やまもり 三香(やまもり みか)
ひるなかの流星(ひるなかのりゅうせい)
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★★(8点)
幼い頃に見た、真昼の空の流れ星。夢だったのか、それとも私の道しるべなのか──。 すずめは田舎に暮らす女の子。親の転勤で、東京の高校に転入することになりました。上京初日、慣れない東京で迷子になったすずめが出会ったのは…? 恋も友情も全てが未知の新生活が始まります!!
簡潔完結感想文
- 転校。環境の変化に倒れてしまう主人公。慣れない土地でいつも助けてくれる人がいた。
- 友達。知らない人に囲まれストレス増加。慣れない学校でいつも助けてくれる人がいた。
- 恋心。自分にとっては特別でも相手からしてみれば生徒の一人。そう、気になるのは先生。
この時の私は知らなかった。まさか あんな結末が待ち受けるなんて の1巻。
予想外。
本書を完読しての感想を表すなら この言葉だろうか。
2020年現在では、完結から5年以上が経過しているが、
前知識やネタバレなしに読めたことを心から感謝した。
たとえ最新の本でなくても、読んだその時が新しい出会いなのである。
私にとっては本書は ずっと楽しかった。
第1話から最終話まで、これだけ読者を楽しませてくれる
エンターテインメント性の高い本は そうそうない。
私は、この過程に価値を置きたい。
どうやら結末には賛否両論あるらしいが、
いやいや主人公の感情の揺れを読者も一緒に体感できたではないか、
これだけ注目される作品を描けることが才能なのではないか。
まぁ、私が結末に大いに賛同しているという部分も多いとは思いますが…。
王道の少女漫画のキュンキュンする展開を用意しながらも、
一方で緊張感を切らさない予測のつかない展開が、周到に配置されている。
『1巻』の時点で、最終巻の結末を予測できる人は そう多くはないだろう。
皆さんにも青春の輝きの中でも一層 光を放つ、恋仲の流星を見つけてほしい。
主人公の与謝野 すずめ(よさの すずめ)はコンビニも信号もない自称 少し田舎な町で
ずっと暮らしている15歳の高校1年生の女子。
だが、親の海外赴任で東京の叔父さんの家に住み、学校も転校することになってしまう。
田舎でマイペースに生きてきた すずめにとって、都会は異次元。
一人で叔父さんの家に向かうことも難しい。
困惑する すずめを二度も助けてくれ、叔父の家に送り届けてくれたのは、
叔父の知人の獅子尾(ししお)だった…。
そして彼はまた…。
にしても、すずめ の両親は子供と一緒に
海外に赴任することは考えなかったのでしょうか。
そして何かと親身になってくれて序盤から安心感を醸し出す叔父・諭吉(ゆきち)だが、
いくら親族と言っても、すずめ にとっては、顔も おぼえていない男という事実が引っ掛かる。
私が すずめ だったら、知らない異性と一緒に住むことが引っ越しの第一のハードルだと思うのですが、
その辺の同居に まつわる すずめの逡巡や苦労は描かれていない。
にしても、なぜ諭吉と疎遠の設定だったのでしょうか。
遠く離れて暮らしているが、昔から大好きな叔父さん、でも良かったと思うが。
『1巻』では登場人物たちの様々な二面性が見られる。
田舎の町で悠々自適に暮らしていた主人公の すずめも、
いきなり都会の荒波に揉まれ、そして知らない人ばかりの環境に最初は上手く馴染めないでいた。
転校することで初めて そんな自分も知らない自分を発見した すずめ だった。
隣の席の男は恐いし、
どこか洗練された都会の子には気軽に話しかけられない。
まさか自分がサボりではなく、
孤独を感じる教室から逃げるように学校の屋上に佇むようになるなんて、
少し前までの すずめには思いもしない現実だろう。
そんな すずめの学校生活を陰ながら支えてくれるのが獅子尾。
獅子尾もまた、24歳の ごく普通の青年の姿と、
教師として生徒一人一人に目を配る真面目な一面を見せる。
そう、獅子尾の職業は教師。
しかも すずめの転校先のクラス担任だったのだ(すごい偶然!)。
すずめの呼称を「ちゅんちゅん」と「与謝野」と使い分ける獅子尾。
早くも特別な呼び方をしているところが憎いですね。
『1巻』の段階でも終盤になると獅子尾に惹かれる すずめ。
そうなるのも自然の流れだと思わせるエピソードの重ね方が上手い。
若いながらも生徒への指導をしっかりしているようだ。
生徒一人一人の性格を把握して、個人が伸び伸びと学校生活を送れるように配慮している。
また、上記の一人でお弁当を食べる すずめに掛ける言葉もいい。
彼の存在がなければ、すずめ の東京生活は真っ暗な夜のままだったかもしれない。
たとえ流星が見えても、それは天気の良い、明るい昼に見る流星だから一層の価値があるのだ。
獅子尾は一見、軽薄そうな教師で、天然っぽい女子生徒の恋愛を予感させることもあって、
みきもと凛さんの『近キョリ恋愛』を連想した。
獅子尾との場面は少し作為や、わざとらしさを感じ、
無理矢理に胸キュンシーンを演出している感じも似ている気がする。
もちろん重ならない部分の方が多いんですけどね(フォロー)。
また、獅子尾の意外な一面としては、
アニメ・漫画ネタを少しずつ挿んでくるところでしょうか(大方、作者の趣味だろう)。
二面性といえば、特に顕著なのがクラスメイトの面々。
転校先で席が隣になった馬村(まむら)は、一見クールな男性。
最初の彼の態度をクールと言うのは美化し過ぎか。
転校生に対して、なかなかに手酷い対応。
担任の獅子尾のホームルーム中も音楽を聴く、
ちょっと問題の生徒かと思いきや…。
馬村といい、後述の ゆゆか といい、問題の勃発と解決の間が短いのが良いですね。
すずめ が ちょっと落ち込むことはあっても、すぐに立ち直り、
そして彼女の行動力をもって解決していく様子は晴れやかな気持ちになります。
小さな問題を解決するによって すずめのキャラを理解するのに役立つし、
物事が常に前進している感じを受ける。
そして その裏には いつも獅子尾がいるという構図も素敵。
獅子尾のアドバイスもあり、体当たりで声を掛けた馬村は意外な反応をする。
なんとクールな人だと思っていた馬村には、女子に免疫がなく接触すると赤面する一面があったのだ。
耳まで真っ赤になる様子には、それまでの嫌悪感が好感に一気に反転しました。
私は「俺様男」よりも、こういう男性の方が好ましいですね。
そして俺様男のキャラは長く続かないですからね。
あっ、でも当初、無理なキャラ作りしてたのは馬村も一緒か。
登場した その回でキャラが崩壊しましたけど(笑)
かくして馬村は、すずめ にとって友達第一号になる。
そして今巻の最終話では馬村にもある変化があって…。
そして、女子生徒・猫田 ゆゆか(ねこた ゆゆか)は、
あからさまに性格に裏表があるキャラ。
ある企みをもって すずめに近づき、
親切心を見せる裏側で、すずめを罠にはめる ゆゆか。
この頃になると、読者も すずめの一風変わった性格を理解 出来てくるので、
ゆゆか の精神攻撃も、それほど効果がないぞ、と安心して読める。
そして、今回の問題も2話で終了。
こういう陰険な内容で話を引っ張らないところに好感が持てます。
解決の図式は同じで、獅子尾の助言と、
すずめ の真正面から相手に切り込む手法を使う。
悩むより動いて活路を開く すずめを ますます好きになる。
そうして、今度は比喩ではなく肉体的に傷だらけになりながら、
ゆゆか のことを理解していく すずめ。
どうやら彼女には今回の騒動を起こした動機があることが判明する。
ゆゆか は すずめの友達第一号・馬村に好意を持っているらしい。
こうして連鎖的に起きる問題が自然ですね。
また、それが自然と すずめがクラスに馴染んでいく様子となっている。
恋愛要素も実に上手く配置しているが、
すずめ の学校生活の広がりも同時進行で描いているのが上手いですね。
『1巻』だけでも、最後まで付いていきます!という気になる。
このように多かれ少なかれ二面性を持つ彼らですが、
誰も彼もが不器用で純粋という共通点があります。
この不器用さが本書の特徴ではないでしょうか。
教師の獅子尾は経験を重ねているだけあって、少しスマートですが。
空回ったり、虚勢を張ったり、自分を装ったり、
上手くいかないことの方が多いけど、少しずつ自分と世界との折り合いをつけていく。
純粋さの描写も光るものがある。
これから嘘のない登場人物たちに託された、
誰かを好きになる、という単純な気持ちが飾らずに描かれていくだろう。
それは奥ゆかしさ、でもあるかもしれない。
誰も彼も、すぐに好きだと言わない。
自分のペースで想いを育んでいく。
ここには高校生の等身大の姿がある。
そこに共感する人も多いのではないか。