《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作者なら作中で同じことを2回しないという絶対的な信頼の先に見えてくるのは この恋の結末…⁉

覆面系ノイズ 11 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま リョウコ)
覆面系ノイズ(ふくめんけいノイズ)
第11巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

観客をライブに引き付けるため、共にステージに上がったイノハリと黒猫!! 恋のライバルでもあるユズとモモが共に奏でる音は!?そしてモモの心に大きな変化が訪れる…?ライブツアーファイナル!ニノの歌声は届くのか!?溢れる想いに涙する名シーンの数々。覆面系史上、もっとも恋の動く最新刊!! TVアニメ化&実写映画化決定!!

簡潔完結感想文

  • 同じ舞台で同じ曲を演奏する仁乃・ユズ・モモ。とても最終回っぽい豪華な場面だ。
  • ライブツアー終了と共にイノハリメンバーの恋も終着。明暗が分かれた新年の始まり。
  • 歌い続けていれば必ず君に会える。そんな愚直な仁乃の6年半の願いが、いま叶う…。

の、結末 分かっちゃったんですけど…、の 11巻。

この『11巻』でバンド「イノハリ」の4人、それぞれの恋が一定の結末を見せる。
そして そこから導き出される推理が1つある。まぁ推理と言っても私は完読してから感想を書いている訳で、答えを知っているので辻褄の合った考察というのが正確なんですが…。
ということで、今回の感想文はネタバレ祭りになりますので、ネタバレを回避したい方は完読後にお読み下さい。いたずらにネタバレを検索しないで、純真な気持ちで漫画を読めるのは非常に幸福な体験だと思いますので、どうぞ完読した後に お進み下さい。

同じステージに3人が共演する感動的な場面。ライバルであり唯一無二の親友のWヒーロー。

推理(考察)の根拠となるのは、私の作者への信頼感である。特に この作品においては、作者は したいことを全部している気がするし、最初から結末まで構想しているように思われる。そして作者は長編を作るのが非常に上手い。読切漫画から始まった『悩殺ジャンキー』を全16巻の物語にしちゃうし、どの長編でもタイムリミットや短期目標を設定することで読者の集中力を途切れさせない。だからこそ作者なら この作品で全ての要素に意味を持たせるのではないかという気さえするのだ。

(※以下しばらくネタバレ)メインとなる仁乃(にの)・ユズ・モモの三角関係の結末の考察に必要なのは、イノハリの(元)メンバーたちの恋愛模様ではないだろうか。

私の考察の根拠は「作者なら同じことを繰り返さない」という点である。これを絶対的なルールとすると、『11巻』でイノハリメンバーのハルヨシ・クロ、そして元メンバー・深桜(みおう)の恋愛の結末は、メインの三角関係では描かれない終着点ということになる。

そしてハルヨシとクロは、それぞれユズとモモに対応し、仁乃と深桜も鏡写しであると推察される。

1人ずつ考えてみると、まずハルヨシ。彼は最初から好きになった深桜が別の男性(ユズ)を好きだと知っていた。それを承知で恋心をひた隠し、友人として深桜に接し、時に自分の意にそぐわない決断すらも甘んじて受け入れる痛々しい恋をしていた。
ここで分かるのはハルヨシ=ユズという共通点の多さ。上の文章は丸々ユズに転用できる。ユズは最初から好きになった仁乃が別の男性(モモ)を好きだと知っていた。それを承知で恋心を…(以下略)。そしてハルヨシが深桜のイノハリからの脱退を受け入れてユズとのバンドの存続を選んだように、ユズもまた仁乃がモモ作曲の歌を歌うことを本心では嫌がりながら、仁乃の可能性を広げるために彼女に曲を渡した。

そしてクロ。彼は最初に自分が出会った人を別の男性(兄)に奪われたと思っている。時に距離を置きながらも、ずっと好きだった気持ちを隠していた。その人が兄のものになったと分かっても、諦められずに想い続けていた。
このクロの状況は、モモに転用できる。ハルヨシ=ユズ説よりも共通点は少ないが、モモは最初に自分が出会った人(仁乃)を別の男性(ユズ)に奪われたと思っている。仁乃がイノハリに加入し、彼女がユズ作った曲を歌い、自分のものだと思っていた声が奪われても、諦められず想い続けていた。

最後に深桜。彼女は最初に好きになったユズに自分を見てもらいたくて必死に歌った。だがユズは いつまでも仁乃ばかり追って自分のことを見てくれない。そのことに疲弊した深桜はハルヨシとの交際を通じて、自分の気持ちが遷移することに賭けた。そして いつしか自分の視線がハルヨシばかり追っていることに気づき、彼女は最初の恋が消化されていることを自覚するのだった。

『11巻』現在の恋の結末を列挙すると、

ハルヨシ:長年の片想いが実り、彼女も自分を好きだと心から確信し、世界一幸せ。
クロ  :自分の方が先に彼女を見つけたのに、やっとのことで伝えた気持ちは瞬殺。
深桜  :初恋が終わったことを実感し、交際中の彼が どんどん好きになっていく。

ここに それぞれに対応する人と「同じことを繰り返さない」というルールを掛け合わせると、本書の結末になるのではないか。

つまり、片想いが実ったハルヨシと対応するユズには その現実が来ない…。そして出会いが早かったクロが瞬殺したと言うことは、モモがフラれることはないということになる。また深桜が初恋から次の恋へとシフトするなら、仁乃は初恋を後生大事に抱えるのではないか。

うん、凄いネタバレである。というか男4、女2がそれぞれに対応した関係だったことに初めて気がつき、改めて作者の周到さに舌を巻くばかりである。当初は ややこしい恋愛ばかりをしていると思ったが、これは似たような恋愛事情の2つのエンディングを描くためだったのかと感心した(違うかもですが)。

この関係性に気づいた自分も好きですが(笑)、こういう仕掛けを仕込みつつ、こんなにも面白い物語を成立させていく作者のことが もっと大好きになった。改めて本書は胸を張って、色々な人にお薦めできる作品である。


すぎる幕間(?)が終わって、2組のバンドのシャッフルライブが始まる。これは覆面を取ったユズの正体がバレた騒動を逸らすための方策。
だが、観客の視線はユズに集中し、委縮するユズに対し、曲の途中で参加したモモは彼の目を覚まさせるパフォーマンスを見せる。彼への対抗意識をむき出しにして、ユズの闘争心を煽る。モモがユズの背中を叩く行動と共に、彼への宣戦布告にもなっているのが、この2人の関係性ならではである。そして仁乃・ユズ・モモ、3人が同じステージに立ち、同じ曲を演奏しているなんて感激してしまう。こんなの最終回に使いたいネタだ。

曲が終わって舞台をはけたモモを追いかけ、仁乃は彼に感謝をする。だが仁乃の口から出るのはユズ、ユズ、ユズ。だからモモは聞きたくない話を遮るために口を塞ぐ。この場面は『3巻』のユズの衝動的なキスや、『悩殺ジャンキー』でのキスを思い出しました。作者は予期せぬタイミングのキスを多用する気がする。


台袖の2人のキスを見てしまったユズ。そして平常心を失った仁乃。
これによってライブは荒れる。特に仁乃は混乱していた。彼女には このキスの意味が分からないから。仁乃は、モモが月果(つきか)を好きだと思っているし、優しくするのは以前のように別れの挨拶かもしれない。何より これまでで一番そばにいるのに声が届かないかもしれない不安もある。

仁乃の混乱を治めるのはユズ。彼女の不安を感じ取り、耳元で言葉を囁き、彼女の視線を前に集中させる。
そして次の曲の頭でアカペラの部分を作り、モモを呼ぶように歌わせた。これはユズがまた仁乃の背中を押し、2人の仲を応援することを意味する。どこまでいってもお人好しな当て馬大王である。そういうところが好きなんだけど。

そのお陰で仁乃は、モモに歌が届くかもしれないという緊張を感じず、嬉しい気持ちで歌えている。
そしてライブツアー千秋楽のアンコール。仁乃は、ユズの音がここまでつれてきてくれたことに感謝する。これなら歌がモモに届いたかもしれない。

ユズは これまで独占していた仁乃の声がモモに渡ったことを確信する。だが 一方で仁乃は、自分の声がユズだけのものだと思っていた。読み方を間違えると、ズルズルと仁乃の気持ちに決着をつけさせないのか、と辟易するような描写だが、これもまた仁乃の率直な気持ちなのだろう。


イブ後、クロは招待していた兄嫁に会う。そして彼女に告白。が、瞬殺。彼女の気持ちは少しも揺るがなかった。ただ、揺るがないでいてくれたから救われた部分も大いにあると思う。少しも可能性がないなら、大好きな兄夫婦と家族になればいい。

ライブは終了し、2組のバンドは各々に解散する。だがモモは、仁乃とユズが語らう姿に思わず声を掛ける。「会いに行くから」。これまで追いかけるしかなかったモモが、仁乃に会いに行くと言った。それは もう太陽が西から昇るような非現実的な出来事である。

そしてユズは帰宅後、母がライブに来てくれていたことを知る。この家庭もまた少しずつ動き出す気配がする。恋愛もトラウマも本当によく動く『11巻』である。


乃はモモの言葉を信じて待っていた。そんな呼吸困難になるぐらいの待つ苦しさを軽減させるのは、ユズの曲。

自室で歌う仁乃に、窓の外からモモの声がする。それは6年以上ぶりの光景。そして2人は連れ立って海岸へ行く。家から出てきた仁乃に、モモはマフラーを巻く。季節が冬なのも、マフラーを巻くのも、海岸で2人で立つのも、6年前のユズと同じである(『1巻』)。

あの窓を開けると そこにはモモの姿が…。仁乃のトラウマとも言えるモモの失踪は ここで終わり。

道中、不器用な会話を重ねる2人。けれど海岸に着いた後、モモは空白の6年のことを改めて仁乃に語る。父親の借金と夜逃げの繰り返し、そして父親は母親に全てを押しつけて、新しい女を作って逃亡したこと。そして母はお金に≒モモに執着するようになった。ただし以前の感想文で書いた通り(『9巻』)、これは母親が息子が自由になってしまう お金を奪うことで、息子との繋がりを保ち、そして毎月の送金も息子との縁のためだったように思われる。

しかし こういっては何だが、モモは肝心なことから逃げようとするのは父親そっくりではないか…?


して仁乃も これまでの6年間を話す。ここで6年間 歌ってたこと。その歌に込めた、モモにもう一度会うという夢が実現したこと。

だが、この現実に仁乃は不安を感じる。モモが優しく話しかける時は、お別れの合図、というのが彼女の経験則だから。そんな動揺する仁乃に、モモは自分の思っていることを全て吐き出す。ユズへの嫉妬、イノハリにいることも、歌声がユズのものである現状も全て余裕がない。そして「好きだった」と過去形にした嘘も謝罪する。

仁乃も嘘を認めようとする寸前、ユズから連絡が入り、そのスマホの画面を見たモモは、余裕なく、仁乃の口を塞ぐ。そして ずっとずっと言えなかった言葉を伝える「好きだ………」。モモはユズへの対抗心でばかり動いているように見える。そして ちょっと乱暴で強引である。


いが満たされて、仁乃はマスクが要らなくなった。もう覆面して、気持ちを抑えつける必要はない。

一方、ハルヨシは念願の深桜とのデート中。ここでは仁乃では描けない乙女モードのデートシーンが繰り広げられる。

深桜はどんどんハルヨシに惚れていく。だから深桜は、その事実を隠すためにデート中に過剰反応をしてしまう。この時、映画館で深桜が席を交代したのは、ハルヨシのために変わった自分の右耳をまだ見られたくないという照れ(+独占欲)だったのかな。
だがユズの話題が出る度に、ハルヨシに微妙な空気が流れ、沈んでいることを1日の最後になって、深桜は気づく。それはハルヨシの誤解が原因だった。深桜が視線を避ける理由はユズへの未練ではなく、ハルヨシを正面から見られない溢れ出す好きという気持ちなのだ。
やがてハルヨシは深桜の右耳に彼が贈ったピアスがあることに気づき、それが深桜の本当の気持ちだと知り、ハルヨシは感激する。決めるべき時にはオネエ言葉じゃなくなるのは、本当にズルい。


愛に一定の決着が付いた後、ユズはモモと会う。
仁乃とモモが上手くいったかを確かめるユズ。だが これからも諦めないことも宣言する。その言葉を残して今度はユズが表舞台から消える。仁乃の大事な人は、あっという間にどこかへ行ってしまう。

そして気になるのは男性2人とも、トラウマ(母親)問題が明確には解決していない点。これをどう解決するか、そしてそこから恋愛の道筋も変わって来るのではないか。トラウマ解消こそ恋愛の入り口である。