《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

内輪でのカップリングに定評のある みきもと作品だから、残った あの人 は あの人と…⁉

午前0時、キスしに来てよ(12) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第12巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

みきもと凜最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラSTORY最終巻!
「いつかオレと結婚しませんか?」突然のプロポーズにびっくり!!
さらに楓から日奈々へ誕生日に素敵な贈り物が…☆
おとぎ話のその先へと歩んでいく2人を待ち受ける結末とは――!?

簡潔完結感想文

  • シンデレラから始まった本書だが、最終巻では現代にアップデートされた価値観を提示。
  • 午後5時に魔法を解いてよ。長期戦だと言い聞かせて諦めきれないオレへの終戦宣言を。
  • 歳の差カップルだらけ? 最少は主人公たちの8歳差。最大は20歳差。12歳差は許容範囲⁉

きもと作品は、一度は遠キョリ恋愛をするのが宿命、の 最終12巻。

本書は感想文を書くために じっくり再読して良かった、と思う作品。
再読で見えてきたことが たくさんあった。
どうやら私は華やかな芸能人の姿に目を奪われ、本質が見えてなかったようだ。
本書のヒーロー・楓(かえで)の誠実な本質は、少女漫画屈指のスパダリと言えるのではないか。


作品の内容的には『11巻』までに全てが詰まっていると思うので、
この『12巻』は後日談のように思えた。

イケメン芸能人の楓側、そしてヒロインの日奈々(ひなな)側に片付けなければならない問題があったり、
遠キョリ恋愛問題や、最後の恋愛イベントがあったりするが、
もう2人の関係は盤石なので、それほど大きな問題とは思えなかった。

『12巻』で大事なのはプロポーズや結婚ではなくて、
日奈々が自分の足で駆けていけることを しっかり描くことだろう。

特に彼女が1人の女性として自立し、男性に寄り掛からないでも生きていける術(すべ)を身につけることが重要だった。

今回、日奈々に留学の話が持ち出される。
これは通常の少女漫画なら1巻ぐらい消費して、行くか行かないか悩むような場面だろう。
だが本書の展開は早く、留学の話が出た その回で、結論を出している。

そう日奈々が決断できたのは楓が後押ししてくれるからである。

そして この楓の態度を読者が すんなり理解できるのは、これまでの楓の誠実さを見てきたから。

私は再読して楓の大きな愛の形、そして彼の一貫した日奈々への態度に やっと気づいた。
確かに ずっと楓は読者が羨ましく思うほどの溺愛を日奈々に浴びせている。
だが、そこには楓なりの配慮と線引きがあることが再読で分かった。

楓は日奈々に対し、彼女の願望に合わせた等身大のデート内容にしてきたし、
彼女の家庭の事情には直接的に介入しなかった。
そして楓は自分以外の誰かを好きになる自由さえ許容した上で日奈々を愛し続けた。

その度量の広さを幾度も見せてきたことが、
楓が日奈々に自分の足で駆けることを勧める際の説得力に変わる。
そして それが日奈々が迷わずに、自分の道を進める根拠となっている。

また後々の展開を考えれば、お互いが夢に向かうというカップルの姿勢があったから、
楓は仕事の幅を広げることが出来たとも言える。
もし日奈々が内向きな志向だったら、楓も新しい挑戦をしなかっただろう。
もしくは日奈々も遠キョリ恋愛に対して消極的な意見を持ってしまったかもしれない。


ちなみに青木琴美さん の『僕の初恋をキミに捧ぐ』でも書いたが、
みきもと作品と青木作品は、
「禁断の恋」→「難病モノ」→「芸能人モノ」と長編作品で扱うジャンルが、
3作品連続で同じなのである(かなり広く捉えてだけど)。

王道3ジャンルを制覇した作者が次に どんな作品を描くのか とても楽しみです。


ンデレラの王子様は一目惚れで自分との結婚が彼女の幸せと信じて疑わなかっただろが、
楓は、日奈々が精神的に自立したことを見届けてから求婚した。
そして楓は日奈々を籠の中に閉じ込めるのではなく、自由に羽ばたいてほしいと願っていた…。

このところ悩まされていたスキャンダル問題も、
首謀者であるグラドルのマネージャーを標的にすることで無事に解決する。
でも逆上した彼がイケメン俳優がJKに手を出すスキャンダルを暴露したら一巻の終わりだと思うが…。
この問題に関しては、色々と価値観の釣り合わない部分を感じる。

一方、日奈々はピアノレッスンで、その才能を改めて認められて留学を提案される。

クライマックスでの留学や渡航は、みきもと作品では長編3作連続である。
『近キョリ恋愛』では完全に取ってつけたような別れの危機で、
『きょうのキラ君』ではキラ君が手術をするために海外に行き、永遠の別れになりかねなかった。
海外に行く切実な必要性があったのは『キラ君』ぐらいだろう。

そして本書でも少女漫画的な遠キョリ恋愛の可能性が示唆された。
またか、という感じもするが、これも日奈々が自立し、自分で道を進んでいる証拠であろう。
距離に負けないことが、その愛が揺るぎないことの証明となる。

それに海外の音楽大学というのは日本人読者には全く実像が分からないのが便利なのかなと邪推する。
日本の音大に進んでしまうと、約4年はピアノから離れていた日奈々が入学することになれば、
ピアノをなめんなよ、ということになってしまうが、
海外であれば、どのレベルの音大なのか分からないし、間口も広そうな印象だ。

考えてみれば日奈々は4年間「完全に」ピアノを触らずに過ごしてきた訳で、そのブランクは大きすぎる。
それを はねのける理由として用意されているのが、
主に小学校時代の日奈々が獲得してきたトロフィーの数々があると思われる。
これだけの才能が眠っていたのだから、結構なレベルまでは短期間で戻せる、という根拠になる。


学の話はピアノの先生を通し、母親に話が通されていた。
日奈々が心配する金銭的な問題も、妹の世話も何とかなると母は賛成する。

そうなると残る問題は楓との関係だけ。

日奈々が楓に その話をするのは、週刊誌の記事が取り下げになって、
改めて日奈々の誕生日祝いをしたいと彼がパーティーを催してくれた時だった。

ちなみに まだ楓の自宅では安心できないため、
会場はホテルの一室になるのだが色っぽい展開は皆無。

自分が彼に愛されている実感を噛みしめ、余計に離れがたくなる中で日奈々は留学の話を切り出す。
楓と離れてしまったら、せっかく彼が提案してくれた結婚の話が無くなると思って日奈々は躊躇していた。

だが楓は、日奈々が旅立つことを祝福する。
彼からの誕生日プレゼントは、ガラスの靴じゃなくスニーカー。
これは「どこへでも自由に駆けていける靴」。

楓が日奈々の靴を履かせるのは『1巻』と最終『12巻』の2回。だけど その2回では靴の意味が全く違う。

楓がプロポーズしたのは、
「離れたり会えなくなったときに『いつか』って約束があればさ 強くいられるかなと思っ」てのこと。

やはり楓の愛は彼女を束縛するものではない。
これまでも、これからも お互いの存在が前に進める勇気をくれる。
この決断を後押しするのは元々、毎日のように会えるような環境じゃなかったことも大きいのかな。

楓だって辛い訳じゃないだろうに、日奈々のために真摯に言葉を紡ぐ。
彼の気持ちを形にしたプレゼントは、
シンデレラの形式を踏襲しながら、全く新しい価値観を見せている。

『1巻』1話では完全に おとぎ話のシンデレラの意味で楓が日奈々に靴を履かせていたが、
最終巻では、彼女を羽ばたかせるために王子が新しい靴を用意するという対比が素晴らしい。
これは広く言えば女性の自立や社会進出を意味するものだろう。
お城で暮らせば幸せ、という価値観は もう古いのだ。


こから2話+サイドストーリーはメインよりも先にサブキャラたちの総決算となる。

女優・柊(しゅう)と楓のマネージャー・茂雄(しげお)の話は 逆シンデレラか。
王女様に下働きの平民が見初められる話も世の中にはあるよ、という話。
21世紀の男女平等の社会には おとぎ話も こうあるべきなのである。

そして、事実上は敗色濃厚な日奈々の幼なじみ・あーちゃん の話。
あーちゃん が日奈々の誕生日に贈った花の花言葉は「決して諦めない」。
そんな彼の心の内を知ってしまった日奈々は、あーちゃん と会う約束をする。

今日で これまで曖昧にしたままの関係が終わることを2人とも分かっていながら、
最後の時間を楽しく過ごす姿が悲しい。

一通り楽しんだ後に、日奈々は あーちゃん に頭を下げる。
日奈々の言葉が、完全に あーちゃん を振っていて良いですね。
自分にとっても辛い言葉を、自分を少しでも よく見せようなどと考えずにストレートに言える日奈々は強い。

それに ここで ちゃんと決着をつけるからカタルシスが生まれる。
もともと長期戦覚悟の あーちゃん には、分かりやすい終戦を告げなければならないし、
その役目は楓ではなく日奈々自身にしか務まらない。

あーちゃんが敵に塩を送って、日奈々の過去を楓に話したからこそ日奈々の未来は広がったんだよ…(泣)

なじみ王子様としては申し分のない あーちゃん だが、その価値観が少し古かったか。
日奈々の成長に対して随時アップデート出来ないところも、
どんな日奈々も包み込む楓との差になってしまった。
充希(みつき)に そそのかされて過ちを犯したのも大きい。

「もらわれっ子」で進みたい道を断念せざるを得ず、悲しむ日奈々の内情を知って、
あーちゃん王子は、彼女を守りたいと庇護欲にかられる。

長い時間かければ彼女はきっと自分に頼るだろうと あーちゃん は思っていた。
もしかしたら それは将来が安泰な あーちゃん に経済的な安定を求めてのことかもしれない。
または元の家での、心から愛されていないかもしれない不安やトラウマを抱えたまま、
それを忘れるように笑顔を絶やさなければ幸せだと思えるという妥協かもしれない。

だが、日奈々は守られる人ではなかった。
自立して、自分の道を選べる人になっていた。
そして この道を選べたのは楓と出会って、彼が大きな愛を示してくれたから。

こうして あーちゃん の恋は終わった。
ただし あーちゃん は特等席は譲らないという。
幼なじみという関係が、一緒に過ごしてきた時間がなくなるわけではないから。

ここで大事なのは あーちゃん が庶民の王子様だったから恋に破れた訳じゃないということ。
世間では楓が王子の最高峰だからといって、あーちゃん がダメな訳じゃない。
職業に貴賤はない。
違いは やはり日奈々へのアプローチの差であろう。


宅途中の日奈々を待っていたのは楓。
彼は あーちゃん に依頼されて、自分の胸を日奈々に貸す。
これは大事な人を傷つけなければいけない日奈々も つらいだろうから、
という あーちゃん のアフターフォローだ。

これは『10巻』における、楓がヨウの事件の真相を知る時の あやみ の気遣いに似ている。
あの時は、楓の溢れ出す気持ちを受け止める役として日奈々を同行・同席させていた。
あやみ と あーちゃん は顔だけじゃなく、心の持ちようも似ている。

日奈々のために彼女が見えなくなるまで涙を我慢する あーちゃん は格好良かった。
あーちゃん に一つ良いことを教えよう。
キャラへの愛が強い みきもと作品でカップルにならない人はいないのだよ。

この話のラストで あーちゃん の恋の お相手候補が出現する。
考えてみれば本書のカップルは どこも年の差が大きい。
この2人の年齢差は、日奈々と楓よりあるが、最大は柊と茂雄の20歳だから、本書的には あり な関係ではないか。
現段階では、この幼児を好きになるのか…と思うと、ちょっと怖いが。

それに この子は、あーちゃん が自分と遊ぶという口実で、
日奈々に会いに来ていることを知っているのだろうか(どうやら分かってるみたいだが)。

自分が姫扱いされていると思いきや、狙いは その家族。
なんか、再婚したら義父が義理の娘に手を出してきたような嫌悪感があるなぁ…。


サイドストーリーとして、親友役なのに影の薄かった るんちゃん へのカミングアウトがある。
人間観察番組の実名を出して、ドッキリを疑ってるのが笑える。
確かに、企画としてありそうだ。
何と彼女までも、内輪でまとめたがる みきもと作品の最後のフラグが立ったらしい!?


は流れ、もうすぐ日奈々の卒業間際。
この間に日奈々はピアノのレッスンと並行して、留学先のドイツの言葉の勉強を始めていた。
そして楓はハリウッド進出を果たし、日奈々の留学前から早くも遠キョリ恋愛状態だった。

日奈々の卒業式後には楓のハリウッド進出を祝して、ゆかりの芸能人たちが集まる会が催される。
学校を出た日奈々を待っていたのは、お面を被った楓。
(楓が被っている お面は『2巻』の夏祭り回でのお面と似ているが蝶ネクタイをしているから別物か?)

この芸能界同期会のようなパーティーでアイドルグループ・Funny boneは見納め。
役目を終えたら扱いが小さいなぁ。

楽しい時間を過ごしたが、日奈々の出発日が早まり、
楓とゆっくりできる時間が確保できないことが発覚する。

その事実に落ち込む楓を見て、日奈々は自分の落胆を隠そうとするが、それでも気になる。
一度は床に就くが、母に嘘をついて、楓から貰ったスニーカーを履いて、彼の家に駆けだす。

ここにきて、日奈々がずっと楓に自分から会いに行かないのが伏線になったような気がする。
彼女がワガママで楓の自宅や仕事現場に無断で顔を出したことはない、はず。
日奈々の自制心が解け、最後の最後で自分の願望のままに動いている。
お行儀の良い恋愛をしてきたのだもの、最後ぐらい好きをエネルギーに変えて疾走しても問題はない。
ここは日奈々から動くことが重要なのだ。

互いの同意を経て2人は、その先へと進む。
まぁ卒業式を迎えても3月31日にまではJKであることには変わりなく、
日奈々の誕生日は3月31日っぽいので、民法改正後も17歳の未成年に手を出した事実には変わりがない。
ただ作品のテーマがJKと俳優との恋だから、高校生の身分なのは問題ないのかな。

日奈々から近づけた一歩で2人は絆を改めて確かめられた。
これから離れていても きっと平気だろう。


終話には2つの結婚が語られる。
結婚式を挙げるのは柊と茂雄。
本編では日奈々の結婚式の様子はないから、その雰囲気を味わえるのが彼らの結婚式。

そして本編開始から10年余りが経過し、日奈々の妹・すずが女子高生になった頃、
日奈々と楓の結婚がテレビで報道される。

この場面が『1巻』の最初の数ページと同じという構成が秀逸だ。

この時、楓は35歳、日奈々は27歳である。
これは、主に日奈々の仕事が軌道に乗ったタイミングなのかな。
日奈々の肩書は「音楽家」。
10年前の彼女の夢はソリストになって世界中で演奏すること。
それが叶っているのなら、
日奈々が活躍することで、10年後の結婚も日奈々が一方的に「長い春」を耐え忍んだ、という形になっていない。
全速力で駆けていって、その先に結婚があった、という前向きな感じがする。

結婚に際して、女性の自立という意味でも、
国民的スター楓側の要請で日奈々が一方的に不利益を被ることがないという意味でも、
日奈々が自分で選んだ職業に就いていることは とても重要だろう。

楽家というのは日奈々もまた有名人になった ということではない。
彼女が自分で選んで、自己研鑽に励んで、その上で獲得した夢と地位という意味だろう。

でも、なんか楓が30代半ばになって結婚するのがリアル。
イケメン芸能人たちは、それぐらいの年齢まで結婚しないのもファンサービス的な風潮が日本にはある気がする(正しいとは思わないが)。

ちなみに、2人の結婚式の様子などは本編後、
インスタ風の写真投稿サイトの「楓の裏アカ」の投稿として紹介される。
35歳の楓は老けてはないが、恰幅が良くなった気がする。
白いTシャツで満面の笑顔、ってのは芸能人同士の結婚報告での定番ですね。


そういえば『9巻』で あーちゃん が「10年後は どうなってるか わかりませんよ!」
と楓に向かって長期的展望を述べていたが、
最終回のラスト数ページは その10年後が やって来たと言える。

その未来では、楓たちはゴールインして、
あーちゃん は別のJKとのストーリーが待っているのかもしれない…。