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少女漫画と小説の感想ブログです

三角関係での2つの交際を どちらも偽物ではなく本物にするための 作者の引き算。

萌えカレ!!(7) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第07巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

新の一途なアピールに、新とつきあうことを決心したひかる。それなのに、宝くんが突然キスして「愛してる」と再び告白!!そ、そんな…、もう忘れるって決めたのに…。揺れるひかるの心。いったいどっちを選べばいいの!?ついに感動のフィナーレ! ●収録作品/「萌えカレ!!」#31~34/「萌えカレ!!」番外編

簡潔完結感想文

  • 宝との交際に終止符を打たせた亜美の問題が解決し、元の鞘に収まる準備が整う。
  • 告白やキス場面、本音の吐露など大事な場面に必ず第三者が遭遇する ご都合主義。
  • どちらを選んでも それ以前の恋は偽物なんかじゃない。私の人生の大事な2つの恋。

局、少女漫画ヒロインが「萌える」のはトラウマ持ちのカレの方、の 最終7巻。

いきなりネタバレすると本書のヒーローは新(あらた)である。
これは少女漫画方程式で一番大事な計算式「×トラウマ」を念頭に置けば自然に導き出される答えであった。本当に愛されたことがない経験豊富な俺様ヒーローというのも大事な属性だろう。
再読してみれば作者は最初から新が ヒロイン・ひかる の王子様である伏線を張っていた。『1巻』1話ラストの眠る ひかる が安心するほどのキスをしたのは新だったし。

ひかる と新の初対面でのディープキスは立派な性的暴行だと思うが、実は最終巻では誠実で硬派だという売り文句だった宝(たから)も立派な性的暴行を加えていることが分かる。
宝は ひかる と愛し合ったまま別れた。自分を庇って重傷を負った亜美(あみ)を支えるために ひかる と別れざるを得なかった。どん底状態の ひかる を助けたのは新で、ひかる も彼との交際を所望した。
最終巻で宝は亜美との関係を断つ。それは自分が まだ ひかる を愛しているからと自覚したからで、亜美も宝のために それを許す。こうして かつての恋人には障害が無くなった。

確かに愛し合ったが彼女の気持ちが不変だと勘違いしての強引な行動。勝負がなきゃストーカー化したかも!?

こうして再度 正式に ひかる との交際に動き出した宝だったが、その報告の際に ひかる を自分に振り向かせるために やや強引にキスをしている。現在、彼氏でもない宝が ひかる にキスをするのは新に対するマナー違反で性的暴行と言えるだろう。この時点で真面目な宝のアドバンテージは消失したと言える。
更に問題なのは、宝には自分の行動への疑問がないことだろう。初対面からディープキスをした新も問題だが、彼の場合は「宝」という人格の悪評を広めると言う目的があったし、自分が悪役ヒーローだと言う自覚があっただろう。
だが、ひかる に自分の感情をぶつける一方的なキスをする宝には そんな自覚がない。むしろ このキスを彼は元カレの特権ぐらいに思っているのではないか。そういう独善的な所が宝には見え隠れする。

宝にとってキスは束縛の証。2人が交際中も ひかる が新のことを口にした回数だけ、宝は ひかる にキスを浴びせていた。自分の不安に蓋をするかのように宝は ひかる の口を塞ぐ。初期は新が宝を意識しまくっていたが、中盤からは宝は新を意識して、自分の焦燥や不安を ひかる のキスに変換していた。ひかる と別れる道を選んでから宝は、そういう自分の内心を見つめ直したような描写があったはずだが、結局、新に ひかる を取られたくないという一心で ひかる を困らせる行動に走っている。

これが ひかる を好きだと自覚して以降、キスをするのにも慎重になっていた新との違いだろう。どちらが深く ひかる の心理を考えているかは明らかなのである。

きっと宝を選んだ未来も、ひかる は幸せになるだろう。ただ宝の ほんの少しだけ自己中心的な弱さは、これから何十年も人生を歩んでいく中で それに対する違和感が大きく膨らむ危険性を孕んでいると思われる。気づかなければ一生 幸せでいられるが、気づいてしまうと相手より自分を愛している宝のナルシシズムに違和感が生まれそう。

私は宝が嫌いな訳ではないが、作者はこういう宝の瑕疵を少しずつ入れ込んでいる気がする。


だ本書の素晴らしいところは、宝との恋を決して偽物にしないところである。次の恋に進むために相手の欠点を探してしまいがちな恋愛の中で、ひかる は決して宝との日々を後悔しない。自分の初恋、初体験の相手が宝で良かったと心から思いながらも、誰よりも自分のことよりも想ってくれる相手の元に走り去る。
新との交際を描いた番外編でも、ひかる は新と性行為をする描写はない。作品のファンとしては描いてほしかった部分なのだが、それはきっと、それを描いてしまうと宝との対比が生まれてしまうからだろう。宝であっても新であっても性行為が及ぼす幸福感・満足感は変わらない。ならば最初の体験となった宝だけで十分というのが作者の考えだろうか。描写することによって、読者には新との行為の方が満たされて見えたり、気持ちよく見えたりしたら その時点で作品が破綻してしまう。2つの恋は どちらも本物である必要がある。
それに後の作品でもそうだが、作者は低年齢向けの雑誌にいてもヒロインの処女性を絶対的な価値にしない。女性が最初に結ばれた人と幸せにならなくてはならないルールなど この世にはないし、その時 身体を捧げてもいいと心から思えば、それが立派な性行為への動機になり、行動するべきなのだ。性行為を大きなクライマックスにしないのは、ネタがないから性行為をする・しない で連載を引っ張るような中身のない漫画とは違うことの証明でもあると思う。

どちらがヒーローかを見極めるためには「×トラウマ」が大事だったが、どちらも ひかる にとってヒーローにするために作者は新との性行為を引き算したように思えた。


味なヒロインがモテモテになるという少女漫画の王道の展開だが、私が気に入っているのは男性間のコンプレックスの描写だった。宝も新も我が道を行くタイプに見えるが、彼らは互いをライバルだと意識しており、相手の出方が気になって仕方ない。

ヒーローを完璧な存在に描きがちな少女漫画において、池山田作品はヒーローの弱さと、そして交流を描いている。それは引き続き三角関係を描いた次作『うわさの翠くん!!』でも同様である。私が本書と『翠くん』を双子のような存在だと思うのは、構想や結末に類似性を感じるからである。この男性たちの関係性は、作者が少女漫画というより少年漫画から抽出したエッセンスで構成されているのだろう。本書で一番「萌え」ているのは、理想の「カレ!!」たちの関係性を描けた作者なのではないだろうか。

本書においては、失恋を機に強くなった ひかる だけでなく、互いに強力なライバルだと意識するからこそ切磋琢磨し、最後には出自も経緯も関係ない兄弟のような良好な関係を築いた。一生懸命な恋だったけど、誰にとっても少し青臭い自分に気づかされた恋であった。だが この経験が彼らを立派な大人への第一歩となる。目を瞠るような成長がみられる10代の彼らの姿は清々しかった。

ただ読み通すとタイトルが いまいちに感じる。「萌え」という言葉は連載当時(2005年)の流行語で それをいち早く取り入れたのだろうが、私が読んだ2023年からすると、当然 新しくもない。萌えという言葉を使っていたのも序盤だけで、その後は萌え要素は ほとんどない。描いているのが一生懸命な初恋や真剣な愛なので萌えという言葉が軽く響く。流行を追い過ぎたか。


から熱のこもったキスをされ、彼の気持ちを察した ひかる。心は揺れるが、そのことを新に報告したりしない。ただ、揺れる自分の心を抑えようと新を抱きしめているのが気になる。これは新への嫉妬をキスで忘れようとしていた かつての宝のような行動に見える。

球技大会で怪我をした ひかる はキスをされた保健室で再び宝と会ってしまう。2人は確かに愛し合い、そして愛したまま別れを選んだ。今度は その ひかる への未練が宝をキスへと急き立てる。宝は自分の責任感で亜美を愛そうとしたが、そうすればするほど ひかる への愛を自覚してしまう。

そんな2人のキスを新は目撃してしまう(またか…)。ひかる は新がいることに気がつき、『6巻』の拒絶と同じように彼を深く傷つけたことを知る。

新は宝に怒りをぶつけるが、それを ひかる が制止する。宝が手を出しただけでなく、自分もキスを受け入れた部分もあるから自分が罪を引き受けると言う。新には それが宝を庇っているようにしか見えない。新は ひかる から「好きだ」と言われたことがないことが気にかかっていた。

新は背を向けるが、ひかる は宝に抱きしめられ身動きが取れない。どちらも選べない均衡が生まれる。


日から新は ひかる を避け始める。それは自分が去った後、2人が よりを戻したかもしれないという恐怖心もあって、ひかる と対峙できなかったのだろう。そして ひかる は それが当然だと罪を受け入れから追いすがらない。それが また新を傷つける。

ひかる を避けた新は、宝が ひかる を選ぶために亜美と別れを選んだことを知る(重要な場面は誰かが目撃する説)。
亜美は涙を見せるが、宝を自由にすることが自分の愛の形であると強い部分を見せる。登場後すぐ事故に遭い、嫌なポジションになった亜美だが最後に彼女らしい凛とした部分が見えた。

宝の口から ひかる の心が ちょうど半分になっていることを知った新は、宝に空手大会での勝負を申し込む。勝者が ひかる の恋人となるのだ。

勝負の内容は ひかる にも告げられる。それを告げたのは宝で、彼は自分が亜美と別れたことも伝えた。これで2人の障害は何もないと言える。そして宝は再び ひかる を呪縛するためにキスを用いる。


一方、新は俺様ヒーローという彼の初期型に戻っていた。話をしようとする ひかる を拒絶し、飽くまでも この勝負は宝への復讐であると強調する。それは中盤まで ひかる と宝の交際の背中を押していた新の姿でもあった。こうして露悪的に振る舞うことで ひかる の感情が向かう方向性を導いていたのだ。

その話を聞いていた亜美に、新は自分の本当の気持ちを伝え、そして その場面を ひかる は目撃する。新は、亜美が宝の手を離したように、自分から彼女の手を離すことで彼女を救おうとしていた。それは恋愛よりも大きな愛である。新の中で勝負は宝の本気度を試すためで、自分の勝利は優先しない。

猪突猛進の宝に比べて、新は身を引く広い視野を持つ。盗み聞きがなきゃ ひかるが気がついたか どうか…。

手大会当日、ひかる は遅れて会場に駆けつける。彼女の中で答えが出てから勝負は始まる。これによって ひかる が自分で考え、自分で選択する強さが保たれた。多少のウジウジは少女漫画的クライマックスのためだと割り切るしかない。

会場に到着した ひかる は、新との試合を終えた宝に遭遇する。そこで彼が試合前に亜美を庇った際の怪我を手当てする。そこで ひかる は勝負の結果を知る。勝者は宝。宝の怪我を知ってから新は本気を出さなかった。やはり彼は負けることで2人に道を用意しようとしていたのだ。

ただ ひかる は この男同士の勝負に従わない。自分が想っているのは新だから。

宝も その答えに納得する。自分は新という脅威を前にしてキスで束縛することしか出来なかったが、新は宝が戦線復帰してから自分から身を引くことを考えた。それが ひかる のためになると考えれば、自分が傷つくことも構わない。その違いが宝に新への敗北を認めさせた。試合に勝ったが勝負には負けたようだ。


を引いた新は、1人で帰宅しようと駅のホームにいた。 到着した ひかる は彼の姿を見つけると新を好きで愛していると告げ、自分からキスをする。ひかる からのキスが全ての答え。

電車に乗ると ひかる は眠ってしまった。駅のホームには人がいたのに、なぜか1人も同じ車両にいない電車内で新は ひかる にキスをする。それは『1巻』1話と同じ構図である。眠る お姫様に新は自分の愛を注ぎ込む。きっと ひかる は1話と同じように王子様の優しいキスに心が満たされていることだろう。あの日の予感が本物になって、物語は幕を閉じる。

「萌えカレ!! 番外編」…
3月になり宝は卒業を迎える。新は照れながら花束を渡すが、それを ひかる が叱る。すっかり尻に敷かれている。宝の進路は医学部。亜美との時間が彼に進路を決定させた。

そして2人の交際は10か月が経過したが、清い関係のまま。そこで ひかる の方から自分の誕生日を新の家で祝ってくれた際に、ひかる は泊まりたいと告白する。

少女漫画で珍しいのは どちらも「初めて」ではないことだろう。初めて同士だった宝の時と同じように、恋人たちの経験は平等になっている。しかし経験豊富な新にとっても初めて心から好きな人との行為となる。だが ひかる を愛するあまり、彼は一人前の男になるまで ひかる を抱けないと言い出す。こんな時も身を引くなんて…。

新との性行為が描かれない理由は上の方で考察している。2人の場合は身体が繋がっていなくても心が繋がっているから、2人でただ同じ夜を過ごすだけでも充足するのだろう。

ラストは そこから数年後。同じマンションで2人と、赤ちゃん、そしてと犬(ひよこ?)の家族で暮らす風景となる。新にとって家族は未知のもの。そんな幸せを運んでくる ひかる に感謝しながら新は生きるのだろう。