《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

配偶者がいる幸せと、それに伴う自分の責任を徐々に自覚していく カコは まだ16だから。

PとJK(2) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カコは、晴れて功太(こうた)のお嫁さん(高校卒業までは条件つきだけど。)! 幸せいっぱいの新婚生活スタート! ……のはずが、ハプニングがいっぱいで!? おまわりさんと女子高生が××!! 笑えて泣けてキュン! 少女マンガ史上初の禁断ラブ!! 本編にも出てくる謎のうさぎ(?)ジロちゃんが大活躍の読み切り「わたしはけっして不幸ではない」も同時収録!

簡潔完結感想文

  • 初めてのデートで貰ったのは、貴方が私をどれだけ想ってくれているか という気持ち。
  • 進級は新キャラ登場の絶好の機会。ヒロインが努力して苦手な人との距離を縮めるが…。
  • カコは妻の自分が安全を確保することが功太の心の安寧に繋がることを まだ知らない。

婚した夫よりも、他の男との心の交流にページを割く兆しが見える 2巻。

『2巻』はヒロイン・カコが人との距離を縮めていく様子が描かれる。まずは何といっても夫となった功太(こうた)。キスどころか初デートをすることもなく結婚した2人が、夫婦になってから心の距離を縮めていく。夫婦なのにまだまだ相手を好きになる余地があるというのは羨ましい限り、と思う既婚者も多いのではないか。カコはまだまだ子供で視野が狭く、見えないものも多くて不安になったり失敗することもあるが、ふとしたキッカケで視野が広がった時、功太に自分が愛されていることが じんわりと心に広がる、という展開が用意されている。この不安と幸福の落差こそ胸キュンを生む装置であり、こういう女性が男性から愛されていることを遅れて分かる胸キュン展開は雑誌「別冊フレンド」の作風だなぁ、と思う。

もう1人、カコが距離を縮めるのが2年生から同じクラスになった留年ヤンキー・大神(おおかみ)。彼と距離を縮めることは、カコの「ヒロイン力」が試される場面となり、また甲乙つけがたい2人の男性が登場することで、いかにも少女漫画らしい図式が完成していく。カコの努力によって大神と距離を縮め、彼を信頼することはヒロインとしては正しいが、妻としては隙が多すぎる、という問題が生じるのが本書の特徴であろう。
ただ問題は最初から好ましく思っていた功太と結婚するよりも、苦手意識のある大神との交流の方が心の通わせ方が丁寧に描かれていることだ。上述の通り、不安と幸福の落差が胸キュンを生むのなら、苦手な大神と仲良くなっていく様子は読者に胸キュンを与えてしまう。名ばかりの夫婦よりも、当て馬の方がよく見えるのは作品上問題である。本書は ちょっと大神に比重が傾き過ぎていやしないか。

そして夫婦となって知るのは相手の新しい一面だけでなく、夫婦だからこそ相手に対して自分の責任が生じるという点もあった。その意味では、カコは少女漫画ヒロインとして正しい間違いや暴走が許されない立場にあると言える。PとJK夫婦という設定は作ったものの、今後に制約が多いのではないか、と心配になってしまう。カバー下の おまけ といい、まだまだ警察官ネタで少女漫画が成立している頃だが、やがて警察官あるある も尽き、功太で警察官ネタを使うことも無くなっていく。

その代わり、作品が当初予定されていた『2巻』を超え、長期連載へと動き出したこともあり、男性たちに過去(トラウマ)が用意されていく。そして それによって作品が ほのぼの新婚カップルから、家庭における犯罪へとシフトしてしまうのだが…。その転機となったのは大神だろうか。彼が前に出てきたことによって作品は長期化する準備が整い、そして作風が暗くなっていく。ほのぼの胸キュンを楽しんでいた読者は一体 これから どういう心構えで読めばいいのか。そういう混乱が この後に読者を待っている。


スもしないまま結婚をしたけれど、功太のことを何も知らないことを思い知るカコ。その不安が彼女の心を乱高下させる。

そんな功太と放課後デートすることになるが彼は なぜか人相が悪い。前回のデートは父の妨害に遭ったため、実質 今回が初デートとなる。この半日を通してカコは功太という人を改めて知っていく。もちろん少女漫画なので ほぼ長所しか発見しないが、もし初めて一緒に過ごして価値観とか生理的に受け付けられない違いがあったら、カコはどうすんだ、と思うけど。結婚に対する考えが軽い軽い。

そして相手のことだけでなく、相手がどれだけ自分を想っていてくれているかもカコは知る。まず功太が仕事中も自分の心配をしてくれていることが分かりカコの心は喜びで満たされる。そして合い鍵を貰って いよいよ夫婦らしくなったと浮かれる一方、功太が仕事でデートを中断しなくてはならなくなると、愛されている実感がないことがカコの目に涙を浮かべさせる。この情緒不安定さよ。
しかも なんか被害者ぶっちゃってますけど、功太と交際がしたいがために一足飛びに結婚を選んだのはカコにも責任があって、こういう事態を想像できてなかったことが問題なのではないか。リスクを考えず幸福な自分と少し違う未来にいるからといって文句を言う権利はない。

些細なことで幸福を感じるが、同時に些細なことで不安も感じる。新妻としてカコが学ぶべきことは多い。

再合流しても疲労もありカコの前で眠ってしまう功太。だが その理由は「君といると落ちつくから」というものであった。これまでは「PとJK」という立場があって気を張っていたが、今は夫と妻になり、素の自分でいられる。いかにも別冊フレンドらしい不可解な彼の行動の謎解きと胸キュン発言である。だが、功太が言うほど これまで一緒にいた時間が描かれていないため、全てが根拠薄弱なのが気になるところ。彼らには何の歴史もないのに、このセリフを言わせたいという作為が見える。謎解きには伏線が必要なのだ。

こうして夫婦らしくなってきた2人の証なのか、結婚指輪も功太から贈られる。大卒で警察官になり現在23歳の功太にとっては なかなかの出費だと思われる。そういえば社会人との交際の割には功太が何かを驕ったりする機会は少なかったような…。


2年生になったカコ。夫婦となって距離感が近くなり、功太は同僚たちに自分たちのことを話しているからか職務中でもカコと以前よりもフランクに喋る。『1巻』1話で露骨に冷たかったのは、功太なりの「ツン」の表現だったのかもしれない。ちょっと警察官の私がJKを好きになったりしないんだからねッ!勘違いしないで!

年度の変わり目は新キャラ登場のチャンス。この回から、かつてカコを殴った大神 平助(おおかみ へいすけ)がメインキャラとして登場する。この大神が これ以降、ずっと作品の中心にいるといっても過言ではない。功太の影が薄くなる そのバランスは ちょっと残念だった。

カコは大神に殴られ、彼を前科持ちにさせた事件(『1巻』)があり、彼と同じクラスになってしまい呆然自失。留年した大神との楽しくないスクールライフが始まる。席も隣同士になり、大神は となりの 怪物くん、と言ったところか。ちなみに この学校の2年時のクラス分けは成績別らしくDクラスのカコは留年した大神と同じレベルの成績と言うことらしい。カコは頭が良くない。功太が気に入った店員への対応以外、彼女の良い所が見えてこないのも残念なところ。

大神から復讐される可能性を功太に伝えようとするも、彼は緊急対応に追われ話が出来ずじまい。カコは大神との一件は自力で解決することを決める。これがヒロインの宿命なのだが、同時に妻としては間違っている、という面白い構造なのは上述の通り。


が どうやら大神はカコに謝罪しようとしているらしい。どうにか あの手この手を尽くして大神がカコに直接 謝罪を伝え、彼と交流が出来そうなところに、大神のヤンキー仲間が登場する。
カコに(性)暴力を振るおうとする彼らから大神は守ろうとし、カコも大神の誠意を汲み取って 自分なりの手法でヤンキーを学校から退散させる。

後日、大神はヤンキーが自分と関わらないよう ちゃんとケジメを付け、改めてカコに謝罪する。これまでもカコの両親に何度も頭を下げ、自分のしてしまった過失に対して彼もまた自力での解決を目指していることを知り、カコの大神への緊張は大幅に減少していく。この心の広さこそ「ヒロイン力」である。
しかし彼ら高校生同士が心を通わせる現場に功太が現れ、男女3人は三角関係のような様相を呈す。大神は完全に功太の独占欲や焼きもちを引き出すための当て馬である。彼の存在で、功太の優しさや配慮が際立つようになっている。

悪そうに見えて実は純朴で純情。そんな大神のキャラ設定は 功太の警察官設定よりも人気が出そうだ…。

る日、新クラスのメンバーで祭りに行くカコだったが、功太から贈られた結婚指輪が無いことに気づく。少女漫画におけるアクセサリは愛の象徴。それを早くも失くす妻ってどうなんでしょ。そして その時の過去の横には大神がいる。その愛の象徴を他の男に探させることが間違いのもとだったのか。

カコは功太に自分のミスを話せないため、カコは大神と一緒に探すことになる。だが、カコは大神を信用したとはいえ、夜に暗い夜道の方へ男性と行くのは『1巻』1話での刃物男と同じ展開であることにカコは気づかない。
大神の懸命な捜索によって指輪は発見されるが、それと同時に大神を信用していないクラスメイトたちによって警察に連絡がいき、カコは警察官に捜索対象として発見される。
発見したのは功太と、もう1人 女性の捜索ということもあってか女性警官の2人だった。その女性警官はカコに対して自衛意識がないと一刀両断。自分の立場を客観的に見られないカコに反省を促す。

のんきな態度を叱責されたカコだが、女性警官がカコを これだけ叱責したのは功太が カコを心配する様子を間近で見ていたからだろう。カコが大神の肩を持つように、女性警官も功太の心痛が伝わったのだろう。カコは自分の身の安全を功太のためにも確保しなければならなかった。この辺り、彼女がまだまだ結婚をしたという意識の低さを物語っているように思う。

しかも功太が自分のことで取り乱したという情報に胸キュンしてしまうカコだが、自分だけが知らない功太の過去があることを知り…。いよいよ当初の全2巻の予定が伸びたことで、功太に過去が用意される。


「わたしはけっして不幸ではない」…
自分だけ数々の不幸に見舞われる小野塚 楓子(おのづか ふうこ)は自分のことに期待しないことを処世術としていた。だが同じ着ぐるみに2回連続で助けられたことから、彼女は自分の幸運を感じ始め…。

この短編の特徴は、顔も知らないヒーローに運命を感じ、惹かれる所だろう。つまり相手の内面から好きなっており、彼の顔や実際どういう人かというのは後から知る情報で、人を好きになるのには不必要なデータといえる。この辺は本編のカコと共通するテーマを感じる。楓子が目の前が真っ暗になった所で、彼が世界を明るくしてくれて、その光の中で彼の顔を初めて知るという構成も良い。

時系列的にはジロウが高校2年生で、しかも制服が半袖の頃なので『2巻』終了時よりも もう少し未来の話となる。共通世界にいるはずの楓子がしばらく本編に登場しないことを不思議に思ってましたが、時系列の関係で、出会った後にしか登場できないのか。