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少女漫画と小説の感想ブログです

2022年04月の民法改正前に読まないと、高嶺さんが ただのロリコンになるぞ。急げ!

高嶺と花 1 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

姉が拒否した父の勤め先の御曹司・才原高嶺とのお見合いに身代わりとして出席した女子高生・野々村花。高嶺の横柄な態度にブチ切れ、当然破談と思いきや、高嶺が「お前を気に入った」と言い出し連れ回されるように…! 大人げない高嶺の態度にムカついたり、笑ったり、惹かれたり!? このお見合い、良きご縁となるや否や…??

簡潔完結感想文

  • 俺様キャラが苦手な作者が描く俺様は高嶺様。高慢の中に実績と可愛げがある。
  • 年齢差、社会的格差を埋めるのは頭の回転。男女間の恋のマウンティング合戦。
  • 結婚前提の「見合い」なら16歳を連れ回す合法的な理由となるが 民法改正…。

見合いは、夫婦(めおと)漫才、または夫婦ゲンカ芸の練習、の 1巻。

まず差し当たっての問題は、本書の賞味期限について。
もしかしたら本書は2022年の04月までに読まないといけない のかもしれない。
なぜなら民法が改正され、女性の結婚年齢が16歳から18歳に引き上げになるから。

本書は16歳の女子高生が姉の替え玉として26歳の男性と見合いをするところから話が始まる。
紆余曲折あって、彼に気に入られた女子高生・野々村 花(ののむら はな)は、
大財閥の御曹司である才原 高嶺(さいばら たかね)に連日のように、
学校前で待ち伏せされ、プレゼントと食事に連れ出される。

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初登場時の厚化粧もそうだが、高嶺と一緒にいる時のヒロイン・花の顔や衣装は変なことが多い。

高嶺は、女子高生の花を「お見合い」の名の元に合法的に連れ回している。
結婚可能年齢に達している16歳の花と ゆくゆくは結婚する(かもしれない)という大義名分が、
彼の行動の僅かながらの正当性であった。

だが民法が改正されれば、「合法的」が消滅して、高嶺は違法なロリコンに成り果ててしまう。
結婚できない年齢の人を見合いの席に連れ出す人は いないだろう。
本書は その前提から崩れ落ちようとしている。

6年余りの連載を経て、2020年に完結した本書だが、怖ろしいほどに賞味期限は短かった…。


書は読切連載から長期連載に移行し、全18巻の大作となった。
その流れ・その巻数は、かのベストセラー、葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』とまるで同じである。
白泉社イズムが溢れた作品とも言える。

庶民のヒロインが、上流階級との邂逅するという展開も同じ。
白泉社漫画は上流階級など その世界のヒエラルキーが高めの人々が登場しがちだが)
『1巻』は漫画の自己紹介代わりに毎回、冒頭は金持ちの遊戯で始まるのも『桜蘭高校』との共通点か。

そして話を終わらそうと思えば2か月で終わらせられそうなのも白泉社漫画の特徴。
本書は特に顕著で、お見合い継続状態から交際や結婚に話を繋げれば、そこで話を終われる。
それは人気がなければ 即座に連載は打ち切りに出来るということでもある。

なので読者に設定が受けたことはいいが、それをどう広げるか、続けるかに作者の底力が試される。
全18巻の作品になったということは作者は毎回のアドリブ勝負に勝ち続けたということだろう。

『桜蘭高校』と違うのは、最初から男女の恋愛をメインにしていること。
お見合いという出会いもあるし、年齢差があって学園生活もないので、
前半はホスト部の活動の様子がメインで、恋愛が作品に持ち込まれるのが遅かった あちら に比べて、
最初から恋愛を描いて、しかも つかず離れずの良い距離感を保たなければならない。

分かりやすい「逆ハーレム」にならないのも本書の特徴。
物語の中心はずっと「高嶺と花」であった。

登場人物が多くて、ヒロインと関わる人が増えれば、
その人の話を、いわゆる個人回として消化できるが、本書には それもほとんどない。
一時期、女友達たちで話を横に広げようとした節はあるが、失敗したのか撤退したのかフェードアウト。

なのでヒロインが多人数で行動する訳ではないから、話に広がりを欠くのは否めない。
一度、本書に飽きてしまうと、全部が同じ話に見えてしまうかもしれない。

そして読書する際も一気読みには絶対に向かない種類の漫画である。
最初から恋愛関係なのに、遅々として関係は進展しない。
2人が互いに意地を張っているだけなので、合わない人には ここも苦手な所だろう。
段々と、ゴールにたどり着かないようにするだけの漫画に思えてしまうだろう。

作画も背景が凝っているわけでもないし、
2人が交互に出てくるような作画が続くので、読み込む部分も少ない。

きっと新刊発売時と同じように、数か月に一度 楽しむぐらいが適切だ。


愛げが根底にある2人のキャラクタが物語を支えている。

陸上部に所属する花を高嶺が分析した言葉が面白い。

「勢い任せに行動することがあるから長距離は向いていない気がする」
「負けん気が強いから全部 猛ダッシュってイメージ」

その通りで、高嶺が彼女に一目置いたのも、
高嶺の高慢な言動に耐えられず、彼に「毛ほどの興味も ねー」と捨て台詞を吐いたからだった。

その実、素直じゃないところや乙女の部分もあるから可愛い。
何だかんだで2人ともピュアだから、読者も応援したくなるというものだ。

本来はエリート中のエリートの高嶺と、頭の回転を武器に丁々発止とやり合う姿も頼もしい。
知識や経験は勝てなくても、人としての互角に勝負できるところはある。

そして高嶺。
作者は「俺様キャラ」が苦手らしい。
その中で「それっぽいものを描いた」のが高嶺というキャラ。
だから愛嬌がある。

しかも26歳という社会人経験が彼の「俺様」を保証している。
彼は自分のなりたい自分になった人である。
外見以外に取り得のない高校生の「俺様」が、ただ ふんぞり返っているのとは訳が違う。
そして大方の高校生の俺様は最終的に信じられないほど丸くなって かつての勢いを失う。
だが、高嶺さまはアホなので、最後まで高嶺のままでいてくれるところが頼もしい(笑)

花と同じように、肩書ではなく「丸腰」の彼に どんどん惹かれていく。


下の大財閥・鷹羽(たかば)グループの御曹司との見合い、これが全てである。
ちなみに『1巻』の内容は、本格連載前の読切短編、好評を得ての短期連載と続くので、話に連続性は ほぼない。

本来の見合い相手だった花の姉は すこぶる美人で、
その姉を高嶺の祖父で鷹羽グループの会長が一目で気に入り見合いを持ちかけたという。
会長は慎ましやかな一般家庭のお嬢さんこそ伴侶に相応しいという考えもあり、花の姉が選ばれた。

ただ、そもそもが会長が外見で人を判断して認めたのだから、
見合いの席の近距離で、姉か そうでないかは一目瞭然だと思うが、そこは お約束。

相手方に断られて円満に破断するのが花に課せられた本来の役目。
花の一家は庶民であるが、この玉の輿のチャンスに誰も乗ろうとしないところが見所。

そこへ現れた高嶺は長身でスタイル抜群の男前。
花が見とれるほどである。
一流大学卒業後、留学を経て、現在 部長待遇だという。
経歴は「エリートよりエリートより更にエリート」。
花が高嶺の経歴を知るのも、彼という人柄に触れて魅力を感じてから。
ある意味で、どんな女性よりも とことん高嶺に興味がないのが花なのです。

高嶺は開口一番、花の厚化粧を酷評する。
近付く女性は全て財産目当てだと決めつけるほど、彼は歪んでいた。
その辛辣な言葉に耐えられず、花は反撃をして見合いの席を退出する。

それが高嶺の興味を引くことになる。
というか、プライドを傷つけられたことが許せないだけかもしれない。
彼に幻滅する女性は多くても、悪し様に言う女性はいなかったのだろう。


日から高嶺は自宅に花を迎えにくるようになる。
父親の解雇を避けるためにも、花は同行せざるを得ない。
この脅迫行為、そして連れ回し、未成年者略取誘拐の罪状に相応しい行動だ。

高給外車に乗って、高級ショップでドレスを新調し、高級レストランに連れてくる。

だが、少女漫画界には腐るほどいる御曹司と高嶺が違うのは、
高嶺が花を着飾るには理由があって、花が着てきたような みすぼらしい格好の女性が横にいるのは、
自分が恥をかくから、と言い切るところだろう。
そしてドレスもプレゼントではない。
花のクローゼットに保管を命令するために買った。

その言動で花は高嶺の本質を見抜く。
女慣れしてない内面的魅力に乏しい人間だと見抜く。
それが玉の輿目的の女にばかり群がられる理由だし、
見合いをさせられたのも、彼自身の力では結婚できないと思われたからと推測する。

だが、高嶺は花の行き過ぎた言動に耐える。
今日の目的は花が見合いをする経緯を知ったから、被害者でもある彼女に謝罪をしたかったらしい。
絞りだしたような、恥辱に耐える態度ではあったが、誠意を通した。

そして花の無礼な言動に対して、壁ドンをして反論する。
壁ドンはしてみたものの、その後 どうしていいか分からない高嶺は可愛い。

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俺様キャラも唐突な壁ドンも作者は違和感があるっぽい。そのアンチテーゼが高嶺という存在⁉

高嶺の誠実な人柄に触れるたび、自分の方が騙していることに罪悪感を覚える花。

花は つい謝罪してしまうが、替え玉をバラすわけにもいかず、
その言い訳は自分の容姿の至らなさを卑下するような言葉になってしまった。
それを慰める高嶺に、花は彼が大人であることを感じる。

負けん気の強い人にはマウンティングをするけれど、
どちらかが弱っている場合は、傷口に塩を塗るような真似をしないのが、2人の優しい所である。


うして毎日のように会い続けるが、ある時、姉が事情を説明して謝罪すると言い出す。
この姉は ちゃっかり者で、高嶺のステータスに目が眩む側である。
姉との対比によって、花の純朴さが際立つのだが、あんまりにも酷い姉なので好きになれない。
長期連載になった時に動かしにくくなったのは この姉ではないだろうか。

お見合いの裏事情を知っても、高嶺は花を追いかける。
これで姉のような作品中一、二を争うような美人に交際を申し込まれても、
高嶺は外見的優劣で人を見ないという証明となる。

実は高嶺はお見合いの席から替え玉に気づいていた。
さすがの彼でも女性が23歳か16歳かぐらいは分かるらしい。
花を姉ではなく花としてちゃんと見て、そして毎日 誘っていたのだ。
…うっわ、本物のロリコン、などと思ってはいけない。

2人は壁ドンの、その先に進んで1話が終わる。
素晴らしい1話ですね。
読者人気を得るのも分かります。
まぁ、でも 本書の大半はやり切ってしまったのではないか、とも思うけど…。


込むほどの屈辱を覚えた高嶺は、ますます花に執着する。
少女漫画の世界でなければ、ただのロリコンでストーカーである。

2話目は「高級」な世界から離れ、高校生の花の身の丈に合った、低予算の町ブラとなる。
このデート、ならぬ、お出かけ で2人の距離は更に縮まる。

花は どちらかといえば姉が贔屓されていた家に育ったから、自分の希望を聞いてくれる人はいなかった。
だが、高嶺と出会って彼は、姉ではなく自分を選んでくれた。

しかも自分に合うための時間を捻出するために前倒しで仕事をこなしてきたという。

しかし急遽 彼が仕事に向かうため、
そこで高校生と社会人という年齢差や住む世界が違うことを急に意識してしまう。

落ち込む花だったが、高嶺にとっては社会人であることは猫を被ることでもあり、
花の前は自然体でいられる時間だということが分かる。
不本意な事をすると すぐ体調 悪くなる」高嶺は、花の前では生き生きしているのだから。

花側の恋心の募り方が分かる話となっている。


3話目では、花との見合いは破談になっていると思っている会長が、
孫の高嶺に新たな見合い話を持ってきたことから起こる騒動。

その様子を見に行く花たち女子高生3人組。
友人A・B こと 光子(ひかるこ)と水希(みずき)が本格的に始動した回ですね。

この友人たちをメインに描く話もあるにはあるが、あまり彼女たちの存在は大きくならない。
高嶺が喜びそうな表現になってしまうが、
彼女たちが どんな恋愛をしても高嶺の前では霞む(もしくは二番煎じになる)ので、
割愛して正解だったと思う。


高嶺の見合い相手は美女。
それは花の姉を外見だけで見合い相手に選んだ会長だから予想は つく。

だが、今回は良家の令嬢らしい。
この事態を花は「庶民との見合いが惨事に終わったからシフトチェンジしたのだろうか」と推理する。
あとは単純に漫画的に、庶民の美人だと、かえって花が惨めになるからだろう。
世界が違うと思えばショックを受けないが、同じ世界で自分が選ばれなかったら惨めさだけが残る。

お見合い中、ずっと猫を被っている高嶺と、相手の女性の一方的な言い分に耐えられなかったのは花。
1話目の自分のお見合いといい耐えられない人である。
まぁ 今回は高嶺に対する怒りであって、耐えられないことが愛の証でもあるが。

彼らの前に現れ、高嶺の悪いところを言い連ね、女性に対し、彼自身を見てくれと要望する。
そんな花に驚くものの、彼女の言葉を我慢をしてきた高嶺は自分から見合いを破談にして、花を連れ帰る。

高嶺の言う通り、今回は花が初めて高嶺を訪ねて行った事例である。
そのことに得意満面、口角が片方だけ上がる笑い方で、花に優越感を覚える高嶺。

すごい。
普通の少女漫画なら「お前、もしかして俺のこと…」と一気に距離が縮まるところなのに、
高嶺ときたら「そんなに俺に会いたかったのか」と ご満悦だ。

花が恥ずかしがる場面なのに、まさかイラっとさせるとは。
あっ、もしかして上流階級の高度なテクニックで、相手に恥をかかせない、というジェントルマン精神か⁉
高嶺なら、ピエロを演じることで花を楽しませるぐらいのことをしそうだ。
その意味では底の見えない人である。

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3話目にして高嶺の生態に詳しくなっている花。浮気なんてしたら一発でバレるんでしょうね。

4話目で 花の陸上部設定が初出となる。
まぁ、特に物語に影響を与えるような設定ではないんですが。
上述の花の競技種目と性格の話を出したかったか。

この回で、幼なじみ の男子生徒、おかモン こと岡本(おかもと)くんも初登場。
ここで初めて花の見合いを知った岡本の「お前 結婚すんの?」という言葉で、花は結婚を意識し始める。

繰り返しになるが2022年04月までは女性は16歳で結婚が出来るから、
見合いの結果によっては、遠からず結婚する未来もあるのだ。

その事実に緊張する花だったが、高嶺は「どれだけ長引こうと 俺が見合いと言ったら見合いだ!」と一蹴する。
花は そのままでいい、と言ってくれる。
お前がいてくれるだけでいい(意訳)、なんてプロポーズの言葉ではないか。

ちょっと話の落としどころが3話目と似ていますね。
花が ただただ愛されております。