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日奈々「綾瀬さん⁉」 楓「いかにも、各巻で1回はトイレに立つ疑惑の綾瀬さんです」

午前0時、キスしに来てよ(5) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

みきもと凜の最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラStory! ふつうの恋人同士のようには会えないけれど、ゆっくりと愛を育てている日奈々と楓。だけど柊が、元カレの楓を取り戻そうと急接近!! そして、あーちゃんも日奈々への想いが弾け、ついに――。もつれ絡まる恋は、文化祭で波乱を呼ぶ!?

簡潔完結感想文

  • ストーカーを理由に元カレの家に泊まろうとする女。都内にはホテルが沢山ありますが?
  • 子供の世話する振りをして女性の家に上がり込む男。告白はしたが返答拒否なのもズルい。
  • 最後にライバル襲来。柊が日奈々の通う高校を知った経緯が謎すぎて ご都合主義に冷める。

イドルだって俳優だってトイレに行くんだぞ、の 5巻。

本書は誰かがトイレに立った隙に、何かが起こるパターンが多い事に気がついた。
『3巻』以外は、楓(かえで)がトイレに立つと日奈々(ひなな)が何かを見聞きするというパターンである。

『1巻』でのお店で客の楓への悪口を聞いて、
『2巻』では七夕デートでは楓の体調不良を電話で聞いて、
『3巻』は充希(みつき)がトイレから出てきたら楓と日奈々の交際を知り、
『4巻』はテーマパークでの あーちゃん との遭遇している。

そして この『5巻』では珍しく日奈々がトイレに行ったら楓がサプライズ胸キュンに利用したり、
最後には楓のトイレの立った途端、ライバル的存在の柊(しゅう)が登場した。

本書において、イケメン俳優の楓は最強のヒーロー。
日奈々を溺愛し、絶対に彼女に誠実な態度を取る楓に隙はない。
トイレに立った瞬間だけ、パーフェクトなヒーローの防壁が崩れるのかもしれない。

そのため、楓がトイレに立つたび、日奈々にあまりよくないことが起こる。
『2巻』では電話相手の楓のマネージャーから自分が会っている楓がさっきまで倒れていたことを知った。
『4巻』では幼なじみ・あーちゃん との事故チューでファーストキスを奪われた。
そして『5巻』もタイミングを見計らった柊が証拠写真を撮影していて脅迫されてしまう。

ここからしばらく楓の手を離れて、日奈々が1人で事態に対処することになるだろう。
これが日奈々の成長となるかどうか気になる所。

そして今後も楓がトイレに立ったら何か起こるのかも気になる。
いや、トイレの法則に気づいた今では、今後 楓がトイレに立ったら、それだけで笑ってしまうかもしれない。

彼が席を外した間で起きた内容によって、経過時間を推定し、
もし長時間 戻ってこなかったら大きい方を済ませたのかと思ってしまうだろう。
澄ました顔で戻ってくる楓を見たら、その後の胸キュンも台無しだ。


変わらず各人に不自然な行動が見られるのが気になる。

今回、最も気になったのは柊が日奈々の高校を数日で特定していること。
元カレの楓の交際相手がJKなことを知ったばかりの柊は、その週末の日奈々の高校の文化祭に現れる。

作品に好意的な意見を言えば、楓との会話で交際相手の子が週末 文化祭という内容が出たから、
そこから ある程度、候補を絞り込むことは可能であろう。

でも おそらく この時期は文化祭のハイシーズン。
23区の学校から絞り込むには決定打がない。

そういう細かい点をすっ飛ばして、描きたいシーンを描いていて、
そのお陰で 面白いシーンが続いているが、同時に腑に落ちない点が しこりとなって残る。

この感想文のように作品自体が重箱の隅をつつくようになったら物語から流れが失われてしまうのだろうが、
もうちょっと描きたいシーンへの繋ぎ方がスムーズにならないかと残念に思う。
画力の次は お話の作り方を磨けば、本当に素晴らしい作品が生まれるのに。


う一つ不自然に思うのは、楓のマネージャー・茂雄(しげお)が、
わざわざ日奈々に柊が楓と復縁したがっている、と伝える冒頭の場面。

これによって柊が楓の元カノというだけでなく、日奈々のライバルになる。
そういう転換点にしたいのは分かるが、
伝えないとフェアじゃないからという意味不明な理由で高校の前で待ち伏せして車に乗せるのは越権行為ではないか。

茂雄が そこまでする動機が全く見えてこない。
これが彼の優しさだとは私には思えない。
事態の推移を黙って見守るのが大人なのではないか。
それで柊が この楓を奪還したとしても、当人同士の問題だ。
マネージャーとしてはJKの日奈々とは別れて欲しいのに、
中途半端な優しさで知りたくない情報をリークする茂雄に これまでの器の大きさは見られない。

作品としては、茂雄に「簡単に楓と つき合えたことが恵まれすぎてた」という台詞を
日奈々に浴びせて、彼女を落ち込ませたいだけだろう。

楓は柊の態度を勘付いているものの、決定的な好意を見せない柊に対して あからさまな態度は取れない。
だから柊の接近を日奈々に伝えることはマナー違反になるだろう。
楓が動けないから、不自然に茂雄を動かして、よく分からない立場の意見で日奈々を落ち込ませた。

日奈々の心に波乱を起こしたいために、茂雄の大人の部分が消失した。
私は ここで初めて、そして作品中 唯一ここだけ茂雄が嫌いになった。
作品の展開を優先するあまり、こういう訳わかんないことをしないで欲しいなぁ…。


奈々を不安にさせたところに、当て馬あーちゃん登場。
楓にも言えない不安を話せる相談相手ポジションに納まる。

日奈々が ずっと遠慮していた楓への連絡も、あーちゃんが背中を押して、
万が一の時に笑わせる保険になってくれると言う。
あーちゃん は日奈々の恋を応援する一方、彼女の不安を払拭する役目で株を上げる、損して得取れ作戦なのか。

日奈々が電話すると楓も運よく休憩中で、話す時間が許される。
そして もちろん、奥ゆかしい日奈々からの電話を楓は喜ぶ。
日奈々が自分から動くことで、事態が好転していく。

こうしてライバルになった柊だが、彼女自身も素直でいい子だということが分かる。
天気が出来を左右する楓の撮影の成功を願って、てるてる坊主を作ってくれた。
みきもと作品に本質的に悪い人は登場しません。

自分の事で相手が笑ってくれる時、人は恋に落ちる(のかもしれない)。そして楓の隙になる子は良い子。

この際、柊が思い切って「友逹」として楓をご飯に誘う。
だが、楓は「好きな子が不安になるような ことはできない」と どこまでも誠実。

作者が良く描きたい人 × 良く描きたい人に間違いが起こる訳がない。
完全な悪役を作らない物語から誰も退場させることのない作風なのは前2作品で経験済み。
ただし、だからこそ作中で起こる波の低さにも繋がるのだが。


との会話中、楓は彼女の身体にアザがあることを見つける。
そして後日、ストーカー化したファンに車に連れ込まれそうになって逃げてきた。

そこで選んだのが楓の家という。
ちなみに柊が来たことのない今の楓の部屋(柊との交際時は別の部屋に住んでいた)に来れるのは、
充希から聞いていたという話。
どんだけ情報は共有化されているのだ。

ちゃんと対応できる柊のマネージャーは、子供の誕生日だから邪魔したくない。
友達は仕事中で、他にあてはないから、楓の家に来たという。
いやいや、世の中にはホテルがあるでしょうが。
ちょいちょい柊は少し狡猾なところを見せている気がしてならない。

どこまでも誠実な楓は駐車場の車で寝るという。
じゃあお前がホテルに行けよ、と思う。
きっと柊の近くにいて彼女を不安から守る、という理由が考えられるが、
この後で日奈々をより不安にさせる状況を作り出そうとする形跡が ありありと見えてしまう。
こういう不自然な流れがなければ、と本当に残念に思う。

この夜、柊が眠るまで話をする元恋人たち。
どうやら2年前に別れた時、それは柊がFunny boneから離れた時で、
「見てられへんくらいダメんなっとった」時期。
そんな時に柊に仕事のチャンスが来て、楓よりも仕事をとったことが別れの原因らしい。


奈々が楓の家に柊がいることを知るのは、翌朝の電話の最中。
その電話の途中で、柊が自分の存在を日奈々に知らせるために悪意を持って割り込んできた。
窮鼠猫を噛むではないが、本書では追い込まれた人は少しだけ らしからぬ行動に出るようだ。

この時の日奈々のショックは、『2巻』で日奈々の家に あーちゃんが来ている際の楓と同じだろう。
ここは意図的に同じ構図にして、双方に擬似浮気体験をさせて、その時の苦しみを味わわせているのかも。

柊の声を聞かれたことを察知した楓は、その日の夜に会うことを申し出る。
いつだって楓は忙しい時間を塗って、日奈々の不安を対面で晴らしているのがいいですね。
彼は電話や文字ではなく、会うことが最善と分かっている。
もしかしたら多少イチャつけば機嫌が直ると思われているのかもしれないが…。

不安の中にいる日奈々をエスパーのように感じ取り、あーちゃんが現れる。
鬼の居ぬ間に洗濯、撮影の拘束が楓を縛り、あーちゃんのターンを呼ぶ。
ただし、あーちゃん も日奈々の妹をダシにして、日奈々に近づく策士でもあると思う。

そんな時、意外にも早い あーちゃんの告白があった。

あーちゃん もまた柊と同様に追い込まれている状態。
だから少し険のある態度をとって、
日奈々に楓との恋愛は先が見通せない、捨てられる未来が待っているだけと日奈々に厳しい言葉を浴びせる。
そして焦りもあって、勢いで彼女に4年間の片想いを告げてしまった。

ここで彼が日奈々の返事を求めないのは、まだまだ この三角関係を継続させようという作品側の要望もあろう。
その帰り道、あーちゃん は楓の車が日奈々のマンション前に止まるのを見つける。
自分が日奈々に告白したことを告げて、正式に三角関係が成立した。

あーちゃん にとっては幼なじみポジションは頭ポンは出来るし、彼女の家に出入り自由で役得が多いが…。

接 会って楓から説明を受け、日奈々は安心し、
どこまでも彼の誠実な行動に自分が愛されている実感が湧く。

ただ いつでも会えない関係は変わらず、あーちゃんの言葉もあって不安になる。
一方で楓もあーちゃんの存在があるから、いつもなら選ばないような行動をする。
結果的に あーちゃん の告白が日奈々と楓の距離を縮め、
いつもより特別な時間を過ごしたことは皮肉である。

楓が日奈々を誘ったのはゲームセンター。
プリクラを撮りに行くのが目的だった。
これも普通の高校生カップルを目指してのことか。

日奈々は外出するが、妹が寝た後なので 9時位の常識的な時間だろうか。
(日奈々はシンデレラなので親の帰宅の0時までは自由時間となる。
 だが、寝ているとはいえ妹を1人家に置いておくのはどうか。そして親が早く帰宅したらどうするのか)

プリクラの機械は点検中で、今から別の店に行くのも時間が遅くなり、楓が設けるルールに反してしまう。

新しい2人が交際している証が欲しかった日奈々が落ち込んでしまうが、
それをフォローするのが楓というヒーローである。

クレーンゲームでペアリングを見つけた日奈々は興味を惹かれるものの、おもちゃだし 重荷になると楓に ねだらない。
まぁ 後はどこかで見たことのある展開である。
楓が渡してくれたペアリングが日奈々の自信になる。
けど、このところ落ち込んでは男性にフォローされるばかりの展開で飽きてきた。

帰宅は23時過ぎ。
0時のルールは守っているが、高校生が出歩いていい時間ではない。


ストは柊との直接対決。

日奈々の高校は文化祭直前。
せっかくの楓からのお家デートの誘いも、文化祭があるので断らざるを得ない。

その頃に柊は充希経由で日奈々のアドレスを入手し、日奈々にコンタクトを取ろうとする。
柊の狙いが分からずペアリングの効果も帳消し。
というか、芸能人の間でメアドが流出している状態が怖い。

文化祭で日奈々が動けないのなら、楓が動く。
変装をして、日奈々の前に現れ「いかにも綾瀬さんです」と登場の名乗りをする。
楓の変装はルパンや怪盗キッド レベルである。
もしかしたら彼の卓越した演技力も周囲に気づかされない要素なのかもしれない。

2人は あーちゃん のバンドを一緒に見て、
その後の会話で彼が実家の花屋を継ぎ「堅実」に生きる事を楓は知る。

高校生のあーちゃんの将来が既に確定しているから、
イケメン俳優だが将来の見通せない楓が不安になる、という設定が面白い。
まだ彼がバンドの延長で将来は音楽で食って生きたい、と夢見ていた方が勝負になったのか。

楓がトイレに立った隙を見て現れる柊。
どうやって日奈々の高校を特定したのだろうか。

そして脅迫。
マスコミにはバレないが、関係者や仲の良い人たちから順にバレていく。
周囲からの言葉で不安になるか脅迫されるかの二択で お送りする中盤戦である。