《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

チョコだって パンだって いくらでも作らせてやる。プ、プロポーズじゃ ないんだからねッ!

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岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第08巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

高校2年生になって、さらに充実した日々を送る秋姫。ここのところ秋姫の力が徐々に発現してきたのと同じように、周囲の友達にも少しずつ変化が…。ひょんなことからタケルくんが変貌したり、赤沢ちゃんや金ちゃんにも素敵な恋のきざしが…!?さらに今まで厳しいばかりだった瞬ちゃんの態度も微妙に変わって来たり。お年頃の秋姫に周囲はさらに賑やかに。でも将来のことを考えるとちょっぴりユウウツになったりする秋姫の今日この頃。

簡潔完結感想文

  • 2回目の夏到来。同じことは繰り返さない、失恋した去年 以上にセンチメンタルな夏。
  • 才能が開花する2人。鬼となったタケル君を戻すのは秋姫の鬼滅 の刃。不動明王の呼吸。
  • 文化祭準備。夏休み中から重ねるダンスの練習。一番近くて切実な目標を達成するんだ。

の始まりは恋の終わりだった去年と、夏の始まりが恋の始まりの今年、の8巻。

高校生になって2回目の夏が始まる。

2年目の季節は重複するところはカットして、
新たなイベントだけを描いている感じでしょうか。

思えば昨年は夏休みを迎える前日にタケル君との交際が終了してましたね(『4巻』)。

去年とは違うイベント。
去年とは違うクラスメイト。
去年とは違う心境。
2回目の文化祭も、去年とは違う担当。

同じ時は2度と来ない。
ただ前に進むだけ。
そして、ただ前に流されていく、止まることのない日常が恐い。

2回目の夏は、ちょっとセンチメンタルです。


私は作者の描く立体物が好きだ。
『8巻』の表紙も構造物の中に登場人物たちが溶け込んでいて特に好き。

そして表紙に描かれている8人の名前を間違いなく言えるのも凄いところ。
(嘘です。リーゼントの彼(西城・さいじょう)の名前が出ませんでした)。
でも一人一人に愛着があって、思い出があるのは紛れもない事実です。


年は描写が無かった家族恒例のホタル狩り。
この回は、焦燥の回ですね。

自分の中に自分ではない何かが生まれる気配を感じる主人公・秋姫(あきひめ)。

そんな彼女は焦ってホタルを探すことに必死で足元が疎かになる。
視野狭窄となっている自分をその身体で受け止めてくれた瞬(しゅん)ちゃん。
安心感が体を巡れば、自分の周囲にはホタルが一斉に見えてくる。

反対に自分のしたことに動揺して目の前のものが見落とした瞬ちゃんは歩けば棒に当たる。
もうね、瞬ちゃんの一言一言がプロポーズなんですよ。
思ってもいないことは言わない瞬ちゃんの言葉は秋姫の人生を照らす光となる。


ちなみに瞬ちゃんとの関係を思うように進展させないのが、
クラスメイトの万里小路(までのこうじ・通称マディ)という憧れの女性の存在。

娘に変な虫がついてないか心配する康徳(こうとく)様に対して、
その返答の中で秋姫が夢中なものをしっかりと把握している瞬ちゃんの姿があります。
本人的には「仕事」なんでしょうが微に入り細を穿って秋姫の嗜好を理解している瞬ちゃんです。

マディは、元カレ・タケル君に続いて、秋姫が夢中になる存在か。
秋姫のミーハーな心の象徴でもあります。

彼女は(今のところ)性格も良く、人当たりが良いので、
秋姫が言って欲しい言葉をストレートにくれる(誰かさんと違って)。

それによって秋姫は一層マディに夢中になるという、
瞬ちゃんにとっては目の上のたんこぶ的存在か。

また、マディの役割は恋愛リセット機能でしょうか。
秋姫と瞬ちゃんとの間に流れる親密な空気をマディが さらっていきます。


2年目の成長を感じさせるのが、鬼のお面のエピソード。
秋姫の天狗としての能力開花と共に、タケル君の能力も成長中。

タケル君は美術の授業で作った鬼の面に取り込まれ、
意思を持った鬼の面が秋姫との勝負を挑む。

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この次のページから始まる学校を舞台としたバトルは少年漫画と見紛うほどのスケール。

巨大化したタケル鬼に対して、秋姫は不動明王を召喚し、一太刀で仮面を割る。

そういえば『2巻』のモミジちゃんによる修行の説明では、
「我々の修行は修験道の本尊である不動明王に近づくためにする」と言っていた。

通常なら山に入って何年もの修行を経て近づくものを、
秋姫は1年間の週末修行で手に入れたみたいだ。


どうでもいいことですが、巨大化して天井をぶち抜いたタケル君。
それに対して床が抜けないことに、どんだけ床は丈夫なんだと違和感を覚えた。
まぁ、抜けたら人的被害が甚大で違う意味を持つので、良きご都合主義ですが。


不本意ながらも拳を交えた秋姫とタケル君の間には特別な絆が出来る。

自分の中にある力を恐れる秋姫と、自分に何も期待していなかったタケル君、
そんな2人の能力を導いている精神的支柱が瞬ちゃんである。

誰もが優しく、誰もが他の人を守ってあげたいと思っている。
恋に恋していたタケル君との交際時期から、こんなにも確固たる関係が築けるなんて思いもしなかった。
あの失恋の日からちょうど1年が経とうとしているんですよね…。

この時点でもう、作者はとんでもないところまで読者を連れてきた、と感嘆するばかり。


間は止まることなく流れ続け、高校2年生の夏休み。

早くも高校生活の半分が終わりそうで、そろそろ進路を考え始める時期。

天狗志望の瞬ちゃんも、その実現は何十年後かのことなので大学に進学希望らしい。

考えてみれば、瞬ちゃんの天狗としての才能は分かりませんね。
ちゃんと修行しているから火渡りや水渡りは出来る描写がありましたが。

次郎坊(お山の二番手)ではあるものの、天狗の子である太郎坊(秋姫)との才能の差は歴然。
それでも何十年か後を見据えて行動する瞬ちゃんは、努力家で達観してますね。

そんな進路という身近な未来も、自分の身体に心配事を抱える秋姫には上手く描けない。

ただでさえ永遠ではない高校生活で、
しかも秋姫に残された時間は少ないという制約が、物語に愁いと言う側面を引き出します。


休み期間中も文化祭に向けての準備。

今年は「競争力が高くて華やかだけど その分 準備が大変」な男女混合のダンスにクジで選ばれた秋姫。
パートナーは瞬ちゃん。

思った以上に身体が動かない秋姫に、彼女を快く思わない生徒から皮肉が浴びせられる。

だが秋姫も負けずに応戦。
これはいつまでも瞬ちゃんの裾を掴んで泣いていられない、という彼女の成長でしょうか。

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瞬ちゃんに泣いて慰めてもらうばかりの日々は終わり、励まされ立ち向かう日々が始まる。

売られたケンカを買ったことを称える瞬ちゃんの一言に、
心を貫かれたかのように見えた秋姫でしたが、
直後にリセット機能を備えるマディが登場して、全てが帳消しに。
マディの呪縛が解かれる日はくるのでしょうか…。


ちなみにダンスの時だけ、作者の絵が極端に下手だと思う私です。
ダンスの具体的なイメージがないのか、動きがないんですよね。


く、赤沢(あかざわ)ちゃんと三郎坊がメインの回も好きですね。

赤沢ちゃんのバレンタインデーの顛末は結局分からなかったなぁ。

この回では、狐との結婚には難色を示した赤沢母に投げる秋姫母の一言が良いですね。

母は既成概念など軽々と飛び越えていける人だから天狗と夫婦になったのでしょうし。
この町でなら幸せに暮らせると思われる。


んな秋姫母が突然、高いお肉や高いアイスを買ったのは、
天狗の夫から娘の身体について色々と聞かされたからだろうか…。

なぜなら同時刻、お山では秋姫の現状についての会議が行われていたからだ。
キーワードはやはり、天狗と天狗道だろうか。

どうかどうか このままでと切実に願わずにはいられない。


そうして気苦労や疲労がたまっていく瞬ちゃん。

だが秋姫がパン作りをすると聞けば、
「滅茶苦茶手間暇かかって めんどくさいやつ 考えとくから いつか作らせてやる」

これは将来の約束。
秋姫が秋姫として、瞬ちゃんにパンを作るという未来の約束。
そして勿論、瞬ちゃんの「作って欲しい」という願望。

秋姫の心情に寄り添うと、何でもない言葉に涙が出そうになる。
ダンスや文化祭、修学旅行、パン作り、どれもが近くて不確かな未来。

全部は叶わないかもしれない、と恐れながらも、現実の日々を生きていく秋姫なのです。


そんな彼女がこの夏で一つ変わった大きなこと。
それは「ほんとの恋」について。

「私もね そろそろ いい加減気付いてたから」
と顔を赤くしながら、瞬ちゃんの肩幅を測る秋姫は本書の中でも屈指の名場面ですね。

どうしよう、『8巻』は好きな場面ばっかりだよ…。