《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ずっと年上の貴方と高校の同級生になれたらと願うけど、それじゃロリコンの貴方の対象外か(笑)

PとJK(5) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カコと功太(こうた)、2人で過ごす初めての夏休み♪ あんなコトやこんなコトを期待しながら功太の実家に行ったけど、次々と功太の過去が明らかになって…。いったいなにが――?

簡潔完結感想文

  • 警察官の彼氏を教師役に勉強回。警察官だからか功太は洞察力に優れ「友人の恋」を発見。
  • もしカコと功太が同級生だったら、の仮想シミュレーション。作中作『DKとJK』。それ普通。
  • ヒロイン バトンタッチ? 功太は物語の中心にいるが、カコの追いやられ方は いとをかし。

ラスで悪い評判の男子と、クラスメイトの女子の交流は もう読んだ、の 5巻。

『4巻』までの大神編では、大神(おおかみ)の中に過去の功太(こうた)の姿を見たが、今回は、功太の高校時代の同級生・西倉(にしくら)さんの中にカコの姿を映す。そして高校時代の功太と西倉の関係性は、まるで約6年後の大神とカコの関係である。こういう功太の過去を読んでからだと、大神に向かって話す功太の言葉は実体験に基づくものだということが改めて分かる。
その一方で 不良少年と呼ばれる男子生徒と、最初は彼を恐れていた女子生徒との交流の様子は再放送に近いものがあり内容の重複を感じずにはいられない。

ただし大事なのは、カコが強く願う、功太と もし同級生になれたらという願いが この6年前に叶ったとしても、その恋は上手くいかなかったということだろう。西倉の存在は、カコが同級生として功太と出会った世界線として描かれる。恋愛関係になっても おかしくはなかった功太と西倉が、なぜ上手くいかなかったのか、その西倉の悲恋、そして功太の悲劇が描かれようとしている。
カコと功太は同級生として出会わなかったからこそ運命的に出会えたのだ。作中の悲劇に対して言葉が軽いのが申し訳ないが、ヒーローはトラウマを標準装備してからこそヒーローになる資格が生まれる(まぁ本書の場合は長編化に際しての後付けトラウマだが)。
物語に登場する人物の後ろに、違う人の影を見るから物語が重層的に感じられる。

良くない評判がつきまとう佐賀野くんだけど彼の優しい素顔は私だけが知ってるんだからねッ!!

だ なんだろう、本書における長編(××編)にはカコがいない方が物事がスムーズに進むような気がしてならない。
大神編では、カコはヒロインとして三角関係の中心にはいたものの、それ以外の事象では概念上の存在のようになっていて、彼女が自ら動くことは許されていなかった。
この『5巻』も同じで、カコ無しで話が進んでいる。そして それで話が成立している。もちろん、彼女がいたらスムーズに話が進まないし、彼女が知らなくても良いような内容だからこそ排除したのは分かるのだが、この前も後も、本書ではカコの立ち位置が いまいち決まっていない。カコと功太が同級生だったら、ヒーロー・功太のトラウマに対してグイグイと介入していって彼を救う最強ヒロインになれるのでしょうが、彼らには7歳の年齢差がある上に、功太が警察官という立場でトラウマも彼自身にしか解決できないようなものだから、カコの入る余地が少なかった。そう考えると同じような年齢差の設定の「別冊フレンド」仲間・みきもと凜さん『午前0時、キスしに来てよ』は、トラウマや個人的事情を双方が自己解決していてバランスが良かったなぁ。本書も ここからカコに とんでもない後付け設定を用意すれば よかったのか…。


角関係や個人的事情を含めた大神編が終わり、作品は日常回へ。
こういう繋ぎによく使われるのが、テストの勉強回である。

考えてみれば少女漫画における日常回は勉強回であることが多く、ということはテスト前後は日常回をお送りするほど平和だということか。面倒事はテスト前に終わるとすると、少女漫画の年間スケジュールは結構 決まっているのかもしれない。進級や年度替わりに新キャラ登場 → 5月あたりからゴタゴタ → 6月下旬前後のテスト前までに解決 → 勉強回 → 夏休み(お泊り回など) → 新学期に新展開 → ゴタゴタ → 仲直り → 文化祭や体育祭など学校イベント → 12月中旬までゴタゴタ → クリスマス・初詣・バレンタインと「冬の三大イベント」→ 進級というのが おおよその年間スケジュールだろうか(笑) 実際、こんな感じで進むのを何回も見た気がするなぁ…。

本書の勉強会は年長者で大卒の功太が教師役。基本的にコメディ回ですが、警官が高校生たちを順番に監視することで個人情報が色々と漏れるところが面白い。功太は三門(みかど)の「友人の恋」の兆しに気づいているようだし、逆に功太は「経験済み」ということも自白している。
功太は迫りくる夏休みのお泊り回を計画し、それがカコの勉強のモチベーションとなる。

勉強会現場の混乱を年上の威厳と身についた権力を振りかざして治める 町のお巡りさん。

習を回避したカコが行先に望むのは功太の実家。功太にとって良い思い出のない場所だろうが、夫婦として功太の両親の墓前に挨拶することをカコが望んだ。いい嫁さんです。

だが高校生たちの文化祭や勉強する様子を見て功太が思い出した、高校時代に1人だけ会話を交わした思い出がある人が、西倉あや という女性であることが判明し、何か嫌な予感がしてならない。しかも功太の元カノは「あまたいる」らしいのだが…。

地元に帰った功太はカコと一緒に両親が眠る墓前に挨拶をする。この時、功太は どんなことを報告したのだろうか。
今は功太の姉が1人で暮らす実家に上がり、カコは この家に残る幼少期からの功太の歩みに夢中になる。功太は姉に頼まれた買い物をするが、その店内で元・同級生の西倉さんと再会する。これは やっぱり元カノ枠なのか…⁉

なかなか戻らない功太を姉は心配する。なぜなら地元と呼んではいるものの、この町に功太は3年しか住んでおらず、そして今の彼が最も自己嫌悪を覚える時期の3年なのである。
ここで功太を心配するのが姉、というのが本書らしいところ。いやな思い出が染みつく この町でトラウマを再発したかもと心配し、姉は功太の行方を追う。一方、カコは そんな功太の事情にまで想像力が回らず、目の前にある功太の過去を埋める作業に没頭する。功太への理解度は姉の方が高いと言えよう。


が発見したのは、親密な雰囲気を放つ男女。1人は功太、そして1人は姉が初対面の西倉だった。功太はタバコを吸うために席を外し、姉と西倉との女性同士の回想が始まる。
この町は功太が高校時代を過ごした場所だが、その際には姉は就職し別の場所に住んでいたため、姉として功太をよく知る彼女にとっても功太の空白地帯なのだ。カコが この話を聞かないのは、自分と同じ年代の功太のこと、しかも黒歴史といっていい過去は冷静に受け止められないからどうか。

西倉の家は新聞の販売所。彼女自身も配達の手伝いをしていて、その中の1件に功太の家があった。
高校時代の功太は自暴自棄。引っ越して男2人きりの父親との関係に行き詰まり、息の詰まりそうな閉鎖的な町に対しての苛立ちは排他的な態度と暴力になって現れる。

クラスメイトの中で唯一、西倉だけは功太と同じ委員会になったことから接点を持つ。功太がヘッドフォンをしているのは周囲からの雑音のカットと、そして周囲への自分の態度の表明だろう。このヘッドフォンが、あの事件に繋がると思うと 遣り切れない。西倉との接点や その後の展開にも このヘッドフォンは登場していて、これはジロウのバイト先の着ぐるみと同じように便利なツールとなる。小道具の使い方や、登場人物もキャラも小道具を認識した頃に裏切る使い方が上手い。
周囲を拒絶する功太に対し、委員会での連帯責任問題で功太を出席させたい西倉だけが功太の音量の壁を乗り越えて、彼に自分の声を届けた。その声が届いたことによって、2人は少しずつ話す機会を持つ。

この関係性、既視感があると思ったら、カコと大神そのものではないか。悪い評判だけがつきまとう彼の、誰にも見せていない素顔に気づいていく。

西倉は彼が自分が届ける新聞の中に、父親の名前を探していることに気づく。口には出せなくても、父親を尊敬し、誰よりも愛されていことが西倉には分かってくる。
だからこそ西倉は自分の間違った勇気が原因で、功太と父親の関係性を悪化するような事態を招いたことが許せないのだろう。西倉が功太の喧嘩に介入して危険な目に遭うのも、カコっぽく、そして少女漫画ヒロインっぽい。もし西倉がヒロインの少女漫画があったら、功太と父親の関係に介入して修復して「ヒロイン力」を発揮する場面が生まれただろう。実際「あの事件」が起こらなければ、西倉は顔を覚えた功太の父親に功太の話を聞かせたりしたかもしれない。そうして男性側の家庭の問題を修復した時、西倉にヒロインの証が生まれ、そして恋愛が解禁される、というのが西倉ヒロインの『DKとJK』の内容となろう。だが現実は過酷で、功太にトラウマを与える未来が待っていた…。

カコにとっては功太に出会うために必要な過去なのだが、功太にとっては望んでいない結末。それが悲しい。