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少女漫画と小説の感想ブログです

『3巻』登場の当て馬が『8巻』でやっと告白予告。それに めっちゃ動揺するダメヒーロー。

虹色デイズ 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

恵一にフラれたみたいなのになぜかドキドキが収まらない希美は、恋の決意を新たに同じ高校に入学!? 一方、3年生になった夏樹たち4人の出会いのエピソードがついに明らかに! まっつんの恋を描く番外編もあり、内容もりだくさんの第8巻です!

簡潔完結感想文

  • フラれても立ち上がる正統派ヒロインが色んな意味で覚醒。1年で彼を捕まえるか。
  • 出会いのエピソードゼロ。この4人らしいけど、秘話の割には普通すぎる内容だなぁ…。
  • 修学旅行に吹き荒れる恋の嵐。『3巻』から登場の当て馬が やっと仕事をし始める。

校3年生になって本腰を入れるのは勉強ではなく恋愛、の 8巻。

一般的に高校生活は3年間あるのに、少女漫画で描かれるのは実質 最初の2年間だけである。これは高校3年生を描くということは進学・進路などの問題が避けて通れず、恋愛以外も語る必要が出てくるからだろう。更に3年生は勉強時間が多くなるため、恋愛描写が激減し、雰囲気も重くなるため、それを避ける作品が多い。

そもそも少女漫画=高校生活ではないため、卒業後も主人公たちの様子を語ることも出来る。しかし それをする作品は全体の1割ぐらいだろうか。私が感想文を書いた作品では葉月かなえ さん『好きっていいなよ。』ぐらいではないだろうか。そして私の中では延長する必要が感じられなかったが。

ダイジェストで大学生活などを描く作品を別にすれば、高校2年生で作品が終わるのが7割、高校3年生を じっくり描くのは2割と言ったところか。そして本書は その2割に該当する。
だが本書の場合は、高校3年生で進路や受験勉強を真正面から描こうという意図がある訳ではない。ただ単純に高校3年生に突入しても4組のカップル中、3組がカップル未成立だからである。

本書は全15巻(本編)の後半が高校3年生の1年間。受験のことは恋愛成就の後に考えればいいよね☆

そして高校3年生になった途端に焦ったように恋愛を動かす。『3巻』の登場以来、全く動きが見えなかった当て馬・望月(もちづき)が修学旅行中の杏奈(あんな)への告白を予告して、これまで1年以上 何もしてこなかった夏樹(なつき)が今更 焦る、という残念な展開が始まる。4人の男子高校生が主役という構成上、1人1人の話がブツ切りになっていくのは仕方ない。これによって1人1人の恋愛の歩みは遅くとも、いつも恋愛が動いているように見えるという良い面もあるのだが、悪い面は、よく考えてみると その人の前のエピソードから平気で3か月ぐらい空白期間があることだ。夏樹も告白すると心に決めたクリスマス回(『6巻』)から4月下旬の修学旅行まで4か月 何もしていない。

私が思う良い少女漫画は、告白しない/出来ない理由をしっかり用意している作品だ。彼女がいる、トラウマがあるなどが その代表的な理由になるが、本書の場合は何もない。むしろ『7巻』の段階で両想いの準備が整っている。『7巻』の感想文でも書いたが、夏樹や杏奈の気持ちを追おうとすると、彼らが恋愛感情を後生 大事にする理由が分からなくなる。4つの糸を編んで、1本の大きな糸にしているが、その1本1本を見ると糸の強度が頼りなく思う。これまで書いてきた通り、智也(ともや)・恵一(けいいち)の恋愛は既存の少女漫画では描けない特殊例として面白く読めるが、単純 極まりない夏樹の恋愛は、よくよく考えると普通すぎて どこが面白いのかが分からなくなる。奥手というのとは違う情けなさが出てしまっている。

今回は『8巻』にして初めて明かされた夏樹たち4人の最初の出会いも、この段階まで大事にしてきた割に それほど練られた話ではなくて残念だった。非常に彼ららしいエピソードだとは思うが、予想の範疇を超えなかった。折角 遭難するために存在する少女漫画の山道が出てくる話なのだから、壮大なサバイバル巨編にしても 良かったかもしれない。それが最善だとは思わないが、良くも悪くも個性のない話だったのにはガッカリしたのも事実。
ここまで夏樹に頑張ったね、と思うようなエピソードがないから、杏奈と両想いになっても あまり感慨が湧かないかもしれない。


樹とは違い頑張っている足跡が見えるのが希美(のぞみ)である。

『7巻』の感想でも書きましたが、希美は少女漫画の典型的なヒロイン像が色濃い人物である。年上の高校生の男性に恋をしたことで、志望校を変え、彼と一緒にいられる時間を多くしようとするのも、そして恵一から恋愛対象外だと一線を引かれても、まだまだ彼を好きだという気持ちを諦めないところもヒロインらしい強さである。この恋を きっかけに、これまでの得意なことがなかった自分と決別し、成長しているのもヒロインらしい。男性たちに あまり成長を感じられないモラトリアムな作品の中で、希美だけは大きな変化が見える。高校入学を機に髪型を変えるのも、夢中に打ち込める部活を始めるのも彼女の大きな一歩である。

そして 恋に落ちると同時に、悦楽の罠にはまっているのも希美の大きな特徴で、これだけは典型的ヒロインでは絶対に描けない部分である。プラトニックなまま才能が開花し、それが彼にとって恋愛対象外だった自分が視野の中に入る大きな要因となる。本当に正統派の努力をして、自己分析を重ねただけなのに、その方向性がMだということが希美の発見となってしまう。

それにしても希美の前に立つ恵一は いつもとは違って成熟した男性に見える。催眠術師か精神科医かというほど落ち着いた口調で希美の心の壁を一枚一枚 剥いでいく。女性の前で こういう口調になれること、相手よりも優位な立場に立った経験が恵一に根拠のない自信を与えているのだろうか。『4巻』では里見(さとみ)先生には怯えたように、実際は大した人間ではないだろうに。里見とは性的嗜好の不一致もあるだろうが、結局、恵一は本当に成熟した人間を本能的に避け、自分が支配できる人間を探しているだけのように思うけど。恵一に否定的すぎる見方だろうか。

その後は、年末からの智也と まり の お話を描いた「虹色日和」となる。もはやジャンル分けの方法が分からない。これからは本編では描けなかった番外編が「虹色日和」として処理されるのかな。

恵一の言葉は希美にとって まるで自分が裸にされているような感覚なのだろう。だが それがいい

年度になり夏樹たちは高校3年生に、そして希美が この学校の1年生として入学してくる。この学校では高校3年生で修学旅行があることが発表され、体育祭に学祭も控えていて、まだまだイベントには事欠かないらしい。

ここで出会ってから丸2年が経過した彼らが、1年生の時の出会いを回想する。彼らは入学後すぐに仲良くなったわけではなく、宿泊研修という学校イベントで一緒の班になったことで初めて会話し、そこでの一幕が急速に距離を縮めたという。

宿泊研修の班で夏樹はリーダーになったが夏樹以外は個性の強い3人で班は まとまらない。揺るぎない自分や果てしない願望を持っている彼らを立ち止まらせるのは、ヒロイン役の大粒の涙だったのか(笑)夏樹が簡単にキャパオーバーになってしまうのは想像がつく。でも本当に個性の強い人たちなら、夏樹の学級委員的な理想論も歯牙にもかけないだろうし。他の3人も少し粋がってた部分があって、人との距離を間違ってしまったのか。

でも ここまで明かさなかった割には普通すぎる話である。剛(つよし)が夏樹を認めたような1対1のエピソードが智也と恵一にも欲しかった。本書は他の作品にも絶対に負けない、という感動や印象に残るエピソードがないのが残念。男性4人が主人公という読者の受けを除外した時に、何が残るのか微妙なところ。もう少し作家性を高めて欲しい。


だ、この1年生の班行動があるから、その2年後の修学旅行でも同じ班になった4人との違いが楽しめるのかもしれない。個人行動ばかりだった彼らが2年経って、同じ歩速で一緒に歩いているという過去との対比が見られたら嬉しい。

修学旅行を前にして。当て馬として『3巻』から華々しく登場した割に何の行動も起こしていなかった望月が杏奈に積極的に関わる。そして望月は夏樹に対して、修学旅行中に杏奈に告白をするという予告をする。
だが夏樹もそうだが、望月も この1年間 告白などのアクションを起こさなかった理由が思い当たらない。なんで3年生になった途端、タイムリミットを感じるかのように焦って動き出すのだろうか。それぞれの行動の裏に理由が見えてきたら本書はもっと奥深いものになっただろう。逆に それが用意されていないから、時間を ゆったりと使い過ぎるだけの薄い内容になってしまっている。

夏樹が告白しようという気分にムラがあるのが気になる。序盤、クリスマス、と告白する気満々だったのに、それを撤回する理由もなく4か月も黙っている。彼は一体、何がしたいんだろう、と この恋愛における夏樹の目的が行方不明だ。