中原 アヤ(なかはら あや)
おとななじみ
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
意を決して遂に楓に想いを伝えた春。すれ違い続けたふたりの恋の行方はドキドキ&キュンがフルスロットルに!? 気持ちと言葉がうらはらな、うまくできない大人たちのときめき&爆笑満載ラブコメディ! 大満足の完結巻
簡潔完結感想文
- 約20年変わらなかった関係性が大きく変わる1年を描いた作品の最終巻。
- 幼なじみ4人の8年前には考えられなかった組み合わせでのダブルデート。
- 自分なりに1人前の男になった自信をつけ、ハルは彼女の親御さんに ご挨拶。
えっち なことはしないまま24歳の同居生活は同棲生活、結婚生活へと続く 最終8巻。
読者の読みたい場面が詰まった最終巻。どこを切り取っても幸せで、明るい明日を信じられる。この雰囲気は、この作品と作者にしか出せないだろう。
…が、もらった幸福感と同じぐらい残念な部分も目立つ。なんといっても『6巻』・『7巻』の意味の無さだろう。このダラダラとした部分があるから告白するキッカケも弱く、キャラたちの悪い部分ばかりが目立ってしまった。
特にヒロインの楓(かえで)は公私にわたって、良い所が消失していったように見える。仕事の面では結局、九州行き=キャリアアップがなくなってから楓には仕事への向上心が無くなってしまった。彼女が お弁当販売の仕事が好きなのは分かるが、ならば消滅危機だった今の店舗を存続させる努力などが欲しかったところ。毎日のように から揚げ余らせている状況は良くないだろう。
恋愛面でも謎の告白待ちの姿勢はヒロインとして残念な部分だった。結局、彼女は10数年間の片想いで1回も自分から告白することなく、自発的な行動をしなくても幸せが舞い込んでくる努力が見えないヒロインで終わった。ハルが何も出来ないから、同居していても料理・家事全般を女性がするという旧時代的な語られ方をしているのも気になる。その不均衡を中和するためのハルの料理の練習だったのかな(『7巻』)。同居するにあたって家賃を取らない代わりに楓が家事を担当するなどの話し合いがあっても良かったかも。これまでの お隣の幼なじみ・楓の世話焼きとは違うフェーズに突入するべきだったかもしれない。
あと幼なじみモノは いくらでも過去のエピソードを作れるから、シンクロさせれば簡単に良い話を作りやすいなぁ、と思ってしまった。とは言っても小さい楓とハルの初対面は可愛く、楓にとって この頃からハルは特別な人だったんだと思うと両想いになった喜びに共感する。
他の幼なじみたちも仕事に関しては描写が浅いまま終わった。店長との対立があって間近かと思われた美桜(みお)の独立話も そのまま進展がない。まぁ作中で1年しか経過していないから、劇的に何かが変わる訳でもないか。余り社会で働く息苦しさを描き過ぎても作品のバランスが崩れてしまうのだろう。
あとは楓に振られた後や、美桜からのアプローチがあった後の伊織(いおり)の職場での変化なども描き込んで欲しかったところ。彼はハルのピンチの切り抜け方を見て何かを学んだはずなのだが、その後 会社の周囲の人との接し方の変化などは描かれないままだった。
仕事の面では それぞれに もう一歩 踏み込んで欲しかったところ。
逆に美桜と伊織の件は、完全に決着を付けなかったのが良かった。2人は近い将来、交際し始めるのだろうが、作中で交際を始めてしまうと幼なじみの男女4人で内輪カップルが2組できてしまい、非現実的になってしまう。その一歩手前で未来を予感させたまま終わるから想像の余地が残り、作品完結後にも この世界の先があることを信じられる。
それは楓とハルの結婚についても同じ。低年齢向けの少女漫画のように結婚式場でのラストシーンではなく、ずっと幼なじみ以上 恋人未満だった彼らが、彼氏以上 旦那未満の関係で留まっている方が これからの2人の関係性の発展を予感させる。作品も関係性も終わらないで続いていく、ということが幸福感に繋がっているような気がする。
逆に、巻を重ねるごとにアホ度が増しているハルは前職(イベント会社)では どうやって働いていたのかが謎である。ハルに関しては この最終巻で初めて仕事をする苦労が描かれ、知識を詰め込んで昇進し、彼なりの目標を達成することで一人前になった自信を獲得した。その自信が2人の関係性を更に進めることになる、という連鎖する展開は良かった。
『1巻』の感想でも書いたが、不要な枝葉末節をカットして2時間弱の映画に再編集したものが オリジナルよりも構成的には優れる可能性がある。もちろん本書の雰囲気を出すのは難しく、漫画には漫画の良さがあるだろうが、漫画は構成に弱点がある。もしかしたら珍しく原作よりも良い映画化となるかもしれない。見ないけど。
ようやく楓に告白をしたハル。だが彼は返事を拒絶し、自分の成長に期待するよう告げて家に帰る。
楓は一緒に暮らしながらも何も聞けないし何も告げない。ハルは恥ずかしすぎて死にそうで楓を避けるように生活してしまう。
告白した後も現状維持が続くのかと落胆したが、楓はハルと一緒にテレビで行われるフラッシュモブを見て、あの時のハルが自分に好きと言ってくれる予定だったことを知る。ハルが好きと言ってくれるまで確証が持てないぐらい楓は鈍感ってことなんだろうけど、目的のないフラッシュモブなんてない訳で、思考力がないように見える。
こうしてハルが本当に自分を好きだと実感できて楓も自分の気持ちを初めて伝える。うーん、ハルに続いて楓も特に大きな理由もなく告白に踏み切っているなぁ。楓にも勇気を出す場面が欲しかった。
こうして長かった彼らの両片想い生活が終わり、両想いになる。
いよいよ待ちに待った交際編が始まる。恋を見守ってきてくれた高齢女性・トメちゃんに遊園地のチケットを貰ったハルはデートを企画する。近くに住む幼なじみのデートと言えば、外での待ち合わせで非日常感を演出することである。
デート先の遊園地で2人は、美桜と伊織に会う。伊織が遊園地に来たのは半ば美桜に命令される形ではあったが、これまでの経緯からすると、女性を女性と思わない彼が、曲がりなりにも一緒に行動する点に可能性がある。伊織も美桜のような強引な人と、なりゆきで付き合うぐらいが自分にとって合っていると分析している。
そんな会話をする楓と伊織を見て、ハル・美桜はそれぞれに複雑な心境になる。ハルは やはり楓は伊織と お似合いなのではないかという8年前の高校時代から抱える不安を爆発させるし、美桜も口には出さないが、今は この男女の会話は不安であろう。これまでは伊織の しつこいほどの楓への恋心をバカにしていた美桜だったが、元とはいえ楓は自分のライバルだという意識が芽生えたことであろう。もしかしたら今後、美桜は4人で、というか楓と伊織の接近がないように画策するかもしれない。最終巻で親友はライバルになったのだろうか。
季節はバレンタインデー間近。楓は今年はハルに堂々と愛情を込めたチョコを渡せることに喜びを感じる。
その頃、楓の父親への挨拶が2人の話題に上る。ハルは楓の父親から好かれているものの、彼氏としての自信がないようで悪夢を見る。
そんな時、職場であるホームセンターで売り場のマネージャー(昇進)への話が来る。だが それには試験と面接を通過する必要がある。ハルは それをパスすることで一人前の男になって楓の父親から認めてもらえる相手と自分の安心材料としようと努力する。
しかし、ハルは座学が めちゃめちゃ苦手。商品知識を詰め込もうにも身体に拒絶反応が出てしまう。それでも楓の協力もあって試験当日まで努力を重ねたハル。やはりハルは餡で、楓は皮、包んでもらって2人は餃子になるようだ。
試験の後は社長との面接。そこに現れたのは恋の相談相手・トメちゃん。彼女こそ この店の社長だった。筆記試験も合格点で、面接も これまでのトメちゃんとの会話で人柄・仕事への姿勢は申し分ないと評価される。
こうしてバレンタインデーは晴れて合格記念日になり、お祝いも兼ねて楓の本命チョコが渡される。良いこと尽くしだ。
一人前になったハルは自信がつき、楓の父親と対面する。娘の一途な恋心を知っている父親は、2人の交際や同棲を喜んでくれた。二人三脚で生きてきた父娘の関係は良好だし、男同士の関係も問題がない。
ハルは交際が認められて即、結婚を意識する。元々 ハルの母親も2人が交際するように願っていたので両家に交際の報告が終わり、あとは結婚するだけとなる。そういえばハルの父親は一度も出てこなかったかな。天然の息子と どうやって接しているのか見たいところ。そして楓の祖母は ここのところ全然 出てこないままである。矍鑠(かくしゃく)とした祖母の前ではハルがタジタジになってしまうので、一人前になったはずのハルが半人前に降格するのを避けたのだろうか。
ある日、少し遅くなった帰り道、楓は ほろ酔いの男性常連客に絡まれる。そこに現れるのは騎士であり彼氏であり未来の夫のハル。これは『1巻』の不倫男との対決に似ている。そして美桜が伊織に恋した状況にも似ている。本書では「きゅん…」は絶対的な恋心だが、その「きゅん…」が生まれるのは、いつだって男性が女性を守ってくれる こういう場面なのである。
最後の最後にも楓は また一層ハルのことが好きになって、これからの将来を夢見て本書は幕を閉じる。