みきもと 凜（みきもと りん）
午前0時、キスしに来てよ（ごぜんれいじ、きすしにきてよ）
第06巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
みきもと凜の最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラStory！ 柊の家に突然呼び出された日奈々だけど、楓とのデートまでに解決しようと大奮闘!! そのかいもあって、日奈々と楓の恋はハッピーそのもの♪ ハロウィンデートでは、1分間キス（オプションつき）をすることに…！ そんなとき、Funny boneの充希が2人の仲を壊そうと行動を起こして──。いったい、なぜ!?
簡潔完結感想文
- 問題を1人で抱え、単独行動する少女漫画ヒロイン。そして戦わずして勝つヒロイン。
- ヒーローの力を借りずに問題を解決して本書は別の世界線に突入する。新ルート開拓。
- 芸能人に声を掛けられたらホイホイと独身男性の部屋についていく裏切りのヒロイン。
2人の恋愛関係は早くも成熟し、後半戦への覚悟が決まる前半終了の 6巻。
本書は この『6巻』で単調な胸キュンループから抜け出したと言えるのではないか。
イケメン俳優との恋愛という甘々な物語から、男女それぞれの苦い過去編へと世界線が移行する。
そして この『6巻』で主人公カップルの2人は それぞれ肝が据わった言える。
ヒロイン・日奈々（ひなな）は、降りかかるトラブルを1人で解決し、
天性の人格に加え、心が強くなり、その成長によって恋人を何度も恋に落とす。
その恋人でイケメン俳優の楓（かえで）は、自分が絶対に日奈々を手放したくないという決意を固め、
これまで目を背けてきた現実に立ち向かおうとしている。
全12巻の物語の6巻が終了し、次回からは楓の過去＝トラウマに足を踏み入れる。
少女漫画の標準的な構成からすると、終盤に男のトラウマを扱うことが多いので、過去編への突入は早めと言える。
ただ、序盤から日奈々には「もらわれっ子」問題、
そして楓には かつて在籍していたグループメンバーとの軋轢が ほのめかされていたこと。
トラウマが2つあるので進行も早め、ということか。
順調に作者の工程表通りに物語が進んでいる印象を受ける。
好感を持ったのは、過去編突入までの一連の流れ。
内田 柊（うちだ しゅう）という楓と同業の女性が、楓に急接近した2か月の映画撮影期間。
しかも柊は楓の元カノで、彼の過去も全て知っている女性。
そんな2人の関係と現状を、楓のマネージャーが 御親切に お節介に日奈々に伝えてくれる。
その不自然さはともかく、圧倒的不利な状況な日奈々が、
どう問題を解決していく過程に日奈々という女性の特性が表れていた。
そして大事なのは、この元カノ問題では、楓が一切動けない、ということ。
柊が元カノだということは彼女との撮影が決まった段階で日奈々に伝えていた。
自分の過去の女性関係すら隠し事にしない楓の誠実さが よく出ている。
だが楓は確定した過去の事は日奈々に話せても、
柊が自分に再アタックしてきていることは日奈々に話せない。
まだ柊が自分への好意を明確にしてない内は、柊を強く拒絶することは出来ないし、
この段階で、柊が自分をまだ好きかも、と日奈々に報告したら、
言わなくてもいいことを言い出す とんだ勘違い野郎である。
だから自分を巡る争いながら、楓は女性たちの静かなる争いにおいて蚊帳の外なのである。
日奈々が窮地に立っていることを楓は与り知らないし、日奈々もまた楓にＳＯＳを出せない立場にいる。
それに この一連の元カノ問題の中で、楓が日奈々を守ったら、より柊が惨めになるだけだ。
与えられた役を終えた柊を物語から排除するのなら、彼女を徹底的に打ちのめすことも可能だろう。
だが、作者には柊には今後も動いてもらうプランがあるし、物語的にも彼女は必要とされる。
それにキャラへの愛が強い作者は、自分のキャラを絶対に途中退場させない。
こうして元カノ問題には、日奈々が1人で立ち向かう必然性と必要性が出た。
今回、日奈々は しっかりと1人で問題を解決したことで彼女が守られるだけの存在じゃなくなった。
これまで ずっと問題に対して王子様の楓が現れて解決してきたが、今回は初めて例外的な事象となった。
そして物語は、ここから違うルートに入ったと言える。
また平和的に問題を解決した日奈々に天性のヒロイン属性が あることも表される。
どんな芸能人でも太陽のような温かさを持つ日奈々には敵わないのである。
この日奈々の強さが、楓にも影響を与え、彼の前にも別ルートが出現する。
楓は このところ抱えていた悩みを吹っ切った。
日奈々に普通の恋愛をさせられない罪悪感が、イケメン俳優の楓に、普通で堅実な高校生あーちゃんへの劣等感を生んでいた。
だが それでも、例え そういう恋愛であっても楓は自分から日奈々を手放すことなど出来ない。
それを痛感したから彼は、
日奈々を守るために遠ざけるのではなく、
彼女との未来を阻む弊害を自分から除去しようと動き出す。
まだまだ互いの過去を晒してはいないが、出会いから育んできた恋情は 元カノ問題を通しピークを迎えた。
冒頭の話に戻るが、出会いから2人の関係が揺るぎないものとなるまでが前半戦の6巻。
そして2人の過去のトラウマを解消し、未来を目指すのが後半6巻だと思われる。
地に足のつかないような夢物語の中に、地に足のついた堅実さが隠されている点が好ましい。
それにしても「あとがき」の楓のモデルについての記述、面倒臭い。
モデルについて「この人って、人はいない」「イメージを決めつけるのはよくない」と書いていながら、
この後で「前に作家さんに初めて楓のモデルを打ち明けた」とか言い出す始末。
そんな事 書かれたら熱心な読者ほど特定したくなるじゃないか。
どうやら特定の個人じゃなくて、2人の人のイメージ集合体らしいが、
ビックリするほど楓のモデルに興味がないから私からすれば、
作者は 読者に予想される状況に はしゃいでるという冷ややかな気持ちが湧いてくる。
言わないけど、匂わす、みたいな注目浴びたい願望を感じてしまう。
現実の芸能人とリンクさせて作品に良いことなんてないのだから墓場まで持っていって欲しい。
作者の あとがき には、妙な正義感と、人気と権力を持ったヲタクの面倒臭さを感じる。
一体どういう手段を使ったのか、皆目 見当がつかないが柊は日奈々の高校を特定して、文化祭に潜入する。
楓とのイチャラブ証拠写真を材料に、日奈々に別れるよう強要する。
そういえば柊は、この日 楓が文化祭に来るとは知らなかったんですよね。
その場合は、証拠もなく脅迫したのかな。
日奈々はバカ正直に認めそうだが、機転の利く人なら、
「内田 柊がいるーー！！」と大声を出して彼女を退散させそうだ。
その脅迫に対し日奈々は、どんなことをしてでも自分だけが犠牲になる覚悟を持つ。
トイレから帰ってきた楓に、日奈々は騒動を話さない。
ヒロインはトラブルを自分で抱え込むのが基本です。
日奈々の懇願に対し柊は週末に自宅に呼び出していた。
柊が日奈々に与えた役割はストーカーから逃げるためにした引っ越しの荷ほどきだった。
そこで柊は日奈々の真っ直ぐな性格を知り、そして打ちのめされる。
体型や美貌で勝てなくても、清らかな精神は誰にも負けないのが少女漫画ヒロインである。
一方、日奈々は昔の写真から楓の過去を柊から聞かされる。
彼を「王子様」と形容する日奈々に柊は反発する。
「王子なんかや なくて とても脆い人」
「そんな乙女モードの ふわふわした女には やっぱり渡せへん!!」と彼女の逆鱗に触れた模様。
いやいや その「脆い人」が壊れかけてた時に見捨てた人が何を言いますねん。
その時、柊の家のインターホンが鳴り、
ストーカーの再襲来と思い恐怖で動けない柊に代わって、日奈々は自分で撃退しようと箒を手に取った。
これが柊が日奈々を認める決定的な出来事となる。
ヒロインは正面衝突なしにライバルを降参させてしまうのだ。
唯一の脅迫材料であった画像を消し、もう日奈々に敵対心を持たない。
そして そこから柊とも仲良くなる、という いつもの みきもと作品の流れ。
これまで同様、最終回までには柊にも「つがい」が現れるだろう。
あーちゃん と恋愛の敗者同士だったりして…。
これと同じ時期に、楓と柊の急／再接近だった2か月にも及ぶ映画の撮影が終了する。
この撮影の終了と共に、柊のアプローチも完全に終わる。
また楓と会えなくなる日々になる前に柊は、自分のしてきたことを楓に懺悔する。
彼に しっかり好きだったと伝え、だからこそ日奈々を つい脅してしまった。
白旗を上げ、日奈々の人格を褒める柊。
柊が予想した通り、日奈々は楓と会っても、彼にこの一件を何も告げなかった。
その見た目以上の日奈々の強さに、楓は揺るぎない気持ちを持つ。
巻を跨ぐような大きな話が終わって、箸休め的なダイエット回。
雑誌に掲載された楓の肉体美と その努力に触発され、
コスプレデートするハロウィンまでに痩せるのが日奈々の目標となった。
なんとか目標を達成した日奈々。
当日、楓はオペラ座の怪人風のマスクとウィッグをつけてコスプレ＆変装完了。
今回は、顔がほぼ出ているけどバレません。
そういう約束なのです。
食事を抜いてきた日奈々のお腹が物凄い音で鳴って、デートは中断。
そこで日奈々は自分の見方が偏っていることを楓に指摘された。
溜息こそついたものの、楓は本当に怒らないですね。
怒らないけど、ちゃんと日奈々に行動を正すような言葉を並べる。
良い父親になれそうだ。
そして日奈々は、無理に自分を磨かなくても楓は、その本質に惹かれてる、と告げられる。
そのままの君でいい、という彼の言葉は、最高の自己肯定になりますね。
完全に甘やかされているとも言えますが。
根本的な事を言えば、痩せること＝自分を磨くこと としている価値観が偏っている。
こうやって少女漫画で そういう価値観を蔓延（はびこ）らせるから、悪循環が止まらない。
モデル業界でも痩せていることを美徳としていないのに。
まぁ今回は失敗例としているから いいのか。
この回で大事なのは、日奈々が柊の部屋で見た中学生当時の楓の写真の話題に触れる事。
それは楓の過去にまつわる大事な写真なのだが、今度は楓が誤魔化す。
楓が隠したのは多分、充希（みつき）の言う「ヨウ」という人で、
充希は その人の「仇（かたき）」を打つために楓を潰そうとしていることが分かる。
ハロウィンの夜の日奈々の帰路は、マネージャーの茂雄が車で送ってくれた。
そこでの楓を評する言葉は、歯が浮くよう。
「楓は俳優界では奇跡の逸材」「驚異的な演技力と稀有な存在感を もってる」
だから、役者が「天職」だと気づき、アイドルグループ Funny boneを脱退した。
その際に、現メンバーとの軋轢が生まれたらしい。
それから1週間余りが経った頃、楓に再び熱愛スクープが出る。
一般人でセミロングの女性という日奈々の特徴と合致する内容。
日奈々が記事を知る前に楓の事前告知と説明予告があり、
写真が一枚もないこともあり動揺は最小限で済んだ。
楓は、これは充希の情報リークだと踏んでいた。
充希は、マスコミにマークされている状態の今の楓が日奈々に会えば破滅、
会わなくても その距離が亀裂を生み別れが待つと踏んでの行動だった。
直接 充希に怒りをぶつけ「あの子をまき込むな」と訴える楓だったが、
充希から「おまえに そんなこと言う資格ねー」「人殺し」と言われ、その矛を収めてしまう…。
そこから1か月、日奈々は楓に会えない日々が続く。
もうカレンダーは12月になっていた。
そして楓は日奈々のメールにも返信しない。
これは自分に執着する充希が日奈々に対して過激な行動に出ないように、
日奈々への想いそのものを自制しているからだろうか。
それとも彼自身が過去に囚われ動けなくなっているのか。
距離を取ることで彼女を守っているとも言える。
が、それも言わなきゃ伝わらない。
メールの返信すらしないことに日奈々の不安は増す。
そんな時、日奈々に声を掛けるのは柊。
日奈々の立場を分かってあげられる人だから元気づけてくれようとする。
かつてのライバルは、早くも同じ巻で、いい人・友達に役どころが変わった。
そして この柊の役どころは これまで その立場だった あーちゃんが告白したことで、
一緒にいられなくなったこととも関係しているだろう。
いくら日奈々でも自分に好意を持つ あーちゃん と2人きりで遊ぶなど、楓に誤解されるような行動は出来ない。
それに、あーちゃんは日奈々を大事に想うあまり、楓のことを信用しきれていないし。
その点、柊は、自分に振り向きもしなかった楓の一途さを痛いほど分かっているし、
日奈々の孤独な思いにも共感できる最適な人材なのである。
ちなみに柊がＢＬを語る時の顔は何を表現しているのでしょうか。
よだれ は分かるが、顔が地味になるのが よく分からない。
柊と会うために彼女のマンションに到着した日奈々は、
予定より早い到着で時間を潰していたマンションロビーで、
楓が在籍していたアイドルグループ「Funny bone」のメンバー・あやみ に遭遇する。
あやみ は柊と2同じマンションらしい。
彼は日奈々に声を掛け、「話したいこと ある」と自室に呼ぶ。
そして それにホイホイついていく尻軽女・日奈々。
これはダメでしょ！
過去に充希に呼び出され、彼が指定する場所に行っていたが、自宅はもう次元が違う。
一緒の部屋に出入りするところを見られたら言い訳する権利もない。
これまで芸能人に薄いキャラ付けをしてきた作者。
お尻星人にナルシシスト、ＢＬ好きときて、あやみ は愛猫家。
ひょっとして作者の人格を芸能人たちに分け与えているのだろうか。
あやみ は同じグループの充希のリークを謝罪した。
彼が話したかったのは、それだけ。
そこから沈黙が続くが、楓との交際の様子を聞いてくる。
自分の存在が彼の脚を引っ張るリスクを考える日奈々だったが、
あやみ は日奈々は楓を邪魔していない、と言ってくれた。
そんな彼の様子に、この人は楓を嫌っていないのでは、と直感する日奈々。
だが、そう問うても彼は悲しそうな顔で「嫌いだよ」というばかり。
ちなみに、あやみ は顔が似すぎている あやみ と あーちゃん は共演ＮＧだろう。
一緒にいる場面があったら、絶対に見分けがつかない。
作者もそう思ってか、この2人が同じ場面になることは絶対にない（はず）。
あやみ の右目の ほくろ は個体識別のためにある。
楓にマスコミが張り付いていない日、彼は日奈々の家を訪ねる。
（この時も いきなり玄関前にいるのが気になるなぁ。オートロック仕事しろ）
そして楓の口から、彼の過去が語られる…。
