《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

あなたが いつまでも凛としていられるように、あなた の視界に入る時の私は凛とし続ける。

萌えカレ!!(5) (フラワーコミックス)
池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

宝くんの幼なじみで超絶美女の亜美さんが宝くんに告白!不安でいっぱいのひかるに宝くんは「クリスマス…一晩中、二人きりで過ごそう…」って・そして24日、ドキドキしながら宝くんを待つひかるだけど…?
●収録作品/「萌えカレ!!」#21~25

簡潔完結感想文

  • 心も身体も繋がれば、もう第三者の影なんて気にならなくなるはずだったのに…。
  • ヒロインを本当に強くしたのは恋愛ではなく失恋。宝が心配しない私になる。
  • 誰のものでもないヒロインに改めて告白することで今度こそ正式に三角関係発動。

ンチ、じゃなくて宝(たから) SEXしよ!!、の 5巻。

ひかるが本当に宝という人間を理解しているからこそ辿り着く結論。2人の心は もう繋がっている。

これまで何度もヒロイン・ひかる の性行為を匂わせてきた本書だが、今回は本当に性行為をする。それも恋人である宝(たから)と前々から約束していたクリスマスの日にホテルで。誰もが憧れるシチュエーションなのだが、作者は全く景色を見せた。
約束通り、2人は心も身体も繋がることは出来たが、その前後に起きたことは全くの予想外だった。宝を守るために女性ライバルである亜美(あみ)が重傷を負った。そして宝は その責任感から亜美に寄り添う選択をしたのだ。物語を大きく動かすために、こういう衝撃的な事件を起こす手法は あまり好きではないが、それがあるから こんなに切ない性行為を描けた。性行為までの2人の切なさ、そして初恋の終焉が ひかるを少女から女性に変えた。その作者の力量に感心したのも事実である。

冒頭の一文は ひかる の「今からSEXしよ!!」という間違いなく『5巻』の名言なのだが、これを言った時の ひかる のあっけらかんとした表情と、その裏にある彼女の痛々しい決意が胸に突き刺さる。ひかる の選択は、宝を大好きで彼のことを誰よりも理解しているからこそ達する結論で、それを考えると表層上の明るい言葉や表情が かえって その裏の苦く辛い気持ちが際立つ。

本来であれば、心も身体も繋がることは、2人が無敵になることだった。特に宝においては、自分の唯一のライバルである異母弟の新(あらた)の影を払拭する機会であったはずだ。ひかる の中に新がいるのではないかと疑ってしまう弱い自分を克服するための押し付けるようなキスは限界を迎えた。(ティープ)キスは新も ひかる と経験していることで、新が越えられなかった壁を自分が越えることで宝は無敵になろうとした。冷ややかに見れば、性行為で宝が どこまで無敵感を継続できたかは不明だ。もしかしたら新が視界に入る限り、宝の心の安寧は訪れないかもしれない。
ただ性行為は ひかる にとって大きな繋がりになっただろう。初恋の人との繋がりが彼女を世界一 幸せにし、そして その気持ちを保持して宝と更に関係を深めていったはずだ。


が亜美の事故により2人には未来が見えなくなった。そして それ故に性行為は初恋を終わらせるための2人での確認作業になった。

この時の2人の気持ちを きちんと読者が理解できるのが凄い。少し間違えば ひかる の選択は、いかにもヒロイン的な自己犠牲と自己満足の上に成立するものになってしまっただろう。だが本書は それとは かけ離れていた。ひかる は自分のために身を引くのではなく、宝という世界で一番大好きな人を理解しているから、彼の心の動きが全て把握できた。その上で、自分が取るべき行動を冷静に選択したのだ。
彼女である ひかる には宝を手放さない権利は しっかりある。でも それを行使することは宝に苦しい生を与えることになる。そして自分も宝の中にいる彼女=亜美の存在に苦しめられる。それはきっと宝が新という存在に苦しめられているのと同じだろう。ひかる は賢くも その未来まで見えているから、2人にとって最良の選択をした。

だから「SEXしよ!!」は ひかる にとって悲痛な最後のお願いとなる。初恋の到達点として、2人が愛し合った確かな証として それを欲した。そして当初の考えの通り、心も身体も繋がることは互いを誰よりも深く理解することになる。自分が心から愛した人は 結ばれた相手であった。僅かな不純物もない その気持ちを抱えて、2人は別の道を進む。

これによって ひかる は本当に強くなった。そして美しくなった。これまでは幼稚で無自覚に愛される いかにも少女漫画的なヒロインであった ひかる に対し辟易する部分もあったが、彼女の宝への気遣いを見るたびに彼女に好感を持った。彼女が どれだけ宝を愛したのかが伝わり辛くなる。
事故という劇的な手法を使っているものの、ヒロインの成長を しっかり描けている点が好きだ。ひかる は低年齢向け作品のヒロインだが、他の どの少女漫画誌に出しても見劣りしない。10巻以上かけてもヒロインの成長を少しも描けていない作品もありますからね。本当に作者の こういう部分は信頼が出来る。私にとって特別な作家さんではないけれど、才能や自己研鑽というでは本当に信頼できる。ヒット作を連発するのは内容の過激さを売りにしているからではないのが良く分かる。


美は ひかる を好きな新と結託して、自分に都合の良い状況を作り出そうとしていた。だが新は それを拒否。しかしクリスマスに ひかるが宝と結ばれることを亜美から知らされる。

イムリミットが迫る中、亜美は宝に告白する。その場面に遭遇した ひかる は告白に割って入り、宝だけは譲れないと涙ながらに訴える。そんな彼女を宝は抱きしめ、特別なのは ひかるだけだと亜美に告げる。

クリスマス当日には新が ひかる を止めようと考えるが、自分の強引な手段が ひかる を悲しませることが分かっている彼は何もせず、宝のもとに ひかる を走らせる。男女の恋のライバルを撃退し、いよいよ2人は結ばれる時が来た。

宝は ひかる のために指輪を用意していた。店を出た時、亜美と遭遇し2人は並んで歩く。亜美は もう自分の敗戦を認め、宝を縛ろうとしない。だが人込みで宝が指輪の箱を落としてしまい車道に出る。その時、トラックが突っ込んできて…。

指輪の箱は潰れる。少女漫画においてアクセサリは愛の結晶。それがヒロインの指や胸元に輝く限り、愛は保証される。だが宝の愛の結晶は ひかる に届けられることは なかった…。


ち合わせ場所で待つ ひかる に事故の一報が入る。それは宝の怪我ではなく亜美の重体の報せだった。亜美は宝を庇おうとして身を挺したのだ(前後の描写からするに宝を歩道とは逆方向に押すと別の車に轢かれる可能性が高かったような気がするが…)。

亜美は一命はとりとめたが、脊髄を損傷しており、身体に麻痺が残る可能性が高いという。宝は自分を庇ってくれた亜美に責任を感じている。亜美の両親は娘の幼なじみである宝と顔なじみではあるが、この日は事故の原因となった宝の顔を見るのは辛いため、彼を病院から帰らせる。

ひかる は宝と並んで歩く帰り道、次に宝の口から出てくる言葉が分かっていた。自分が好きになった誠実な宝なら きっと辿り着く結論。大好きだからこそ分かる その話を聞く前に ひかる は「SEXしよ!!」と宝を誘う。不謹慎なようで世界で一番 切実な言葉だった。なぜなら2人がSEXが出来るのは この日しか残されていないから。ひかる には分かっていた。これからの人生、宝は亜美への償いをするために生きることが。亜美の現在の容態を見た ひかる は受け入れられない現実を受け入れる。自分の想いよりも他の人を優先する。それが ひかる の強さ。

だから最後の思い出を作るために、2人は予定通りホテルの一室で身体を重ねる。しかし ひかる はともかく、宝は あんな自分の精神状態で完遂できたと思ってしまうが。


しくも美しい一夜が明ける。こうして初恋が成就した2人の男女は、互いを愛しながらも別れる。
この時も ひかる は眠ったふりをして宝のキスを受け入れ、彼が部屋を出ていくのを背中越しで感じる。追いすがったりしないのが彼女の強さ。間違いなく彼女は強い人間である。

ひかる はクリスマスの日以来、部活に出ておらず、引きこもっている。心配で家を訪問した新は、ひかる の弟に招かれ、彼女の惨状を見る。ひかる は すっかりアニオタに戻っていた。それが穏やかな現実逃避なのだろう。

新の怒りは宝に向かい、病院で彼に文句を言いに行こうとするが、ひかる は それを必死に止める。
その病院で ひかる は宝が憔悴しきっているのを目撃する。彼は亜美と ひかる との間でずっと悩み苦しんでいることが見て取れた。それでもギリギリの肉体と精神で亜美に付き添おうとする宝を知り、ひかる は弱い自分と決別する。宝が心配しない自分を間接的に見せることが、彼の負担を減らすことになるから。
落ち込んでいた ひかる を立ち直らせるのは新ではなかった。苦境の中で見た宝の強い姿だった。この展開も良いですね。一方がダメだから すぐに一方に寄りかかるのではなく、ひかる は自分で自分を律する。そういう順番を間違わない所も私が作者を好きな点である。


学期から ひかる は髪をショートカットにする。もう丸っきり次作の『うわさの翠くん!!』である。作者が大量の作品を生み出し続けるのは、基本的に顔が一緒だから筆が早いという面もあるだろう。

ひかる は学校で宝に会っても逃げたりせず、笑顔で挨拶をする。それが自分に出来る彼への応援であり気遣いだから。

別々の道を歩くことを決めた彼が振り返らないように、自立して背筋を伸ばす。これが ひかる の愛の形。

そこから また時は流れ、春になり新年度になる。今年の新入生を勧誘するのは主に ひかる と新。ひかる は進級しても新と同じクラスになる。そして亜美も一緒。事故以来、学校に登校することはないが進級できたらしい。ちなみに女子校から一緒に受験した ひかる の友達も一緒。彼女たちは、前半が三角関係メインになり、ひかる に女友達など出来る隙がないから、前の学校からの知り合いとして召喚されたのだろうか。

ひかる は宝との距離が出来たからと言って、新に なびいたりしない。彼女にとって相変わらず新は恋愛対象外で、ここから距離を縮めるのは新の奮闘にかかっている。ひかる の心は まだ宝にある。直接顔を合わせる機会は少ないが、彼との思い出が詰まった場所に つい足が向いてしまう。


る日、ひかる は新が女性の告白を断っている場面を見る(偶然の鉢合わせが多い漫画だなぁ…)。そして彼が ひかる に本気で惚れているから他の誰かとは付き合えないと明言していることを知る。

ひかる は、新が自分に つきまとうのは、彼が憎む宝の「彼女」だから利用されていると思っていた。しかし新は単純明快に ひかる を愛していることを理解する。

この告白の際、ひかる が後ろにいることに気づいた新は赤面し、それが ひかる に新の気持ちを確信させた。新の気持ちには応えられないと逃亡する ひかる だったが、新は追いかけ、そして走りながら告白をする。だが その場面を宝に見られ、ひかる は新を拒絶し、再び逃亡する。

新は初めて素直な ひかる への気持ちを口にした。すっかり俺様ヒーローではなくなり、そして3人が3人とも相手の気持ちを理解した この時こそ、本当の三角関係の始まりだろう。ひかる は無自覚ヒロインではなくなり、自分が主体となって どちらの男性を選ぶのか、という問題に直面する。


んな状況の中、ひかる はクラスメイト達の寄せ書きを渡すために数か月ぶりに亜美の入院する病院に足を向ける。だが この行動は ひかる にとっては地雷を進んで踏むようなものであった。亜美と宝が一緒にいる姿など見たくない。

しかも ひかる が病室に入った時、2人はキスをしていた(またもや偶然!)。これは亜美が宝の負い目を利用して、彼をロボットのように操作したからなのだが、ひかる には衝撃的な場面となる。宝も この前に新と ひかる の告白を見ており、2人にとって最悪のタイミングが重なる。ただ疑問なのが亜美の心境。彼女は事故前は宝への執着を断ち切っていたように見える。自分が宝にとって特別ではないと見せつけられ、クリスマスの日も彼の行動に邪魔をしなかった。だが事故後は再び宝への執着を見せる。これは先行きが不安な自分の身体に対し、宝に寄りかかり依存することで不安から逃避していると考えることもできる。ただ事故前と後の彼女の心境を理解する描写がないから 読者は少し困惑する。亜美は後発で登場して、すぐに事故に遭い、そして徹底的にお邪魔虫の役を与えられている。いくらライバルとはいえ、亜美の立場は あまりに不憫すぎる。ちょっと作者らしからぬキャラへの冷たさである。次作の『翠くん!!』のようにメインキャラが当事者になるのなら理解が出来るのだけど。

宝の前で涙を見せないようにしていた ひかる から涙がこぼれるのを遅れて入ってきた新が隠す。ひかる は泣いてしまう自分の心の弱さを責めるが、新は彼女の頑張りを褒める。今日までの ひかる の行動は間違いなく強いから出来ることなのだと。そして そんな凛とした姿に新はベタボレなのだ。

こうして どん底の ひかるの心を新が救う。ずっと当て馬で かませ犬だった新のターンが ようやく始まろうとしている。