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少女漫画と小説の感想ブログです

遠くを見過ぎて喫緊の選択が出来ない俺と、モラトリアムを永遠にしたくて遠くを見ない彼。

虹色デイズ 14 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第14巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

2学期がスタートし、みんな進路のことを考え出してる。でも、恵一は全然そんな気になれないし、剛は何か悩んでる様子で…?

簡潔完結感想文

  • 自分の気持ちを伝えるという意味では5巻連続の告白。将来の約束と しばしの別れ。
  • 全員の進路決定。カップル4組4様の進路となるが、頭が良い杏奈が3バカと一緒!?
  • 一生に一度ぐらいは照れや恥ずかしさを排除し、邪眼の封印を解き、本心からの言葉を。

ずっと一緒(イッショ=1+4)にいたいと思うくらい好きだよ、の 14巻。

虹色デイズ』の終盤は告白ラッシュ。『10巻』で望月(もちづき)が告白の口火を切ったが、そこから1巻ごとに まり、智也(ともや)、夏樹(なつき)&杏奈(あんな)の告白があり、そして この『14巻』では剛(つよし)の告白となる。ここまでで5巻連続だが、最終巻である『15巻』には恵一(けいいち)と希美(のぞみ)に動きがあるから6巻連続は確定か。

剛の告白と言っても、彼の場合は『1巻』の読切から ゆきりん と交際しているので、恋愛面に大きな動きがある訳ではない。今回、剛が告白するのは自分が悩んでいた問題の結論と、そして照れてばかりで言えなかった ゆきりん への想いである。

少女漫画のクライマックスと言えば遠距離恋愛の危機が お約束だが、本書では それを剛が担当している。他の3人には この土地を出ていく動機もないし、夏樹や智也は交際したて、恵一に関しては交際していないので、剛に お鉢が回ってきたのだろう。ゆきりん は仲間内で唯一 学校が別だったし、2人の交際も ここまで順風満帆だった故に、まとまった出番や個人回が少なかった(あっても番外編)。だが今回は ほぼ1巻丸ごと剛と ゆきりん にページが割かれている。

神は乗り越えられる試練だけしか その人に与えない などと言われているが、剛たちが選ばれたのは確かな歳月と愛情があるからだろう。更には3バカと言われるほど成績が低迷していた夏樹たちと違って、両親に自分の趣味を公認してもらうために コツコツと勉強していた剛だけが外の世界で より高い教育を受ける権利を持っているという事情もあるだろう。

『13巻』から剛と対照的な存在として恵一が配置されている。これは以前、夏樹と智也、まり が杏奈を巡る四角関係になった際の、男同士の友情と対比する組み合わせだろう。夏樹も智也も まり に向かって、それぞれ あいつは信用できると告げることで2人の間に確かな友情を感じさせていたが、今回は剛と恵一という対称的な2人を通して、受験や将来という未知の世界に対する挑み方、捉え方の違いが よく表れている。新しい世界にワクワクしたり、尻込みしたり、今の環境を大事にしようと思ったり、ここから離れたくなくないと思ったり。そんな高校3年生の揺れ動く心理が2人の中に見て取れた。


て この『14巻』で8人(高校1年生の希美を除くと7人か)の進路が明らかになる。告白や恋愛成就によって人間関係が崩壊しないように あれだけ事前準備を重ねた本書だから、恐らく 彼らの進路は絶対に叶うだろう。本書は そういう優しい世界である(過保護とも言えるが)。

ネタバレになるが、全員の進路と学部を書き連ねる。まず夏樹は地元の大学の人文学部。彼と同じ大学を志望するのは智也(経営)、恵一(経済)、そして杏奈(法学部)の計4人。当初は剛も同じ大学の法学部だったが、今回 悩みに悩んで東京の大学に進学する(新しい進路での学部は不明)。そして まり は栄養福祉を女子大で学び、ゆきりん は被服科のある大学に進む予定である。全員が地元で実家を離れる選択肢をしない中で、剛だけが実家・地元を離れ新天地に進む。

男性4人の日々を描いていながら、進路を決めるような運命は描かれていないので、消極的な進学となる。

前述の通り、作者はカップル4組4様の進路を考えたのだと思う。まず剛たちは遠距離組となる。これは焦点の当たりにくかったカップルならではの話となり一石二鳥のアイデアだ。そして恵一と希美は2学年違うため、進路問題を共有しない(そもそも まだカップルじゃないし)。智也 と まり は地元で別の大学に行くという選択を担う。まり は別の大学を選ぶのは自分の学びたい学部のためでもあるし、そして杏奈と距離を置くためでもある。少しずつ杏奈を夏樹に託すことが出来たからこそ、親離れ・子離れではないが、杏奈に依存しない自分を まり は獲得しようとしたのだろう。共学を拒否する理由もあって、まり ならではの選択である。智也は被害者っぽい感じもするが、この2人は四六時中一緒にいなくても平気な安定感を感じる。

さて問題は夏樹と杏奈である。4組中唯一同じ進路を選ぶ2人である。その意味は分かるのだが、定期テストで20点前後が最高点の夏樹と、『1巻』時点では学年20位以内の杏奈が同じ大学に進むことになるのは、杏奈が不憫でならない。一応、学部によって難易度の違いがあるというエクスキューズは設けられているが、バカな男子生徒が半年 勉強したら入れる大学に、勉強もバイトも頑張ってきた杏奈が入ってしまうのは何か納得が いかない。夏樹に対して過保護になるあまり、杏奈に皺寄せがいっている気がしてならない。『君に届け』みたいに、歴然とある学力の差を埋めるようなことはしないで欲しかった。

また作者が目指すのは全員 横一線の平等な幸福という世界観だからか、4人が全員 大学に進学する。これも少し納得がいかない。年々 大学進学率が高くなっているとはいえ、3バカ全員が大学に進む理由もないだろう。
ただ、ここで問題なのは大学に進まない選択肢をさせるだけの理由もないという点だ。専門的な知識を学ぼうにも高校生活を無為に過ごしていた彼らには専門的な分野に触れる機会もなかった。要するに本書が進学先に大学を選ぶのは、それが無難だからである。働くなら早くから就職支援が必要だが、受験をするのは大体2月。高校3年生になってから恋愛成就したためにスケジュール的に余裕が無くなってしまった本書には別の道を用意してあげることが出来なかったのだろう。

ということで消極的な理由から3バカは大学を目指す。彼らには無限の未来が広がっているようで、作品的には限定的な進路しか与えられなかった。どう考えても杏奈が割を食っている気がするが、それは仕方がないのか。


休みが終わり新学期になり、いよいよ進路の最終確認とも言える面談が始まる。

新学期になってからも夏樹は時に学校帰りにデートをしたり息抜きもしているらしい。一方、智也は夏期講習から塾通いが続行しているらしい。ってか、夏樹や恵一は夏期講習にだけ行って 辞めたということなのか??

そして恵一は1人だけ他の3人と温度差がある。夏樹や智也は恋人との時間がある。恋人がいるのは剛も同じだが、更に彼は勉強に対して向き合う覚悟がある。これまで息抜きに使っていた運動部への顔出しも、同級生の3年生が引退してしまい、下級生の中に混じるほどの勇気はない(恵一はちゃんと空気を読んでいる感じはあったが、部活に時々 顔を出す部員でもない人ってのは それでなくとも迷惑だろう)。

放課後、1人になった恵一は、部活が休みの希美と会い、彼女と息抜きをする。恵一は夏の盛りが過ぎ、季節が移ろい、あと半年が過ぎれば強制的に高校生ではいられなくなることに寂しさを覚えていた。気持ちは分からないでもないが、恋愛面では夏樹や杏奈が現状維持を望んで足踏みしていたし、恵一も楽しい時間が終わりたくないから進路を決めずフラフラとしている。モラトリアムな彼らしいが、こういう保守的な面が本書における青春のキラメキが不足している要因だと思う。


一方、剛も自分の進路に悩んでいた。

そこで剛は普段は自分からは話しかけない まり に、彼女と杏奈の進路と、その選択の理由を聞き込みする。まり が女子大を志望するのは、オープンキャンパスで共学校に行った際の男子学生たちの対応に嫌気が差したからでもあった。そして杏奈と離れて暮らすことも彼女の目標の一つである。また智也と学校が分かれる選択をするのは、まり なりの彼への信用があるからこそだと剛は推測する。

剛にとって大事なのは、大切な人と別れる進路選ぶサンプルだったのだろう。特に まり は智也と杏奈という2人の大切な人と違う道を行こうとしていることが参考になったのだろう。3バカは あまり深い理由が無さそうで、聞けば藪蛇に自分の悩みを伝えることになりそうな気配がする。
しかし剛の父親は息子の進路や趣味に対して、口を出さないようにしていたのに、息子が高校3年生になったら自分の進ませたい方向を しっかりと滲ませているのが気になる。子供の自由を制限するのではなく、新しい世界を見せたいと思っているから悪い親じゃないんだろうけど。それに自分の息子が優秀だと分かったら、その学力に見合った学校を薦めたくもなるだろう。3バカと同じでは我慢ならんだろう(笑)


なみに ゆきりん は被服科志望。夏休み中は塾に行っていたが、新学期からは行っておらず自己学習のみらしい。そんな ゆきりんファストフード店で出会った まり&智也から剛が進路について聞いてきたと聞き及び、剛が本当は自分と同じ大学に行きたかったことを照れて言わないのだと楽観的に考える。

なので週末に お家デートした剛に、ゆきりん が まり から進路について隠し事があることを聞いたというと、剛は自分の悩みを相談し始めた。

だが その内容は ゆきりん が考えているような甘い話じゃなく、剛が東京の大学、つまりは遠距離恋愛をする可能性に悩んでいるということだった。剛は大学に行くことは将来やりたいこと、なりたい大人像を明確にすることだと大きく構えて考えていたが、父親が紹介してくれた大学教授の話によって、大学在学中に それを見つける人も たくさんいることを知った。大学受験を一つの挑戦と考え、その先は大学生の内に決めてもいいのではないか、そういう柔軟な考え方が、一刻も早く大人になることばかりに凝り固まっていた剛に新しい道を示したと言える。

ゆきりん にとっては寝耳に水のことで ゆきりん は一瞬だけ呆然とするが、持ち前の頭の回転の速さでショックを隠して、明るく務める。ここで自分の感情を出さないのが彼女の強さだろう。泣くだけがヒロインの仕事じゃない。

ゆきりん・剛 双方にとって、予想外のカミングアウト。ずっと円満だった2人の初めての危機。

が、ゆきりん は それから自分たちが遠距離恋愛をすることを現実のことと考えて頭を悩ませる。運命を感じた出会いだったが、その運命の中には会えない日々があるなんて考えていなかった。
しかし本屋で見かけた夏樹たちが剛の東京行きを全く知らない様子であることを見て、剛がひとりで悩んでいることを知る。不器用な彼が、不用意に彼女である自分に悩みを吐露してしまったことを幸運だと思わなければならない、と ゆきりん は考え直す。交際して2年近くが経過した ゆきりん には剛の選ぶ道が分かる。だから その道を背中を押して応援しようと努める。

剛が最後の最後まで悩んでいたのは、ゆきりん との関係があったからである。その未来がくるまで深く考えないようにしていた。

だけど可能性を考えると、外に出て色んなものを見ること、知ること、経験することが、自分の視野を広げるのではないかという気持ちが湧いてくる。だけど それは先の見えない挑戦であり、時に地元志向も顔を出す。その揺らぎがあるから悩むのだ。

そして剛が 悩むのは東京には自分1人でしか行けないから。ゆきりん を連れていける立場なら迷わないが、それを出来ない子供であることを誰よりも冷静に理解している。だから恵一とは正反対に早く大人になることばかりを考えていた。そして遠距離になることを告げる時、自分には彼女の悲しむ顔しか浮かばない。それが剛のストッパーになっていた。大切な人だからこそ言えないこともある。


れでも息が白くなる北海道の秋の夜、剛は ゆきりん と向き合う。これは『12巻』の智也、『13巻』の夏樹に続く、自分の考えを相手に告げる一種の告白だろう。

剛は、一人で何かを見つけるために東京に行くことを決めた。だが やりたい事を絶対にしたいから地元を離れるという華々しい理由ではないから後ろめたさもあった。離れる決断をした自分勝手でごめん、という剛に、ゆきりん は剛が決めたことだから自分勝手ではなく謝る必要は無いという。実は彼女は上京する計画を試みたが、親に反対されてしまった。

大学卒業後も剛は ゆきりん とずっと一緒にいる未来を考えているから、しばしの お別れとなる。プロポーズのような言葉に ゆきりん は満足する。ゆきりん も剛のことが大好きだから、彼の性格も分かっていて、だからこそ応援できる。
笑顔で決断を見守るが、剛に ほっぺを触られて、ゆきりん は不意に涙を流す。きっと半年後には こんな風に気軽に触ってもらうことが出来ないことを実感したからだろう。幸福だから それが壊れることを恐れてしまう。我慢していた涙と共に ゆきりん も隠していた さみしい という本心を彼に伝える。そして将来の幸せよりも ずっと一緒にいる日々を本当は望んでいることも。

そんな彼女に接して剛も本心を語る。いつもは照れ屋だから言えないが、会えない時間に彼女の支えになると分かっているから「世界で 一番 好きだよ」と愛を伝える。

ここで「邪眼」こと剛の左目が見えているのは彼が中二的なプライドを捨てて、しっかりと相手に向き合う「大人」になったからだろう。ちなみに性的にも大人の関係が匂わされるが、この2人は以前から2人で旅行に行ったりしているから初めて という訳ではないだろう。

もしかしたら遠距離恋愛で、会える日が限られているからこそ、ゆきりん は剛から素直な言葉を その都度 聞けるのかもしれない。さみしい時は絶対にあるだろうけど、会えた時、きっと彼は世界で一番 優しいはずだ。