《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

はっきり言って小中学生が読む内容だけど、小中学生が夢中になるのも納得の内容。

GET LOVE!!(1) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
GET LOVE!! ~フィールドの王子さま~
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

美樹が大好きな相楽は、クラスで一番背の小さい男の子。カッコかわいい相楽がサッカーに女装、初キスと大活躍。GOちゃんデビュー作にして出世作美樹&相楽シリーズ、ついにフラワーコミックス登場です!●収録作品/GETGOAL!!/LOVEPENALTY!/YELLOWCARD!!/HALFTIME!!/守ってあげたい

簡潔完結感想文

  • 作者のデビュー作が後に長編化。2人の恋を継続させたのはサポーターの声援。
  • 『1巻』は読切短編部分。恋のゴールは早々に決められ、次のゴールは特にない。
  • エロ旋風が巻き起こっていただろう当時の誌面でも堅実な愛は しっかりあった。

気も名声も印税も一気にGETしたであろう作品の 1巻。

冒頭に収録されている読切短編は作者のデビュー作である。
それが別作品の短期連載を経て、読者人気が後押しとなり、何度か読切が発表される。
それも好評を博したため短期連載、そして全7巻分の長期連載にまで至る。
作者をスターダムに押し上げた作品である。

ちなみに本書は私が作者の作品で初めて読んだ『うわさの翠くん!!』の親世代の話でもある。
どうやら『翠くん』では本書の主人公カップルの子供や、チームメイトの子供たちが登場していたらしい。
ということは、本書と『翠くん』では20年余りの時間が流れているが、とてもそうは見受けられない。
もしかして本書の雰囲気が やけに昭和的な古臭さを感じるのは、
本書が1980年代の話で、『翠くん!!』が2000年代の話になるからか⁉
本書の制作時点で、二世代の物語を念頭に描いたわけないから、絶対に違うんだろうけど。


書の内容は感想文のタイトルにも書いたけれど、間違いなく小中学生向け。
掲載誌「少女コミック(当時)」の中でも特に低年齢層に受けた作品だと思われる。

驚くのは作品が掲載されたのは「少女コミック」が最も過激な内容を扱っていたであろう2002年~04年だということ。
小学館漫画の悪い部分の結晶体のような水波風南さん『レンアイ至上主義』などのエロ旋風の中で、
本書のような「小さな恋のメロディ」的な内容が しっかりと支持されていたことに安心する。
この作品を読みたいがために「少女コミック」を買った子が、
とんでもない内容の作品を読んでしまったと思うと、無関係だけど私から謝罪したい気分である。

そして作者もエロ旋風やエロ圧力に屈することなく、きっちりと作風を守っている点が偉い。
本書にあるのは笑えるエロが多い。

作者の読書歴や好きな作品の感じを見る限り、少年誌で育ち、少年誌の手法を愛する人なのだろう。
だからエロもライトな感じのラッキースケベぐらいのノリである。

少年誌と青年誌はきちんと役割が分かれているから安心できるが、
当時の「少女コミック」は、ティーンズラブと少女漫画が混在していた状態だったのだろう。
前者の要素がブームになっている中、後者の立ち位置を忘れなかった作者を本当に好ましく思う。


容的には、当時の読者が「等身大」で応援できる恋愛模様であることが、
読者の支持を得た部分なのではないだろうか。

ヒーローが156cmの高校1年生というハンデをつけながらも、
彼がどれだけ魅力が溢れているか、どれだけ強い人間かを しっかり描けている。

足りないものを数えるよりも、それを乗り越える自分であろうとする相楽。心がイケメン。

本書のヒーローは、スタイル抜群・成績優秀といった典型的な女性の人気キャラではない。
作品内では その手の他に女子生徒の人気を集めるキャラがいるのに、
ヒロインにとってはヒーローだけが どうしても その人から目が離せない、
という普通の恋愛であることも注目すべき点だろう。

自分にとっての特別な人を見つけたという出発点がしっかりしていることが、
読者が応援し続ける土壌となっているのではないか。


『1巻』は長期連載前の読切短編時のものが4話分+別作品1話が収録されている。
なので毎回1から説明が入るし、連続性もないので、
長編の1巻だと考えると、ブツ切りな印象を受けてしまうかもしれない。

その分、1話で読者の心を掴もうという作者の高い構成力が発揮されている。


「GETGOAL!!」…
サッカー部の練習を見つめる高校1年生の守山 美樹(もりやま みき)の視線の先にいるのは、
彼女の身長(162cm)よりも低い、同じクラスの男子、身長156cmの相楽(さがら)ユウキがいた…。

何といっても美樹にとっては、斉木(さいき)先輩という年上で何もかも優れている男性ではなく、
相楽が一番 格好良く見えるという、比較が面白い描き方である。

サッカープレイヤーとしては156cmの身長はハンデでしかないと思うが、
相楽は その分を補強する努力を惜しんでいない。
現状を恨むのではなく打開する力が彼にはある、という強さの描写も素晴らしい。
どうして美樹が彼を好きになったのか、どんな所を好きなのかを限られたページの中でしっかり描けている。

読者の中でも、斉木ではなく相楽が格好良いと思わせるだけのエピソードが重ねられていて感心するばかり。
ヒロインの美樹の側も、たとえ相楽が自分を好きじゃなくても自分の想いを伝えたいという強さを出せている。

両想いになる公開告白が、斉木にとって間接的な失恋になっているのが可哀想だが…。

これだけしっかりと相楽の良さが描けているからこそ、
読者からの支持が多く集まったんだろうと納得の内容となっている。

「LOVEPENALTY!」…
晴れて交際が始まった2人のキスまでの距離は…。

文化祭の打ち上げで美樹は飲酒してしまって記憶を失くしたことで起こる騒動でもある。

このように本書では何度も飲酒シーンが出てくる。
部室内や合宿先でも飲酒したりしているが、基本的に そこは問題にならない。
保護者なども大らかで、今(2022年)とは20年の時間の流れを感じずにはいられない。

酔った自分の失態と、自分を避けるような相楽の態度に美樹は落ち込む。

そんな自己嫌悪どん底の彼女を、学校の荒くれ者たちが襲う。

少女漫画の学校というのは どうして治安が同じ学校内で こんなにもバラつきがあるんでしょうか。
ドラマを作るために極端な生徒が配置されがち。

本書でも学校自体に荒れた雰囲気はないのに、校舎裏にはタバコを吸う不良がいる。
この辺も飲酒シーンと同じで古さを感じるところ。
もっと言えば、この雰囲気は、作者が若い時に読んでいた、
もう一つ前の世代の漫画の流れを汲んでいる典型的な手法なのだろう。
それをアップデートせずに流用しているように思う。

そんな不良に美樹の唇が奪われそうになった時、ヒーローが参上する。
相楽はサッカーボール1つで不良を威嚇。
あれで退散する不良も どうかと思うが…。

ちなみに今回の飲酒によるキスなので「少女漫画分析」ではカウントしません。

ボールを持った相楽はヒーロー。でも壁ないと一撃のみ、壁あっても足元に返ってこない危険も…。

「YELLOWCARD!!」…
交際後はじめての相楽とのXXという お話。

読切3話目にして美樹はサッカー部のマネージャーになる。

ちなみに私はマネージャーとしての美樹が そんなに好きじゃない。
部のマネージャーだというのに相楽のことばかりで、サッカー部への献身的な行動が少ないからだ。

そしてサッカー部は美形ぞろいという設定で、そんな彼らに美樹は大事にされる。
逆ハーレムで チヤホヤされすぎなのも辟易する部分(対象読者には嬉しいのだろうけど)。

美樹は友人たちから、そして相楽は先輩たちとエロ知識や情報によって、自分たちのペースを崩してしまう。
そのペースのズレが、2人の交際に初めてすれ違いを生じさせる。

まぁ、少女漫画の喧嘩は仲直りの前段階でしかないのですが。
2人の距離は一層縮まっていくのであった。

過激なエロ描写がない本書だが、知識や単語はやや過激。
エロ雑誌や映像など、その存在をぼやかしたりしない。
こういうのも作者が読んでいた少年誌的エロ場面の影響がありそうだ。

「HALFTIME!!」…
2泊3日のサッカー部の合宿に同行する美樹。
だが合宿先の娘さん(4~5歳?)に相楽を取られて、宿泊のメリットを感じない…。

2日目の夜には、停部の危険を冒してまで酒盛りを始める部員たち。
こういうのは、この合宿先の人間が一番 問題のような気がするが。
そういえば このサッカー部には顧問や監督者が出てこない。
いたら責任を取らされるのは彼らだろう。

今回の美樹のピンチは、露天風呂を覗く何者かの影。
相楽は今回も、自慢の足で美樹を脅かすものを撃退する。
不良や不審者と まともに戦ったら負けるかもしれない小柄な相楽の武器は足しかない。

そして相楽は美樹へのプレゼントまで用意していた。
女心に疎そうな相楽だが、
自分の欲望に走ったりすることなく、美樹をしっかり大事に思って毎日を過ごしていることが分かる。
わざとらしくない、その誠実な姿に胸キュンである。

にしても、作者の作品を読むのは2作目ですけど、作者は男性の「大きさ」を比べたりするの好きですよね。
キャラのパーソナルデータをこういう所まで考えているのはオタク・腐女子気質を感じます。

「守ってあげたい」…
由花(ゆか)は幼なじみのハルキのことがずっと好き。
だが彼には近くによる者を老若男女問わずとりこにしてしまう、超フェロモン男という特徴があった。

「ハルキの眼光は強力らしく3秒以上目を合わせた者は理性がフッ飛んでしま」う、と言う。
だからハルキは眼鏡で自分の能力を減じる努力をしており、
そして幼なじみの由花には多少の免疫があるから正気を保てる。

この作品は読者も理性をフッ飛ばして、何も考えずに楽しむのが正解でしょう。
はっきり言って頭の悪い作品だが、だからこそ面白い。

この短編は、序盤で2人が付き合ってからが本番。
フェロモン男と付き合う由花が全校生徒(男子生徒も含め)の嫉妬の対象になってしまう。
数々の嫌がらせをされ、ついに由花が怪我したことで、ハルキは彼女に交際の中止を申し出る。

その悲しみにくれる由花にクラスメイトは手を差し伸べる振りをして、崖から突き落とす。
クラスメイトたちのしたことは最低で、男性たちも理性のない野獣である。

そんな彼女のピンチに現れるのがヒーロー。
ハルキが現れた時の名推理で彼の賢さも分かるようになっている。

そして彼が悪党を倒す方法もユーモラス。
自分の身を犠牲にしても彼女を守り抜こうとするハルキ。

『1巻』のヒーローたちは暴力を振るわない。手を出さないかわりに飛び道具で勝負!

ラストシーンは もう完全に少年誌のノリ。
貴様ら 俺を本気で怒らせたな、今、邪眼の力を解き放つ!!
という厨二病全開の内容だが、結局それが面白いんです。