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少女漫画と小説の感想ブログです

覆面の絶対ルールが崩壊し、ぼくたちが ほんとのこころを かくすのは ここまでだ。

覆面系ノイズ 10 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま リョウコ)
覆面系ノイズ(ふくめんけいノイズ)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ユズの声が出ない!? 全国ライブツアー中に起きた危機を乗り越えライブはますますヒートアップ! そこでメンバー達は奇跡を目の当たりにする!高まる気 持ちを抑えきれないユズは…!? 舞台は黒猫も加わるツアーファイナルへ!ニノ、ユズ、モモ、3角関係に遂に大きな展開が訪れる!! 待望のTVアニメ化も決定!!

簡潔完結感想文

  • 晦日のツアー中日で2つの覆面ルールが崩れる。まだ8か月しか経過してないのか。
  • 10巻で初めて人に好きと言われるヒロイン & 男性のトラウマを続々に知るヒロイン。
  • ライブの楽器転換は永遠と続く。この間、客はずっと待たされてるの??という疑問。

Starting Over、ライブの千秋楽は新しい始まり、の 10巻。

この『10巻』で年が明ける。ということは4月の高校入学で再会した仁乃(にの)とユズ・モモが出会って8か月が経過したということか。高校生とプロのバンドの二足の草鞋を履いている彼らだから、もっともっと時間が経過しているように思える。
そして8か月といって驚くのがバンド「黒猫」の売れ方である。既に楽曲が評価されていたモモのプロデュースとはいえ、デビュー直後から売れて、夏フェス出演までしている怒涛の約半年であった。仁乃が新加入(というかボーカルを交代)した「イノハリ」は その前から活動しているので夏フェスや完売のライブツアーも納得できるが、黒猫の売れ方は異常である。

モモも凄いが、実は深桜(みおう)が天才的なセンスと魅力の持ち主なのではないか、と思ってしまう。彼女は初代イノハリのボーカルで、知名度と人気を上げてきた。よくよく考えてみると仁乃は、才能があるとはいえ、深桜の作り上げた人気に乗っかっているだけ。この経緯があるため、バンドの物語として読んだ時には やや(かなり)カタルシスに欠ける面がある。仁乃が途中加入だからこそ物語に切なさが生まれるのは分かるが、この辺は ある種、奪略愛のようになっている。深桜にも脱退する理由があり、彼女もまた幸せになっているので、大きな不満にはならないが、泥棒猫感は否めない(笑)

実は深桜の果たす役割は とても大きいのではないかと思う。上述のように一からバンドを結成し、それが成功していく過程は彼女しか味わえていない。それに加え恋愛においても彼女は仁乃を先行し続けている。WヒーローがWでトラウマ持ちなので、なかなか進まない仁乃の恋愛模様を尻目に、彼女は失恋をし、そして次の恋・交際へと駒を進めている。これが少女漫画において、主役カップルよりも先を行く男女の関係を描く「友人の恋」枠になっている。ここでも深桜は 読者がなかなか味わえない恋愛成就のカタルシスを与えてくれている。

どんどん深桜様様といった感じで彼女を崇め奉りたくなってきた。そして その裏で評価を落とす仁乃…(苦笑)『10巻』でようやく男性たちのトラウマの輪郭を掴みかけた仁乃の、今後のヒロインとしての活躍に期待するばかり。

仁乃と深桜の関係をしっかり描けなかったら、本書は崩壊していたはず。Wヒーロー&Wヒロイン?

ズが声を失って始まった東京でのライブ。機転を利かせて、ユズが病院から戻ってくるまで構成を変えた1曲目でしのぎ、ユズの復帰と共にライブが本格的に始まる。

バンド「イノハリ」は1時間のライブを休憩なく突っ走り、アンコールには新曲を披露する。
その新曲の途中、ユズは口を覆っていた覆面を取る。本書において覆面には2つの意味がある。1つは絶対に正体のバレない変装になること。顔の一部を覆っていればバンドメンバーが変わろうが、誰も疑問に思わない、という絶対的なルールがある。そこに疑問を持ってはならない(無理だが)。だが、逆に言えば絶対的なルールが崩れるということは…。

そして もう1つは精神的に覆面をしていれば「ほんとのこころ」を隠し切れるといルール。どれだけ第三者から見れば、好意100%の行動も、覆面をしたままなら絶対に相手に伝わらない。だが、今回 ユズが覆面を取ったことで、2つのルールに変化が起こる。

騒動の中、仁乃はユズの中にある自分への好意に勘付いていた。そして自分の心に蓋をしなくなったユズは、覆面を取ることで一瞬だけ歌えた。更にはライブ終演後、仁乃に決定的な一言を、これまでの関係に変化をもたらす、愛の言葉を伝える。もう何も隠す必要はない。

その夜、ユズは他のメンバーにも自分の声に関しての情報を共有する。これはトラウマの共有とも言え、ユズの事情を知った、彼の味方が増えれば、事態も少し動くだろうか。ちょうど この日は、大晦日。新年からイノハリは更に結束を固くするであろう。

そしてユズは仁乃に、元日の夕方、思い出の海岸で待っていると告げる…。


の夜、処理しきれない思いを抱えて仁乃は眠れない。
そこで深桜を呼び出して、相談に乗ってもらう。この場面では深桜が、無意識にユズを「好きだった」と言っているのが良い。これは この2人が ユズを巡るライバル関係から脱却していることを意味する。普通に考えれば仁乃の行動は、空気が読めない、人を徒(いたずら)に傷つける行為であるが、それをギリギリのところで回避している。ヒロインに誰も傷つけない恋愛をさせる、という過保護な感じもするが、深桜とハルヨシの経緯もしっかり描いているので、むしろ幸福感が強くでるのも素晴らしい構成力だと思う。

そして深桜は仁乃に、絶対 ユズの前で泣いちゃ駄目だよ、とアドバイスをする。ここも いいなぁ。泣くのは感情の表れだけど、人の武器にもなって、泣いた方が被害者に泣かせた方が加害者のような構図になってしまう。そうならないよう深桜が助言し、翌日の対面で仁乃が泣いて終わりにするような狡(ずる)さを見せないようにして、泣かないことを彼女の強さにしている。こういうことを言う深桜も、言わせる作者も好きだなぁ。本書は、発言にその人らしさが溢れていて、読んでも読んでも楽しい。キャラたちが ちゃんと独立して動いている。


束通り、翌日の夕方、2人は海岸で会う。
だが改めて告白をしても、お互いに届かない/受け入れられない現実は変わらず、彼らは抱えきれない気持を持て余し、不器用さと相まって口喧嘩のようになってしまい、一度は互いに背を向ける。

だが仁乃は、きちんとユズと自分に向き合わなかったことを反省し、海岸に戻る。そこで見たのは いつかのようなユズの音符を乗せた砂浜の五線譜。こうして頭をリセットしたユズは改めて、6年前から言えなかった言葉をお腹の底から伝える。
仁乃もまた好きになってくれた彼への感謝を述べる。ただし それは婉曲な お断りでもあった。深桜との約束通り、泣くことなく、自分の気持ちを全部 伝えられた。その安心感から仁乃は深く眠ってしまう。

そして眠った仁乃の横で、ユズは静かに涙を浮かべる。彼の方が泣いた。だがハルヨシ同様に長い間、好きな人を想い続けてきたユズは、劣勢ぐらいで諦めたりしない。告白は開戦の合図。今はどれだけ彼女が別の人を想っていても、自分だけを見る日が来るかもしれない。ハルヨシがまさに その成功例なのである。


うしてユズの告白とともにライブツアーの前半戦が終了する。
正月はメンバーたちはライブ後を見据えた1日を過ごした。ハルヨシは深桜とのデートコースを考え、クロは兄嫁を最終日にライブに招待していた。プロのバンドとしてのライブ活動が終わったら、また高校生としての日常が動き出す。

その中で、とある高校の杠(ゆずりは)という生徒がイノハリメンバーだという噂がSNSに流れる。これは東京のライブで彼が「覆面」を取ったから起きる事象である。ネットが揺れる中、ツアー最終日、大阪公演が始まろうとしている…。

大阪は黒猫との対バン形式。いよいよ、2つのバンド、そして関係者が大集合する。
モモの母親も息子の要請に応えて、ライブに来たこと。だが肝心のライブを観ずに、楽屋訪問をするだけで帰るという。これは息子の音楽活動を逐一チェックしている母親が、対バンで共演する仁乃を毒牙にかけようとしたからか。
ここで、仁乃は初めて、母子の様子や言動からモモの空白の6年間=彼のトラウマの一端を知る。男性たちのトラウマは最初から仄めかされてきたが、ユズ・モモ双方のトラウマとも仁乃が関わるのは後半戦になってからだ。

露悪的なモモ母親の言動に、彼女がモモのトラウマだと仁乃は直感し、全力で反抗する。トラウマに立ち入れるのは、ヒロインの特権である。そしてモモは、母が言うような お金じゃないと訴える。お金は泣くのを我慢したりしません!!、と驚異の直感力でモモの気持ちを代弁する。

その仁乃の剣幕に、母親は帰って行く。その背中に仁乃は、ライブを観てと最後まで訴える。
一連の仁乃の行動にモモは感謝を述べる。それは再開後で一番優しい言葉だったのではないか。そして これは仁乃の直感したモモが泣きそうであることの肯定のようにも受け取れる。「…お前だけは …俺を全部知ってるのな」。母親というキーパーソンの登場=トラウマで6年間の空白は、精神的に一気に埋まった気がする。やはり少女漫画にトラウマはデフォなのである。

母の言動に沈黙しか選ばないモモ。月果に続き仁乃に助けられ、ヘタレ疑惑が浮かんでくるが…。

イブの開幕は「黒猫」から。彼らの持ち時間は40分。深桜は、ユズに向けての最後の歌唱をする。
そしてモモの母親は、逡巡の末に、会場に足を踏み入れる。モモの願いが伝わったということか。

早くも残り1曲、それは深桜、モモの思いを詰め込んだ1曲となった。

深桜は この曲で、初代イノハリメンバーと過ごした6年間を消化していく。そして いつしか、想いを届ける相手は、ユズではなくハルヨシになっていた。これは大いなる転換点であろう。このライブで深桜は自分がハルヨシを心の底から好きになていることに気づく。
ハルヨシも、深桜に想いが伝わったことを感じ、舞台から降りた彼女に初めてキスをする。なんと10巻で、初めてカップル誕生である。長かった。これから この「友人の恋」枠の2人には仁乃が出来ない交際というものを届けてもらいましょう。


してイノハリの番。…なのだが、イノハリのライブが始まるまでが 驚くほど長い。バンドの交代で、どんだけ時間があんねん!と思わずにはいられない。お客さん退屈だろうな―(笑)

ライブ開始前、彼らはそれぞれの時間を過ごす。ハルヨシは桃色だが、クロは兄嫁に自分の姿を見てもらい、想いに終止符を打とうとしてナーバスになる。
そのささくれた気持ちはユズの気持ちを受け入れないのに彼に優しくする仁乃に向く。クロは思わず仁乃の気持ちを傷つける言動を取ってしまうが、そこから2人の対話が始まる。

そして その会話を壁越しに聞くユズ。仁乃はユズへの気持ちを分析する。これは本人には言えないが、クロになら言える「ほんとのこころ」だろう。「ユズは大事って言葉じゃ ほんとは全然足りないないの」「家族より友達より大切なの」「恋より大きい気持ちかもって思うくらい」。若干 都合が良すぎる言葉だけど、仁乃にとっては偽りのない言葉なのだろう。彼女にとってユズは発狂するほど叫んでいた気持ち、あの頃の自分を救ってくれた救世主なのだもの。そんな仁乃の6年間を汲み取ってあげないと いけないだろう。

そして この言葉が、ユズに再び闘志を燃やさせる。仁乃が自分を見てくれるまで、恋に落ちるまで、彼は音楽を奏で続ける。まだ「ほんとのこころ」が言えない仁乃の覆面=眼帯をつけて、この眼帯を仁乃が取る時、自分の姿が彼女に映るように願いを込めて眼帯にキスをする。おでこやら耳やら目(眼帯)やら顔へのキスが多いなぁ、この漫画。

ライブ直前に、SNSでユズの正体が知られたことにメンバーたちも気づく。このファンの異様な空気を吹き飛ばすために、急遽「黒猫」との共演が決まる。こうして7人でのライブが始まろうとしている。

これは まだ見たことのないコラボ。否が応でも次に期待が高まる。飽きさせないなぁ…。