水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第15巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
みんなの進路の話を聞いている恵一の様子がなんだか変。希美が何か力になれたらと言うと、思ってもみなかった反応が返ってきて…!? 卒業間近、4人の未来は!?
簡潔完結感想文
- ワガママ放題の末っ子に対する友達の反応は3人3様。大好きだから言うべきことは言う。
- 調教していたはずが叱責される立場の逆転。つかまえられたら幸せになる恋の鬼ごっこ。
- 最終回で撮影された写真は高校時代に築いた関係性。それは恋と友情と題せられるもの。
ふん、あれじゃあ バカじゃなくガキね、の 本編完結15巻。
仲良し男子高校生4人組の内3人が「3バカ」と称された本書ですが、3バカの中でも恵一(けいいち)がバカというよりガキであることが最後の最後で判明する。自分の欠点を指摘する人には、たとえ それが友達でも女性でも不機嫌さを隠さずに当たり散らす恵一は まさにガキそのもの。だが それは恵一が弱さを知られたくない人たちでもあるのだろう。
そして そんな恵一への他の3人の接し方が、家族みたいだと思った。最初に恵一に厳しい意見を言った剛(つよし)は まるで父親。現実的な意見を基本とし、残り少ない高校生活の日々を数えるよりも、その時間を楽しもうと視点の転換を提案する。
それでも排他的な言動をする恵一に対して本気で怒るのは智也(ともや)。彼の場合は兄弟、それも双子の兄弟だろうか。恵一に本気でぶつかり彼に奮起を促すのは、彼に期待し、彼と一緒に人生を歩みたいからだった。隠さずに自分の感情をぶつける、ということ自体が智也の愛情表現なのである。
最後に恵一の意見を尊重し、歓迎する夏樹(なつき)は母親のような大らかさを見せる。彼の不安の中にある確かな自分たちへの友情を感じ取った夏樹は、ダメな息子であっても絶対に見捨てないという、ガキが欲する永遠を与えることを誓う。この夏樹の話は理想論で、彼自身も青臭く思える部分もあるが、真っ直ぐな言葉は しっかりと恵一にも届いた。
そのクライマックスに対して、恵一の恋愛成就は少々呆気ない。これは それまでの恵一が無意識に欲していた優位性が崩れることを、少し大人になった彼が あっさりと認めてしまったからかもしれない。これまでは希美(のぞみ)に追いかけられる優越性を楽しみ、そして時には冷酷な言葉を使って、それでも彼女が自分に従属する悦びを楽しんでいた恵一。
だが希美にも自分のダメな所を見られてしまい、彼の望むような余裕は消滅してしまった。そんな情けない自分でも希美は しっかりと好きでいてくれていたことに、恵一は身も心も彼女に つかまった。その前から希美に対して嫉妬や やきもち を覚えていた恵一は自分の幼稚性を認めるように、ずっと心にあった彼女への恋心を認めていく。劇的なシーンではないけれど、自称ドSの恵一が希美に「降参」するような立場の逆転は面白い展開であった。
そして以前から言っている通り、恵一・希美組は女性の方からアプローチをし続けるという古典的な少女漫画のパターンが託されているように思う。海で一目惚れした名前も知らない男性を追って、進学先を変え、彼への愛が一度も途切れることがなかったのが希美というヒロインである。更に最後に恵一が闇堕ちしたかのようになっても希美は彼の暴走を温かく迎え入れる。交際前から喧嘩して関係を盤石にしたとも言えよう。
年上が好きだと自認していた恵一だが、もしかしたら本当に相性が良いのは、彼の幼稚性も受け入れてくれて、盲目的な愛を持つ年下の女性だったのかもしれない。もし年上の女性(元カノや里見(さとみ)先生)だったら、モラトリアムを爆発させた恵一の面倒を見切れなかっただろう。希美は受験の悩みや学校生活のタイムリミットなどを まだ経験していないから純粋に恵一の支えになろうとした。本来は自分の好みではない女性に いつの間にかに男性側が夢中になっているというのも少女漫画の王道パターンである。
最終回は卒業式のシーンとなる。この日、撮影された幾つかの写真は卒業アルバムには間に合わなかった最後の学校生活の1ページとなるだろう。中でも4組のカップルが写真を撮ったり撮られたりするのが印象的。大好きな人の隣にいる彼らは 皆いい顔をしている。
そしてラストには杏奈(あんな)が最後の日まで いつもと変わらない空気でいる4人の男子高校生たちを1枚の写真に収める。この日、皆が笑顔でいられるのは、それぞれに勉強に励み、良い結果がもたらされ、そして高校生活の最後の最後で、4人が全然違う個性を持っていることを認め合い、本当の友達になったからだろう。
そう考えると恵一のワガママも、彼らの友情が本物か確かめる最後の試練のように思えてくる。これは男性4人が主人公の本書ならではの最後のエピソードである。
ただ4人を平等にするあまり、全員が彼女が出来て終わったり、横一線で大学に進学するのは残念だ。4人の内だれかは家業を継ぐとか多様性があれば良かったが、そんな設定がないために無難に大学進学となる。恋愛面でも4人主人公で1人だけ彼女が出来ないなんてファンが許さないのだろう。固定ファンが生まれやすいジャンルだろうけど、だからこそ不平等も許されない。なかなか難しいジャンルだ。
剛の東京行きの報告を聞き他の3人の反応は様々。特に恵一は変化してしまうものを目の当たりにして落ち込む。そんな時、養護教諭の里見先生に声をかけられ、少し自分の内面を吐露する恵一。そこに以前から里見と恵一の接点を快く思っていなかった希美が現れる。恵一と2人になってから希美は里見のことを聞く。すると恵一は以前は好きだったと あっさりと認める。元とはいえ希美にとって明確な恋のライバルですかね。
そういえば本書は目に見えるライバルが現れて初めて本気を出す傾向があるような気がする。夏樹の場合は当て馬・望月(もちづき)の出現(『3巻』)と、かなり時間が経ってからの告白予告(『8巻』)で焦りを感じた。智也の場合は まり が依存する相手がライバルのような感じだ。恵一の場合は希美が追いかける側で、里見の存在が彼女を より積極的にする。希美は女性ライバルの存在にも負けない、という点も王道少女漫画ヒロインである。
恵一の悩みは、剛と そして希美が薄っすらと感じている。恵一の悩みを共有できないかと希美は彼の兄である片倉(かたくら)先生に相談する。兄として片倉先生は恵一が子供であることを指摘する。自分の世界を守ろうと変化を嫌う。それでいて背伸びして大人の真似をするから幼稚さが鮮明になってしまう。だから希美には恵一を好きでいることしか出来ないが、片倉先生は それが重要だという。相手の弱い所、欠点を知っても離れないことが恵一の救いになる、と。
この会談の終わりに、恵一は兄に家の鍵を借りに現れた。それは丁度、希美にとって恵一と里見先生のように、恵一も希美が若い異性の先生への接近することはモヤモヤするものであった。
希美は恵一を応援し、支えることを早速 実践しようとするが、不機嫌な恵一は いつぞやのように希美に明確に一線を引く。まさに子供のように自分の機嫌で態度を変える恵一だが、希美は恵一が雰囲気だけの空っぽ男であることを指摘する(語弊があるが)。自分の気持ちを知りながら上から目線で弄ぶ恵一は、大事なことから逃げてばかりの臆病者だと、年下の希美に看破されてしまった。
だが希美は自分が恵一を好きな余り出過ぎた真似をしたことに気づき、謝罪し逃亡する。だけど ここで本音でぶつかることは2人にとって必要な過程だっただろう。恵一は このまま希美に余裕ある年上の振りをし続けることも可能だっただろう。だが それでは いつか化けの皮が剥がれる。だから2人が素顔を見せあい、交際前に衝突することも これからの2人にとって重要だったと思われる。
しかし妹の希美が泣いて帰ってきたことに腹を立てたシスコン気味の智也は恵一を呼び出す。そんな智也にも不機嫌で対応する恵一。
険悪な状態となった恵一と智也の現状を心配する夏樹と剛は お手上げ状態。だから恵一と旧知の仲である たいぞーに対処法を乞う。すると たいぞーは恵一の反応に覚えがあるという。それは丁度3年前、同じく受験生であった中3の頃にも同じ反応をしたという。恵一には新天地への不安があって、受験する意味が見いだせなかった。その状態を脱したのが、後に交際することになる女性の家庭教師の存在だった。後に恵一は それも逃避であったことを認める。女性と快楽に溺れることで自分の不安を薄めようとしていた。こういう時期、こういう性格の人ほど危険なドラッグに手を出したりするのだろう。
そして高校に入学してからも しばらくイジイジしていた恵一だったが、夏樹たちと仲良くなって たいぞーの存在を忘れるぐらいクラスで過ごすようになった。人当たりが良さそうに見えて、誰よりも神経質(繊細と言うべきか)で、誰よりも自分の「仲間」を大切にするのが恵一なのだろう。
そんな彼を理解した上で、3人は自分たちが彼の受け皿になることを決める。
たいぞーは保健室で睡眠に逃避する恵一に声をかける。恵一が大人ぶるのは子供じみた内面を隠すためなのだろう。本音を言うことが格好悪く感じるから、恵一は自分の本音を探り当てられると不機嫌になる。でも今の恵一には自分も含め話を聞いてくれる友達がいると たいぞーは伝える。
そして恵一は自分の気持ちや本音を伝えるだけの言葉を持たなかった。それは語彙の少なさや思考能力の欠如なども原因だろう。それに加えて周囲が自分の弱さと向き合って少しずつ「大人」になっていく姿を見て、自分だけが取り残された感覚になり、そんな自分の弱さを隠すために また逃避していた。
そんな彼を3人は下駄箱の前で待っていた。この期に及んで話し合いに協力的な態度を見せない恵一だったが、剛は恵一の弱さをズバッと指摘する。それが彼なりの友情の表現なのだろう。恵一は残り少ない日々を数えて暮らすような生活をしていたが、剛は残りの時間を楽しむべきだと諭す。智也は苛立ちを真正面から ぶつける。それもまた彼が恵一を大切に思っているから。
そして夏樹は恵一が この日々を、自分たちとの時間を かけがえのないものだと思っていることが分かって嬉しい。そして高校生活は終焉するが、不変の友情があることを約束する。
未来の可能性を否定してまで今に縋りつきたい自分の態度は、未来の楽しみさえも奪っていく。そのことに気づいた恵一は、これまでの態度を謝罪する。それを受け入れ智也は、今度は爆発する前に何でも話すようにと恵一に助言をする。こうして受験を前にして、4人は もう一度 友達になる。自分も他者も その人を分かったふりをして やり過ごすこともあるけれど、本当は生きている限り人は変わっていく。そして その変化の速度もタイミングも違うことを恵一は示してくれている。
こうして少しだけ大人に近づいた恵一は、希美にしっかりと謝罪する。そして希美が恵一の幼稚さを しっかりと指摘してくれたことに感謝を述べる。
そうして元に戻った恵一に思わず希美は抱きしめる。恵一は希美に物理的にも精神的にも つかまってしまったようだ。『5巻』の旅行回での「つかまえてみなよ」という言葉は こうして達成された。当て馬・望月の登場から行動までも長かったが、本書のパスはロングパスが多いなぁ。4人主人公制で内容が4倍だからだろうか(濃縮されているのか希釈されているのか分からないが…(苦笑))。
全ての恋に見通しがついた この年末からの様子はダイジェストとなり、あっという間に卒業式の日を迎える。どうやら全員が無事に受験を終えたようだ。
卒業式の後、生徒たちは寄せ書きをしたり それぞれの時間を過ごす。その中で希美は3年生のクラスに来て、恵一にネクタイを欲しいと訴える。恵一は それに応え、そして春休み中の部活が休みの日、希美と遊びにいくことを提案する。2人には二重三重の意味で春が来たようだ。そんな彼らの様子をバスケ部男子が撮影する。この最終回では4組のカップルが それぞれに一枚の写真に収まっている。
まり と智也も一緒に写真に納まり、なんだかんだで仲が良いところを見せる。剛は ゆきりん と通話中。ゆきりん は皆のいる高校に向かっていた。会えないと思っていた日に会える。ゆきりん の行動力は いつも剛に新しい世界を見せてくれる。
杏奈と2人で教室で卒業アルバムを見て語らっていた夏樹は、遅れて教室を出る。杏奈は高校で自分が変わったことを実感する。そして思い出の中には夏樹がいることを思い出していた。結局、この2人は つき合うまではダラダラとしていたが、交際後は お家デート1回きりしか描写がない。それぞれデートはしているんだろうけど、そういうカップルの日常回は本編では割愛されている。その様子は番外編となる『16巻』に収められているらしい。○○ファンは必見の内容だろう。そして本書は4人にそれぞれファンがいる。複数人主人公(しかも男性)と良いところは、それぞれに固定ファンがいて、熱心な読者が4倍になる所だろう。本当に男性アイドルグループみたいな商法である。
そして最後には杏奈が いつものように語らう4人の男子生徒の姿を1枚の写真に収める。卒業おめでとう!