《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いつもと同じスーパーまでの道行きも、あなたの隣を歩けば真夏の大冒険。

椿町ロンリープラネット 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
やまもり 三香(やまもり みか)
椿町ロンリープラネット(つばきちょうロンリープラネット
第02巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

小説家・暁の家政婦として働くふみ。暁は普段はつっけんどん。ときに厳しく叱ったり、ふとしたときにやさしさをみせたり──。ともに暮らす内にすこしずつ暁を意識しはじめるふみだけど?

簡潔完結感想文

  • 高校生家政婦が水商売をスタート⁉ 雇う側のハードルが低いのは お約束。
  • 浮いたお金で贅沢三昧。一つの鍋を2人で囲む。それって家族じゃないか。
  • 米を買いに行く顛末に連載3回分。食事にまつわる全てのことが生きる糧。

くも本書が私にとって特別になった 2巻。

もう この2人が過ごす日々の全てが愛おしい。
既に そのレベルにまで達している。

私の本書への溢れ出す愛は、主人公・ふみ が、
小説家・木曳野(きびきの)先生への想いと同じぐらい止まらない。
そのシンクロがあるから、本書への共感は何倍にも膨らむ。

全てにおいてセンチメンタルな気持ちになるから、
切り取られる一瞬一瞬に美しさを感じ、そして同じぐらい涙が出そうになる。

本書は「日常」が綺麗なのだ。
この作品を読むと、恋をしたい、と思うよりも、
もしかしたら結婚したい、と思う人の方が多いかもしれない。
誰かと同じ空間にいること、その空気を育むこと、
同じ食卓を囲むこと、同じ物を食べること、
同じ時間の流れの中に身を委ねること、そんな豊かな暮らしが描かれている。

それでいて『2巻』のラストで、そんな雰囲気を ぶち壊しているから面白い。
物語のコントロールの仕方が とても好きです。

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たまの贅沢をしたお陰で鍋を2人で囲む贅沢な時間が生まれた。今回を逃せば鍋は冬までお預けだったかも。

み は『1巻』ラストで先生の破顔を見てから、そのことが頭を離れない。
そして 事あるごとに先生の好物である「きつねうどん」を作ろうとしてしまう。

それは先生のあの顔を見たい、
先生に喜んでもらいたいという ふみの意識からだろう。

それが ふみ が初給料をもらう頃の話。
出会いから1か月ほどが経過したのだろうか。
(ちなみに給料は先生からの手渡しである。
 通帳に記帳されている7万円が ふみ の入金なのだろうか。
 1万円手元に残しているから月8万円で雇われている計算になるのか?)

初給料を銀行に入金する際に、口座に不審な動きを発見する ふみ。
父に連絡すると、父は腰を痛めてしまい、収入が閉ざされたという。
借金返済が滞る危機に、ふみ は水商売に手を出し始めるが…。

水商売の面接が雑なのは、木曳野に雇われた際と同じく物語の必要上、
色々と現実的な問題は無視したのだろう。

ふみ が働こうとしているのは森下suuさん『日々蝶々』に出てきた お店ですね。


のお店で働いていたのが、クラスメイト・一心(いっしん)の母親。
母の頼みで店に着替えを持ってきた一心と ふみ は遭遇してしまう。
(ちなみに一心はマザコン気味、もとい母親思い という設定がある)

そこで一心と互いの身の上話になり、
ふみ は家庭の借金や経歴を語り、一心も自分の親の離婚を正直に話す。
ここでも家族と別れて生きてきた似た者同士の2人が生まれるが、
彼らの間に恋情は生まれそうにない。
これは『前作』読者が、本書『1巻』の段階で、
またもや年上の「先生」と同級生の三角関係だと早合点し、
ワンパターン!と罵倒させることを狙った作者の意地悪なのでは?と邪推してしまう。

それにしても木曳野といい、男性は弱っている女性に優しくなってしまうらしい。
意地悪く言えば、彼女の過去(母との死別など)を知った瞬間に、
手のひら返しをして しおらしくなっても、罵詈雑言やパシリの過去は消せない。
この辺は男の身勝手さを感じる。

もっと極端な少女漫画界でしか生きられないドS系男子と同じような、
粋がって女性に強くあたるキャラたちと それほど変わらない。

といっても初対面の印象が悪いほど、
後に少しでも好感を持つと全てが反転してしまう、対比効果なのでしょうけど。
性格に難があった方が、少女漫画の胸きゅん発生装置が上手く機能しますからね。

私も先生の優しさには ヤラれてしまった口ですから…。


がバイト初日にもかかわらず一心だけでなく、来店した木曳野にまで会ってしまう。
そこで先生に大いに怒られ反省する ふみ。

彼女にバイトする必要性があることを知った木曳野は ふみ にお金を貸す。
これ、少なからず相手を身内のように思ってないと出来ないことですよね。
いくら木曳野が金銭に執着しなさそうでも、
他人への執着も薄いから、誰かにお金を貸そうという気になったことなど ないのではないか。
世間一般の家政婦に対する対応とは大きく違う。
まぁ ここも ふみが年少で、誰よりも弱い存在だからという部分も大きいのだろうが。

バイトの件で憤慨する木曳野だが、
彼が幼なじみでもある編集者・金石 悟郎(かねいし ごろう)に ふみ の印象を語る時、
「(略)その上 他の女子より見目も少しばかり良いから 尚更 危ない」と語るのが意外だった。

木曳野が ふみ の容姿を他者と比べることがあるんだと驚いた。
悟郎の総括には思わず笑ってしまった。
木曳野のような性格の人の言葉は、翻訳して真意を考えるとなかなか面白い。

ちなみに木曳野の言動は、私が大好きな岩本ナオさん『町でうわさの天狗の子』
瞬(しゅん)ちゃんを思い出さずにはいられない。
達観している人は こんな風な口調になものなのだろうか。

ゴツゴツした手触りの中にある、滑らかな優しさが どうしようもなく大好きだ。


生との暮らしは、ふみ の意識も変えていく。

『1巻』の感想文で、
ふみ にとって木曳野は生活(主に経済的な)のセーフティーネットだと書いた。
そして木曳野にとっては不規則な生活と、高齢で(笑)身体を壊してしまう前に、
生活に彩りと安定をもたらす あらゆる面でのセーフティーネットなのだ。

しかし ふみ のお弁当の中身の充実さを見た友人・洋(よう)ちゃんの指摘で、
木曳野家での生活が ふみ にとっても、生活を豊かにしたことが分かる。
これまでのように自分よりも金銭的な問題を最優先するのではなく、
彼女が自分を大事にする心の余裕が出たらしい。

こういう相互作用は良いですね。
まさか他人のお金だから食事の自由度が増している訳ではあるまい。

何においても、第三者(悟郎や洋ちゃん)に語らせすぎな嫌いはあるが、
彼女たちの変化を逐一 明確にしてくれるのは ありがたい。


に労災の手当てがおりたため、木曳野が貸してくれたお金は必要なくなった。
返却しようにも木曳野は 一度は ふみ に渡したものだと受け付けない。

そこで ふみが考えたのは、豪勢な食事。
夏場にすき焼きというチグハグな食事(そして野菜が割高なのではないか)が始まる。

ここで一つの鍋を2人で初めて囲む。
これもまた2人の距離がそれほど近くなったという証左のような場面である。
初期(といっても まだ『2巻』だが)の木曳野なら、
知らない奴と鍋が食えるか、と一蹴していたところだろう。

木曳野が ふみ に お金を渡したのは、この家が豊かになった礼だという。
「ありがとう」と素直な感謝の気持ちを述べる先生の姿に、涙が出そうになる。
まるで不良少年の更生場面のようだ(笑)

そして ふみ もまた木曳野に感謝している。
母の逝去後、仕事で父のいない家とは違う 人の居る家の温かさを思い出させてくれた。
先生が在宅の仕事である意味がある。

少女漫画で数多くみられる同居モノだが、
本書の場合は、常に在宅していることが第一条件なのだ。
常に誰かのいる家の一定以上の温かさ、迎えてくれる柔らかな声が ふみ には必要だった。


米を切らしてしまったので、放課後に先生と一緒に買いに行くことに。
放課後デート回ですね(違う)。

1人では代わり映えのない、味気ない買い物も、2人で並んで歩くだけで、
こんなにも思考は忙しく回って、こんなにも特別なものになる。

スーパーに並ぶ食材から、過去を思い出し、互いに語り合う。
過去になってしまった記憶を思い出すのが食材や食事というのも本書らしい。
読んでいて お腹が空く漫画です。

驚くのが、この日の朝食から夕食までの1日が連載3回分に亘って お送りされること。
よつばと!』かよ(笑)

でも こういう時間の流れの不安定さが、
ふみ の忘れられない一日になったことが強調されるようで愛おしい。
ふみ の罪悪感を予防する先生の、胸キュン必至の小さな嘘も良い。

もう細かいエピソード全てが好きなんです。

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先生は細身だが力持ち(引越しのバイト歴あり←後半 判明)。米を担いでギックリ腰になったら笑えたが…。

ラストは そんな甘い空気を帳消しにするような展開となる。
これは良い緩急で、良いスパイスになっているのではないでしょうか。
『3巻』が早くも楽しみになる。