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少女漫画と小説の感想ブログです

テレパシーを神通力と言い換える木曳野には、もしや英語禁止縛りがあるのではッ⁉(勘違い)

椿町ロンリープラネット 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
やまもり 三香(やまもり みか)
椿町ロンリープラネット(つばきちょうロンリープラネット
第11巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

ふみと暁、一心と洋は一緒に初詣へ。愛する人との幸せな年越しに心は弾むが、ふみはそこで、暁の悲しい生い立ちをはじめて知ることになる。暁を励ましたいと思ったふみはとある計画を思いつき――!?

簡潔完結感想文

  • 初詣。恋の相談の助言が自分の中にも浸透する。新しい年、新しい関係。
  • 誕生回。木曳野の言動や既刊を読み込んでいる人には違和感が満載の仕掛け。
  • 愛してるって最近 言わなくなったのは 本当に あなたを愛し始めたから現象。

愛問題から家族問題へのシフトが見られる 11巻。

もはや 主人公カップルはテレパシーがなくても通じ合う域にまで達している。
どんな時も相手を信じることが出来るようになったらしい。

どうやら『10巻』までで、恋愛におけるゴタゴタは終了したみたいだ。
もう交際の安定感は抜群で、いわゆる少女漫画的な嫌な誤解や すれ違いは 終わったと言える。

そして物語全体が良い方向に動いていくような希望を感じさせる内容となっていく。
初詣や積雪など1月の清冽な空気を作品が まとっているようである。

これまでバラバラに知り合った人たちが一堂に会す場面があるなど、
大団円、つまりは終わりに向けての準備が着々と整えられている。

それは とても さびしいことではあるが、同時に とても嬉しいことでもある。
早くも感傷的な気分で読むから、
彼らが幸せに笑っている場面でも、なんだか涙が出そうなほど心が動いてしまう。

孤独を背負ってきた2人だけど、こんなにも笑えている、
その現状に、ここまで積み重ねてきた 全ての日々に感謝したいぐらい。
最終巻でもないのに、早くも満たされてしまっております。
そして最終巻まで新しい展開が盛りだくさんだと予想される。
ここからは2人がニコイチで解決する問題がメインとなるのだろう。


今回の題名にも しましたが、もしや時代小説家の先生は
英語の使用が禁じられているのでは⁉と興奮気味に推論を立てたのですが、
読み返すと『11巻』の中でも「ネット」という単語を使っており、
そんな新事実はなく、机上の空論で終わった。
先生は頭の中が江戸時代の人なので、そのぐらい徹底した信念があると思ってしまった。
まぁ ネットを「情報網」とかに無理矢理 言い換えても不自然だしね…。

ただ やっぱりクリスマスやバレンタインデーは意識的にスキップしている節があるので、
和を重視しているのかな、とは思いますが。


2人に危機が訪れた12月24日・25日という日を乗り越えて、新年の準備が整えられる。

そして初詣回。
先生は当初の予定を変更して、ふみ の友達たちに同行することに。
どうやら先生の中では、一心(いっしん・通称・小童)は洋(よう)ちゃん(通称・猫娘)のものだが、
学園の王子・永人(えいと)は ふみ の周囲に置きたくない人物らしい。
先生の小さな嫉妬を見つけるのも本書の楽しみではないか(笑)
しかも永人こないし。

初詣を前に洋ちゃんの家で着物に着替える ふみ。
木曳野 暁(きびきの あかつき)にとって、洋ちゃん家(ち)は3回目の訪問。
そして初の内部潜入となる。

ふみ の着物姿を見た木曳野の反応は素直。
「似合う」。
似合うは感想であって、本心なのだろう。
可愛いじゃないのが残念なところだが、先生としては最上級の賛辞ではなかろうか。
一心も また照れずにいられない。
男性たちの反応がいちいち キュンです。


詣の人混みの多さに はぐれてしまった4人。
ふみ は一心と、木曳野暁は猫娘とペアになる。

携帯での連絡も出来なくて、もはやテレパシー頼みになる。
2人の間にテレパシーはないが、
木曳野には ふみ の思考が読める(そして当たってる)。
ただの守銭奴だと思っている節があるが…。

ここは もう少しぐらい離れても不安にならない、という変化の描写だろう。
また木曳野が取材旅行に出ても、今度は ふみ は心が揺れることなく家で待てるはずだ。


このカップルではないペアの間での話題は、高校生カップルの恋愛相談。
告白の返事がないことを気にする一心と、
告白の返事をすることで何かが変わることが怖い洋ちゃん。

それぞれの悩みに対して それぞれ異性が答える。

先生の洋ちゃんへのアドバイスは「信じてみたら いいんじゃないか」。
「お前に ほれるような奴だ 懐の深い奴か よっぽどの変わり者だろう」。

これは自分を「一生好き」と言ってくれた ふみ への返答でもある。
先生の扉がまた一つ開かれた。

ふみ の側も一心に こう告げる。
「時間がかかるってことは きっと それだけ真剣に考えてる証拠ですから」
「相手の準備が整うまで 今は のんびり待ちましょう」

これは自分の過去を話してくれない先生への ふみ の態度を示すもの。

なんという圧倒的信頼。
テレパシーはなくても、相手を信じられる心が通じている。

彼らの言葉は相談に乗っているようで、自分に言い聞かせる言葉でもある。
このところ先生を中心に、自分で発した言葉で自分の胸中を知ったり、
自分の言葉で自分を奮い立たせるような場面が多く見られる。

直接 相手に言うと気障(きざ)になるが、間接的に言うことで より信頼感が醸成されている。

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別々の場所からでも2人は同じ方向を見据えている。離れていても もう不安には ならない。

よろめく ふみを支える一心を見て、先生は少し嫉妬を見せるぐらいだが、
洋ちゃんは大いに心が波立つ。

しかし洋ちゃんと木曳野暁の会話は見ていて飽きないですね。
ここが付き合うような if の物語も読みたいぐらいだ。


神様に願いごとをした後は、皆 少し素直になる。
洋ちゃんは一心に、初詣後も別れがたい気持ちを伝え、好きかもしれないと正直に告白する。
新年一日目が彼らの交際記念日になりました。

ふみが周囲を幸せにするパワーが存分に発揮された結果でしょうか。


して木曳野は自分の生い立ちを ふみ に語り始める。

3歳の時に施設に預けられた木曳野は、本当の両親のことは あまり おぼえていない。
6歳の時に今の両親に ひきとられたが、12歳の時に義父が亡くなって 義母と2人になった。
義母には もともと好かれていなかったから、高校を卒業して家を出て以来 ほとんど帰っていない。

これが木曳野の家の話。

それを聞き ふみ は涙ぐむ。
彼の生い立ちが自分以上に複雑で孤独であったこと、
そして木曳野が自分に過去を話してくれたことが、ふみ の心を揺さぶったのだろう。


先生が初詣の神社で ふみ の お守り購入を大声で阻止したのには訳があった。

京都の土産として自分で お守りを購入していたから。
臨時編集者・畝田(うねだ)が介入していたネイルではなく、これは先生の純粋な厚意である。

お守り が仲直り後に購入したものではないのが良い。
それは取り繕うように ふみ のご機嫌を窺うための品ではなく、
ふみが不安に駆られていた京都旅行の最中でも、
先生は ずっと ふみ のことを考えて、わざわざ お土産を用意してくれていたという証拠なのである。


そういえば書店員・桂(かつら)は先生の生い立ちを知っていることを匂わせて、
ふみ にマウンティングを仕掛けてきたけど、彼女は一体どこで知ったのだろうか。

木曳野から直接は絶対にないし、編集者・悟郎(ごろう)経由も可能性が低い。
謎だ。
ただの女の勘だったりして。
ここに明確な理由が欲しいかな。
少しモヤモヤする。


日に「(自分が)誰にも必要とされていない そんな価値のない人間だって
 お前に言うのが恥ずかしかった」と ふみ に正直に告げた木曳野。

そんな折、ふみ は先生の誕生日をWikipedia(っぽいサイト)で知り、
そこで急遽、先生のために誕生会を企画する。
祝われることで先生の存在理由を作ってあげたいという気持ちからだろう。

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木曳野には青天の霹靂。だって誕生日じゃないんだもん(笑)サプライズというよりドッキリ!?

いわゆる誕生回です。
ここでは これまでの登場人物が ほぼ総出演。
社会との交流が少ない木曳野ですから、ほぼ ふみ の知り合いと言って良いぐらいですが。
もはや誕生会というよりも同窓会に近い。
しかも本当に誕生会ではなくなるし(笑)

ふみが誕生会を企画したのは1/30。
しかし先生の誕生日は10/30なのである。
これは『6巻』で先生が8月下旬以降に29歳の誕生日がくると ほのめかしていたのに聞き逃していた ふみが悪い。

この珍事に先生は腹を抱えて大声で笑う。
本書の中でも一番の笑いの大きさだと思われる。
これだけで ふみ の計画は成功と言える。

この日の様子はは巻末の描きおろし「誕生日会秘話」と併せて読むと楽しい。
ちなみに悟郎は木曳野の人間関係をほぼ把握している人なので、
全員と少なからず面識がある。
また、畝田は ふみが連絡先を知らないので呼べなかった。
まさか木曳野から呼び出すわけにはいかない(サプライズ的にも内緒だし、失恋させた側だし)。
相性が悪そうな畝田と桂のバトルも見てみたかったが、誕生日には相応しくないだろう。

永人と桂は初対面。
桂が永人を、自分の好きな架空乙女ゲーム「幕末君色恋模様」の沖田総司とダブらせる。
ちなみに木曳野は斎藤一だった。
そして描きおろしでは、悟郎が土方に見えている。

間違いなく ただの二次元オタクである。
仮想の新選組の隊士たちに囲まれて、ある意味 この日一番幸せなのは桂ではなかろうか。


生の誕生日回(仮)を終えて、季節は過ぎゆく。

「冬の三大行事」であるバレンタインは やはり割愛。
(もしかして桂の木曳野への誕生日プレゼントはバレンタインと兼ねているのか?)

学校は卒業式を迎える。
3年生の永人は これで卒業。
大学に進学するみたいだが、実家から通うので登場機会はまだありそう。

そして永人の恋愛はここからだッ!で、
やっと生徒という枷が外れて、社会的にも あの人と恋愛をしても問題のない状態になった。
永人は卒業を心待ちにしていたのではないか。


そんな永人を交えた女子会でキスの話題が出る。
木曳野からのキスは12月25日(普通の日)の1回きり。
心の距離は近づいているのに、この3か月余り、先生は ふみ に手を出さない。

これを倦怠期と考えた ふみ は自分から一歩 踏み出す。

物理的な距離をゼロにしようと、一緒に寝たいと申し出る。
そんな ふみ を、木曳野は拒否。

すごすごと引き下がる と思われた ふみだったが、先生の扉をこじ開けに戻って来る。

もう ふみ は強くなっているので、
小さな不満や自分の願望を きちんと木曳野に伝えられるようになっているのだ。
これは畝田の時に我慢が爆発してしまった経験があるから得られた成長である。


そうして正直に自分の気持ちを吐露する ふみ に対して、木曳野も誠実に対応する。

先生は先生で我慢している。
初詣の夜から「自分の中の何かが お前(ふみ)によって変わった気がし」ている。
だから「ふみ のことを もっと ていねいに 大切に扱おうと決めた」らしい。

スキンシップ不足に悩む ふみ と、スキンシップをしないことで彼女を大切にしようとしていた先生。
幸せな すれ違いですね。
食事が美味しそうな漫画ですが、違う意味で お腹いっぱいです。
好きな料理を食べた後の満腹の幸福感を常に味わっている状態。

そんな先生と2回目の同意を経た同衾(健全)をした翌朝に来訪者がやってくる…。
いよいよ この問題に突入するのか!