《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

警察官の お仕事男子を合法的に活躍させようとした結果、交際は真面目に そして展開は陰鬱に…。

PとJK(1) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

女子高生のカコがオトナの合コンで出会った功太(こうた)。やさしくて、ちょっと照れた顔が印象的な功太といきなりいいムードになって……と思ったら、まさかの「P」!! 少女マンガ史上初、JKがPと××!? 「完璧☆彼氏彼女」が大人気の三次マキが放つ、笑えて泣けるLOVE&COPストーリー!

簡潔完結感想文

  • ポップな表紙と裏腹に内容は重め。そして序盤以降は ある男性キャラが作品を乗っ取る。
  • 良くも悪くも「別冊フレンド」作品。読者が食いつくシチュエーション重視で長編化。
  • 難攻不落の堅物男性をJKが攻略していくのかと思いきや、彼がアッサリ陥落して驚愕。

カップルが主役だった頃の良き思い出、とか思うようになる 1巻。

まず完読した感想としては、序盤は想像の3倍 展開が早く、中盤から想像の5倍 作品が暗い。そして想像の1/10以下しか主役カップルのイチャラブが描かれないことに不満を隠せない。
男女の年齢差に加えて、社会的立場の違い、そして職業モノとして、お仕事男子が真面目に働く姿がしっかり描かれ、少女漫画読者の琴線に触れる箇所が多い作品である。だが表紙の印象とは違い、中盤以降の内容は重い。ヒーローである警察官が10代の青少年と どう合法的に、そして職務の範囲内で向き合うのかということを真面目に考えた結果なのだろうが、序盤以外は青少年が被害者や加害者になるエピソードの連続であった。現代を生きる青少年の重いテーマを描くのは掲載誌「別冊フレンド」ならではかな とも思うが、表紙だけを見てジャケ買いをした人、序盤のシチュエーションに憧れて読み続けてきた人には、コレジャナイ感が強い作品になったのではないか。
かく言う私も表紙から想像していたのは、師走ゆき さん『高嶺と花』のように、男性と年齢差と立場の違いがあるJKが、どうにか難攻不落の彼と一緒にいるために試行錯誤するパワフルでキュートな物語だと思っていた。

JK、そしてP(警察官)という立場が、2人の近づいたはずの気持ちを遠ざける。その解決には…?

ネタバレになるがシチュエーション命の「別フレ」はお仕事男子とJKの生温い交流では済まさず、この2人はデートもキスもすることなく『1巻』にして結婚するという荒業に出た。これは警察官が法律に触れる訳にはいかないという理由からだろうが、それによって距離が近づくドキドキが皆無となった。先に環境を整えることで読者の心を掴もうとする意図は分かるが、作品が結論ありきで主役たちを動かしているため、彼らから真面目さや誠実さが失われ、この恋愛、いや結婚が軽薄なもののように見えてしまった。この印象は先日読んだ本書から20年以上前の1991年の別フレ作品 上田美和さん『Oh!myダーリン』と同じである。最初に読者が好きそうなシチュエーションだけ用意して、人気が出たら連載化、彼らの人物像や過去、トラウマなどは後付けで書き足していく、というのが伝統的な別フレの手法なのだろう。

序盤は人気が高いが、やがて読者を失っていくのも別フレ作品か。
本作品は読切予定が約8話の短期連載になり、それが長期連載へと繋がった作品である。「別フレ」の8話の短期連載が長編化した作品といえば渡辺あゆ さん『L♥DK』を連想する。初期設定で得た支持率が不支持率と逆転するまで連載を引き延ばした作品の代表例だろう。本書もアルファベット3文字仲間として同じ経緯を辿ったのではないか。
結局、出オチなんですよね、別冊フレンドは。もちろん何作か長編を描いている作家さんは最初から後々の展開まで用意した中身の濃い作品を描かれるが、経験値の低い作家さんだと、ただ設定が読者に受けただけで、設定以外の描写が疎かになることが多い。そういう点が私の感性と全く合わないと思う点となる。

本書は全体的な構成は悪くないのだが、やはり想像以上に暗い作品になったことが私には残念だった。中盤からは主役以外が作品のメインの話を担って、誰が主役なのか分からないような状態だったし。
結婚が、作品内での世間の悪評を避けるための手段でしかないことが つくづく残念。ヒーローが警察官という職業だから話題になった本書だが、それが足枷になったとも言える。もうちょっとイチャラブ要素を意図的に濃くしても良かったのではないか。
連載が進んでも各キャラたちに深みが出なかったようにも思う。各キャラの隠し設定だけはいっぱいあったみたいだが、それを作品内に出して展開や物語に活かせなきゃ意味がないでしょう。トラウマだけは厚く塗られていくが、そうすることで作品では扱い切れないテーマに足を踏み込んだ印象も受けた。やっぱり読者は、表紙の印象を引き継ぐような良くも悪くもライトな物語を望んでいたのではないか。


人公の高校1年生の本谷 歌子(もとや かこ)は16歳という年齢を22歳と誤魔化して参加した合コンで社会人の佐賀野 功太(さがの こうた)23歳と席が隣同士になる。合コン中に実際は未成年のカコが酒を強要されるピンチを功太が救ったことで彼は少女漫画においてヒーローの権利を得る。一方で合コン会場でのカコの店員への接し方の丁寧さが功太の気を引くことになる。
何となく互いに惹かれ合った2人は一緒に帰路につくのだが、その会話の途中でカコが年齢設定を間違え、実際は16歳であることがバレてしまった途端、功太の態度は急変する。これまでの大らかさが消し飛び、有無を言わさぬドS態度になるのだが、それは社会人の功太の職業が警察官だったからである。ちなみに1話で功太が やけに気にする「23時」という時間は自治体の条例で18歳未満が保護者なしに出歩くことが許されているタイムリミットなのだろう。このように警察官である功太は法を順守し、法に触れない範囲でしか彼との交流は出来ない、というのが本書の基本的な姿勢となる。

未成年の法律違反を未然に防ぐ功太。これ以降、功太によって青少年の被害は最小に抑えられる。

翌日、2人が警察官と女子高生(PとJK)として再会しても、功太は警察官の仮面を外さず、カコは彼が昨夜の出会いを抹消しているように感じられず。そのことに傷ついたカコは23時近くまで友人と騒いで忘れる。だが帰路で携帯を失くしたと声を掛けてきた男性に人気のない方へ誘導され、逃げようとしても手を掴まれてしまう大ピンチ。
そこに登場するのが警察官の功太。(登校前に功太と会ったのと同じ日の話なのだろうか。とすると功太の勤務時間が長すぎるような気もするが。まぁ 警察官は当直とか何か色々とシフトがありそうだけど。)
追い詰められた不審者は功太にナイフを振るう。凶器に怯まず功太は柔術で犯人を圧倒し、速やかに犯人を確保する。功太の活躍の場面を作るためだが、本書の舞台となる町は なかなかに治安が悪い。

一件落着し、カコの身の安全を優しい口調で確かめる功太を見て、合コンの夜の厳しい口調もカコの安全を確保する気遣いであることに気づく。後日、町のお巡りさんと女子高生として再会した際も、功太は公私の区別をハッキリつける。助けてもらった お礼も受け入れず、付き合っている人がいるかというカコの精一杯の問いも食い気味に回答を拒否する。
1話の段階の功太はクソ真面目で お巡りさんとして隙がない難攻不落の男性のように見える。カコは功太の理論武装の隙をついて、どうにか彼の心に入り込もうとする、というのが第1話の2人の立ち位置である。予想以上の堅物男子をJKがどう落としていくか、というこれからの展開がどうなるのか、期待に満ちた第1話であった。


の後、功太に会えない日々の中で再会の機会は、学校の体育の授業で警察官に護身を学ぶ特別講習を受ける時となる。これも警官のお仕事の一環である。芸能人がヒロインの通う学校でロケをしたりライブをしたりするのと似たような社会人彼氏 in 学校というシチュエーション。
更には学んだ護身法を実践するために、不審者役の功太にバックハグされたり、遠慮するカコに功太が耳元で囁いたりと胸キュン場面の連続し、過去も読者も心拍数は急上昇。

実際、それで失神してしまったカコは功太に会わせる顔がなく、着ぐるみの頭部分を被り功太に話し掛けることが精一杯となる。今回は、プライベートでの交流となり功太は自分の素性や現状について話してくれる。着ぐるみ越しに頭ポンをされ喜ぶカコだったが、一方で功太は未成年の女子高生と交流することが不祥事沙汰に繋がることを改めて意識し、その距離感を感じ取ったカコは着ぐるみの中で涙を浮かべる。

それでも功太は、カコの講習でもらった防犯ブザーが鳴りやまなければ、駆けつけてくれる。功太との距離に絶望を感じるカコだったが、彼は いつでも頼もしいヒーローであった。そんな優しい功太にカコは想いが溢れ、それを伝える。

だが、功太の答えは「君の彼氏にはなれない」というもの。彼の警察官という立場を考えれば当然の答えであった…。

カコが うっかり実年齢を喋らなければ この夜2人はホテルに消えたのだろうか…。そして功太 逮捕で(完)

望の中に希望があって、その希望の中に絶望があることを知ったカコ。そこから気まずい関係が続く2人だったが、ある日 カコは功太が学校のヤンキーグループから逆恨みされていることを知る。その情報を第三者にリークしようとする前にスマホを落としてしまい、彼らに気づかれ 脅迫まがいの言葉で事前に動くことを封じられてしまった。
未然に事件を防げないなら、現場を押さえればいい、というのがカコの考え。功太が襲撃された現場に現れ、彼女に出来る最大限の妨害を繰り広げる。
計画が上手く運ばないことにヤケになったヤンキーが功太に襲い掛かる。その間に割って入るのがカコであった。1話の刃物男の時も、警察の制止を振り切ろうとしていたが、カコは自分が功太を守れると思っている節がある。
その結果、彼女は頭に怪我をしてしまう。
この時の男性陣の表情に注目。功太の表情に、驚きはあるが、後のトラウマ展開を考えると驚き方が足りないぐらいで、この時点では功太の過去は用意されていなかったのかな、と思われる。
そして過失とはいえカコを殴ってしまったヤンキー(後に主要人物となる大神・おおかみ)は警察に連行されながらもカコの怪我の様子を心配し、早くも悔恨の表情を浮かべている。功太とは逆に この時点で、大神の今後の動きは用意されていたのかな、と思われる。

救急車が到着するまでの間もカコは自分のことよりも功太の無事を確認する。この「ヒロイン力」、聖母みたいな心の優しさが功太の心を溶かしたのだろう。この後の、唐突に見える彼の言動を分析すると、このカコの働きが大きい。
怪我のショックで1日 眠っていたカコが目を覚ますと病床の横には功太がいた。その際に功太はカコへ、カコの行動が自分への好意からくる無茶だと言うことを理解し、改めて彼氏にはなれないと伝える。
これ以上 中途半端に関わるべきじゃないと考えた功太の答えは、カコと一緒にいるために「結婚」する、という手段だった…!


のプロポーズをカコは迷うことなく受ける。

ここで功太がカコを嫁に貰おうとするのは、女性の大事な顔に傷をつけてしまったという責任を取る意味もあるのかな、と思う。とても昔ながらの価値観だが、そういう誠実さを持っているのが本書の男性たちであると思う。そして その責任感は守り切れなかった功太だけでなく、加害者である大神にも生まれたのだろう。彼の誠実さは罪悪感とない交ぜになり複雑な反応になるが、傷をつけたからこそ、彼はカコを愛する資格を持ったと言えよう。

そう考えても急展開すぎる。このシチュエーションこそが、いかにも「別フレ」っぽい設定で、これこそ本書の売りだと言うことは分かるが、やはり流れに無理があると思わざるを得ない。
16歳のカコに結婚という意味が分かっているとは思えないし、功太に関しても あの過去があるのなら家庭を簡単に持つか、ということが矛盾のように感じられる。家族に対して負い目のある功太なのに、あまりにも簡単に家族を作っていることが疑問だ。

大体、君たちは これまで合計しても何時間しか一緒にいないだろう。いや、合法的に一緒にいるための結婚なんだろうけど、デートもしない、肉体関係は勿論、キスもしない中で結婚を決めて、やっぱりダメでしたというのでは、カコの戸籍に傷がつき、それこそ彼女に消せない傷を負わせてしまうようなものだと思う。本書においては、多くの人にとってゴールである結婚がスタートになるのは分かるが、これによって功太から思慮深さを失わせたように思えてならない。それならカコの卒業までの2年強2人とも我慢した方が余程 誠実な愛に見えるような気がする。

こうして驚きの「幼な妻モノ」となった訳であるが、2020年に連載が終了して2年余りが経った2022年には民法改正があり女性でも16歳で結婚できなくなった。つまりは もう現時点(2022年10月)で本書は、女の子の憧れの初恋結婚から、現実にはあり得ない物語になってしまった。明日 自分にも起こりえるかもしれないから対象の読者はときめくのだろうが、民法改正で早くも本書の舞台はファンタジー世界になってしまった。今後も世代を超えて読まれる作品には ならないかもしれない。


婚に対して、カコの「メルヘン母」は了承するが、単身赴任中の父親は大反対。
そんな父に対して誠心誠意 言葉を尽くして結婚の許しを得ようとする功太の姿を見て、カコは ようやく結婚することの時間が湧く。

こうして結婚を約束してから2人にとって初デートが始まる。功太にとって結婚を視野に入れたらデートが出来るのなら婚約でもいいのでは、と思ってしまう。功太の基準がよく分からない。
ちなみに結婚の話が出てからというもの功太は これ以降 何度もカコの家を出入りするが、そのことに対しての近所の悪評や噂は一切ない。なかなか目立つ言動をしていても、近所の目は大らか。本書では犯罪に関することでは世間の目は閉鎖的な描写が多いが、人の恋愛には無関心なのがデフォルトである。

初デートの日にもカコの父は尾行し、何かと功太に対して男同士の対決を挑み、デートにならない。だがトラブルが発生し、カコという1人の人間を守りたいという気持ちに、功太との違いは無いことが父にも分かってくる。そして功太にも、父がどんなに虚勢を張っても、カコを守りたい、守ってきたことを実感する。功太にとって結婚するということ、お嬢さんを貰い受けるというのは、そういう人の想いを受け継ぐということなのだ。こういう描写は(おそらく)この回で既婚者となっているであろう作者の人生経験などがリアリティとなって滲んでいる気がする。

こうしてカコは結婚を許される。ただし条件があり、高校卒業までは実家暮らし、名字も変更しない。そして功太は父親から、学生のうち(高校生?)は妊娠するよーな行為をしないよう、念を押される。キスもしないまま結婚した功太だから その辺の執着は薄いし、倫理観が勝っている。とはいっても、別れ際のカコの寂しそうな顔に身体は反応し、大人の男性からの胸キュン行動もしっかりするからズルい。功太にとっての価値基準がいまいち分からなくて、信用ならない部分がある。