《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どんな相手の気持ちでも否定しないのが本書の長所だが、空気を悪くしたワガママも容認される。

虹色デイズ 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

智也の妹・希美が、恵一に憧れている事が発覚。しかも幸子の発案によりいつもの4人組+女子4人で遊園地に泊まりで遊びに行くことに! そして、夏樹は遊園地でひょんなことから杏奈と観覧車に二人っきりになり…。みんなの恋が進展する遊園地編! 【同時収録】新聞部の頼子くん

簡潔完結感想文

  • ある組の恋の動きが次の組に連鎖していく様子が面白い お泊り回の続き。
  • 友達だと宣言すれば それで全てが許される世界。皆、まり に甘すぎない?
  • いつも おバカな智也や恵一が恋愛では精神年齢が高く見えるから萌えるの?

書のテーマ「思いやり」が よく感じられる 5巻。

ちょっとしたネタバレになるが本編最終巻である『15巻』の巻末で作者は本書で心掛けていたこととして『感情面では「思いやり」をテーマみたいなものにしてました』と記している。

再読でそれが よく感じられるのが智也(ともや)の まり に対する態度かな、と思った。まり の前では智也は精神年齢が とても高く見える。彼女の良い部分も悪い部分も ちゃんと認めてあげて、その上で自分の大きな愛で包容するような態度を見せている。
『1巻』ではモテ男特有の唐突なキスという少女漫画内でしか許されない意味不明な行動をした智也だが、このところは ちゃんと まり の心に寄り添っているように見える。
そして『3巻』で まり の杏奈(あんな)への特別な想いを察知してからも自分の気持ちを押しつけるために、その気持ちの否定をしたりはしていない。いわゆる同性愛であるから否定するとか嫌悪するとか一切なく、自分が好きな まり が その気持ちを抱えていることを認めている。この辺が智也が単なる俺様ヒーローとは違うところだろう。もし本当に俺様ヒーローなら自分の思い通りにならない恋心に苛立ち、再びキスをするとか、俺だけを見ろとか強引な行動に出ただろう。

智也のお兄さんっぽい部分が、まり を安心させるのか。同級生だが年齢差を錯覚する2人。

だが まり の気持ちを知った以降の智也は彼女と つかず離れずの距離を見極めているように思う。そして今回のように自分の心の変化に戸惑う まり に対して、優しく接近し、そして彼女を諭すように言葉を並べている。それでいて精神的なケアが終わった後は自分の手柄をわざと大声で言うことによって弱っていた まり の、回復後の気恥ずかしさを軽減しているように思う。

逆に まり には作品側は過保護だなぁと思うけど。どれだけ周囲に酷い態度を取っても、どれだけ智也にツバを吐きかけても彼女の愚行は決して 咎められない。智也には愛情があるからだろうが、嫌がらせを受ける被害者である夏樹も まり に対して寛容に接している。そして まり が周囲を「友達」と認めれば、それで過去の所業は水に流され、まり もすっかり8人グループの仲間となる。まり と仲良くなるプロセスにドラマが生まれるところだが、本書は そこをあっさりと通過してしまう。これも「思いやり」の お陰なのかもしれないが、もっと反発や衝突をして8人グループの関係が盤石になる過程を見てみたかった。どうも全ての味付けが薄く感じられる。

かと言って智也が お気に入りのキャラかと問われると そうではないのが本書の悲しいところ。相変わらず誰の恋愛に興味を持てず、しかも恋愛の描写が剛(つよし)を除く1/3に分割されているため、どの人も満足するような描写になっていない。読み返してみると、恵一(けいいち)と希美(のぞみ)は お試し交際などをして恋愛の上手くいくところと いかないところを描いても良かったのではないかと思う。特に理由もなく先延ばしにされるだけの展開に辟易としてくる。

そして『5巻』では森下suuさん『日々蝶々』とのコラボページがある。そういえば本書の杏奈も『日々蝶々』の すいれん もマイペースなヒロインだが、この時期は こういうヒロイン像が流行っていたのだろうか。硬派・奥手な男性主人公の相手には、鈍感で自分の気持ちを言えない人の方が歩みが一致するのかな。


ンパ目的の男性から杏奈を守るために、2人で観覧車に乗った夏樹(なつき)。乗った観覧車は偶然にもジンクスの観覧車で、杏奈は中の掲示を見て それを知る。杏奈が剛と ゆきりん の関係性を見て憧れていることを知った夏樹は、彼女に恋バナを振る。杏奈は これまで誰とも つき合ったことはなく、好きな人もいたことがない。だから鈍感なのだが、最近は恋愛に興味を持ち始めている様子。今度は逆に夏樹がタイプの女性を聞かれ、夏樹は杏奈のことを匂わす発言をする。それで雰囲気がよくなり距離が近付いた実感を得る。いつもながら成果に乏しい夏樹である。

宿泊するホテル内では女子トークによって それぞれの恋愛関係を全員が把握する。杏奈が少し恋愛に興味を持ち出したことを知った まり は自分が杏奈の恋人になると呟くが、ドライヤーの音にかき消され その言葉は杏奈には届かない。友達を奪われたくない独占欲より強い気持ちが見え隠れする。

杏奈が夏樹に心を開いてい様子を見たくない まり は全員が集合する部屋から抜け出す。智也が まり と同行しようにも彼さえ寄せ付けない様子。その後なかなか戻ってこない まり を心配し、捜索隊が結成される。当の まり は部屋番号を忘れ、宿泊者の代表である ゆきりん の本名を思い出せないためフロントでも聞けない。

まり は物陰に立っている自分に気づかずに、杏奈が夏樹と話をし、まり から嫌われている自覚のある夏樹に対し杏奈がフォローするのを目の当たりにして、杏奈が変わってしまったことを知る。杏奈が まり の気持ちを良い風に解釈していたが、まり は このグループの全員と会わなければよかったと思っている。2人だけで完結していた関係が否応なく広がってしまった。だから明確に相容れないことを表明するために暴力や流言などを最近は遠慮していた駆使しようと心に誓う。

だが智也が まり を見つけた時、まり は泣いていた。自分にとって都合の良い現実を作ろうとするが、それが出来ないことも分かってしまったからだろう。それは「杏奈を好きじゃなくなったのではなく、俺らの事 嫌いになれなくなった」と智也は分析する。まり自身も変わってきており、こういう集まりも楽しいなと思い始めていたのだ。まり の不機嫌は前に進むことへの恐怖の変換でもあったのかもしれない。そんな自分を認めて、まり は皆と一緒のゲームをしようと前向きな態度を見せる。そんな まり の姿を見て智也は ますます興味を惹かれる。まり の強気な所も弱気な所も可愛く思えるようだ。

まり は杏奈や夏樹と合流し、夏樹に対して友達宣言をする。でも ここまでで まり が彼らと一緒にいて楽しいということが分かる場面が無かったので、口先ばっかりな印象を受ける。私が本書を冷めた目で読み過ぎだからだろうか…。


樹と杏奈、智也と まり、の次は恵一と希美のターンである。ちなみに直前まで女子部屋に希美と一緒にいた ゆきりん は剛のいる男子部屋に行き一緒にゲームに興じる。

女子部屋に現れた恵一に対し、希美は色々と世話をする。そして恵一が望むがままに彼をマッサージして ヨダレを垂らしながらスキンシップを楽しんでいる。ツバ女の次はヨダレ女か(笑)
だが そのマッサージは部屋に戻ってきた智也によって強制終了され、恵一は智也に説教を受ける。恵一は兄といい智也といい説教を受けてばかりである。

そうして引き剥がされる男女であったが、希美は恵一に食らいつく。兄の過保護を謝る希美は そのついでに告白めいた自分の好意を彼に伝える。ただ自分の性癖もあって智也の心配も分かる恵一は、希美に対し年上の人が好みだから智也は失恋する前提の恋で妹を悲しませたくないのだと彼の擁護をする。だが希美は それは理想であって絶対ではないと引き下がらない。
そして希美は恵一が自分に新しい世界を見せてくれるという勘があり、そんな希美の前向きさ と勘の良さを察知した恵一はSっぽい雰囲気を全身に纏う。そういう面も見せて希美がどう反応するかを恵一は楽しむ。

本書では兄弟構成が性格に大きく関わっている気がする。末っ子の2人は ちょっとワガママ気質同士?

希美は恵一の隠された面に震える。それは彼女のMな部分や未知への挑戦への興奮がもたらした震え。直接的な表現は今後もないが、2人が(性的にも)相性が良いことが暗示される。これは恵一の第一関門をパスしたことにもなる。希美は まだまだ自分を追いかけると知った恵一は、本来は追われるのは苦手だけれど希美のこれからの開花を見越して彼女の好意を受け入れ、「捕まえてみなよ」と彼女の奮起に期待する。

恋愛面における恵一の無敵感は何なのだろう。なんだか全ての恋が上手くいくという自信に満ち満ちている。希美とは実際に年齢差も恋愛経験の差もあるだろうが、智也&まり とは違う、謎の上から目線のスタンスがイラっと来る。結局、彼が好きなのは年上なのではなく、自分を必要としてくれる女性であって、しかも『4巻』の里見(さとみ)のように主導権を奪われない範囲という条件がつく。自分の思い通りになる自分に優しい人を求めていて、自己愛の強さを感じるなぁ。


きなイベントの後は日常回で、この学校のトイレに居つく男性の幽霊に夏樹の身体が乗っ取られてしまうというオカルト回。なんだか こういう話があると ますます白泉社っぽさを感じる。

過去に存在した杏奈にそっくりな女性へ未練がある幽霊は、現実の杏奈に急接近する。幽霊を成仏させるために杏奈がデートをすることに。夏樹本人でも出来ていないデートをする。こうして本編では いつ見られるのだろうという展開が続く。


「新聞部の頼子くん」…
新聞部に入部した高橋 頼子(たかはし よりこ)は、自分以外の同級生・明菜(あきな)と後藤(ごとう)くんが お似合いだと噂される中、後藤くんに ときめく。しかし3人の関係のために自分の気持ちを秘めたまま3年生の秋になる。明菜が第三者の男に告白されたことから、後藤くんは明菜を好きになる気持ちが分かると言い、それを聞いた頼子は明菜と後藤が お似合いだと彼らがくっつけば良いと お節介な発言をしてしまう。でも それによって かえって後藤が好きだという気持ちが溢れてしまった頼子は彼に告白をし…。

作者による別作品のスピンオフだという。そのためか明菜の存在は深掘りされず、恋の抑止力としてだけ存在している感じだ。明菜が主役の話と時期を合わせるためなのだろうけど、この短編でも高校3年生の秋まで恋が動かない。2年半も何もしない片想いとは 本編同様に悠長な時間の使い方である。
結果的に勘違いで2年半を浪費して、自爆して告白したら両想いという あまりドラマのない展開になってしまっている。どうにも作者の短編って、エピソードが事実の羅列だけで盛り上がりに欠ける。