《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

芸能人は全員 ヒロインを狙うストーカー。いつの間にかに高校も自宅も特定済みの超展開。

午前0時、キスしに来てよ(7) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

みきもと凜の最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラStory第7巻! 微かに震える楓が語った辛い“過去”。すべてを聞いた日奈々の思いは…。そして迎えたクリスマス♪ 楓の家にお呼ばれして、すずと3人でほのぼのデートを満喫☆ だけど、その帰りに耳にした不審な音が、2人の平穏な日々を脅かすことに――!?

簡潔完結感想文

  • 怖いのは変えられない過去でなく、今、君に嫌われること。日奈々の対応は100点。
  • 甘いと評判の本書だが、本当は女性に甘いだけ。軽率な行動に謝罪の一言もない。
  • 証拠写真を撮らせるかのような行動に、筒抜けの個人情報。ヒロイン側ばかり不利。

強付会(けんきょうふかい)が、結構 不快な 7巻。

どんどん次の巻が気になる本書。
それだけ力のある物語を作りだすのは凄いことだ。

が、神がかっていない。
なぜなら、神は細部に宿るから。
そして細部が疎(おろそ)かな本書に神は降臨しない。

毎回毎回、重箱の隅をつつくような指摘をしていて申し訳ないと自分でも思う。
そういう読み方は、木を見て森を見ず、に陥るのも分かっている。

それを承知の上でも、やっぱり作者の話の持って行き方が気になる。
絵の繊細な描写とは反対に、不合理な流れを力で押し切ろうとするのが惜しくてたまらない。

ここまで進化した画力なのだから、話の細部まで美しい流れを維持して欲しい。
それが出来た時、作品に神は宿り、作者の名を不動のものにすると思うから。


回、気になるのは2つ。

1つは、エレベータで直接、地下駐車場に行けない楓のマンションの謎の構造。

『7巻』後半で楓(かえで)のマンションのエントランスで あーちゃん が待ち伏せしている。
いつものように、一流芸能人の楓のマンションのセキュリティが ゆるゆるなのは設定として黙認しよう。

気になるのは、楓の部屋から地下と思われる駐車場への動線
楓はエレベーターでエントランスのある階に到着し、
そこから一度 出て地下駐車場に向かっている。
なぜ直接、エレベーターで地下に行けないのか。
エントランス階のエレベーターの操作ボタンには下ボタンもあるというのに。
まさか こんな お高そうなマンションなのに、駐車場階と自宅階が直接 行き来できないというのか。

分かりにくいがページの変わり目で場所を移動している。本書は、恋は甘く 女性に甘く セキュリティが甘い。

そして誰でも入れるエントランスは まだしも、
あーちゃん が そこから地下駐車場に行けるのも謎の構造である。
そこに停まっている高級車に誰もが触れる可能性があるなんて、とんだ欠陥である。

あーちゃん に暗躍してもらうために細部に目をつぶったのは分かるが、
『2巻』での新人タレントの計画的なスキャンダルでもあるまいし、
わざわざ楓が自分の動きを あーちゃん に見せるようにしているのが不自然すぎる。


して もう1つ、日奈々(ひなな)の個人情報、芸能人に筒抜け疑惑。
どちらかと言えば、こちらの方が怒りが湧いてくる不自然さ。

『7巻』ラストで日奈々の家のポストに脅迫写真の入った無記名の封筒が投函されていた。

ここで問題なのは中身ではなく封筒を誰が投函したのか、ということ。
次の『8巻』にて この件に深く関わっている あーちゃん は、
楓を快く思わないアイドル・充希(みつき)の仕業と考えている。
犯人としては妥当だ。
そして この証言から日奈々の家に出入りする あーちゃんが充希に強要されてやった、という線は消えた。

えっ、じゃあ充希は どうやって日奈々の家を特定したの????

充希と日奈々を結ぶ線は あーちゃん か 柊(しゅう)。
前者は可能性がゼロで、後者も日奈々を認めた柊なら充希に日奈々の住所を教えるとは思えない。

日奈々の家に脅迫写真が送られてきた事よりも、日奈々の家が特定されていることの方が よほど怖い。
しかも本書においては、その特定手段は絶対に明かされない。

これと同じようなことが起きたのが『5巻』
その時は まだ一度も日奈々に会った事のない柊が、急に高校の文化祭に現れた。

なぜ日奈々の個人情報は、何の説明もなく、芸能人に握られてしまうのか。
全ては作者が この展開にしたいから、という理由でしかないだろう。

こういう合理性を欠く展開が、悪い意味で少女漫画的としか言いようがない。
もしかして作者は、この人は この情報を知っている/知らないの整理が出来ていないのだろうか。

私のような性格の悪い人間に嫌味を言わることのない神経の行き届いた作品を期待したい。


頭は、日奈々と楓の精神的距離が近づいたからこそ話せる楓の過去の話から。

過去の長い話になりそうなので訪問した楓を家に上げ、日奈々の自室で話す。

楓が日奈々の部屋に入るのは初めて。
これは より一層、日奈々の心に楓が入ってきた、という具体的成果でもあろう。
また逆に、楓が日奈々の部屋に入るということは、
彼が彼女のプライベートに入り込む覚悟が出来たということでもある。
多少の迷惑や負担をかけても、日奈々と歩く道を楓は選んだ、ということか。

初めてベッドの上でじゃれつく2人だが、
今回は楓の心の吐露が目的で、彼も そんな気分にはなれない。
なかなか口を開く様子のない楓に、日奈々の方から水を向ける。

そこから始まるアイドルグループ「Funny bone」結成秘話。

楓をスカウトしたのは あやみ だった。
彼に連れられた養成所で出会ったのは現メンバーの4人に加え、楓の2つ上の広瀬(ひろせ)ヨウという人物。
日奈々が柊(しゅう)の家で見た写真に楓と一緒に映ってた人で、
充希(みつき)が「ヨウの仇」と言っていた人だろう(『6巻』)。

いわゆるアイドル養成所の話になるのだが、
彼ら以外の人間は ほぼ描写されず、そこを運営する大人も出てこない。

「ヨウは研究生の誰よりも才能とカリスマ性が」あり、楓は初めて人の憧れた。
いつしか彼らは この6人でデビューすることを目標としていた。

だがヨウは事務所側から研究生たちのリーダー的存在として要望され、グループには所属しない方針になった。
時宜を見て、ヨウはあとから加入する可能性が残されていたため、
そこから2年、5人のFunny boneは必死に活動し、注目を浴びる存在となった。

グループの結成は研究生の自由に出来るが、デビューする際には人選に事務所側が口を出す謎システム。

うして順調にアイドル道を進み、いつか彼らはヨウを迎え入れるはずだった。
だが この2年間でヨウの人気に陰りが出ていた。
運営スタッフのように研究生の指導をしたり、またFunny boneのバックダンサーをしたり、
加入は叶わないまま、ヨウは便利に使われていた。

同じ頃、楓は演技の仕事をして、役者の仕事に魅了される。
それと同時に、彼の中でグループの仕事はヨウを含めた5人の仲間と一緒に過ごすための手段であり、幸福だった。
それが叶わない現状がアイドル業への違和感として膨らんでいく。

しかし その心と反対に楓はグループの中心人物として扱われ、彼の違和感は増すばかり。
やがて楓の中での違和感に限界がきてグループの脱退を申し入れた。

これはヨウの件抜きにしても、他メンバーのプライドを傷つける行為である。
一番後から入って来たメンバーが、兄貴分を置いてデビューして、
そして一番最初に脱退しようとしている。
この時点で楓のことを快く思わないメンバーがいるのは理解できる。
必死の努力も執着もしないで手に入れた物だから、簡単に手放せるのだろう。

このヨウの話は10代の少年がアイドルになる難しさが描かれているように思う。
本書ではヨウの容姿は2年間で それほど変わってないが、
現実では、成長と共に繊細な顔のパーツの配置や骨格が変わって、
ファンが望む姿ではなくなったりすることが少なくないだろう。
16歳の時に少年らしい100の輝きを持つ人が、
18歳の時に青年として100の輝きを持っているとは限らない。


ループ脱退を前にして、楓はヨウに会いに行く。
そしてヨウに「オレのかわりにFunny boneに入ってほしい」と提案する。

楓の失敗は全てにおいて根回しをしなかったことだろう。

メンバーへの脱退の報告も、時間をかけてメンバーを説得し、脱退までの道筋をつけるべきだった。
ヨウの加入の件も、「上」の人間に彼の加入の了解を取ってから話すべきではなかったか。
現実的に考えれば、メインの脱退を人気が下降している人間で埋めようとは思わないだろうし。
しかもヨウは彼らよりも若くない。
メンバー間の絆を売りにすることは出来るかもしれないが、フレッシュさに欠ける。

楓の提案はヨウのプライドを、既に擦り減っていた彼の最後のプライドまでも粉砕する言葉ではないか。

6人での時間が楓の幸せだったように、ヨウも6人での活動を目指していたから辛酸に耐えてきた。
だが、楓の脱退は、彼のその夢を間接的に破壊するものだった。

天職に巡りあってしまった楓の衝動は激しいとは思うが、
どうしてもヨウを加入させたいのであれば、
1年でも一緒にグループ活動をして、6人でのアイドル業の楽しみを見つけるべきだったかもしれない。
自分が飽きた おもちゃを人に恵んでやるのでは人は納得しないだろう。
彼は一緒に遊びたかったのだから。

夢が破れ、屈辱にまみれ、ヨウは涙する。
そして その2日後、ヨウはブレーキ痕の一切ない事故で他界した。
この悲しみの中、楓はグループを脱退し、メンバーとの亀裂は一層 広がる…。


を聞いた日奈々は、まず楓が一番 恐れていることを解消する。
それが「いつか君に嫌われるかも」という楓の不安。

嫌いになるわけない、それが日奈々の答え。
むしろ、言いたくないことを自分に話してくれたことが うれしい。
「大好きですけど。」

予想外の日奈々の行動に惹かれてきた楓だが、
この日以上に、日奈々の言動に救われたことはなかっただろう。

本書では誰もが1度は間違いを犯す。
日奈々に対して完璧な楓も、過去に人を傷つけたことがあった。
柊、そして この後の あーちゃん も焦りから、らしからぬ行動を取った。

そんな中で最強ヒロインとして君臨しているのが日奈々。
自らも複雑な思いを抱えながらも、清らかな心を保ち続け、周囲の人に好影響を与えていく。

そんな日奈々も、楓が自分の奥まで見せてくれた事に対し、
自分も同じく まだ楓に見せていない部分があることについて考え始める…。


12月は幼なじみの男性・あーちゃんの誕生月。
日奈々は彼のプレゼンをと一緒に買いに行く、という幕間の場繋ぎ。

えー、彼氏いるのにー??

どうして少女漫画ヒロインは逆のことをされたら被害者意識 丸出しなのに、
自分は異性とホイホイと遊べるのでしょうか。
こういう非対称性は あまり好きではありません。

柊が楓にアタックした時、楓はスタッフを含めた食事会や遊びの誘いでさえキッチリ断っているのに対し、
日奈々の無防備ヒロイン気取りは腹が立ってきます。

もちろん、この現場を楓に見られる。
日奈々が この日の内に楓と会うと彼は すねていた。
楓は日奈々を責める訳でもなく、むしろ やきもち という彼の言葉に日奈々は胸キュンする。
自分の軽率で誤解を与えるような行動や連絡不足に対して謝りもしない。

はぁ、本当に本書は甘い甘い。
女に甘い。
こういう女性にばかり都合の良い話は少女漫画好きでも納得がいかない。


よいよクリスマス目前。
日奈々は仕事が夜からの楓と、彼の家で会う予定(with 妹)。

あーちゃんが自宅に届け物をしてくれた時、充希から日奈々に呼び出しのメールが届く。

待ち合わせの日時と場所が指定されたメールを彼女は無視するというが、
充希が日奈々に害を及ぼす可能性があると知った あーちゃんが動く。
(一瞬メールを見ただけで、時間と場所を覚える有能あーちゃん)

日奈々の方は、楓の気持ちや彼らの仲に悪影響を与えないよう、彼に報告もせず黙殺する。
(毎度毎度、彼女が楓に連絡しないのは あーちゃんの言う
 「周りの人間に迷惑がかかることを 何より嫌がる」ような人物だからでもあろう)

充希の指定場所に現れたのは あーちゃん。

日奈々のために動き、彼女を守る言葉を連ねるが、
それによって簡単に充希に恋心を見透かされてしまった。

充希は あーちゃんの純情を利用して、彼に楓と日奈々の2ショットを撮ることを命じる。
あーちゃん は 自分が行動しなければ充希は他の手段で写真を入手し ばらまくから、
日奈々に一番 穏便な別れさせ方をさせるには、この方法が最適と考えてしまう。

充希は「利害の一致」といっているが、完全に脅迫である。
日奈々の性格を熟知し、彼女を守るために ここまでする あーちゃんにとって、
彼らの交際が世間に知られる事は、是が非でも回避したい。
こうして、あっという間に、あーちゃん は充希の傀儡となる。

あーちゃんの行動は、良かったのか悪かったのか判別がつかない。
例えば誰も充希のメールに反応しなかったら、ナルシシストでプライドの高い彼は、極端な手段に出た気がする。
あーちゃんという手駒が充希のガス抜きになっている可能性はなくはない。


自分が幼なじみに狙われているとも知らず、楓の家でのクリスマスパーティーを楽しく過ごす日奈々。

それを尾行するのが あーちゃん。
そこに日奈々、そして眠ってしまった彼女の妹を抱えた楓が出てくる。
その2人を追って、何とか駐車場で任務を遂行した あーちゃん。
(上記の通り、楓が謎の行動をしなければ、この写真は撮られなかったと思われるが)。


が明け、両親と妹は祖母の家に外泊する。
この場面の1コマで父親が初めて姿を見せる(遠めの座った姿で顔は判然としない)

日奈々は学校の課題があると3年連続 両親の里帰りに同行しない。
誰もいなくなった家でも日奈々は、家を掃除をしている。
こんなところは根っからのシンデレラなのか。

そこへ楓から連絡があり、彼が帰る実家へと招待される。
少女漫画的には相手の両親との面会は結婚フラグでございます。

ここで楓の一家が総登場。
イケメン俳優の楓も、実家では ただの息子で弟だということが日奈々には新鮮。
特に姉の前では舎弟となり、彼女の言いなり。

癖の強そうな姉だが、日奈々は持ち前のヒロイン力で彼女にも気に入られる。
過去の2長編が結婚エンド(番外編で)だった みきもと作品だもの、こりゃ結婚しない訳がない。

ただ温かすぎる楓の家庭は、日奈々を複雑な胸中にさせた。

今回、初解禁されるのが楓の飲酒。
ここまでの交際で、JK日奈々に合わせ、
高校生が少し背伸びした程度の お付き合いしかしてこなかった
楓なので(運転や その車は高そうだが)、飲酒する機会はなかった。

楓は飲酒すると豹変し、日奈々に獣のように迫る。
だが途中で楓は日奈々の膝枕で眠ってしまう。

窓の外の雪を見ながら、膝で眠る大好きな人に日奈々は自分の気持ちを初めて独白する。
家族への本当の気持ち、そして封印した自分の好きなことについて。
あっという間に眠った楓は、あっという間に起きていて、その話を聞いていた…。


日、日奈々が帰宅すると、何と母だけが先に祖母の家から帰ってきていた。

外泊はバレずに咎められなかったが、
彼女はポストに投函されていた封筒の中にあった写真を見ていた。

そこには あーちゃん が撮った2人(with 妹)の姿が写っていたのだ…。

ここで意外だったのは、この写真の使い方。
てっきり楓への脅迫材料にして、再び2人に距離を生ませるのかと思っていた。
だが、充希が選んだのは日奈々の家庭。
これは、あーちゃん が言った日奈々の性格を承知の上での選択だろうか。
あーちゃん は本当に余計なことを自分からペラペラと喋りましたね。

そして もし日奈々が外泊をしなければ、
例え、途中で母が帰宅したとしても、日奈々が封筒の第一発見者になった可能性は高い。
そうすれば親バレせずに済み、充希をヒロインパワーで退散させれば話は終わった。

これは親に嘘をついた罰なのかもしれない。
さて王子との交際が発覚した後、シンデレラは義母に どういう対応を取られるのだろうか。