水野 美波（みずの みなみ）
虹色デイズ（にじいろデイズ）
第09巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
一同は大阪・京都の修学旅行へ！ バスケ部のモッチーに「修学旅行中に杏奈に告白する」と宣言された夏樹は、負けじと告白の決意を固めるけど…？ 杏奈をめぐって恋のバトルが白熱する、大盛り上がりの修学旅行編です！ 恵一と愉快な仲間たちの番外編も収録♪
簡潔完結感想文
- ここからずっとクライマックス。長すぎるクライマックスが中弛みを発生させるけど…。
- 当て馬の背景を急ごしらえしてドラマ性を演出。男性が全員 意気地なしに見えてくるよね。
- これまで告白の機会が無限にあった夏樹は、自分には出来ない告白を邪魔する権利はないか。
告白は傷つく人から最優先、の 9巻。
いよいよ高校最大の学校イベントとも言える修学旅行が始まる。そして高校3年生の春の修旅は恋の嵐が吹き荒れる。
だが ぶっちゃけ ここからの展開がダルい。作品的には、夏樹（なつき）と杏奈（あんな）が両想いになる前に片付けるべき問題を片付けてから、2人の恋愛成就を誰に未練が残ることなく達成させようという狙いなのだろう。先に周囲の問題を片付けることによって複雑に絡み合った想いは解きほぐされ、2人がカップルになった後も作品内は これまでと変わらない雰囲気の継続が可能になる。
作者が狙うのは壊れることのない永遠の友情である。フッた人もフラれた人も いつまでも仲良しでいる世界を目指すために、恋愛成就の達成が犠牲になる。わちゃわちゃ を永遠にするために、延々と交通整理が続き、渋滞は解消されない。
それは分かるのだが、そのための地ならしが とても冗長である。その第1弾が杏奈に想いを寄せ、だからこそ彼女が誰を好きなのかまで分かってしまった望月（もちづき）の告白である。そして この 告白だけで この1巻を消費している。
ここからの展開はトラウマや家の問題を持ち出さない本書における夏樹たちの最後の試練と言っていい。特に恋愛問題に鈍感だった杏奈にとって、自分の鈍感さを突き付けられる展開の連続である。そうして恋愛が時に誰かが傷つく上で成立することを彼女が学ぶことで、杏奈は再び自分の心の在り方を考えるようになるのだろう。再び と書いたのは、杏奈がそれ以前に自分の心に向き合ったのは、夏樹からの高熱キスのあったクリスマス回（『6巻』）と同じだからである。
杏奈の性格上、仕方ないのかもしれないが、彼女が自分の心に向き合うのが全て外圧やハプニングなのが気になる。今回、望月の手口にも気づかず、修学旅行中の半日を彼と過ごすことに疑問が浮かばないのも、天然というより頭の足りない人に見える。これは いつぞやの遊園地でのナンパ男の時と同じ（『4巻』）。杏奈は主人公ヒロインじゃないから目立ちにくいが、この ほんわか設定は何度も繰り返されると鼻につく。夏樹への気持ちを自覚したクリスマス以降、彼女が どういうスタンスで夏樹に接していたのか、2人の関係で何を目標としているのかが全く分からない。
夏樹が高校2年生の夏から杏奈への告白の練習をしているのに 8か月後も全く同じ悩みを抱えているのも大概だが、杏奈も この4か月、ただ夏樹との一瞬の交流に満足している。これは望月も同じ。『3巻』の登場以降、杏奈に ちょっかいは出すが、告白はしないという謎の余裕を見せている。その余裕が身を滅ぼしたので自業自得だが、本書のキャラたちは全員 何を考えているのか分からない現状維持ばかりが目立つ。
その各自のペンディングした気持ちが限界点に達するのが この修学旅行付近なのだろう。望月の告白が 次の告白を呼び、そこで起きた混乱が夏樹に告白を踏みとどまらせる。そうして前途多難な夏樹の恋を演出する。
だがこれは そもそも問題がない夏樹の恋愛や告白に障害を発生させるための装置でしかない。夏樹が大変そうに見えると恋が盛り上がっているように勘違いするが、それらは全て煙幕である。でも、そもそもが いつでも告白できる状況だったのに、と考えると、一気に彼らの恋に興味が持てなくなる。
全ては人の告白も邪魔できない優しすぎる夏樹の性格が原因なのだろうが、ここから夏樹は周囲に気を遣い過ぎるように思う。この世界の平和な雰囲気のために、夏樹が利用され、彼の幸せは後回しになる。この辺りから そういう構造が見え隠れし、私は好きではない。
いよいよ修学旅行が始まる。
1日目は（北海道から）大阪への移動。だが夏樹は望月が杏奈に告白すると知って、観光を心から楽しめない。だが悶々とした煩悩を洗い流したからか風呂の後、ホテルのエレベーターで杏奈と遭遇する。
杏奈は まり が委員会に出席するため、お風呂が延期になり、彼女が帰ってくるまで時間が空いたという。そこで夏樹は杏奈を自分の部屋に招待し、一緒に暇をつぶそうと提案する。
部屋では お互いの1日目の出来事を報告し合う2人。夏樹は望月が初日では告白していないと推察し、少し心が軽くなる。夏樹が自分で撮った写真を見せていると、杏奈が一緒に写真を撮らないかと提案してきた。その提案に喜ぶ夏樹は、緊張しながらも身体を近づけ2人で写真に納まる。
その写真について語る時、2人は自然に1つのベッドの上で2人横に並んで語らう。夏樹は杏奈の自然体の言動に癒され、この良い雰囲気のまま夏樹は告白の体制に移るが、そこで告白するする詐欺が発動する。杏奈が ここにいるという情報を得た望月が邪魔に入ったのだ。なんだかなー、と思うものの、修学旅行中には どこかしらで動きがあるはずなので、1日目の告白はなくていいかな、という寛容な心も持てる。夏樹が そんな大それたこと しれっとできる訳ないしね（笑）
それに読者は ここに杏奈なりの精一杯の好意が潜んでいることを知っている。夏樹の笑顔にほっとするというのは、それだけ信頼と好意を寄せているということだし、そもそも杏奈が2人きりの写真を撮りたいと言い出すのが いつもの彼女らしくない。
夏樹にとって可能性が低い恋愛だと思わせるためなのだろうが、夏樹が、杏奈が写真を撮りたいといった彼女の心境を一切考えないのも ちょっと不自然である。喜びのあまり頭が回らないのだろうが、普通なら考えてしまう楽観的な希望などを一切 排除するのは変に思う。1人の人格を深く考察していくと、やっぱり不自然な時間的空白や思考の至らなさが気になってしまう。
ホテルの部屋の入り口付近で良い雰囲気を壊しに来た望月と夏樹によって、杏奈を巡る三角関係が体現されるが、まり の襲来によって、その膠着状態は徹底的に打破される。
1日目と2日目の間には、希美（のぞみ）が、部活の先輩である千葉（ちば）ちゃんに頼んだ恵一（けいいち）の写真撮影の話を収録した小ネタ回「虹色日和」や、日付が変わる瞬間に恋人・ゆきりん の誕生日を祝うために剛（つよし）が ちゃんと起きて電話する場面がある。恋愛対象が修学旅行に来れない2人のシーンは このぐらいである。
その後、望月視点でどうして杏奈を好きなのか、そして敗色濃厚な この恋において告白する意義などが語られる。
クラスが同じで席が隣になってから視線を奪われるようになった望月。自分がクラスの男子生徒の中で一番 仲良い男だという自信もあったし、容姿や人気・成績や性格なども含めて夏樹たちに負けないスペックがあると踏んでいた。だから先を急がず、クラスメイトとして接していれば いつか杏奈が男性として自分を見ると思っていた。だが その長期戦の途中で望月は杏奈が夏樹に特別な表情を見せることに気づいてしまった。
だからこそ彼は修学旅行での告白の意味を見失っていた。告白しない方が良いのではないかと思い始めていた。だがクラスメイトでバスケ部仲間で、自分の恋を応援してくれる筧（かけい）が望月同様に「間違った人を好き」でいる幸せな恋愛とは言えない恋に悩んでいることを知り、ここまで自分を見続けてくれていた筧が背中を押してくれた。筧は最後まで頑張れという自分には出来ない・諦めた気持ちを望月に託した。行動しないと決めた彼は、まだ動く余地のある望月が希望でもあるらしい。筧の気持ちは一方的な願望ではあるものの、普段 そういう方面のことを口にしない筧が心を開いてくれたことが、その言葉に切実さと重量感があるため、望月に届いたのだろう。
ちなみに筧の恋の相手は本編中では明かされない。番外編でも匂わされる程度だが、彼が絶対に言えない相手というのは、誰かを好きな誰かなのだろう。そして動かないと固く決めるぐらいに「（世間的には）間違った」相手なのだろう。
そうして負け戦だと分かっていても、望月は最後の一歩を踏み出す。長すぎた片想い、何もしなかった片想いの幕引きとなるのは、ちゃんと行動する自分の決意なのだろう。そして動いた事実が未練を消していく。
修学旅行2日目の午後は京都での班での自由行動。夏樹は前日の夜に杏奈と2人きりで長く話せたことで自信が生まれ、そして告白への機運を高めていた。
だが、杏奈と合流できるはずの清水寺付近で、彼女が望月と一緒に2人だけで行動していることを知る。前日に告白を邪魔されたこともあり、夏樹は告白の阻止に出ようとするが、筧によって良心を問われ、身動きが取れなくなる。だから杏奈がどんな選択をしようとも、夏樹は この告白を静観すると決めた。
ただ、この後の割とダルい展開を考えると、いつだって夏樹の遅すぎる行動、ハッキリしない態度が彼を苦しめているようにも思う。ここで告白を阻止、または告白に便乗すれば問題は早期に解決しただろう。上述のように、作者が狙う未練を生まない展開は望めないが、周囲に気を遣うばかりの恋愛からは脱却できただろう。
更には、夏樹や望月が杏奈に告白しようとしていることをしり まり も内心 冷静ではいられない。彼女もまた動かなかった／動けなかった人の1人なのである。ここから告白の連鎖が始まる。
夏樹と違って本当に覚悟を決めた望月は、班行動の途中でバス停で小銭を落とすことで杏奈と2人きりになる機会を得ていた。そんな望月の私利私欲に気づかず、杏奈は望月の言いなりになって行動する。
そうこうする内に望月に連れられて清水寺の絶景を眺める杏奈。そこで望月は告白をするのだった。当て馬のものとはいえ告白場面は良いですねー。夏樹の本番は いつ見られるやら…、ですが。
