《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼氏という警察官に お前が捕らえられても 恋泥棒の俺が盗み返してみせる。

アオハライド 9 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第09巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

洸をあきらめようとする双葉。冬馬は、揺れる双葉も受け入れるといい告白の返事を迫る。双葉の決断は──? 洸は双葉と冬馬の接近にあせるが唯と決着がつけれないままで…。

簡潔完結感想文

  • 不倫っぽい恋。初恋の人との将来を考えて恋愛感情のない妻と別れる準備を整える。
  • 記憶の復元。ボタン型の記憶チップを服に再装着。3巻分の記憶消去して猛アタック。
  • 未亡人っぽい双葉。まだ記憶に新しい去っていった人の記憶。丸ごと引き受ける菊池。

水盆に返らず、It is no use crying over spilt milk. の 9巻。

今さら嘆いてもダメなんだよ、洸(こう)…。

3つの恋心が動き出す『9巻』。

1つ目は悠里(ゆうり)と内宮(うちみや)くん。
双葉(ふたば)応援団長の悠里と、菊池(きくち)くん応援団長の内宮くんは、
ロミオとジュリエットばりに互いに相容れない立場でありながら、
交流を持つことで、人となりを知り惹かれていった。

これは ちょっと形を変えた恋愛相談が恋に発展する現象でしょうか。

仲良しクラスメイト5人組で初めて恋人が出来た悠里。
ようやく精神的な意味ではなく、具体的に恋愛が前進している実感が味わえます。

そしてボタンを掛け違い続ける本書の中で、
悠里の内なる願望を見事に すくい上げてくれる
内宮くんの実直な言動と、タイミングの良さが光ります。

本気になるタイミングの悪いヒーローに見習ってほしいものです。

しかし 菊池くん一派は恋愛マスターの集団なのか?
恋人に誠実な男性として完璧すぎる。
残る1人の仲間・瞬(しゅん)も恋人として優良物件かも。

でも悠里は結構 惚れっぽい性格だと思われる。
近づく他の男に悠里が目移りすることないよう内宮くん要注意です。


2つ目の動き出す恋心は、洸の心。

身辺を整理して、誠心誠意の対応で双葉に向き合うことを決めた洸。

青春漫画には相応しくありませんが、洸は まるで不倫の恋に邁進する夫のようですね。

今の洸は、彼が あのまま長崎に10年住み続けて、当地で結婚し、
転勤で東京(?)に単身赴任した際に、初恋の人・双葉に再会したことから始まる
ドロドロの恋愛劇の顛末のようだ(『あなたのことは それほど』感が半端ない)。


同じ心の痛みを持つ成海(なるみ)。
彼女も また洸にとっては世界でただ一人の人であることは間違いない。

だが、彼女を自身の恋愛よりも優先したことを後悔し始める洸。
1度 双葉によって開けられた洸の「心のフタ」は簡単に閉じなかったのだ。

そうして成海に対して「結果的に中途半パな事した」と反省する洸。
その言葉を小湊は「無駄に期待させたっちゃ させたよな」と受ける。

これ、双葉に対しても同じですよね。

今も昔も洸から発せられる 好きのシグナル。
双葉は鈍感で、勘違いしないよう自制しているが、
それでも彼との距離はあと「1ミリ」だと思うぐらいに接近していた。

しかし期待して洸を手を伸ばしても、洸側の都合で受け入れられないことが続いた。

咲坂作品は男性キャラの一途さや潔白さ、その裏返しの頑固さを持っていますが、
それに付き合わされる相手は たまったもんじゃないのも事実。

洸がどれだけ双葉のことを深く想っているか、読者には伝わってきますが、
それだけで双葉は幸せにならない、というか寧ろ双葉は不幸の総量の方が多い気がする。


んな洸は 自らの決心を固め、ロボットから人へ戻った。

その契機となったのが、洸のボタン。

自分に素直になった洸は現金で計算高くてずる賢くて、まるで人のようだ。

『7巻』で菊池との小競り合いによって取れたカーディガンのボタン。
それが手元に戻ってきて、洸が服に縫い留めることが洸の心の回復となる。

洸が落としたボタンは 中学1年生の双葉に恋した頃の「田中くん」の心だろうか。
「馬渕(まぶち)洸」として出会った成海に寄り添うか、
「田中くん」の想いを優先するか、洸が心を決める瞬間が訪れた。

このボタンを小湊が拾ってくれていたところも良い。
彼の母が しっかりと保管していたことも運命が味方しているような印象だ。

小湊とは洸が頑固を こじらせて衝突した時期もあったけれど、
小湊の家の最寄り駅から彼を電話して呼び出したり、
何でも話せる関係性になってるのが良いですね。

ある意味、双葉の去った後の席を小湊が埋めてくれています。


もし洸が双葉にボタン付けを頼んでいたら、彼女は作業中に洸の心に触れたかな。
双葉もまた「田中くん」のことを思い出して、
菊池くんが入れる余地がないほど、心を占めたのかな。

でも きっと自分でやるから意味があるのだろう。
半分は自業自得で落としたボタンだもの。
再び このボタンが取れない限り、洸はもう揺るがない。
(また菊池くんと喧嘩したら取れそうだなぁ)

そういえば このカーディガンのボタン、
双葉と再会した『1巻』の服装だから大事って意味もあるのかと深読みしたんですが、
からして違うみたいです。

これまでで双葉 or 洸が告白すべきだったベストなタイミングは『5巻』の冒頭、
夏休みに地元の お祭りに行くと約束した時ですかね。

結局、夏休み中に洸が長崎に行ってしまい、
成海と再会を果たして、彼女や過去に引きずられてしまった。

来月の修学旅行の行き先は長崎らしい。
これ、絶対に何かが起きるでしょう。


き出した恋心、最後の1つが菊池くん。

日曜日に男女4人で出掛けることになった双葉たち。
自分に告白した菊池くんの横にいても、洸のことを考える双葉。

菊池くんは比較の対象。基点となるのは洸。
ここでは菊池くんの背が洸より高いのは意外だった。

そんな双葉の揺れる気持ち全部ひっくるめて彼女を受け止める菊池くん。

こちらは不倫の恋ではなくて、未亡人との恋っぽいですね。
いつか元旦那さんの墓前で、全部ひっくるめて誓って下さい(©めぞん一刻

まさか菊池くん 失恋請負人⁉ 弱っている女性に狙いを定める恋愛ハンター

菊池くんは本当に恋愛マスターだなぁ。
しかも「名言メイカー」で、言うこと全てが格好良い。
洸を応援する私でも行動の全てにキュンキュンしてしまう。

またもや『あなそれ』みたいになるが、
こうやって2番目に好きな人と共に人生を歩んで幸せになる人も多いだろう。

しかし前の彼女さんは菊池くんのどこをつまんない と思ったのだろうか。
(たしかに理屈っぽいというか、喋り過ぎるような気もするが)

単なる新しい人を見つけた彼女側の言い訳だったのか、
それとも その失恋がキッカケで開けたピアスが菊池くんを変革させたのだろうか。

雑学王でもある菊池くんが双葉に話す
一度 意識にあげると 対象が勝手に飛び込んで来る話は恋心にも通じます。

洸なんて双葉が ずっと意識にあげられている状態なのに、
さげようとするから無理が生じて風邪をひくし貧血になるのだ。

でも双葉の意識にあり続ける洸の存在を本当は消したい「イレイサー菊池」。
こちらも意識から さげる有効な手段を仕入れておけば良かったね…。


しかし菊池くんと成海に都合の良い情報ばかり筒抜けになるのが気になります。
波乱の場面の創出のためとはいえ、ちょっと作為を感じる。
特に、駅前で洸を待つ成海が、双葉の通話内容を聞くのは出来過ぎかと。
咲坂作品は自然な流れが多いので今回はちょっと気になってしまった。


洸の未練たらたらな、ストーカーのような行動も見ていて楽しいけど、叱責もしたい。

弁護するなら洸の恋心はブレたことは1回もない。
ただ、彼の行動はいつも少しずつ間違っているだけなのだ。

ボタンを所定の位置に付けた彼なら、もう掛け違いはないかもしれない。

今後の彼に期待したいところですが、時すでに遅し。
洸は双葉に触ることすら許されない立場になってしまった。

最接近した「1ミリ」どころか、それ以上の厚さのガラス窓に阻まれる2人の接触
ましてや菊池という警察官が恋泥棒の横暴を許さないだろう(ドロケー)。

洸の最後の手段は告白か。
彼もまた分の悪い告白をすべきである。
そして本書初の、諦めないための告白をするのだ。


その兄・田中先生も、恋に負けた訳ですね…。

双葉と同じように修子(しゅうこ)も諦めるための告白じゃなくて、
諦めない告白をすれば卒業後の約束を貰えたかもしれないのかぁ。

つくづく恋愛はタイミングだ。
菊池くんや小湊のように一発必中の告白の機会を しっかり窺うべき、なのかも。
女性陣3人は少し焦りから早まったかもしれない。