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少女漫画と小説の感想ブログです

記者「女性の身体で、どこが一番 気に入られましたか?」 楓「尻! なんといっても尻です」

午前0時、キスしに来てよ(1) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

近キョリ恋愛』『きょうのキラ君』のみきもと凜最新ラブ。誰もが認める優等生・日奈々のヒミツの願い──それは“おとぎ話のような恋”をすること。ある日、日奈々の高校に超絶イケメン俳優・綾瀬楓が映画撮影で来たことが、日奈々の平凡な毎日を変えていく──。今はじまる、リアル・シンデレラStory。

簡潔完結感想文

  • 作者の「特殊な存在と、それに気に入られる私」という承認欲求を満たしていく3作目。
  • 勝手に落ち込むヒロインと、それをフォローする男性で胸キュンを起こす展開も3作目。
  • たった数時間でも ローマ風の休日を過ごせば、もうお互いの本質が分かり 揺るがない。

者の長編においては勤勉こそがヒロインに必須な性質、の 1巻。

間違いなく少女漫画界トップの画力と安定した内容を併せ持つ作品。
もし自分が同じ雑誌に載る漫画家だったら、作者と隣り合うのは嫌だな、と思うぐらいに優れた画力である。

本書は隣を歩くだけで自分に引け目を感じてしまう容姿を持つイケメン芸能人とJKの恋物語である。
長期連載を確保できる人気と実力があるからこその、構想のしっかりしたストーリー展開が魅力。

開始12ページでヒーローとヒロインの自己紹介が終わる。遙か高く、違う次元の2人が出会っちゃう!?

展開も早く、芸能人とつき合えたら、という読者の夢は早々に叶うようになっている。
2人が交際するまでの道のりを長く険しいものにすることも可能なはずだが、
それよりも芸能人との交際を読者に早く届けることを優先したのだろう。

これは作者の前2作の長編と構造が同じ。
男女は あっという間に2人で行動していく。

作者は常に読者が読みたいものを高クオリティでお届けしてくれる。

その一方で、世界で たった一人の男性に惹かれ、ヒロインが彼を選ぶことに説得力はあるのだが、
その男性が どうして普通のヒロインを世界で たった一人だと思えるかの根拠に乏しく思える。

展開が早いのはいいが、互いに溺愛状態になるのが早すぎて、
芸能界で生き、多くの人に接する機会のあるヒーローが、どうしてヒロインを選んだのかが弱い。
ヒーローの方が一目惚れ状態で固執するだけのものをヒロインに感じない。


して、本書の読書中ずっと同工異曲という言葉が頭から離れなかった。
意図的に間隔を空けていても2年半で3作品 読むと、作風の変化の無さが悪目立ちしてしまう。

真面目なヒロインは報われる、という点は同じだし、
胸キュンを生むためだけに すれ違いが用意されるのも飽きた。

ヒロインの名前が、ゆに、にのん、ひなな、と な行の丸い(?)語感を使っているのも、
作者がヒロインは こういう人、というイメージの共通性の表れのように思える。

そして各人に「お尻星人」やナルシシストとか ちょっとした特徴を与えているが、そのキャラ付けが全て。
いつまでも人物造形に深みが生まれてないのが残念。

作者はきっと自分が生みだしたキャラたちを悪く描けないのだろう。
そこが一定以上の平和な空気を生む長所でもあるが、
作者の過剰な愛で、子供たちの成長が阻害されているのではないか、とも思う。

基本的に良い人ばかりだから、ちょっと摩擦を生んだら、これまで以上に仲が深まるの繰り返し。
深く感銘を受けるような場面が少ない。


書は特に作者の初長編『近キョリ恋愛』と構造的には同じなのが気になる。

教師とは、学校における一種の芸能人なのである。

そう教えてくれたのは ろびこ さん『僕と君の大切な話』の『5巻』。
この中で主人公は教師と生徒の恋愛を描いた少女漫画を、こう分析している。

「学校において『大人の男』という ある意味 特殊な存在と
 『それに気に入られる私』に憧れがある」から この設定は読者に人気がある、と。

続いて「それは ただの承認欲求」と偏見の多い主人公は一刀両断していく。
要するに「教師と生徒」というのは「芸能人と一般人」の関係に非常に似ている。

それは第二長編『きょうのキラ君』でも同じ。
闘病されている方の気分を害するような書き方になってしまうが、
「心臓に病を抱える男子生徒とクラスメイトの女子生徒」の関係もまた、
「ある意味 特殊な存在」との恋愛を描いていると言える。

なので、この三作品は根源が同じ。
酷い言い方をすれば「承認欲求三部作」である。

だから目新しさはない。
画力が格段に向上している一方で、物語の骨格がまるで変わっていないのが気になる。

さて第四長編は どんな設定なのだろうか。
ちょっとでも変わっていたら良いのだけれど…。


語の序盤を支えるモチーフは童話「シンデレラ」と映画「ローマの休日」。

みきもと作品の1話目は礼儀正しい自己紹介から始まるから、
すぐに その人がどんな人か分かりやすい。
親切設計だと思うが、もうちょっと読者にも段々と この人はこんな人だと分かる喜びを技術的な構成で感じさせて欲しい。
ファストフード店のようなマニュアル感があります。
画面は ずっと綺麗だが、無味無臭の味気なさも感じる。

これまでのヒロインと同じく整った家と美しい家族たちに囲まれる日奈々。唯一 違うのは…。

飲食店を経営して忙しい両親に代わり、家事や妹の世話をする
ヒロインの高校2年生の花澤 日奈々(はなざわ ひなな)が現代のシンデレラである。
彼女がヤングケアラーになっている事に腹が立つが、そうでもしなければシンデレラにならない。
また両親が どうして彼女に家事をさせるのか、という疑問は後々 解消される。

高校における彼女は「本物の優等生」で頭が良く、生徒会に入ってる設定。
自分から進んで掃除もするJKの鑑(かがみ)。

彼女の容姿は周囲から褒められる描写はないけれど、かなり可愛いと推察される。
この設定なら随分 野暮ったくてもいいと思うが、天然に ゆるふわ。
ここも、作者が そういう人以外を描けない/描きたくない からだと思われる。

周囲どころか親友にまで「イケメンどころか今は恋愛すら興味ない」という素振りをしているが、
その実、「イケメンと おつき合いすることに憧れている」。

日奈々にとって俳優・綾瀬 楓(あやせ かえで・24歳)は顔だけの存在。
周囲の評価、ランキングを賑わせる彼は「本物のイケメン」だから。
夢見る乙女にとって、彼ぐらいなら恋をしてやってもいい相手となる。
どこから目線だよ、と思うけど、いつだって一般人は芸能人を選ぶ側だと夢見ているのも確か。

通う学校が映画撮影の舞台として使われ、実際の生徒会メンバーがエキストラとして選出される。
ここで生徒会にお鉢が回ってくるのは、彼女の日頃の勤勉さが報われたという面もあるだろう。
これは自分で黒板を消そうとしないような いじわるなお義姉さま役の一般生徒には入れない領域。

いつだって みきもと作品は 恋と縁がなかった真面目系女子に優しい。

日奈々はエキストラ役ではあるが、映画の撮影現場という舞踏会に招待されたのだ。
ちなみに この映画は『きょうのキラ君』で登場した女優・矢作 澪(やはぎ みお)が楓と共演している。


奈々と楓の出会いも、日奈々が学校の美化に努める美しい心を持っていたから起きる。
お義姉さまが汚した場所を掃除をするのがシンデレラの役目だから。

ただし その際の楓は、学校内から部活に励むテニス部女子生徒の尻を眺めていた。
彼は無類の お尻好き、「お尻星人」だったのだ。
目の前で日奈々も転んで お尻を見せたことが、楓の記憶に残る。

楓は お尻星人という特徴がある。過剰なキャラ付けで親しみを持たせるのは現実の芸能人と同じか。

そんな2人は街中で遭遇する。
映画撮影を抜け出して、街中で羽を伸ばすことから始まる「ローマ風の一日」。

街中で、芸能人の鎧を脱いだ楓は、自分がお尻星人であることを隠そうとしない。
そんな彼の自然体の生き方に、日奈々は思わず破顔してしまう。
この笑顔(と尻)が楓の心の中での日奈々の地位を固めていく。

周囲に楓がバレそうになるのを2人で逃亡する場面は、まさに日奈々が憧れる恋愛映画「ローマの休日」っぽい。

この逃亡の際に、日奈々の靴が壊れてしまうが彼女は それを隠す。
黙っている日奈々の奥ゆかしさが また楓の気持ちに刺さる。

だから日奈々が映画を見ようとしてた時、楓は尾行して、彼女の前に再び現れる。
この映画館で日奈々の恋愛映画好きという秘密がバレ、2人は互いの秘密を共有する。
秘密の共有は2人の仲を近づける第一歩。

上映が始まった楓は、真剣に物語に見入る。
その姿に、日奈々は惹かれる。
お尻星人というキャラ付けから真面目になるとギャップ萌えが生まれるのだろう。
この日奈々の感情の揺れは、読者のそれと通じる。
イケメンなのに変人、変人なのに真面目、そんな楓を読者も忘れられなくなる。


画の上映が終わり、退館する際、楓は日奈々に自分の靴を提供する。
楓は日奈々の歩き方などから彼女の靴の異常を感じ取っていたのだ。
ただ靴を履く前に、日奈々には、楓が彼女の靴の破損に気づいていたことに驚いて欲しい所。
気づいてたの⁉という驚きも、私の事ちゃんと見てくれていた!という喜びがないまま話が進むのが気になる。

ここから靴にまつわるシンデレラらしい話が続く。

この2人の良い所は、互いに相手を否定しないところ。
2人とも真摯に相手のことを考え、答えているから互いに好感を持つのも分かる。

翌日のエキストラ参加の際に、
楓の靴を返却しようとする日奈々だったが、その情報を握った生徒に靴を盗まれてしまう。

そのことを楓のマネージャーの茂雄(しげお)に正直に謝罪する日奈々だったが、
楓を優先する愛ある茂雄に、日奈々が楓の情報を拡散したと誤解されてしまい、叱責されてしまう。

(でも この犯人はTwitterのアイコンが顔出ししてるんだから、日奈々じゃないことは一目瞭然。
 それとも40代の茂雄には女子高生は全員同じに見えるのかしら。
 逆に楓は まだ若いから、街中で偶然会った日奈々を尻の人と認識できたのか)

その現場を見た楓も、無言のまま立ち去り、日奈々は落ち込む。


を盗んだ生徒たちが、ツイートがバズらないことに失望し、楓批判をするのを見た日奈々は反撃を開始する。
たった1日の出会いだったが、「ローマの休日」のアン王女のように彼を深く知った日奈々は彼のために怒る。
もう 単純に顔に惹かれただけの自分では なくなっていた。

そうして平穏が戻った日常だったが、ある日 突然 楓が学校に現れ、
日奈々の上履きを、あの日 日奈々が履いていた靴に交換する。

少女漫画では靴のトラブルが多いですが、
履かせるために男性が跪(ひざまず)く構図は、様式美すら感じますね。
男性が女性に恭順を誓っているように見えるから、愛の始まりに相応しい姿勢なのだろうか。

退室する楓を追い、日奈々は自力で取り返した楓の靴を彼に渡す。

その際に楓は日奈々を信用していたことを知る。
長くなりそうなマネージャー・茂雄の説教から日奈々を守るため、わざと無言で茂雄と立ち去った。

落ち込ませた後の回復こそ胸キュンの基本構造。
そして本書の基本構造でもある。
誠実な人たちが ちょっとだけすれ違うだけの展開の連続。

別れ際、楓が日奈々に電話番号を教えて、おとぎ話の幕は開かれる。


かし日奈々は揺れていた。
楓の中での自分の位置づけを信用できないから。

自分から電話をかけて、自分が彼が電話番号を教える多くの中の一人であることを知るのが怖い。
そうであれば自分のプライドが崩れ去る。
唯一の彼にとっての、唯一の存在でなければ憧れのプリンセスにはなれないのだ。

勇気を出して電話しても留守番電話に繋がってしまう。
メッセージを残したものの、それから1か月が過ぎても返事もない。
自分と彼は「ローマの休日」のラストのように身分違いの恋だったのだと落ち込む日奈々。

でも安心構造の本書だから、落ち込んだら回復して胸キュンが待っている。
分かりやすくて良いけど、毎度毎度 同じ展開が続くのが惜しい。
もっとバリエーションを作り出せないものか。

胸キュンは、楓が出演するバラエティ番組の観覧に友人に誘われたことから始まる。
一度会えば、立て続けに会えるのが芸能人モノの不自然な流れ。

気乗りしない日奈々が そこに出向くのは、あの日 見て感じた楓の本質を信じようとするからだった。

番組収録中の、自分を気分屋のように言う楓の発言や、またもや目を逸らされたことにショックを受ける日奈々。
ここの日奈々、完全に勘違い女です。
自分が遊びかもしれないと思いながらも、彼の発言は全てが自分の事を言っていると思ってる痛い女。
目が合ってから逸らされたことにショックを受けるのも、
彼が自分の事を絶対に覚えていると思っていなければ、そうは思いません。
理性で自分は大勢の中の一人と思っていても、やっぱり自分は特別だと思っているのは仕方ないのだけど。

テレビ局内で日奈々は楓に連れ去られる。
彼の楽屋で聞かされたのは、日奈々からの連絡がなかったことへの文句だった。
単純な すれ違い。
だが感情のジェットコースターで彼女の心は限界。
安堵すると同時に、振り回される自分も嫌になって泣いて楽屋を辞する。

その日奈々を楓は追い、同じエレベーターに乗り込む。
他の階で他の人が乗り込んできたのに、楓はマスク越しにキスをして、自分の本気を表現した。
こうして日奈々は簡単に心を動かされ、自己紹介をし連絡先を改めて知り、2人は相互に連絡が取れるようになった。
ここからは偶然に頼らなくても自分の意志で その人に会える。

ってか、今回はテレビ局のエレベーターで芸能人とキスというシチュエーションを描きたいがための話なのではないか。

きょうのキラ君』でもキラ君らしからぬ唐突なキスが『1巻』1話でありましたもんね。
こうやって動きを見せて、読者を一瞬で虜にする技術なのでしょう。

私としてはここまで一貫してきた楓の誠実さが失われるようで あまり好きじゃないですが。
あと、マスク越しなので本当のキスとは認めません。


と初めて待ち合わせをして出掛ける日奈々。
デート回である。
仮想敵「スカーレット」と日奈々の静かなる闘争の日記でもある。

「スカーレット」の正体は一目瞭然。
絵が上手すぎて、あれが人の頭には見えないもの。

初めて向かい合って お互いの情報を交換する2人。
楓は日奈々の学校のことや今は習い事をしていないこと、そして食事を綺麗に食べることを知る。

日奈々は楓のあれこれが気になっているが聞かない。
この意思疎通の出来なさが少女漫画的な すれ違いを生んでいくから便利な点だし、
そういう日奈々の奥ゆかしさが楓には美点に映る。

芸能人なので行動範囲は気を許せる場所しかない。
なので馴染みの店に行った後は、楓の自宅に連れていかれる。
楓の自宅は この後も何回も登場する。
自宅デートは いかにも芸能人らしい。

そして自宅に入ることは、彼の心に入るという事でもある。
それだけ楓が日奈々に心を許しているということに彼女は気づいているだろうか。

彼の自宅には小説やDVDがたくさんあり、
2話でインドア派と言って、休日の過ごし方を語った彼の言葉には嘘がなさそう。
棚には、彼がかつて所属していたアイドルグループ「Funny bone」の写真も飾られていた。
世間からは調子に乗った脱退と声も聞かれるが、
日奈々は その写真に対して肯定的な感想を述べる。
どこまでも2人の心には好感度ばかりが降り積もるから読んでいて安心感がある。

彼の自宅内でも日奈々は見えない敵「スカーレット」と闘う。
洗面台には2本の歯ブラシ、2着のバスローブ。
明らかに この家に出入りしている人がいる証拠が並び、日奈々は落ち込む。

今回も楓は その誤解を解いて、日奈々を胸キュンさせるのだが、
まだまだ波乱が起こりそうな予感を残したまま次巻に続く…。