《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

嫌っている人に貞操を奪われそうになる冒頭から、好きな人に純潔を捧げようとする巻末へ。

萌えカレ!!(3) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

硬派で一見ぶっきらぼうだけど、ほんとは優しい宝くんに片思いしてたひかる。それがなんとカレのほうから大告白!幸せいっぱいラブラブになれたんだけど、今度はカレの異母兄弟だという新に略奪宣言されて…!?●収録作品/「萌えカレ!!」#11 ̄15/番外編「萌えカレ!!特別編」

簡潔完結感想文

  • 天使の新と 悪魔の新の二重人格による内なる戦い。その統合が本当の三角関係の始まり。
  • ヒール役 兼 当て馬 兼 仲人の新によって、恋愛初心者の2人の恋愛は速い展開を見せる。
  • 宝がキス魔になるのは新が強力なライバルで、彼女の心を信頼しきれてないからでもある。

れぞれが本当の気持ちを表明することで、真の三角関係が始まる 3巻。

ひかる に惹かれている事実と 恋愛的に遅れを取っている現状をプライドの高い新が認めて新章開幕。

相変わらず俺様ヒーローでありながら当て馬役を押しつけられている新(あらた)が良い味を出している。そして今回でハッピーエンドでも おかしくない初恋成就を果たした ひかる と宝(たから)の交際編を盛り上げているのも、いや 交際そのものも新の お陰と言えるだろう。

ヒロイン・ひかる に出会ってからの新は自分の中の天使と悪魔の二重人格に悩まされている。元々は異母兄である宝への復讐を果たすために、高校入学直前に宝のいる街に現れた新。宝が困るように、見た目が同じという特徴を利用して派手な行動をすることで宝の悪評を立てようとした。

…ん、となると新の「俺様ヒーロー」というのは ここ最近の彼のキャラ作りなのか?という疑惑が湧く。『1巻』では ひかる に自分が宝も もう一つの人格だ、と言っていた新だが、もしかしたら ひかる に見せていた「ニセ宝」という人格は新の本性ではなく、日本に帰国した彼が作り上げた二重人格のような存在なのかもしれない。必要以上に露悪的に振る舞うことで宝の名声を傷つけようとしたが、新は無理に作った自分の人格に振り回されたのかもしれない。

その無理が表面化するのが『3巻』冒頭の場面。新は「ニセ宝」として初対面を果たしたため、ひかる の前では粗暴な振りを貫き通す必要が出てきた。だが本来の新は もう少し優しく、火傷をした ひかる を治療したり、今回 判明するように自宅を綺麗に保ったり、料理を振る舞ったりする人格なのかもしれない。

ひかる に性的暴行を加えようとする際に本来の自分と キャラ作りによって生まれた人格が せめぎ合い、本当に天使と悪魔の二重人格のようになり、彼は暴行の抑止と遂行で頭を抱える。宝への復讐心を原動力にする悪魔が、ひかる への純真な愛を胸に生きる天使に負けそうになる。宝が苦しむ姿より、ひかる が泣く現実を回避したことは天使の優勢を意味する。そして天使が優勢の時に無邪気に笑った新の笑顔が彼の本当の顔なのだろう。

今回、新は自分の中の ひかる に惹かれる気持ちを認める。ひかる本人は これまで意地悪してきた新からの好意を罠だと思うが、宝は新の気持ちに偽りがないことを気づいていた。こうしてヒロインだけが無自覚の三角関係が成立する。作者は まだまだ驚きの展開を用意している節があるので本当に最後まで目が離せない。


が、新は自分に課せられた もう一つの働きによって、この三角関係で完全に遅れを取っている。
命名するなら新は「悪魔なキューピッド」だろう。この矛盾する役割を果たすのが新という二重人格の当て馬ヒーローという複雑な立ち位置である。

新が存在しない世界では ひかる と宝の交際までの過程は もっと長いものになっていただろう。二次元にしか興味の無かった ひかる と、硬派すぎて自分の気持ちも分からないであろう不器用な宝、そんな2人が この短時間に交際し、キスを交わし、それ以上の深い仲になろうとするのは、その後ろに新という存在があったからに違いない。

特に宝にとって新は本能的に自分の最大のライバルだという意識があるから、宝は自分の内面に向き合い、そして ひかる を奪われたくない気持ちへと辿り着いた。鈍感ヒーローである宝に ここまで影響を与えるのは新が最強の当て馬だから。
そして交際後も宝が ひかる に早々にキスをするのは、彼女と新がキスをした過去があるから。少女漫画的には「消毒」のように彼女の唇を自分が独占し、新の気配を消すことに宝は必死である。人前でのキスなど、宝が らしからぬ行動をするのは、新という脅威を1秒でも早く忘れたいから。ひかる はキスに舞い上がっているが、宝にあるのは純粋な気持ちだけではない。新より深く、長く、強く ひかる と繋がっていたいという意識がなければ宝は大胆な行動には出なかっただろう。

新がいなかったら退屈な2人の交際編も、新がいるから目が離せない。彼は損な役回りだが物語の貢献度は計り知れない。

構成的には『3巻』は冒頭と巻末で ひかる の貞操に関する話題でまとめられているのが上手い。これで次の巻を読まない人は相当な政倫力の持ち主だ。

交際後、ここまで一気に話が進むのも新の お陰であろう。宝の1人ヒーロー体制だったら、すぐに性的な行動に出ようとする宝に幻滅するところだったが、新がいることで宝に焦燥が生まれ、それが次へのステップを早める。ひかる だけは幸福の絶頂で、本当に三角関係が成立していること、また宝の行動が100%自分を想ってのことではないことに気づいていない。それは読者も同じだろう。何回か読むと段々と表層的な動きだけでなく、各人の心の動きが分かってくる。スピード感の中に、その面白さを潜ませるのが作者の高い力量に違いない。

ひかる の初キスの相手が新でなければ宝も執着しなかった。宝はハッキリ新をライバル視している。

頭は新という悪魔による ひかる の貞操の危機から始まる。だが新は自分の中の天使の声によって ひかる に手を出せない。
こうして純潔は守られたが、服を勝手に脱がされ、着せられているだけでもダメージは大きい。今回は ひかる が酔って寝ている最中であり、しかも新には『1巻』で傷の治療の際に胸を見られているからか、大事にしない。それでも新のしたことは悪事であることに違いないのだが。

悪魔のような新の手から守るために、宝が街中を駆け巡っていた。だが発見できず、朝になる。

朝、ひかる が目を覚ましたのは新の住むマンションだった。新は母も早くに亡くなっているらしい。それでも日本では とても広いマンションに住んでいる。母の実家、新の祖父母が裕福だったりするのだろうか。

新は料理上手という一面を持ち、ひかる は彼の朝食に舌鼓を打ち、心からの笑顔を見せる。これは新が ひかる に対して初めて笑わすことの出来たことであった。そんな ひかる を見て新も初めて無邪気な笑顔を見せた。悪魔が天使に屈服したからか この朝の新は穏やかである。

初めて2人に穏やかな空気が流れる中で現れるのは宝。朝になり ようやく新の家を捜し出し、彼は安堵から ひかる を強く抱きしめた。宝の流れる汗と乱れる呼吸に、ひかる は彼が自分を一晩中捜してくれたことを知る。

こうして新との穏やかな空気は乱され、新は本来の立ち位置であるヒール役に戻り俺様ヒーローを演じてしまう。そこで新が発言するのは、昨日の一夜の過ちがあったということ。怒りに我を忘れ新を殴る宝だったが、ひかる は何もないことを強調する。少なくとも目が覚めてからの新は穏やかで優しかったと。予想外に ひかる が自分を擁護するような発言をしたことに動揺する新。宝は そんな照れた新の表情の中から、ひかる への好意を読み取ったのであった。

まさかの新の純情に宝は焦り、ひかる をマンションから連れ出し、黙って街中を歩く。


かる は宝が無言なのは怒っているからだと推理し、迷惑をかけたことを謝罪する。だが宝は危うく ひかる を守れなかった非力な自分を責めていた。「好きな人」を守れない自分を彼は許せなかった。どうやら徹夜の捜索活動で宝は自分の気持ちに気づいたらしい。

宝の気持ちを知り、号泣する ひかる。生まれて初めて好きな人に好きと言ってもらえたのだから当然だ。上述の通り、2人の関係を促進したのは新だが、もちろん ひかる が高校受験をしたり、空手部に入部しなければ今の関係は無い。

無断外泊から帰った ひかる を家族は責める。その批判を受けるのは宝。彼は自分が ひかるを連れ回したと罪を被り、同時に ひかる との交際を発表する。家族はフェロモン王子の宝に一瞬で夢中になり、夜まで彼を歓待する。宝は昨夜から一睡もしていないのに、眠気を見せることなく対応している。さすが若き運動部、体力が違うのか。


うして始まった交際。お互い初めての恋人だから、上手くいかない部分もあるが それも楽しむ。交際初期は すれ違いさえ笑い話になる。

2人の すれ違いや、新の魔の手から ひかるを守るために宝が ひかる に用意したのは携帯電話だった。
ここには宝に それだけ余裕がないという心理が見て取れる。本当に自分たちの愛が揺るがないと思っているのなら、宝の性格からして用意しないだろう。鈍感な彼が そこまで気が回るのは、自分の中で新が脅威に感じているからだろう。いつ新が ひかる を襲うか分からないからこそ予防策を考えた。

それにしても この携帯電話、契約はともかく、電話料金は宝が払うのだろうか。この時代の携帯電話は、2020年代スマホの本体価格とは訳が違うだろうが、それにしても大盤振る舞い。ひかる も当然のように受け取ってるし。新のマンションといい、経済的な面は疑問が多い。

そして交際が順調なのは1話限り。この回の最後のモノローグでは これからの困難が予告される。


んな暗雲が見え隠れするのは読者だけ。付き合い始めたばかりの2人は初デートで幸せいっぱい。

だが ひかる は この日、2人の出会いを遡る会話の中で、自分の初キスの相手が新であることを宝に話してしまう。一方的な性的暴行であるとはいえ、デリカシーのない発言だったことを悔やむ ひかる。

そんな彼女に対し、宝は一瞬の沈黙の後、ひかる にキスをする。自分と出会う前とはいえ、ひかる のキスを新に奪われていることに歯がゆい思いをする宝。
今回のキスは ひかる にとっては3度目(2回目は眠りの中)のキスだが、本当に好きな人とのキスは初めてで、その幸福感に ひかる は顔を赤くする。

そこから宝は挽回するように ひかる にキスをする。それを目撃したのは新。これは『2巻』で ひかると新のキス(頬)を見た宝とは逆パターンである。違う男との愛の場面が自分の恋心を点火する。そして この場面で新は、ひかるが宝との恋を成就させたことを知る。


は宝に対する苛立ちを、部活の練習という形で発散する。宝ばかりが恵まれる人生を恨む新。

宝に食って掛かる新に水をかけ、彼の頭を冷やすのは ひかる。だが その行動も彼女が宝を守るためであり、新には それが気に入らない。

自分の純情が傷つけられた形になった新は、消滅しかけていた悪魔の面が顔を出す。俺様ヒーローが彼の中で主導権を奪い、自分と宝を間違えた ひかる に対し、無理矢理に唇を奪う。1話以来の性的暴行である。ただし今回は どうしても好きでたまらない、という気持ちが彼の中にあるのが違う点だ。

その ひかる のピンチに宝は現れないだが ひかる は泣き寝入りするばかりではなく、新に鉄拳制裁を自分で加える。彼女がキスされたことよりも涙するのは、新を信じ始めた気持ちが裏切られたから。宝への あてつけで自分を利用し、性的暴行する新に幻滅した。

そうして立ち去ろうとする ひかる に対し、新は このキスは あてつけではなく、ひかる への愛情表現だということを明かす。もう新がキスをしたいと思うのは、この世で ひかる 1人なのである。裏の顔ばかり見せてきた新が やっと素顔をのぞかせた。

ひかる は過去の言動から新を信じられないが、彼の率直な言葉には嘘がないことが伝わる。

そこに現れる宝にも新は ひかる への好意を隠さなくなる。2人が交際してても退かずに、宝から奪略することを高らかに宣言する。宝は新の気持ちに気づいていたので、その言葉を冗談だと受け止めない。かれもまた正々堂々、ひかる を譲らないことを宣言する。

誰もが気持ちを明らかにした この時点から三角関係の第2ラウンドがスタートと言ったところか。そして この第2ラウンドで焦りを覚えるのは宝の方と言える。だから宝は、彼女の気持ちを自分に繋ぎとめるようなキスを繰り返す。

ひかる は宝らしからぬ激しいキスに陶酔するが、それゆえに その裏にある宝の焦燥などは感じ取れない。宝は焦りと単純な欲望で自制が限界にある。そのことを正直に ひかる に話す。ひかる は早くも宝に純潔を捧げる気だから、そんな彼の要望に応えようとする。通常の少女漫画なら少々早すぎるヒロインの決断に見えるが、この盲目的な一途さも含めて ひかる が幼いという表現になっている気がする。

「萌えカレ!!特別編」…
男女逆転シンデレラ。新の出番が極端に少ない。
宝は女装しているだけなのか、それとも女体化してるのか。オチがオチだけに そこが気になる。