《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

後半は表紙詐欺が続きましたが、最終巻は詐欺でないことを本官が保証します(敬礼)

PとJK(16) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第16巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カコが手伝う養護施設でお祭りを開催中、なんと刃物を持った男が侵入! 功太とちい先生がケガをしてしまう。でも心配するカコの目に映ったのは、なんだかはにかんだ功太の笑顔で…。たくさんの事件を乗り越えて、2人はついに”本当の夫婦”に―! 警察官と女子高生のナイショの結婚ラブストーリー、感動の完結!!

簡潔完結感想文

  • 刃物を持った男が乱入するが警察官(予定も含め)たちは いつでもヒーローになる。
  • お忘れかもしれませんが、功太の射撃の腕は警察学校の同期の中で一番なのです。
  • そしてまた功太は自分が築いてきた関係の中に自分の探していた答えを見つける。

書は『PとJK』ではなく『PとPとP』の受け継がれていく魂を描いたんじゃないか疑惑の出る 最終16巻。

『15巻』でヒロインに返り咲いた感のあったカコですが、最終巻では割と蚊帳の外。それはきっと既に『15巻』で夫婦としての理想像を2人が見つけたからで、この後は功太(こうた)が自分の背負っているものと独力で対峙しなければならないからだろう。
何だか最終巻を読む限りは警察官の魂が三世代(というと大袈裟か)、3人の人に受け継がれていく物語に思えた。身近にいたからこそ反発してしまうような関係性ながら、しっかりと その背中を追っていた男性たちの お話であった。
特に やはり功太の十余年にわたる、自分の理想の警察官に彼がなっていく物語として読める。自分自身を許せないからこそ成長を誓った彼が、少しずつ その背負ってきたものを下ろしていき、自分自身で築き上げた幸せの中に生きることを噛みしめられるまでの物語としての側面が強く出ていた。

そして同時に『PとJK』という軽いタイトルではあるが、実は家族漫画なのではないかと思う部分が多々ある。夫婦という他人が、お互いの考え方・背景の違いを擦り合わせながら家族になっていく。功太から警察官のバトンを渡された大神(おおかみ)は家族の形を描く上でも重要な役割を果たした。大神の複雑な家庭が崩壊し、そして別の形で再生していく十余年の様子もまた、もう一本の縦軸として描かれることで、夫婦だけじゃない家族の形態を表していた。血の繋がりも戸籍も違う男女が、夫婦になったり家族になったり、そしてまた別の家族で育った者同士が新しい家族を作っていく。
本書の後半にそういうテーマが前面に出てきたのは、作者自身が人の親になったことが大きいのではないか。作者は結婚したから妻になり、子供を産んで初めて母になった。そうやって自分以外の誰かがいて初めて自分に立場や役割が生まれていく。連載中に そういう感覚が生まれたからこそ本書の後半のような展開が生まれたのではないか。
そう考えると本書は作者自身の立場の変化が色濃く反映されており、作者の人生の変化があったからこそ生まれた作品と言えよう。人気作・長編連載・漫画賞受賞・実写映画化などエピソードに事欠かないが、それ以外でも きっと作者の中でも忘れられない作品になったのではないか。

そういう実感がこもっているからこそ、最後の最後で功太が見つける一つの答えが とても素直に響いてくる気がする。

まぁ、そういう家族に重きを置いた作品を初期からの読者が読みたかったかとは思えないけど…。ただし、典型的な別冊フレンド特有のワンシチュエーションの出オチ漫画(職業モノ、年の差、結婚)の枠から出てたからこそ本書は同じことを繰り返さず、出涸らしにならずに済んだのではないか。いずれ高校生と警察官が接点を持つような胸キュンシチュエーションも枯渇し、2巻ごとに性行為をする/しない のエロの切り売りみたいな話になるぐらいなら、絶対に こっちの方が良かったと断言できる(同じ全16巻なら)。
リアルタイム読者でカコと同じ年代の人が読みたい内容とは方向性が違ったかもしれないが、本書の内容だからこそ、5年後10年後、読者の立場がカコから功太へ、そして この『16巻』のラストの2人の年齢に達した時に、絶対に見えてくるものが違うと思う。それは本書のラストで功太が理解する感慨に近いと思う。かつての読者が いざ自分が結婚する時に読んでみると、また違う感動が去来すると思う。


祭りが行われている養護施設に刃物を持った男が乱入。自分の家族と功太の父親を刺殺した元少年・セトが刺されるのを目撃した唯(ゆい)と一花(いちか)は どうにか逃げるが、カコだけが途中で はぐれてしまった。
近くにいた大神だが唯たちの無事を確保することが自分の使命と考え、カコの探索は深追いせず、唇を噛みしめながら自分にとって最良の選択を取る。少女漫画的には、ここで大神にヒーロー的な行動を取らせると話がブレ、終わったはずの三角関係の再燃と見えてしまうことを回避したのでしょう。そして ここで大神が一花のヒーローになることも今後のフラグなるのか。

カコは恐怖で動けなくなった子供たちと一緒にいた。子供たちを守るために自分の恐怖心に打ち克ち、犠牲になることも覚悟するカコ。ここでカコが恐怖に負けないのは、それだけ真剣に子供と関わる仕事の重みを考えたからか。

現場に駆け付けた功太は、カコを助けるために突入する。その際、大神はカコを放置したことを謝罪するが、安堵し、無事を確かめ合う唯や一花の姿を見て、自分が守ってきた者がいることを実感する。彼にとって最初の人助けであり、この行動が彼に自己肯定感を与えるのではないか。

カコは功太に発見され、残された子供たちと警察に保護される。だが功太はカコから元少年・「セト コウタ」が刺されて、まだ園内にいることをカコから聞かされる…。

人を確かに助けられた。功太の言葉によって大神は自分の行動が後悔ではなく自信になったはずだ。

設を襲った犯人はセトと施設内の一室に籠城していた。それはカコたちに向かって歩きだした犯人の足にセトが しがみついたから。彼のお陰で被害は最小限に済んだと言える。セトが本当に人を殺すことに躊躇しないサイコパスなら こんな行動は取らないだろう。絶対悪が登場したこともあるが、不穏な描写の多かったセトの中には倫理観が働いていることが分かる。

セトの妨害に怒りを覚える犯人はセトだけは殺そうとするが、そこへ銃を構えた功太が現場に突入する。
銃を前にして自分が未成年であることを声高に主張し、セトの首にナイフを当てた状態で密着した状態となり、功太がセトを撃つ可能性があることも含め、彼の発砲を抑止しようとする犯人。
そんな状況下でも、犯人よりも冷静に功太に向かって撃ってと言うセトの勝手な言動に犯人は興奮する。それを鎮めるのは功太の威嚇射撃。

犯人は ようやく恐怖を覚え、手が震え出すが、その動揺をセトは更に挑発する。この言動はセトが犯人を動かすための、そして功太に射撃をする理由を作るためだろうとも考えられるが、セトの真意は後に明らかになる。

犯人が刃物を振り上げた瞬間、功太は発砲する。弾は犯人に当たり、右肩を負傷し、犯人から抵抗の意思を喪失させた。これは功太の狙い通りだろう。忘れられている設定かもしれないが、功太は銃の腕前は、警察学校の同期の中で一番 成績が良かったのだ。その伏線をもっと大っぴらにしても良かったと思うが、本編では触れられないまま事件は次の展開を見せる。

犯人を確保する功太の後ろで、セトが犯人が用いた刃物を持って…。


れはセトが功太を襲うためでなく、自分を殺すために振り上げられた刃物だった。功太は それを止めるために怪我をした。自分の父親の仇を功太は身をもって助けたことになる。それは功太が警察官だから取った行動。それに加えて、ここでセトが楽になってしまったら、本当に功太は自分の罪を自分で背負うしかなくなる。功太視点からすれば、セトが のうのうと この社会で生きていることが、自分と彼を結ぶ線であり、それによって自己嫌悪の半分をセトに押しつけられる部分があるのではないか。

ちなみに犯人が未成年というのは嘘で、発砲も目撃者がいたため お咎めなし。ギリギリのタイミングではあったが、功太は同僚の到着を待って発砲したと言える。犯人の未成年設定は姑息さを表しているが、その事実はなかったとするのは これ以上 物語をややこしく しないためだろう。今回の犯人が あの時の少年・セトと同じような背格好だったら功太は どうしたのだろう、とは思う。

あの日と同じように、同じ人間が功太の前で刃物を持っている緊迫した状況。セトの真意は⁉

件は終わり、怪我人たちは病院へ運ばれる。自分の治療が終わった後、功太はセトのいる病室へ入る。

セトが犯人を わざと挑発したのは この状況を利用して、セトは自分が死のうと考えていたから。人を刺した自分が誰かに刺されることを絶好の機会とし、犯人を挑発し、社会では裁かれなかったが自分の中に残る罪の意識を消そうとした。

その考えを知り、功太は自分もセトも、罪の中で生きていることを知る。セトが誰かから裁かれたかったように、功太は誰か=セトを憎むことで苦しみから逃れようとしていた。憎むべき相手に自分との共通点を見出してしまったことで功太は新たな苦悩を生む。

だが、その憎しみを功太は捨てる。誰かに転嫁せず自分の罪を自分だけで背負って生きていく。それが功太が出した答えだった。もう二度と交わることのない加害者と被害者家族の交流だが、この交流が彼の中の意識を変えたことは間違いない。

そしてセトも自分の罪と正面から向き合うために、自分の記憶が欠落している、功太の父親の刺殺の瞬間を知ろうとする。功太にとって その話をするのは、ましてや犯人に直接 聞かせるのは とても精神に負荷がかかる事だと思うが、自分と同じく、自分のしてしまったことに向き合おうとしているセトが、父の死を二度と忘れないものにするためにも、この話はしなくてはならないことなのだろう。

その話を聞いてセトは少し変わる。彼にとって呪縛の象徴であった「コウタ」という名前。自分が父親と同じような年齢と性別の人間に そう呼ばれることで錯乱し、人を死なせてしまった名前だが、カコが功太の名を愛おしそうに呼ぶのを聞いて、彼の中の名前の呪縛が消えていったという。これは聖母たるカコの想いがセトに変化をもたらした事象の一つ。それに加え、カコは功太との意見の相違の中でもセトと関わり続けたから、彼から本音を引き出せたと言える。自分が築き上げた関係に無駄なものなど ないのだ。

彼もまたコウタという名前を背負って生きていく。2人のコウタは自分自身を許せないが、自分のしてしまったことに自分自身で責任をもって生きていく。これが本当の「強くて立派な大人」への第一歩なのかもしれない。現在(2022年以降)の成人年齢は違うが、セトが20歳になって初めて大人としての第一歩を踏み出したと言えるのではないか。


こから季節は流れ、全員の進路が決まって卒業式を迎える。卒業式の後、同級生全員で功太のいる交番に顔を出しても、最後まで功太は塩対応。この辺は最後までブレなくて良い。

そして卒業式から更に1年後、2人は約束通り、結婚式を挙げる。最後までカコの事情を知らなかったジロウも この日、ようやく事態が呑み込めたらしい。結婚式ではカコが聞けていない言葉が聞けた。
『16巻』の表紙は結婚式の格好だが、2人の その格好を見られるのは たった7ページほどである。これはこれで表紙詐欺な気がするなぁ…(笑)

あっという間の結婚式から また数年後(約7年後ぐらいか?)が経過する。

大神家に新しい命が生まれたことで、唯の中にある大神母への抵抗感が薄れたからか、唯は大神家の養子に入るという。これで大神家は、高校教師の原(はら)先生、大神の母、大神、唯、大神の異父弟の5人家族となる。こうして安定した家、そして職を持つことが大神の心の安定となる。上述の通り、本当に他人同士でも家や家族が作れると証明するのが大神家の役割のようだ。大神家に本当に血の繋がらない唯がいることが家族という言葉の幅の広さを示していて、長い長い唯編にも意味があったのだろう。
唯が本当に大神の「妹」になることも本当に喜ばしい。もう この頃には とっくに成人していることもあり実の父親とは完全に縁(戸籍上)を切ったということなのだろうか。これもまた安心材料の一つだろう。

ジロウは二児の父となり、そして妹の一花は高校生となった。これはもうすぐ大神と恋愛できるフラグですね。作者によると その可能性は ここから10余年必要みたいですが…。そういえば「おまけ」ページにあるJKになった一花の姿は綺麗というよりも可愛い。キツネよりはタヌキで、唯よりもカコに近い。美人が苦手な大神も この顔なら受け入れられるのではないか…。

ラストではセトのその後も明かされる。ここでは彼が同僚から「幸(コウ)ちゃん」と その名前を呼ばれていることが大事だろう。呪縛である名前を親しみを込めて呼んでくれる人たちを彼はきっと大切にするだろう。


コと功太の間にも一児が誕生している。その子は女の子で、つーちゃん こと 椿(つばき)という。児童福祉関係の職に就いているであろうカコは もうすぐ職場復帰するという。それに合わせて功太は刑事課から警務課に異動するという。それは子育ての協力のためである。ここ数年は念願だった父と同じ刑事課への配属だったが、今の功太には それよりも優先すべきことがある。功太の刑事課への執着は彼が父の後悔として引き受けた部分も大きいのだろう。父が歩んできた刑事の道をそのまま進むのではなく、功太自身の人生を生きるという分岐点とも言える。これもまた功太の中の呪縛が一つ断ち切れた事象といえよう。

その娘を連れて、自分の両親の墓参りに来た功太は、そこで初めて「親」の気持ちが分かる。きっと父は息子を守れたことを誇りにしていたはずだ。その行動には紛れもない家族への愛が込められていた。自分が その立場になって初めて実感する父親の気持ち。功太にとって ずっと分からなかった父親という存在。しかし今、通わなかった気持ちが通う。功太のトラウマは全てが無くなることはないかもしれない。ただ年齢や立場が当時の父親に近づいて、そして同じ視点に立って分かることは まだまだあるはずだ。そんな予感を秘めながら本書は幕を閉じる。