《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

2人の王子様は見た目は同じ、中身は真逆。最後にヒロインが萌えるのは どっちのカレ!?

萌えカレ!!(1) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ひかるは恋にあこがれてるだけの女の子。そんなひかるが見知らぬ男の子に初キスを奪われた!しかも再会した彼はひかるのことをまったく覚えてなくて?ドキドキが止まらないジェットコースター学園ラブ!●収録作品/「萌えカレ!!」#1~5

簡潔完結感想文

  • 1巻は全部 前置き。全てを理解したところで オレたちの恋愛は ここからだッ!
  • ヒーローは二重人格か、ドッペルゲンガーか? ミステリアスな導入部が秀逸。
  • 俺様王子が、一方的に当て馬に堕とされてからの純愛復讐劇としても読める。

ーローを巡る真実がラストで明らかになる前日譚のような 1巻。

やっぱり作者の作品が少女漫画誌において圧倒的な人気を得ることに納得させられる。これだけのスピード感の中で、ヒーローを巡る謎を用意し、ミスリーディングをさせながら、ラストで あっと驚く真実を用意している。
どの作品でもキャラが全部 同じ顔だとか、作者のオタク臭さ、そしてオタクならではの慎みのないエロ描写なんかは必ずしも好ましいものではないのだけれど、お話の構成は抜群に上手い。その上、膨大な仕事の量を きちんとこなして休む間もなく発表し続け、読者に作品を提供して、出せば必ず売れるのだから出版社からも愛される訳だ。

愛した人は二重人格…!? 作者には いつか本当に この設定のままの三角関係を描き上げて欲しい。

作者の想定する対象年齢から少々外れている私は辟易する場面もあるのだが、それでも作者の才能を感じずにはいられない。最初のインパクト重視の設定だけで売れてしまう少女の中で、作者は きちんと全体の物語を作れる人だと思う。そして作品の内容の充実を いつも意識しているから どこを切り取っても面白い濃密な作品が誕生している。

連載中に100万部を突破した本書は、出版社からは連載の延長も許可されたようだが、作者は作品のスピード感を大事にし、当初から自分の考えた構想をなぞる形で作品を描き終えた。どうしても単純に人気作品=巻数と考えてしまうが、中弛みした作品に比べると本書の潔癖さと完成度は真に読者のことを考えた結果だろう。


書は、作者のデビュー作かつ第1長編となった『GET LOVE!!』と長編第3作の『うわさの翠くん!!』の間に位置する第2長編。『GET LOVE!!』は読切短編が長編化したもので、連作短編の色合いが強かったため、実質的には本書が長編1作目と言える。
私は基本的に長編の順番を守るタイプなのですが、池山田作品は3→1→2の順で読んだ。その変則的な順番で見えてきたのは、2作目の本書と3作目の『うわさの翠くん!!』の相似性と対称性だった。

本書と『うわさの~』は2作 併せて読むと、タイプの違う2人の王子、という似たような題材ながらアレンジが違うと こうも味わいが変わるのか と驚くことになる。本書の結末に納得がいかない人は、『うわさの~』を読むと少し溜飲が下がるのではないか。勿論、キャラが違うから完全に気持ちを消化するのは難しいだろうが、この2作は互いの「if」の世界のように読めるのは確かだ。


単に言えば本書は三角関係の話だが、視点を変えれば3人3様の読み方ができ、その3人の視点の どれもが切ない物語になっている。
まずはヒロインの若宮(わかみや)ひかる視点。外見が同じ2人の硬派な王子様・本田 宝(ほんだ たから)と もう一人の軟派なエロ王子との恋愛。まずヒーローの設定に困惑するのが この『1巻』の内容で、そこからは少女漫画読者が好きな冴えないヒロインが2人の それぞれ魅力的な王子に言い寄られるという楽しみが幕を開ける。

そして宝視点。彼は一番ヒロインっぽい視点と言える。女性ヒロインである ひかる は男性の見た目を重視している節が見え隠れするが、宝は相手を見た目で判断しない真のヒロインと言える。恋をするつもりのなかった彼が ひかる と接点を持つことで彼女に惹かれていき、そしてライバルのエロ王子の存在に悩みながらも一途な愛を貫く。初恋譚として楽しめるのは宝視点ではないか。

最後はエロ王子。『1巻』ラストで名前が判明する彼だが、彼は俺様ヒーローであり、かつ悪役令嬢のような立ち位置が面白い。これまで女性に不自由したことのない彼が初めて恋愛に触れる。その意味では宝と同じ立ち位置である。しかしエロ王子が難儀なのは、宝が正しいヒーロー位置にいるために、エロ王子は自然と当て馬ポジションに堕とされてしまう。こうして望まぬ悪役令嬢となったエロ王子は、自分の純真さに戸惑い、それが ひかる に決して届かない葛藤を抱える。因縁のある宝への復讐だけであれば、身勝手に ひかる を傷つければ済むのだが、自分の純情に振り回され、ひかる に何のアクションも起こせない。

本書を単純な恋愛物語、または三角関係モノにしていないのはエロ王子の お陰と言えよう。その一方で、スピード感やアクションなど派手な演出に惑わされがちだが、実は誰もが真実の愛を見つける切ない お話でもある。その辺りは本当に単純に面白いと言い切れる。


ロインの若宮 ひかるは15歳。少女まんがが大好きな中学3年生。女子校育ちの彼女は男性との接点すらない。
ある日、子供がカツアゲに遭っている所を助けようとして、ひかる は逆にピンチに陥る。それを助けてくれる王子様が現れるが、彼は いきなりひかるにディープキスをしてきた。自分の理想の王子から一転、エロ王子に性的暴行を受けた ひかる は大きく落ち込む。

スピード感が大事な低年齢向け作品では1話でのキスは大事。今なら2倍増量キャンペーン中。

そんな ひかる を励まそうと友人たちは合コンに誘うが、そこに現れたのはエロ王子。だが彼・本田 宝は、ひかる との一件が記憶にない様子。嘘をついている様子もなく、彼の友人たちは硬派な宝を擁護する。

やがて宝はエロ王子と瞳の色が違うことで ひかる も納得する。無辜の宝に疑いをかけてしまい、気まずい空気が流れるが、やがて ひかる は宝がフェロモンを周囲に まき散らしている天然王子であることを知る。
ひかる も彼の色気に鼻血を出してしまう。そんな ひかる の醜態を周囲は嘲笑するが、宝が そのピンチと鼻血からを守ってくれる。悪印象の初対面と違って優しい彼の心根に触れてひかるは惹かれ始める。

後日、自分の鼻血がついてしまった服を弁償しようと、彼の通う高校へ乗り込むと、空手に打ち込む宝がいた。謝罪をするひかるに、宝も自分の態度が悪かったことを反省する。合コンという慣れない環境に、いわれのない罪を告発され、彼らしからぬ態度を取っていたようだ。

そんな誠実な宝の姿は、ひかる にとって理想の王子様であった。そこで ひかる は宝と同じ高校に入学すべく、受験をすることにした。憧れの人のいる高校に入学するというのは少女漫画の1話でありがち。本来の学力以上の能力を発揮するのも恒例と言えよう。
ここでは なぜか ひかる の友人たちも同じ学校を受験するという話が出ているが、これは友人たちごと一緒に舞台を移そうという計画だったのか。特に目立った活躍のない友人たちが、大学まである女子校から外部受験する意味は薄い。

受験勉強疲れで電車内で寝てしまう ひかる をエロ王子が発見し、またもキス。この時、なぜか始発電車のように電車内には人がいない。このキスを ひかる は自分の夢だと認識し、そして宝とのキスのような安心感を覚える。完全に人違いなのだが、ひかる の肉体や精神は充足を覚えた。1話で2回も無断でヒロインにキスするヒーローは なかなかいない。

宝もエロ王子も どちらも第一印象最悪からの始まり。だからこそ記憶に残り、好きになる余地も多い。

にマンツーマン指導してもらって受験勉強をする ひかる。だが本番当日、ひかる は風邪を引いてしまう。それを介抱してくれるのは宝。受験を通して、ひかる は ますます宝に惹かれていく。
本番直前まで熱が引かない ひかるに、宝は口移しで解熱剤を飲ませる。この行動で ひかる は復活、なんとか試験に合格する。エロ王子は いきなりのディープキス、宝は必要に駆られて解熱剤キス。2人の性格の違いがキスにも表れている。

高校合格の日、一緒に帰る宝は、女性たちから熱烈に声を掛けられたり、はたまた突然、浮気者と罵られ平手打ちを食らう。宝本人には自覚がないが、ひかる には思い当たる節がある。それが そっくりなエロ王子の存在だった。ここで ひかる は宝の双子説、兄弟説を推理するが、彼に兄弟はいない。ますます深まる もう一人の宝の謎。

そんな ある日、ひかる は再びエロ王子を目撃する。エロ王子の名に恥じない淫猥な行為をしている彼に仰天するが、その本人は宝を名乗る。そこで宝の身体的特徴である左肩のアザを確かめると、エロ王子にも同様に存在することが発覚する。エロ王子=宝なのか!?

そして このエロ王子は ひかる のピンチを何だかんだ救ってくれる。その優しさにエロ王子が宝本人だという気持ちも芽生えるが、ひかる の本能はそれを否定する。しかしエロ王子は自分は宝の二重人格だと言い出して…⁉


は もう1つの人格・エロ王子に気づいていないが、エロ王子は宝の記憶や感情も支配しているという。そしてエロ王子は、宝がひかるを何とも思っていないことを発表し、ひかるは落ち込む。しかも宝はエロ王子であり、女遊びも激しい。自分の好きな人の中の もう1つの人格にひかるは戸惑いを隠せない。

そこへ エロ王子に恨みを持つ者が集結し、大乱闘が始まる。ひかる は凶暴なエロ王子に恐怖するも、刃物を取り出した男に気づき、無意識にエロ王子を守る。切り傷は軽傷で済んだ。彼女が守りたかったのは、エロ王子ではなく、その裏にいる宝の肉体。宝の「裏の顔」を知っても、ひかるは彼に惹かれている。

エロ王子は ひかるを安全な場所に運び、傷を手当てする。彼なりに罪悪感を持っている様子。裂傷が胸部だったため、ひかるは裸に剥かれる。この時、貞操の危機を覚えた ひかる の台詞、「感度のいい肉奴隷されてしまう」というフレーズが強烈。肉奴隷はともかく、なんで感度がいい設定なんだよ、とオタクならではの品のない言葉選びに眉をしかめながら笑ってしまった。

治療後、ひかる はエロ王子に宝のために危険なことをしないように忠告する。エロ王子は宝はお前のことが好きじゃないのに必死になるのが滑稽だと指摘するが、ひかる はそれでも宝の身体を第一に考える。
そんなひかるの心の美しさを知ったエロ王子は、これまでと一変して優しいデコチューをする。それは意地悪ではなく、エロ王子がひかるにキスをしたくなったからであった。荒れていた俺様ヒーローが聖女ヒロインによって性格が軟化していくのは よくある話。


ロ王子と別れた後、ひかる は宝に会いに行く。空手の大会に参加する宝は本来の人格で、エロ王子の間の記憶は存在しないらしい。宝の様子に困惑するひかるの様子を見て宝は彼女を引き寄せる。そんな優しい宝にますます惹かれていく。

そして ひかる は晴れて宝と同じ高校に入学する。宝を目標として凛として生きることを決めた ひかる は、宝が驚くほど綺麗な女性へと変貌しつつあった。

そんな雰囲気を一変させるのが、エロ王子の登場。同じ顔が2人いる。彼は二重人格などではなく、壱川 新(いちかわ あらた)という別人だった。
3人の出会いまでを描いた『1巻』は完璧な内容ではないか。宝と新が同一人物なのかどうか、という謎を こんなにテンポ良く要点をまとめて描いている点に才気を感じる。そして少女たちが顔を覆いつつ、興味津々に読んでしまうエロチックな描写まである。単純に人気が出ない方が おかしいと思える作品である。