデバイス事情なども上手く盛り込めることが人気作家の道なのだろう。

続編2話の1話目が恋人が出来たことへの女子生徒の反応を描いたものなら、2話目は男子生徒たちの反応になっている。

統牙はずっと学校内で目立つ存在だったが、凛咲は統牙の彼女として一躍 有名になった。地味だと思われていただろうが、よく見ると可愛く雰囲気があるというのが男性たちの反応のようだ。掘り出し物のように、埋もれていた物が発見されて、その美しさが周知されたのだろう。その上々の彼女の評判は統牙を悩ます。だから学校内で遭遇した凛咲を抱きしめたり、自分の印象を彼女に強く焼き付けさせている。こういう統牙の心の動きは読者だけがキュンとする部分だ。


際後 珍しく別々に帰り、自宅で宿題をしようとした凛咲は その日 統牙に貸した教科書が必要なことを思い出す。そこで教えてもらったばかりの統牙の番号に自分から かけることにした(手に書いた番号が その日に内に消えるか?という疑問は残る)。
電話の前で緊張していると その電話が鳴る。それは統牙からだった。だが彼が学校にいると伝えた段階で充電が切れてしまい、通話が終わる。そこで凛咲は学校に向かう。

だが その道中で、凛咲は自分を統牙の彼女として一方的に知る男性たちに囲まれてしまう。そこに現れるのは当然 統牙。一瞬 怒気を発して周囲を威圧し、凛咲を連れていく。
統牙は わざわざ人の携帯を借り、凛咲の家に かけ直し、凛咲の動向を知った。そもそも彼が凛咲に連絡したのは、彼女のクラスで英語の宿題があることを知ったからだった。そんな優しさに触れ、凛咲は吐きそうなほど統牙が好きな自分を自覚する。統牙側の嫉妬も描きながら、相手のために動ける彼らの想い合う姿を描いている。

宿題を大ごとに描いているのも本書らしい。そして統牙は、凛咲は ちゃんと宿題をする/やっておきたい という性格を知っているから、わざわざ届けに来たのだろう。彼女に不利益が無いように、彼女を最優先に守るのが統牙なのだ。容姿ではなく、内面に惹かれていく様子が丁寧に描かれているから2人の恋を応援したくなる。