《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

これまでの別居婚から本格的な別居へ。高校3年生の夏なんで試験勉強には もってこいですわ(涙目)

PとJK(15) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第15巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

過去に縛られ、現実逃避している功太。カコと距離を置いて過ごす功太の心に、心配する周りの声は届かない。そんな中、カコと大神が功太に会いに行くことになり…。カコを巡り(?)、ついに男の対決が勃発!! 仲良し夫婦の運命の行方はー!? クライマックス間近!! ポリス&女子高生ラブ第15巻☆

簡潔完結感想文

  • 功太がカコの前で作り上げてきた功太像が全てリセット。夫婦関係崩壊の危機。
  • 大神に向けていった言葉は功太が過去の自分に言った言葉。反響するのは必然。
  • カコを立ち上がらせるのは なにもできない自分がしてきたこと。人は変われる。

少年が原因で功太は2度も家族を奪われてしまうのか…⁉、の 15巻。

『1巻』から夫婦となった2人の離婚の危機が本書のクライマックスとなる。カップルが高校生と警察官だから、公明正大に交際するための手段として結婚を選んだところのある2人。これまで少しずつ互いの理解を深め、少しずつ夫婦になってきた2人だが、最後に価値観の相違が見られ、夫婦でいる意味を失いかける。7年ほど前、功太(こうた)から父親を奪った元少年が再び功太の前に現れたことで、彼は この7年で築いてきた自分像、そして新しく手にした家族で妻のカコを失ってしまいかねない事態となる。
その初めてと言える夫婦の危機に対して、2人はどういう答えを導き出すのか、そして今後 家族として どんな家族像を描くのかが問題になる。功太は7年前から今日まで、そしてカコは1年ほど前から、この先の高校卒業までに自分の在りたい姿を描いてきた。そうして自立した2人が、元々は他人同士の2人が、どう考えを擦り合わせて、どう人生を共に歩こうとするのか、というのが最後の問いとなる。


書もクライマックスは少女漫画の定石である男性側のトラウマを扱っている。だが『15巻』を読んで分かったのは、確かに功太のトラウマの話なんだけど、功太のトラウマは目の前で父親を刺殺されたことではなくて、そこに至るまでの過程の自分の築いた親子関係に後悔があるという点だろう。父に感謝の気持ちや尊敬の気持ちを伝えられないまま永遠の別れとなってしまった高校2年生の冬。そこが彼の抱えるトラウマの原点。彼のトラウマは元少年にあるのではなく、自分自身にあると言える。
だから、例えカコが元少年こと「ちぃ先生」ではなく功太の側に寄り添ったとしても無駄といえば無駄なのだ。もしカコが「ちぃ先生」を強く非難したとしても、功太のトラウマは ちっとも解消されない。もしカコが功太に寄り添って彼に同情的な言動を重ねても、それはきっと功太の中の公開や未熟さを刺激して苦痛に満ちたものになってしまうのではないか。
だからきっと、カコは功太の問題に全精力を傾けるのではなく、自分の立場を変えることなく、夫婦として違う人間同士が「寄り添う合う」という、今回のカコの姿勢は、結果論ではあるが、正しかった気がする。

年齢差もあって喧嘩もなかった2人が、大きな見解の違いに出会った時、夫婦の絆が試された。夫婦それぞれを支えてくれたのは、自分がありたい自分になろうとする過程の中で、これまで自分が築いてきた関係であった。夫婦という最小単位だけでなく、人は周囲の人によって互いに支え合っているという繋がりを強く感じられたのが感動的だった。その象徴的な人物として序盤から登場している大神(おおかみ)が配置されているのも必然と思える。その一方で作者の大神びいきを感じずにもいられないけど。カコ・功太・大神が互いを高め合う関係であることを示したことは良かった。長い長い、一方的な三角関係にも けり がついて、これから3人は いい思い出を もっと増やしていくのだろう…。


頭で功太との見解の相違を埋める手段として、肉体関係が持ち出される。離れゆく人を繋ぎ止めようとカコは功太に身を捧げる。功太の言動は、作者が あとがき で書いている通り、端的に言ってクソな行為であるが、功太を性強要やモラハラ夫にすることで反動で彼の反省を大きくするために必要なのだろう。

功太は、自分に言い聞かせるように服を脱ぐカコを見て、過ちに気づく。彼女を制止し、そして安堵する顔を見て、功太は自分が彼女に対して心無い行動をしようとしていた自分に気づかされる。だからこそ距離を置く。自分の混乱と欲望の捌け口にカコを利用し、征服しようとした自分が許せなくなったから。

自分たちの違いを埋められるだけの余裕がない。カコは功太を知ろうと努力をするが、功太には その行為すら負担だという。それに対応するだけの余裕もない。その状態で過去に対して自己嫌悪の連鎖を引き起こすことが怖くて、功太は距離を置く。カコは なんとかメールをする権利を もぎ取って帰宅する。

この後、彼らの別居は夏の始まりから終わりまで続く。この展開に悲壮感が漂わないのは(漂っているが)、この夏はカコが進学に向けての準備に集中できるメリットがあると考えられる。功太も大変だが、高校3年生のカコにとっては一番難しい時期。この時期をしっかり勉強していた、という描写があるから、カコの未来が拓ける準備が整う。元々 少女漫画では鬼門である高校3年生の進路決定や勉学の描写を上手く別居期間に落とし込んでいる。

さて、ここで前の話と合わせて考えられるのが、功太が どうやって女性を愛してきたか、という推察。もしかしたら彼は自分が安定するまで女性を、カコにそうしてしまったように物のように扱っていたのではないか。刹那的に肉体関係を求めて一時的に満たされることを繰り返す。それが功太の姉が知っている功太の派手な女性関係の正体ではないか。


の頃、大神の未来も拓ける。警察学校の試験に合格し、来春からの入学が決まった。
大神と会い、喜びを爆発させるカコだったが、別居中のため彼が功太に直接 報告する場面には立ち会えない。渋る彼を引き連れて功太の自宅前まで行くカコだったが、そこで功太の姉に会う。姉は功太の様子が気になって顔を見に来たらしい。
弟に何かある事を察している姉は、大神を含めた3人で情報を共有する。姉が大神も ここに巻き込んだのは、功太がよく大神の話をしている事と、姉は その話を聞いて大神の中に過去の功太の姿を重ねているからであろう。

それは情報の共有だけでなく、功太という人間像の擦り合わせでもあった。年少者から見れば大神は「強くて立派な大人」に見えるが、母代わりに彼の成長を見てきた姉からすると それは彼が努力の中で強がっていただけの姿であるように見える。それを本物にしてくれたのは、年少者たちからの信頼だったと姉は言う。
だが、元少年に会ったことで功太の中の「本物」が揺らいでいる。昔の弱い自分が顔を出して、そのことに嫌悪して、カコの前で大人になりきれないことに苦悩している。だから その不安定さを出さないようにカコと距離を置くのだろう。
姉は言う。功太を再び本物の大人にするために必要なのは、自分ではなく、その信頼で彼を大人にしたカコと大神だと考える。功太が姉には少しだけ弱いところを見せられたのは、姉は自分の変化の始終を見ているから。だがカコや大神の前では弱くいられないと考えているから、心身に大きなストレスがかかる。元少年と出会うことで甦ったのは憎しみの炎ではなくて、弱かった頃の自分の心理状態で、それとの向き合い方に功太は苦慮しているのではないか。

功太を助けられるのは、功太が築いてきた関係の中にある、という構図が素晴らしい。元々 家族である姉を上手く排除して、功太を信頼するものが、再び 彼を信頼に値する人へと変える力を持っている。

『1巻』以前の関係ではなく、本編で築いてきた関係が最後の鍵となる構成が とても良い。三人寄れば文殊の知恵!

との会談後、改めて功太の家の前に立つカコと大神。その声を聞き功太が中から出て来て、感謝の気持ちを切り出せない大神は中に突入する。そこで見たのは功太の精神状態同様に荒れた部屋。それに耐えきれないのが家事全般を完璧にこなす大神。カコを巻き込んで掃除をする中で3人は会話を始める。

大神という第三者がいることで2人は同じ議題に立つことが出来た。だけど功太はともするとカコを部外者にしてしまいがち。功太の強い拒絶の姿勢にカコは何も言えなくなるが、大神は そんな功太の態度を正そうとした。自分だけが被害者意識を丸出しにして、カコに立ち入れない領域を作ることで自分を守っている、と彼の欠点を見抜く。

大神は自分の受けたトラウマを詳細に知らない功太が自分を助けてくれたように、カコにも功太を救う資格/救いたいと希求する権利はあるという。更には功太が「強くて立派な大人」として大神に伝えた数々の言葉を、今の弱い功太に ぶつけていく。それは きっと功太が大神の中に かつての自分を映しながら言った言葉だからこそ功太の身体の中で反響していく。
最後に警察学校への入学が決まったことを報告して、大神は家を出る。


コは その背中を追い、自分とは違い、功太に確かに届いた言葉の重みの違いを痛感する。
そんなカコを立ち上がらせるのは、大神のカコへの感謝の言葉。トラウマがないから軽いと思ってしまうカコの言動の中には、ちゃんと救われた人がいることを大神は身をもって証明する。これは『14巻』ラストで立ち上がる勇気を失ってしまったカコを唯が立ち上がらせたのと同じ現象。この兄妹は確実にカコが関わってくれたお陰で現在の平和がある人たち。カコにも ちゃんと築いてきたもの、実績がある。
その大神の確かな言葉はカコに届く。その言葉を勇気にして、カコは単独で功太の家に久々に入っていく。

夫婦共々 大神に救われたことで気持ちに余裕のある会話が交わされる。カコの出した答えは、功太の「隣を並んで歩きたい」ということ。「背中を追いかけるんじゃなくて 手を引かれて歩くんじゃなくて 隣に並んで手を繋ぎたい」。それはカコが自分で描く姿だけではなく、夫婦の理想像だろう。今回のように全てで意見が一致する訳ではないが、功太を好きと言う気持ちがあれば「きっと一緒に生きていける」。それが夫婦というもの。この辺は、作者が既婚者と言うこともあって、言葉に重みがあるような気がする。

今回の騒動があって初めて、カコは功太に夫唱婦随で付いていくのではなく、自分を確立して功太に向かい合った。その結果、功太を夫として、人生の伴走者として見つめ直すこととなった。これが2人が この2年余り築いてきた夫婦の絆の形なのだろう。

カコは自分の言いたいことを言って家を辞去する。カコは答えを急がない。功太の中で答えが出るまで、功太が歩きだす日が来るまで静かに待つ。それもまた夫婦の正しい姿。

もしかしたら これが2人にとって最初で最後の夫婦ゲンカなのかもしれない。雨降って地固まる。

んな彼女を功太はバス停まで送る。それは功太の中の時間が動き出した、彼の心境の変化の象徴であろう。既に季節は変わり始めるほど時間が経過していて、その間に自分の周囲には自分を心配してくれる人がいたことも功太には分かっていた。

そうして彼は自分の葛藤の正体を認める。
それは元少年と同じく、自分もまた父親の死に関わる共犯者だという意識。ただ元少年と違うのは心神耗弱状態で犯行時の記憶がない彼と違い、功太は父親が刺される場面を目撃し、それを忘れない。その場面を忘れずに生きてきたから警察官になったが、忘れられないからこそ彼の罪の意識は消えない。記憶もなく、法にも裁かれることなく彼は社会から赦された。だからこそ功太は彼が羨ましい。あとは被害者の遺族である功太が彼を許せば、彼は苦しまずに生きられる。彼には許される希望がある。だが功太の共犯者意識は消えないし、その罪を許してくれる人は もういない。その非対称性を功太は憎む。
父親の殺害よりも元少年の中に潜む希望を羨ましく思う自分が功太は認められなかった。それが彼の葛藤の正体であった。

そして功太が精神的に引き籠っていた間に流れた時間は新しい命の誕生を もたらしていた。かつて再会した(『5巻』)高校の同級生・西倉(にしくら)に子供が誕生したことを間接的に知る。それは夫婦という家族の最小単位の先にある、家族が増えるという末っ子で不幸続きの功太が味わったことのない幸福だろう。家族は形を変えていくものでもある。『15巻』は早くも これまでの登場人物たちが一気に登場する総集編のようになっているが、ちゃんと西倉さんの その後まで描いていて満足度が高い。

そうして功太は ずっと切り損ねていて伸びていた髪を切り、心機一転 働き始める(勤務自体は続けていたが)。心配してくれた周囲を受け入れ、久々にカコにも功太から連絡を入れる。


のいる養護施設で夏祭りが開催されることになり、園の子供の1人がは園を去った元少年 こと「ちぃ先生」にも招待状を送ろうとしていた。彼の再登場が予感される。

そして当日、施設には主要キャラが ほぼ集まる。
施設へ向かう道すがら、大神は町を巡回中の功太に会う。前回の対面と違って蘇った功太は大神に謝罪と、そして彼の警察学校合格を祝福する。1人の男と男として向かい合う2人の姿には痺れるものがある。そして大神は ここで初めてカコと功太の中を後押しする。隙があれば奪おうとしていた彼が、ここで踏ん切りをつけた。大神のアニキ、長い当て馬暮らし、お疲れさまっした。

もう一つのサプライズは大神の母の再婚と その相手だろうか。まさかの相手だが、これは大神が警察学校に入ってからの母の精神の安定のために必要な布石でもあろう。そして間もなく社会人となる大神が本当に自分のために人生を歩きだすためにも必要だったのだろう。

そして「ちぃ先生」も当日に施設に現れる。招待状は届かなかったが、園長から子供たちの手紙を取りにくるよう連絡が入ったらしい。その少し前、カコは「ちぃ先生」の名前もまた「セト コウタ」であることを知る。
再び対面した元少年・セトは、あの日のことを語る。あの刺殺は功太の父親が必死に息子を、「コウタ」と繰り返し叫んだことで起きた事件だったことも分かる。何という悲劇的な一致なのだろう。これもまた功太が あの日の自分の行動を深く悔恨する要素になってしまっているのだろうか。
冷静に あの日あったことを再構築して話す「コウタ」。そんな彼の底知れない深淵を見つめるカコに、もう一つの事件が迫る…。