みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第11巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
みきもと凜最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラSTORY第11巻!楓の意外な過去に日奈々が嫉妬!?
初めての日奈々の反応に、むしろ楓は“距離が縮んだ”と喜んでくれて…!カップルとしてどんどん成長していく二人♪ そんな中、楓に熱愛スキャンダルが!?
楓のことが丸わかりなQ&Aプロフィール「綾瀬楓スペシャルインタビュー」も収録☆
簡潔完結感想文
- 楓に勇気をもらって日奈々も動く。過程が大事なのは分かるが即解決するなぁ…。
- 毒を以て毒を制す。報道側に楓の本来のスキャンダルを握り潰すメリットある?
- 物事の順序を何よりも大切にする本書。呪縛の解放で はじめて求婚可能となる。
少女漫画と民法改正は縁が深かった、の 11巻。
2022年04月に民法が改正された。
これは少女漫画的には事件であろう。
1つは女性の結婚可能年齢が16歳から18歳に引き上げられたこと。
これによって高校1年生ながら結婚してます、という「幼な妻モノ」が不可能になった。
そして逆に男女ともに成人年齢は20歳から18歳に下がった。
この改正が本書に影響を与えている。
本書は2020年08月までの連載で、民法改正前に連載は終わっているが、
この『11巻』の中で本書が18歳成人の民法改正後の世界であることが判明する。
18歳成人を本書が先取りしたのは、これが楓(かえで)のためになるからであろう。
超・真剣交際であっても未成年者と交際していることは、
イケメン俳優・楓のアキレス腱になり、マネージャーの茂雄(しげお)の胃を痛める事実。
そんな茂雄の悩みを早く解消するために、連載中に民法改正案が成立したこともあって、
18歳で成人する世界を いち早く取り入れたのだろう。
これによって2年間もビクビクする日々が短縮されるのだ。
それに楓が色々と我慢する日々も短縮されるし。
後述するが、楓は日奈々(ひなな)が成人するまでは誰を好きになってもいいというスタンス。
だが、成人するのが2年も短くなれば『11巻』時点で、あと1年弱の辛抱である。
成人後はヤキモチを焼きまくって、ガンガン束縛する楓になるのかもしれない…。
私が本書で一番好きなのは、楓の精神的な豊かさかもしれない。
彼が どれだけ日奈々を想っているかが、彼の行動の端々に出ている所が好きだ。
そして それは金銭面に最も表れているように思う。
1つは何回か書いているが、デートの内容の慎ましさ。
稼ぎに対して大変 慎ましいデートを重ねていることが恋愛の純度を上げている気がした。
出来るのにしないことが多いのが楓の思慮深さだと思う。
例えば金銭面で言えば、楓は日奈々の進みたい道の援助も可能だったはずなのだ。
日奈々がピアノの道に進みたい、と知った時から、
楓ならレッスン代など進路にかかる、諸々の経費を出すことは出来るだろう。
「あしながおじさん」や「紫のバラの人」として彼女を援助するだけの力は楓にはある。
これは幼なじみの あーちゃん には絶対できない芸当。
もし誠実さが同じだとしたら、そこで差をつけるのも大人の手法だろう。
しかし それを楓は提案しない。
それをすれば日奈々の将来の道は開けるかもしれないが、同時に彼女の心をきっと縛ってしまうから。
楓の恋愛のスタンスは「片想い上等」なのである。
以前(『9巻』)での母との会話の通り、
日奈々が成人するまでに他の誰かを好きになったら、それでも構わないと思っている。
楓は そういう自由を日奈々に与えてあげたい。
だから、ちゃんと一線を引く。
自分が「出来ること」と「すべきこと」を しっかり区別している楓が私は好きだ。
「あとがき」で作者がずっと「イチャ」の度合いを気にしているのが、
私としては2人が どれだけ相手を思い遣っているかという精神的な充実があれば それでいい。
でも、やっぱりメイン読者は憧れのシチュエーションを詰め込んで欲しいのかなぁ。
冒頭は、楓と所属していたグループのメンバーの仲直りという大きな話が終わったので箸休め的な回。
20歳前後の楓が水着の女性に囲まれたパリピ満喫画像を見て、日奈々はショックを受ける。
あの楓にも調子に乗っていた、というか遊んでいた時期があるらしい。
日奈々にとっては、楓が先輩のヨウを死に追いやったという疑惑よりも、
1枚の写真の方がショックが大きいのではないか…。
そんな日奈々の狭くなった視線を広げるのは あーちゃん。
Funny bone関連の話が終わって、激似のメンバー・あやみ が前に出てこなくなれば あーちゃん は復活するらしい。
画像を見た際のショックで失礼な態度を取ったと日奈々は楓に謝る。
しかし楓は、こうやって遠慮なく感情をぶつけられることが、2人の精神的な距離の近づきと分析する。
確かに楓の言う通り、日奈々が こんなにも感情をむき出しにするのは見たことがない。
ここまで日奈々が明確な嫉妬をするのは初めてかな。
元カノ・柊の時は、その事実や相手が大きすぎて困惑するばかりだったし。
交際も長くなって「さかのぼり嫉妬」をするぐらいに、楓への独占欲が強くなったということか。
もしくは、画像の楓の周辺の女性ぐらいになら勝てると思ったからか…。
そして いよいよ日奈々は、母に自分の気持ちを正直に伝える。
ピアノがやりたいこと、将来はピアノに関わる仕事につきたいこと。
自分を押し殺して この家族の一員として役に立つことばかりを考えてきた日奈々の願望である。
そして ずっと心に引っ掛かっていた祖母と母の会話にも言及する。
母の優しさを理解しながら自分が遠慮していたこと、そして愛されたかったことも正直に話す。
「愛されたくて」と涙を流す日奈々を見ると、こちらも泣きそうになる。
私は『1巻』の日奈々の様子を見て、典型的なヤングケアラーだと思ったが、
母には日奈々が必要以上に家事をしてくれることを分かっていたようだ。
何度か娘にムリしないでと言ったが、彼女は生活態度を変えなかったので、
それが日奈々の居やすい環境を作るのなら、と黙認していたというのが実情らしい。
これはシンデレラのように一方的な使役ではなく、
お互いの同意があっての、家庭を円満にする暗黙のルールだったみたい。
結果的に祖母との会話も日奈々が悪く言葉を補完してしまっただけだった。
聞けばなんてことないこと。
だけど、その一歩を踏み出すのは、日奈々には とても難しかった。
自分は確かに愛されているんだ、
その実感を、母からの温かい抱擁で日奈々は感じ取る。
父は この会話を廊下で聞いていた。
「しばらく話を聞かせてもらった」という割には、
日奈々の第一声(ピアノがやりたい)から聞いている矛盾はあるものの、父も その進路を認めてくれた。
それは金銭的な支援を得るという意味でもある。
かつて祖母が日奈々にピアノの道を諦めさせたのは金銭的な理由が大きかった。
もしかしたら両親が、意味不明なぐらい長時間働いているから金銭的に余裕が出来たのかもしれない。
日奈々が祖母に話を聞かされた中学生の頃から4年以上は経過しているから、
この間に飲食店の経営状態も上向いて、家計も安定したのかもしれない。
そういう意味では、このブランクではプロになるには遅いが、
気兼ねなく夢に向かって進める青信号がともる良いタイミングだったとも言えるのではないか。
ただ、日奈々のトラウマの解消シーン、短くね、と思わざるを得ない。
日奈々の勘違いでしたー、で終わった。
順序としてはよく分かる。
楓の問題が解消されたから次は日奈々で、2人の精神的な距離が縮まないと生まれなかった展開。
でも、2人とも連続で勘違いのトラウマというのも、何だか消化不良。
本書が優しい世界なのは分かるのだが、全員が良い人だと歯ごたえがない。
こうして問題が解決し、万感の思いで胸がいっぱいの日奈々に、ちょうど話をしたかった楓から連絡が来る。
だが、それは交際報道が出る恐れがあり、マスコミに張り付かれているという情報だった。
ちなみに証拠写真として撮られたのは、『10巻』で貸し切りにしたはずのレストランでの1コマである。
ただ、記事として世に出る前に、楓側にある取引が持ちかけられる。
それが『2巻』でも登場したグラドルとのヤラセ交際報道を再び出す、というもの。
(このグラドル、ロクな人間じゃないので大成しないと思うが…)
グラドル側は日奈々がJKであることも把握していて、
以前からカメラマンと探偵を雇って楓の周辺をマークしていた(だから写真も撮れたのだろう)。
そうして所属グラドルが落ちぶれそうな窮地を脱し、商品価値を高めるのに、楓を利用するというのが相手側の計画。
グラドル側が大手事務所であっても、楓はともかく、新聞社や出版社からしてみれば、グラドル1人のために、
日本有数の若手俳優のスキャンダルを揉み消すことの利点が無いように思うが…。
(落ち目のグラドルとの交際報道より、楓が破滅しかねない報道の方が価値が高いし、利益も出るだろう)
この時、楓の説明を聞いた日奈々が「私のせいだ…」と思うのは、違和感があるなぁ。
楓は仕組まれた役を見事に演じる。さすが役者だ。
同じ相手との2回目の交際報道ということもあり、交際の信憑性は増す。
だが一方で楓の相手としてはグラドルは釣り合わず、彼の人気にも影響する。
報道の余波として、楓に関して ありもしないことも書かれる。
その際に使われるのが、『11巻』1話目で登場したパリピ写真なのが上手い。
あの話は分かりやすい すれ違いと仲直りの胸キュン話だけではなく ちょっとした伏線だったのか。
日奈々は、自身の誕生日にも自分から距離を置く。
だが誕生日当日、カメラを持った男性の尾行があることに気づき、
自分が追われる心当たりがある日奈々は、男性を問い詰めようとした際に、
その男性に振り払われ、昏倒してしまう…。
それを知った楓はマネージャーにも黙って日奈々が運ばれた病院に駆けつける。
だが そこに自分より早く彼女の傍にいられた あーちゃん の誕生日の花籠があることを認め、
再び日奈々との住む世界の違いを痛感してしまう。
日奈々が芸能人の楓を遠い世界の人だと感じるように、
楓もまた、普通の高校生活を送る日奈々との歴然とした差を感じていた。
この件に関して日奈々は被害者ではあるものの、またも楓の重荷になっていると考えてしまう…。
楓は怪我した日奈々に会うために無断で危ない橋を渡ったマネージャーに連絡手段を奪われる。
そのため連絡を待望する日奈々の電話は鳴らない。
そんな日々の中、母は落ち込む様子を見せる日奈々と楓の話をする。
楓が日奈々の将来を楽しみにしてくれていること。
彼女が母に先に聞けない質問をしてくれたこと、ピアノに進むかもしれない可能性を示したこと、
そして彼女が進む人生を「許される限り それを横で見ていられるかと思うと うれしいです」と言っていたこと。
そういう真摯な言葉だから、母は交際を認めた。
その楓の言葉の数々を知った日奈々は、自分が進みたいと思う道を邁進することを決意。
ピアノのレッスンを再開し、練習に励み、自分自身の生活を大切にする生き方に集中する。
…だが、楓とグラドルとの続報が再び世間を賑わす。
ここで動くのは あーちゃん。
日奈々の過去を話すことで彼女を託したはずの楓が日奈々を悲しませるのなら、
自分が日奈々を幸せにすると動こうとする。
が、それは直前で阻止され、楓は日奈々を攫って行く。
2人で静かに会話できる場所を探して、あの街の小さな映画館で語らう2人。
楓の行動や謝罪も日奈々は気にしない。
なぜなら もう第三者の話ではなく、自分の目で見聞きした楓自身をしっかり信じているから。
そして「おとぎ話」との決別も宣言する。
王子様との交際に執着して、彼に幸せにしてもらうのではなく、
「自分を大切にして 誰といても自分らしく自信が持てるように」なることを目標にする。
こうして、日奈々が自分の生き方を見定めたからこそ、道は開ける。
それが楓からの(将来の)結婚の約束である。
きっと自分の存在が彼女の生き方を大きく左右しないこと、
つまりは自立が楓のプロポーズ発動の条件だったのではないか。
自分との交際が日奈々に悪影響を与えることに細心の注意を払ってきた楓。
だが、彼女は早くも揺るぎのない生き方を見つけた。
同じ世界で生きることだけが幸せではない。
それぞれの場所で、自分の世界で生きるからこそ、人として対等な関係を築くことが出来る。
楓の提案は唐突ではなく、『9巻』の母との面談の時から将来的な願いはあるしね。
もしかしたら日奈々のトラウマは、
「もらわれっ子」に囚われていた自分ではなくて「おとぎ話」という呪縛だったのかもしれない。
生き方を見つけた日奈々にとって それは必要ない。
そして王子様のように、一方的に引き上げて、彼に幸せにしてもらうような生き方も選ばない。
それは これが最高の女性の幸せだと決めつける何世紀も前の古い価値観からの脱却でもある。