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少女漫画と小説の感想ブログです

高校3年生になった途端、4か月で3回の告白されるモテモテヒロインが 初めて嬉し涙を流す。

虹色デイズ 13 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

学校祭を一緒にまわりながら、杏奈に気持ちを伝えようとする夏樹。夏樹の杏奈への想いが、ついに決着です!! 千葉ちゃん&泰蔵の番外編も収録♪

簡潔完結感想文

  • 片思い歴1年半、高校3年生の夏になって初告白。お互い鈍感だから予想外の最大幸福。
  • 高校2年生を丸々 告白せずに過ごしたから、初デートで勉強する破目に。受験生モード突入。
  • 始めたばかりの受験勉強の息抜きの1泊旅行。選択肢の多い剛だからこそ悩む将来なのだろう。

白と同様にカップル成立も1巻につき1組のみ、の 13巻。

主人公とも言える夏樹(なつき)の恋愛成就という大きなクライマックスを迎えた『13巻』。
本書は高校3年生になってから恋愛イベントラッシュである。『10巻』で望月(もちづき)が告白し、『11巻』では まり、『12巻』では まり と智也(ともや)がカップルになり、そして『13巻』では『1巻』から杏奈(あんな)に好意を寄せ、1年半も片想いをし続けた夏樹が告白をする。

夏樹の告白と恋愛成就は、通常のようにトラウマ解消ではなく、現実時間との兼ね合いが大事だった!?

ただし再三 申し上げている通り、この前の3巻分の恋愛イベントと夏樹の告白が順延させられることには それほど関連性がない。そして今回の夏樹の告白のタイミングにも特に意味はない。いつでも出来たことなのに、ズルズルと告白しないでいた だけであるから、今回、彼が告白したことには それほどカタルシスを感じなかった。


は この告白の延期の意味の無さは、やはりメディアミックスが原因なのではないかと考える。『11巻』の発売が2016年前半のアニメ放送と同時に展開され、アニメ放送で興味を持った読者を引き込もうと考え、作品 最大の見せ場でもある夏樹の告白のタイミングをアニメ放送中の『12巻』で匂わせた。そしてアニメ終了後も作品への興味を持続させるための『13巻』の告白となる。

アニメ化は一朝一夕に出来るものでなく、年単位の準備期間が必要だろう。恐らく作者にメディアミックスの一報が入ったのは作品の前半であり、そこから放送期間に合わせた作品作り・展開を用意する必要が出てきたのではないか。
そう考えると、少なくともクリスマス(『6巻』)には告白の意思を固めていた夏樹が その機会を逃しただけで4か月も沈黙する理由は、アニメ放送前に2人の恋愛に決着を付けてはいけないというオーダーがあったからではないか。更には望月や まり の告白、そして急に自己陶酔ヒロインのように悲嘆に暮れる杏奈の性格の急変も、全てはアニメ放送が始まるまで話を引き延ばすという大人の、商売的な理由のように思えてくる。

夏樹の告白は雑誌では2016年の05月号(発売は04月か)である。これは作品が従来の読者に加え、アニメ化というブランドや、揃えられた人気声優に釣られて作品に触れた人たちの注目が最大値になる時である。これは非常に考えられた戦略ではある。そこに告白と両想いを持ってくることは正しい選択だろう。惜しむらくは その告白を引っ張るための理由付けを作者が しっかりと用意できなかったことだ。以前から言っている通り、この告白の延長が、人間関係を円満にする準備であることは分かるのだが、反面、夏樹の優柔不断さが際立ってしまった。そして『12巻』の感想でも書いたが、まり が非常に利己的な人間に見えるという失敗も見逃せない。

ということで、大変 幸せな内容ではあるが、どうにも作為的な商業主義の匂いが漏れ出ているように思う。もちろん勝手な推測に過ぎないが、順延させられた告白に対する疑問の答えとしては私の中では納得がいく。
現実時間とのシンクロだけでなく、作中時間の問題もあるだろう。高校3年生の夏休み直前の両想いは、受験を視野に入れると時間的にギリギリである。その直前で滑り込みで恋愛問題を解決した。夏樹の告白には彼の自由意思はなく、色々な時間の制約の中で生まれた妥協点のように思える。

ただ作者が告白の延期に、トラウマや家族問題など不幸をネタにしなかったことは賢い選択だと思った。恋愛成就を先延ばしにする少女漫画らしい理由付けだが、そうすると本書の雰囲気が一気に変わってしまうだろう。飽くまでも日常的な日々の中での恋愛を死守したことは読者としては感謝しなくてはならない。


月(もちづき)に背中を押され、告白する決意を固めて杏奈に会いに行く夏樹。そうして最終学年で ようやく好きな人と文化祭を回る喜びを噛みしめる。
夏樹は告白場所を求めて学校内を見回るが適切な場所が見当たらない。しかも仲間たちが自分たちを尾行していることを知り、夏樹は告白難民となる。一気に萎えそうになる告白への機運だが自分を鼓舞し、夏樹は屋上へ駆け込む。誰もいないその場所で夏樹は何気ない会話から告白へと話を進める。この1年半ずっと杏奈が好きだったことを正面から伝える。

この4か月間で3回目の告白をされ、初めて自分の好きな人からの言葉を貰えた杏奈は感涙しながら、自分の想いを夏樹に伝える。それは夏樹にとって全く予想外のこと。だからこそ驚くが、だからこそ嬉しい。
そこで初めて杏奈は夏樹への好意を持ったキッカケとなった、クリスマスのキス事件について話す。夏樹にとって またもや予想外の、全く身に覚えのない非道を聞かされ落ち込む。ただ唇を奪われても杏奈は夏樹を嫌いにならなかった。それどころか鈍感な杏奈が自分の気持ちを明確にした事件として処理していた。

そして2人は向き合って、夏樹は杏奈を「いっしょうけんめい 大事にする」ことを誓う。この嬉し恥ずかしい報告を皆にすることに照れたりした後、夏樹は自分の覚えていない初キスを悔しがる。杏奈もキスに対して積極的な意思を見せたため、夏樹は顔を近づけるが、我慢できずに声をあげた まり によって中断する。実は他の6人は屋上への扉の前で覗いていたらしい。

こうして報告することなく、2人の交際は明るみになる。心配されていた まり のメンタルも、智也がしっかりと管理する兆しが見えるので問題は ないだろう。

そういえば『12巻』で剛が希美に耳打ちしていたのは、彼女の制服を借りて ゆきりん に着せたいということだったのか。希美が学祭でメイドのコスプレをするから制服を着ないと知って頼んだのだろうが、女性に制服を貸してくれ、彼女に着せたい、というのは中々勇気がある行動だなぁ。それを簡単に乗り越えてみせるのが剛の静かで確かな愛なのだろう。素直じゃない剛だが、ちゃんと彼女のために動いているし、好意をしっかり伝えている点が素晴らしい。下手すりゃ智也や恵一よりもプレイボーイ感が漂う。


うして学祭は終わる。間もなく夏休みに突入するため、皆で過ごす際の遊び方や場所が議題に上がる。今年は同級生たちは高校3年生の受験生。そして希美は部活を始めたこともあって夏休みに会うのも全員の予定を擦り合わせなければ ならない。高校3年生で これだから、来年、5年後。10年後は もっと難しくなるのだろう。当たり前に毎日を一緒に過ごすことが貴重なことに なり始める。

その前に夏樹は学祭の代休日に杏奈と初デートになる。杏奈にも案を提案してもらったところ、夏樹の家に行きたいと言われる。盛大に動揺する夏樹だったが、杏奈のために部屋の掃除を完璧に仕上げ、お出迎えの準備を整える。しかも同居する母や姉たちは誰一人 家にいないという状況。通常こういう場合、男性は性行為への期待を抱くだろうが、そこは初デートだし、それに夏樹だから性的な匂いは一切しない。杏奈も夏樹の家に誰もいないことに対して あまり気に留めない。まさか貞操の危機とか思わないのだろう。同じく自宅デートをした まり が智也に対して予防線を張るのは、自分が彼を受け入れる瞬間が来るのが怖いからなのか。確かに気を張っていないと一気に雪崩れ込んでしまうような2人である。


奈のために お茶を用意した夏樹は焦りのあまり、彼女に お茶を ぶちまけてしまう。これは初めて恋人の家に行った時あるあるですね。本書って本当にベタな展開が多い。

杏奈は2人で観るための映画のディスクを持ってきたが夏樹の部屋の環境では見られず、テレビも面白くなく、ゲームもダメで、2人で楽しめることが用意できない夏樹は絶体絶命となる。これが2020年代の作品ならネット経由で映像作品を見たり、YouTubeTikTok動画を見たりするんだろうか。スマホ1台あれば退屈しない選択肢が用意されている。まぁ初デートっぽくはないが。

追い込まれた夏樹が提案したのは受験生らしく勉強をする、というものだった。黙々と勉強することになり、自分の判断ミスを悔やむ夏樹だったが、受験生であることを自覚したらしく、それを受け入れる。もしかしたら ここが夏樹の受験生スイッチが入った瞬間かもしれない。この夏にデート三昧で浮かれそうになる自分を先に自制する心が生まれたか。せめて高校2年生のクリスマスに告白しておけば、半年間は恋を純粋に楽しめたのに、と思わなくもないが…。

だが勉強中、杏奈が寝てしまう。そして その寝顔を見た夏樹も満足感を覚えたまま眠ってしまう。2人とも随分、長い時間 眠ってしまったが、それは どちらも前日 緊張して眠れなかったからであった。緊張して上手くいかないこともあるけれど、お互い心から笑い合える関係になったことが伝わる初デートであった。

杏奈を送るために2人で並んで歩く際に、2人は自然に手を繋いで歩く。以前、連絡先を交換する場面も割愛されていたし、今回も杏奈が夏樹のジャージを着たり着替えたり、手を繋いだりする くだりはカットされている。夏樹にとって大事件のはずなのだが、それをクローズアップしないのはナゼなのか。2人は気持ちが きちんと重なっており、早くも長い時間を一緒に過ごした高齢夫婦のような雰囲気だから、今更 騒ぎたてることもないのか。


外編の「虹色日和」は部活組の たいぞー と千葉(ちば)ちゃんの話。部活に燃えていて恋愛という青春をしてこなかった2人は出会いに積極的になれない。そんな2人の恋に対する温度感が一緒で、2人は互いに一緒にいることを自然に思える、というフラグが立つまでを描く。「お前となら全然つき合えるけど」という たいぞーの言葉は人によっては激怒するものだろう、とは思ったが。

そして夏休みに突入し、予定を合わせた8人は恵一の兄・片倉(かたくら)先生と まり の兄の運転してもらい計10人で男女2つのコテージに一泊することにする。まり が お兄さんに気軽に運転を頼めるようになったのも、彼女の兄離れが本当に円満に終了し、昔のように大好きだという気持ちに素直になれたからだろうか。

だが片倉先生の計画により、3バカはバーベキューの準備を免除され、代わりに受験勉強をさせられる。一応、恵一は夏期講習を受けたりしている様子だが、他の2人は どうやって勉強しているのか謎である。ちなみに夏樹のプリントでは「代入」をすることで答えが分かることから数学など理系のものと推察される。でも受験に関しては色々と疑問の残る本書である。その辺りの不満は最終巻辺りの感想文で書くと思います。

これまで遊び惚けていたから、以後は隙があれば勉強シーンが挿まれる。全ては説得力のためか。

の回では、久々に本編に本格参戦した ゆきりん がいるため(学祭にも顔は出していたが)、剛とのカップルの話も盛り込まれている。
剛たちは2人とも塾に行っているみたいだが、別々の場所。特に剛は塾に通い詰めらしい。2人は散歩し、10年後の自分たちかもしれない小さい子供のいる家族を見つめる。そこに憂いを感じるのは、この後の展開と同様、そこに辿り着くまでの道のりの遠さを剛が ちゃんと認識しているからなのだろう。

その夜、なかなか眠れない剛は男子用コテージから抜け出し、星空を眺める。剛は毎日 夜遅くまで勉強しているため、リズムが掴めないらしい。
そんな剛を追いかけるのが恵一。剛は恵一に、これが高校生活最後の思い出になるかもしれないから もったいなくて眠れないことも告げる。楽観的な恵一と違い、剛は自分の将来の展望が見えない。進学する大学のこと、そして大学卒業後のこと、誰と結婚し、どんな家庭を設けるのか、そういう遠い先のことも考えるから剛は大人になる必要性を感じていた。

剛は恵一が自分とは正反対だから、普段はしない この手の話をしたと告げる。確かに計画的な剛に比べれば、恵一は享楽的に見える。剛が高校生活の終わり、モラトリアムの終わりを見据えていることは恵一にとって衝撃的だっただろう。

個性がバラバラだけど仲が良かった4人。だが高校生という同じラベルで括られることが終わる予感の中、4人の温度差が露わになっていく。受験は勉強するだけでなく、進路について将来について自分について考える機会となる。4人は それぞれ どのような自分と出会うのだろうか。