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少女漫画と小説の感想ブログです

思い通りにならないと家出を繰り返し、注目を集めたがる Oh!my「メンヘラ」ハニー。

Oh! my ダーリン (1) (講談社漫画文庫)
上田 美和(うえだ みわ)
Oh!myダーリン
第01巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★(4点)
 

ひかる、16歳。先生と結婚しちゃいました! ――ひかるとシンちゃんは、理由ありまくりのプラトニックな新婚夫婦。なぜなら二人は、卒業するまで触れ合うことを許されないから……。男女交際禁止の厳格校で、「幼なじみ&夫婦」ってことは絶対ヒミツのはずだけど、恋する気持ちを止められるわけ、ないじゃない! 「別フレ」連載中から、女の子の話題をキュンキュン独占! ないしょのウエディング物語、第1巻。

簡潔完結感想文

  • 16歳の誕生日に好きだった8歳年上と結婚するハッピービギン。だが そこが幸福のピーク?
  • 「あたし死んじゃう」「死んじゃいたい…!!」を繰り返し、間違え続けて成長しないヒロイン。
  • 夫婦の話し合いの場面が極端に少ない お話。悲劇のヒロインが傷ついては家出するばかり。

載時にSNSが普及していれば「ある意味」でバズるであろう作品の 1巻。

1991年連載開始の作品。
凄い作品に出会ってしまった。
作中の不幸と、ヒロインのメンヘラ具合のインフレが最後まで止まらない作品。ネットで よく見る「××な少女漫画5選」みたいな企画を私がやるとしたら、本書は「ヒロインがメンヘラな少女漫画」部門で選ぶかもしれない。
結果的に全3部からなる構成となるのだが、第1部はともかくとして、2部3部の怒涛の展開にページをめくる手が止まらない。そして開いた口が塞がらない…。それだけ凄いパワーを秘めた作品である。
ただし、私が本書を好きかと言えば そうではない。私は こういうヒロインが空回って、悲劇のヒロインを演じるだけの話は好きじゃない。本書はヒロインの激動の高校時代、といえば聞こえがいいが、彼女の極端な行動は結局、精神が子供のまま成長しないでいるだけにしか見えなかった。何をやっても満たされず、自信が持てないから何度もリセットされ、壊されていくヒロインの精神。端的に言って、メンヘラ少女の暴走にしか見えなかった。奇しくも作中で依存とか同情とかの言葉が出ているが、私には幼なじみのヒロインがメンヘラ気味だが、心優しいヒーローが彼女を放置することが出来ないだけに見えてしまった。
展開の派手さは天下一品だと思うが、21世紀の現在(2022年)で この作風をやるには かなりの覚悟がいるだろう。また こういう「幼な妻モノ」においては何度か書いているが、民法が2022年に改正されて、女性が16歳で結婚が出来なくなって、16歳の高校1年生での結婚、という物語の根幹が成立しなくなってしまった
話は面白いのだけれど、好きじゃない、そんな二律背反が成立する稀有な作品であった。どれも よく知らないで言うが、トレンディドラマとか(第1次ブームの)韓流ドラマ、(性的ではない)レディースコミックとかは こういう激動の人生が受けるのだろうか。女性の中で こういうジャンルが好きな層は常に一定以上 存在するのだろう。
連載1回分が40ページ超あることに驚く。作者は作画のスピードが速いのか。この時代の作家さんは このぐらいの作業をこなしていたのだろうか⁉

自分のワガママを表明するために立て籠もったり、逃亡したり。精神が未成熟な16歳には結婚は早すぎる。

1ページ目からヒロインの森永(もりなが)ひかる は幼なじみのお兄さん・明智 晋平(あけち しんぺい)と結婚式を挙げる。
少女漫画のゴール地点から物語が始まる。ハッピーエンドならぬハッピービギンだろう。考えてみればヒロインの幸福度は全3部の最初と最後だけしか頂点に達しない。物語の始まりは、不幸の始まりでもあるのだ。
ヒロインの ひかる は「物心つくまえに両親を亡くし」祖父母も多忙であったため、隣家の8つ年上の「晋平に育てられたようなもの」。
ひかる の祖父が余命僅かと診断され、自分の亡き後、孫に遺産目当てに近づく男が出てくるぐらいなら、存命中に結婚して欲しいというのが祖父の願いで、お見合いの段取りが進むが、ひかる は お見合いを抜け出し、晋平に泣きついて彼から結婚しようという言葉を引き出す。祖父母も一目置く晋平が ひかる を見てくれるのなら、今すぐ結婚しなくてもいいと思うが、2人は結婚する。こうして結婚をし、晋平の妻というずっと願っていた立場になれたことで ひかる は世界一幸せになるはずだったが…。

ひかる の精神の幼さ(もしくはメンヘラ気質)は最初から表れている。高校1年生の夏休み、ひかる が16歳になった誕生日に挙式をしたのだが、すぐに新学期が始まるため北海道に新婚旅行に行けず、それが不満でトイレに立てこもるような幼い心の持ち主だというエピソードから始まる。
彼女は祖母が理事長を務める高校の寮に入り、新婚生活も ままならない。この学校は門限が6時、男女交際禁止が校則に書かれている1990年代でも時代遅れのブラックな学校である。


んな学校に更に晋平が、産休の教師に変わって、この学校の現代社会の教師となって現れた。これは祖父の差し金。新婚夫婦が離れて暮らさないように手配をしたという。理事長である祖母は祖父の方針に ご立腹。晋平は祖母から「高校を卒業するまでは ひかる には指一本ふれないで」と命令される。この若き夫婦の苦難は、ひかる の祖父母の老夫婦の意思疎通が図れていないからとも受け取れる。少女漫画的には男女交際禁止の学校において、教師と生徒の恋愛、しかも結婚済みという秘密まであり、読者の緊張感は高まるばかり(もちろん いずれバレて欲しいという悪趣味な好奇心もある)。だが権力者の意向に従って生きたら、望まない生活スタイルになってしまった。それが幼なじみのシンちゃんと他人の振りをすることを ひかる に強制させ、彼女のストレスとなり、そして精神状態が不安定になっていく。メンヘラ爆発まで あと僅か…。

ひかる は待望の週末に、晋平に会いに行ったが、職員室で住所を聞いた生徒たちが押しかける始末。加えて生徒たちの前では自分たちの関係を偽り続けなければならない現実が待っていた。
世界が自分の思い通りにならないとヘソを曲げるのが ひかる という人間。泣き喚いて、言いたいことを一方的に言って、逃亡する(これが最後まで続くから地獄なのだが…)。

初の週末で、はじめての夫婦ゲンカをしてしまった。だが その仲直りの印として、晋平は これまではめていなかったマリッジ・リングを週明けに左手の薬指につけて現れる。この 2人だけに分かるサインに ひかる は満足し、学校の片隅で抱き合うが、その場面を女子寮で同室の川崎(かわさき)とクラスメイト男子生徒・小土居(こいど)見られる、というのが波乱万丈の1話である。


密の露見を恐れる ひかる だが他者に興味がなさそうな川崎は秘密を厳守してくれそう。
しかし問題は小土居。晋平の秘密をクラス内でも仄めかし、彼を注視する ひかる。だが どうやら小土居は晋平が生徒であるひかる と不倫をしているという勘違いをしているらしい。ひかる も その考えに乗り、晋平が自分に言い寄る軽率な男だという虚偽の証言をする。これは1話で、生徒たちに恋人がいないとか嘘を言った晋平と同じ心境だろう。

ある日、ひかる は学校を脱走する小土居に付き合い、夜になるまで街中を闊歩する。補導しようとする警察から逃げ、スリルを味わう2人。だが、小土居が ひかる にキスをしようと顔を近づけたのを拒絶した音で、警察に補導され、2人は学校の教師を呼び出されてしまい…。

警察署に現れたのは晋平で、ひかる は小土居と一緒にいた事がバレてしまう。停学1週間になり、その罪状は小土居との男女交際禁止の校則違反となる。これは理事長の機転でもあった。1話のラストの抱擁は何とかクラスメイト達の疑惑は誤魔化したが、職員に目撃されていた。だから小土居との交際を仕立て上げ、晋平の噂を鎮静化しようという考えだった。
晋平は ひかる の気持ちを無視した理事長の行動に頭に血が上り、理事長に強く反論するが、その後、冷静になり自分の行いを反省する。これは晋平の ひかる を最優先に想う優しい気持ちの表れであろう。

…が、そんな晋平の熱い思いも知らず、おバカな ひかる は停学中にもかかわらず、晋平に会いに行こうと脱走を試みる。それが露見すれば退学処分だが「学校なんて どうなったっていいっ シンちゃんのとこにいくの――!!」とガキ丸出し。
状況や名前から ひかる と晋平の仲を推定した小土居は1週間の辛抱と言い聞かせるが、ひかる は一週間も誤解されたままなんで やだもん、シンちゃんに嫌われたら あたし死んじゃう―――とメンヘラが大爆発する。

死ぬ、死ぬ、死んじゃう、と ひかる が叫ぶたびに自己憐憫に浸るだけの彼女が嫌いになる。

その本気の心は小土居を動かし、ひかる の脱走を手伝うが、ひかる は会いに行くことが目的で、会っても晋平に迷惑をかけるだけだと雨に打たれて冷静になる。寮にも帰れず、晋平のもとにも行けない ひかる は10日前に挙式をした教会に向かう。なんか躁鬱が激しすぎて、彼女の感情についていけない…。
そんな ひかる を受け止めるのがヒーローの晋平。この後も、どこかへ逃亡する ひかる、それを見つける晋平は繰り返される。

この一連の動きで小土居が ひかる にホレる。一途に晋平を想うところが、ライトな恋愛をしてきた小土居の心を動かしたのか。小土居の報われない当て馬人生の始まりである…。

土居の本気度を疑う ひかる だったが、小土居は、剣道五段・合気道二段・空手三段の武闘派の晋平に勝負を挑むことで本気を示す。が、小土居は瞬殺される。

しかし小土居には晋平に勝る所が一つあった。それが好意の示し方。彼はちゃんと ひかる に好きだと言ってくれる。晋平は言わない。そのことを考えちゃダメ!!と思いながらも考えて、ひかる は不満を溜めていく。
愛情も示してくれない、多忙もあって一緒に眠る事すら叶わない。名ばかりの妻という立場。妻が浮気するのはこういう時かもしれない。

同情婚で、そこに愛はないのかもしれないと疑う ひかる。そこに晋平が理事長と食事の場を用意される。そこで理事長が言うのは、結婚のキッカケとなった祖父の不治の病が治ったという驚きの報告だった。病院側の御診断で、祖父が当分 死なないことが判明した。そしてそれは、2人が結婚している理由もなくなったということだった。元々、祖父の強引な手法を快く思っていない祖母は、別れてもらえないか、と晋平に問うが…。

小土居が動き出すと同時に、小土居から同室の川崎が左耳が聞こえにくいという話を聞き、ひかる は彼女に対しての認識を改め、自分から近づく。ひかる が何かを努力した最初で最後の場面かもしれない。
ちなみに川崎さんは左耳が聞こえにくい。過去に似たような設定を読んだと思ったら水瀬藍さん『なみだうさぎ』のヒーロー鳴海くんでした。


婚する理由もなくなり、その解消を提案する ひかる の祖母に対し、晋平は そこに自分の意志があるという。
それでも晋平の立場は本当に難しい。父性愛で ひかる に接していると彼女の不評を買い、手を出せば理事長から職を奪われるかもしれない。こんな状況ならば祖母が成人してから再考するのがいい、というのも分かる気がする。ひかる だけじゃなく晋平も未来を縛られてしまう。
晋平が、結婚が ひかる の将来を奪っていると考えるのも分かる。ひかる は晋平の お嫁さんだけが夢で、他の選択肢を全く考えていない。これから自分について、自分の未来について思い描く時期を迎えるのに、その考えを放棄するような ひかる の生き方を見て、晋平は それが自分の罪のように思ってしまう。
一方で、晋平も、小土居が ひかる に近づくたびに荒れている。読者にだけは、晋平に独占欲や嫉妬があるのは分かっている。分からないのは、彼と話し合おうとせず、結婚という状態に固執する ひかる だけである。

小土居は生徒会長選挙に立候補してまで自分のことを真剣に考えてくれる、ひかる も彼に真摯に向き合おうとした。そこで ひかる は小土居に晋平との結婚を話すのだが…。これで小土居が選挙に出た意味が無くなってしまったのは可哀想なシーンだなぁ。こうやって小土居を傷つけ続けていることを ひかる は理解しているのだろうか。


平が、自分が ひかる の将来の選択肢を奪わないように身を引き、距離を置こうと考えている頃、晋平は ひかるの祖父から婚姻届を返却される。なんと2人は正式には結婚していなかったのだ(このパターン別の幼な妻モノの作品でもあったなぁ…)! 祖父母が色々と制約を与えるから この関係は こんがらがる。
その事実を知り、晋平の妻という望んだ立場でさえなかったことに ひかる はショックを受ける。あれほど夢見た結婚が壊れていくと思ったらしい。愛のない結婚だと思い始めていた頃、その結婚すらも嘘だったことが分かり、自分を支えるものが何もなくなってしまった。婚姻届は ひかる にとって晋平からの愛の証明。そういう形式にこだわっているのは ひかる の方かもしれない。これは家族というものを失って、それを求めてきた ひかる にとって、再度 家族を奪われたというトラウマを引き起こしたのだろうか。ひかる は大袈裟にショックを受けるのに、彼女の精神状態の説明がないのが気になる。

晋平はむしろ、わざわざ結婚を取り下げずにいられることを良い機会だと思っていた。少なくとも高校卒業までの2年間で、ひかる の可能性を広げられる、と。だが ひかる は「今 結婚届を出さなかったら一生シンちゃんとは結婚できない そんな気がする―――」とメンヘラ再爆発。

ひかる は晋平が婚姻届を提出するという言葉に安心し、テスト前の三週間も乗り切った。だが、晋平が この学校をやめるという噂を耳にし、精神が不安定になった ひかる は、晋平の家に押しかけ、そこで未提出の婚姻届を見つけてしまう…。
その後のテストを白紙で出すほど動揺した ひかる。しかも祖母の手配で、晋平は神戸の姉妹校に赴任するという。不幸の連鎖は止まらない!引き離される現実を受け入れられない ひかる は、駆け落ちを提言する。目的は「おばあちゃん を こらしめてやる」こと。「結婚を認めるまで帰らない」「転勤の取り消し」を訴えるために、家を出るという。「こらしめ」たり自分の要望を通すためになら、常軌を逸した行動に走るのがメンヘラっぽい思考バランスの崩壊だなぁ。

ひかる にとってシンちゃん や結婚とは何なのか。その掘り下げがあったら まだ読めたのだが…。

け落ちの待ち合わせは駅のホームに6時。その時刻を一方的に晋平に告げて ひかる は立ち去る。

ひかる にとって これは祖母だけじゃなく晋平の気持ちを知るための狂言。だが当日、晋平は教師の生徒の万引き騒動に駆り出され、駅に向かえない(ひかる と小土居の補導に万引き騒動、一体この学校は大丈夫なのだろうか…)。
7時を過ぎてもホームに現れず、ひかる の神経は摩耗する。そんな彼女に声を掛けるのは、その前からずっと一緒に駅にいた小土居。街で ひかる を見かけ、この騒動の顛末を見届けていたのだ。
小土居は逆に ひかる に駆け落ちを提案し、8時過ぎに晋平が駅に現れた時、ひかる は小土居と電車に消えてしまった…。
「―――もお いい… もう どうなったっていい」と ひかる は電車に揺られる。狂言だった かけおち が形を変えて現実になって ひかる は「もお やだ こんなのやだ 死んじゃいたい…!!」。自暴自棄と自己破壊願望、繰り出される発言がヤバい。そして こういう発言を読む度に私は ひかる を軽蔑するばかり。この話を面白いと感じる人と私は根本的に価値観が違うんだなぁ、と自分には共感力とか人情とか何かが欠落しているのではと不安になってしまう。


け落ちをする高校生たちが向かったのは北海道。ひかる が新婚旅行で行けなかった場所だ。自分の願望は全て果たさそうとするワガママが垣間見られるなぁ…。窓の外の風景を見ては泣き、小土居が自分を好きだと言えば晋平を想って泣く。そんなことより、他の男と駆け落ちしたら、どんな結婚生活でも破綻することを考えろよ、と言いたいが…。
翌朝まで連絡のないことで晋平は ひかる の思考をトレースし、彼もまた北海道へと向かう。広い北海道でニアミスを繰り返す2人。
文句を言いつつも先が気になる構成には舌を巻くばかり。冒頭の一文ではないが、ネットやSNSがある時代だったら本書は毀誉褒貶の激しい評価となっていただろう。それでも読者の心を離さず、一度読んだ人は その後も ずっと読んでしまうに違いない。そういう不思議な魅力が本書にはある。