《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

自分が二重人格だと嘘をついた彼は、俺様ヒーローと純情という無自覚な二重人格に苦しめられる。

萌えカレ!!(2) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

硬派だけどまじめで優しい宝くんに片想いのひかる。ところが入学式に宝くんそっくりの男の子が現れて、ひかるの恋は急展開!!優しいカレと意地悪なカレに振りまわされて?●収録作品/「萌えカレ!!」#6~10/番外編「萌えパフェ!!」

簡潔完結感想文

  • 瓜二つのヒーローは異母兄弟!? 異母弟妹をこしらえちゃう父は死にがち(あるある)。
  • 強引にキスをしてくる性暴力に対して普通は、このぐらいの拒絶があるはずなんです。
  • 少女漫画的には飲酒は、山の中の遭難と同じぐらいハプニング製造機なんだなぁ…。

様ヒーローが滑稽なピエロに見えてくる 2巻。

『1巻』のラストで ようやく本書の基本構造が見えてきた。
それがヒロイン・ひかる と、硬派なヒーロー・宝(たから)、そして宝の異母兄弟だということが判明する新(あらた)。邪悪な『タッチ(©あだち充)』みたいな三角関係が いよいよ幕を開けた。

『2巻』で面白いのは、やはり新の立ち位置。1話の初対面で いきなりディープキスをしてくるような典型的俺様ヒーローなのだが、彼は いつまでもヒロイン・ひかる に蛇蝎のごとく嫌われる。
これは少女漫画的に面白い展開。ヒーローが単独体制である普通の俺様ヒーローモノならば、ひかる は強引な新のペースに巻き込まれつつも、いつの間にかに彼に情が移り、何だかんだで言いなりになりつつ交際が始まる所だろう。

しかし本書のヒロインは少女漫画世界という特殊な環境とは違う、極めて一般的な心の動きをする。普通なら1話でキスしてくるような性的暴行犯には距離を置こうとするのが女性の正しい行動だろう。ひかる は新から距離を置き、彼の格好つけた言動に少しも揺るがない。俺様ヒーロー嫌いの私としては そこが痛快だった。何の実績もないのに なぜか初登場から高いところにいるヒーローに惚れてしまうヒロインが いつの間にかに隷属的な立ち位置で彼に振り回されるのが俺様ヒーローモノの楽しいところ(なのだろう)。

だが本書の ひかる は早いうちから俺様ヒーローである新を振り回している。この女性主導の物語になっているのが読んでいて楽しい。

顔の良い俺様ヒーローの蛮行が許されがちな少女漫画だが、本書において顔はアドバンテージにならない。

なぜ ひかる が俺様ヒーローが至高の存在であるという少女漫画的な洗脳を受けないかというと、そこに宝の存在があるから。ひかる が別の男性に心酔しているから、彼女は揺らぐことはない。そうすると高いところから物事を見下している新が滑稽に映る。自分のプライドを守ろうと虚勢を張る俺様ヒーロー・新は、ひかる にちょっかいを出せば出すほど、相手は自分から遠ざかる。そして彼女は新が一番 憎く思う宝のものへと走っていく。完全に嫌われ者だ。

そして新の存在は、硬派で鈍感な宝の心に影響し、彼の恋心を目覚めさせるというのも皮肉だ。新が奮闘は なぜか当て馬の役割を果たし、全ては裏目に出る。性的暴行や、乱れた性生活、二重人格や二重生活をしていた新の過去が断罪されているようで胸がすく。

だが きっと これは作者の計算の一部だろう。新が かませ犬になり、彼が不幸なほど、応援したくなる読者は一定数いる。本書で一番 不幸なのは間違いなく新だもの。しかも この不幸の連続によって、新の過去は清算されようとしている。実際、私も滑稽な新の様子に胸がすき、彼への嫌悪感が薄れている。序盤の蛮行は、序盤の断罪を通して赦されていく。

全体を見渡せば、新というトラブルメーカーがいるから本書にスピード感が出ているのも間違いない。彼が何か やらかしてくれるから物語に動きが生まれ、硬派な宝を動かす理由にもなっている。

『1巻』では新は、宝との二重人格だと ひかる に嘘をついた。結局、別個人であることは『1巻』のラストで証明されたが、新は まだ ひかる に嘘をついていることが1つあるだろう。それが自分が本当の恋においては純情であること。

新の態度は、他の女性たちとの関係とは違い、ひかる に対しては極めて純情なことが分かる。あれほど乱れた性生活だった新だが、ひかる に対してはキスすらも本気じゃないと出来ない身体になっている。

そんな自分の意外な二重人格に一番 苦悶しているのは新本人だろう。ひかる目線で言えば新は恋の邪魔ものでしかないが、新の立場からすれば、ずっと失恋のカウントダウンが始まっているようなもの。望んでもいない役回りをしている自分にも気づき始め、苦しい恋をしている。初読では見落とされがちだが、何度も読むと それぞれの立場が浮かび上がるのが本書の面白いところである。


と新は、異母兄弟であることが新の口から告げられる。それが2人が瓜二つの理由である。浮気者の父親の遺伝子が強いらしいが、漫画のように そっくりなのは、容姿による区別や選択を ひかる にさせないためだろう。

新の登場による反応は様々。ひかる は宝が二重人格であると真剣に悩んでいたことが嘘だと判明し、新への怒りに変換される。そして宝は身に覚えのない騒動の原因に納得しつつも、予想外の弟の登場に面を食らう。この後、宝は新のことを調べようとするが、彼(ら)の父親は亡くなっており、母に父の不義を問いただす訳にも いかないので、新の情報は得られない。
兄妹モノの禁断の恋でも よく見られるが、今回の件や異母兄妹などの問題を引き起こす親は物語から排除=死去という運命を背負いがち。これも少女漫画あるあるで、ヒロインの周辺を複雑な設定にするために、サクッと親殺しがち。

そして新は、宝が自分と違って のうのうと生きてきた宝に憎しみを覚える。更には ひかる という大切な対象が常に宝しか視野に入っていないことも苛立ちを倍加させる。


は この高校の新入生の中でトップ合格者で新入生代表の挨拶をする。不真面目だが、宝と同じぐらいハイスペックな様子。そして ひかる と新は同じクラスになる。

宝は新に接触しようとするが、新が拒絶。そこから乱闘騒ぎに発展するが、それに ひかる が巻き込まれそうになると、2人のナイトが お姫様を守る。倒れてきた本棚に関してはマッチポンプのピンチではあるが、ひかる に対する分かりやすい構図が見えた。

こんなに棚を ぶっ飛ばしたら、別の被害が拡大しそう。前後の描写と謎の空間の存在が繋がらないなぁ…。

ひかる は空手部に入部する。マネージャー募集がないため、部員として。これはマネージャーと部員いう立場だと前作『GET LOVE!!』の2人と同じ環境になるからだろう。ひかる が宝を支えるだけではないのは次作『うわさの翠くん!!』に続く、行動的なヒロインの系譜となる。

運動部に入ることは、運動神経0の ひかる にとって冒険。だが宝の側にいたいという無限パワーが彼女を行動させる。ひかる の愛のエネルギーの大きさが見て取れる。
だが実際、入部しようとすると宝目当ての部員を振り落とすために厳しいテストが待っていた。この辺はスポ根モノのような設定だが、作者らしい笑いとエロスを融合して入部までの経緯を描く。

軟派な新とは、同じクラスということもあり、学校生活の中で自然に接点が出来るが、硬派な宝は ひかる から彼の方に近づかないと接点が出来ない。ここで ひかる に行動させることで彼女の努力と達成感が見えるようになっている。


かる の宝に近づいた満面の笑みを見た新は、空手部の入部を希望する。部員を実戦形式で倒し、入部を認められた新。それもこれも ひかる のためだが、本人は異母兄弟が仲良くなりたいのではと勘違いする。

相変わらず ひかる の頭の中に宝への思いしかないことを知った新は、再度ひかる にキスをする。
更に、そのキスを目撃した宝に対し、ひかる からのキスだと虚偽を報告する。しかも 今回のキスは頬にしたもの。宝への当てつけであり、気持ちがこもっていないため、頬にしたのだろう。初回はともかく、新にとって ひかる とのキスは特別なものなのだろう。

ひかる は そんな新の心情も知らず、ただ彼の嫌がらせを責め立てる。

ただ そんな新の行動は宝の眠れる獅子を呼び覚ましてしまうことになる。鈍感な宝が、自分の中の ひかる への特別な気持ちを目覚めさせるのは新の過激な行動があってのことだろう。

新が ひかる を束縛しようとする際も、宝は ひかる の腕を掴み、自分の意思を示している。それに加え、ひかる が自分の手から宝の胸に抱かれに行ったため、新は不機嫌になる。この時の宝との会話でキス騒動をはじめとした誤解が解け、2人の仲は急接近する。


3人の微妙なバランスは、新入部員の歓迎会でも見られる。
飲酒をしたため面倒くさくなっている部長から ひかる を守るために宝は側に寄り添い、苦手な酒を彼女に代わって飲み干す。

自分を守って酔い潰れて眠る宝に、ひかる は好きと伝える。しかし宝は目を覚ましており、その言葉を聞かれてしまう。その直後また眠ってしまった宝だが、ひかる は覚醒後の宝に その記憶があるかあどうかが気がかり。

本日の主役である新入部員の ひかる は宝の介抱ではなく、歓迎会を楽しむように先輩から気遣われる。だが会場に戻った ひかる は今度は自分が飲酒してしまう。
それを介抱するのは新の役目。ひかる をお姫様抱っこし、同じカラオケに来ていた過去に遊んだ大人っぽいお姉さんたちに一瞥もくれず、新は ひかる を優先する。新は彼の中では新しく生まれ変わっていることが ハッキリと分かる。問題は新が それを ひかる に伝えられる勇気を持たないことだ。

眠りから覚めた ひかる は新を宝だと勘違いし、新に甘え、彼の身体に抱きつく。
そして先ほど宝にした告白を撤回しようとするが、宝(本当は新)は ひかる が一番かわいいと言ってくれる。その言葉で ひかる は満たされ、そんな彼を好きになった幸福に浸る。だが新は ひかる に本音を言っても、それが宝の言葉と誤解され、ひかる の宝への一層の好意へと変換されてしまう。何をしても損をするのは自分ばかり。

だから新は空回りする自分への苛立ちがあり、宝という存在に先んずるために、新は泥酔した ひかる を抱こうとする。立派な性犯罪者である。だが安心材料としては、自分が ひかる に惹かれていると自覚してからの新は、キスすらも神聖視している点だ。宝と新は天使と悪魔だったが、新の中にも天使と悪魔が分裂し始めている。

しかし時代の風潮に合わせず、自分が読んできた1世代前の漫画の中の展開を持ち込むのは作者の悪い癖で、高校生の飲酒・喫煙をネタとして扱う。デビューから約20年間 同じ雑誌で連載をしている作者だが、コンプライアンスの変化に きちんと対応しているのだろうか。同じ作家さんは1年に長編1作品という縛りをしている私が、2020年代の作者の作品を読むのは あと4年ぐらいかかりそうだが。

番外編「萌えパフェ!!」…
ひかるがカフェでバイトするのに際し、宝と新は それぞれに心配で彼女の働くカフェに赴くが…。

いつもは男性たちに振り回されるのは ひかる だが、この話では男性たちが ひかる に振り回される。今回「萌える」のは かわいい ひかるの制服姿である。
それにしても ひかる が空手部に入部する前の話なのに、「部活のあと お手伝いすることになった」という矛盾が引っ掛かる。