《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

兄貴を助けるフリをして お前のために走った俺の気持ちは上手く隠せてたかな…。

アオハライド 7 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第07巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

文化祭で双葉と洸は事故でキスをしてしまった後、本気モードのキスをする。舞い上がる双葉だが、唯のことで洸と気まずくなって距離ができてしまう。修子は田中先生への気持ちが募ってきて…。

簡潔完結感想文

  • 風邪を引けば ソーシャルディスタンスが保たれる。自分の立場と対外的な態度を保守する人々。
  • 田中先生に熱愛発覚⁉ 校長室に囚われた兄を助けるために走る洸。本命はアイツなんだけど。
  • 納得のいく失恋。これ以上、自分と相手を苦しめないために気持ちを伝えることが大切だから。

違いを認められる強さと、認める訳にはいかない強情さ、の 7巻。

これまで以上に物事が連鎖し続ける流れるような構成の1冊だった。
洸が風邪をひけば、桶屋が儲かる。そんな思いがけない影響が続く『7巻』。

『7巻』では適切な距離を見誤った人が多くみられた。

余計なお節介を焼いたら かえって自分の醜さに気づかされたり、
軽率に頼みごとをしたばかりに自分と周囲の首を絞めてしまったり、
ノートを引き裂いたら自分の心まで引き裂かれてしまったり。

間違った経験を経て、もう一度 適切な距離を築こうとする人たちの奮闘が見られます。

ただ、そうして築いた距離感が、本当に自分が望んだ距離ではないのが切ないところ。

自分で決めた、社会的な立場など 様々な要因はあるけれど、
それぞれの立ち位置から、人との適切な距離を守ろうとする人たちが多くいた。

改めて気づかされるのは恋愛は『7巻』時点までだと誰一人 上手くいっていないこと。
本書において寄せては返す失恋の波が、今回も1人の恋心を涙に変えて海へ連れて行く。

前作『ストロボ・エッジ』が完全な片想い漫画だったら、
本書は(この時点では)登場人物、全員失恋がテーマなのかもしれません。

考えてみれば女性陣の告白は全員、不利な状況を理解しての告白なのか。
結果は二の次で、伝えることが目的の告白。
それでもなお、という姿勢が彼女たちの成長の波だろう。


(こう)のロボット説は続く。

彼は『6巻』で成海を選択したことで機械の身体を手に入れた。

でも洸は機械になったばかりで心と身体が上手く馴染まず、バランスを崩す。
この身体は成海のために使うと決めたが、心はストレスが溜まる一方。
それは決意を持って吉岡 双葉(よしおか ふたば)の名前が書かれたノートを破っても同じ。
いや、ノートを引き裂くことは自分を引き裂くことと同義だったのだ。

自業自得の部分もあるとはいえ、学校で双葉から一切 話しかけられなくなってしまったのだから、洸にとっては今は絶望の世界だろう。

その無理が発熱となって身体の症状に出る。

洸の体調不良が 少女漫画のお約束「お見舞い回」に繋がっていく。

その発端となった駅前での田中先生の車の謎のエンストは強引さを感じるが、
その田中先生との会話が、後々 大きな波乱を生み出し、人の行動に作用するまでの、
『7巻』全体の大きな流れを生み出しているところに感服してしまう。

この場面、田中先生のTシャツが「ちよ父」かと思ったけど、耳がちょっと違いますね。
(あと権利の問題もあるだろうし)

勝手に委員会を休んだ洸に腹を立てていた双葉が、
洸の発熱を知り、そして弱り切っている彼の心身に触れることで、
未だ悲しみに囚われている彼の姿を見る。

風邪で身体が弱った上、自宅という私的な空間で独り、
誰にも見せなかった悲しみが洸の全身から発せられていた。

洸が囚われているなら助け出すのは、双葉の使命ともいえる。

そんな洸は双葉の来訪に驚くが、
起き抜けでも即座に彼女にカゼを うつさないよう気遣いをみせる。

そしてソーシャルディスタンスを理由に、
弱った心がそれ以上、彼女に惹かれないように言いたいことを一方的に伝えて会話を打ち切る。

そうしてまたストレスを溜め込むのだろう。
ほんと、不器用なロボットである。

風邪の時の妙な色っぽさに加えて、萌え袖を利用したマスクで悩殺。計算高いロボットだ(笑)

われた洸を開放しようと成海と対峙する双葉。

成海は 洸がロボット思考に囚われ、無理をしていることも理解しつつ、
その上で尚、洸が欲しいという自分の欲望に忠実でいる。
だから洸の前では好意を隠し、洸の見えないところで計算し、双葉を牽制する。

洸を助けるどころか見事に返り討ちにあった双葉。
(彼女の救出工作が成功したのは夏休み前の繁華街ぐらいか? 成功率は1/4といったところか)

成海によって自分の嘘で塗り固めた行動原理を思い知らされ、大いに恥じる双葉。
その恥ずかしさから再度 洸を避け始める双葉だったが、学校内を揺るがす衝撃事件が発生し…。

双葉は素直ですね。
『6巻』でも洸から逃げようとする双葉に向かって悠里が言葉をぶつけた際も、
双葉は、言われて初めて自分の隠された心理に思い当たる節を見せていた。

これは人の言葉に左右されてしまう、双葉の心が弱いが故の「揺れ」かもしれない。
それを認めた上で、自分の気持ちに正直に動くことが双葉の課題か。


如、巻き起こった田中先生と女子生徒との不適切な関係疑惑。
なんと その相手は先生に恋する修子(しゅうこ)、ではなく その弟に恋している双葉だった!!

この意外な展開、そして その後の こちらも軽率な行動をした修子の涙の懺悔は巧みな構成である。

校長室に囚われた田中先生と双葉。
洸は、その端緒となった双葉と兄の行動が自分の発熱が原因だったと思い当たり、校長室へ走る。

正義の人助けが、当人たちに罪悪感を芽生えさせていることを彼はまだ知らない。

校長の前で状況説明と兄思いの弟を やや大袈裟に演じる洸。
田中先生をかばった、洸を見て彼の成長と進んでいる時間を実感する双葉。
そのことが成海が洸の成長阻害説を再度 否定する材料となる。

いやいや、洸の目的は田中先生救出じゃなくて、双葉にかけられた疑惑の払拭でしょ、
と言わずもがなのことを言わないと、全く理解しない鈍感・双葉に言ってやりたい。

洸が声を大にして払拭したかったのは双葉に掛けられた熱愛疑惑。
だが洸の真意は届かず、思わぬ形で波及してしまう。

物事を穏便に収めようとした洸の芝居が、
双葉と田中先生の心に罪悪感を生んでしまうという皮肉な結末が見事。

「ドロケー」で言えば味方の味方をしようとして敵に転じてしまったか。
そして かりそめの正義感が、獄中の2人に自分の罪を かえって炙り出させてしまった。

根も葉もない騒動だったが、この顛末が自省と自重を促し、田中先生の未来を変えた。
なぜなら田中先生には、他の女子生徒と不適切な関係を結んだ記憶があったから…。


して、この騒動によって未来を選んだのが、修子。

軽率な行動が、自分の好きな人の立場を苦しめる可能性に思い当たった修子は、
前へ進むために、田中先生に想いを伝えることを決意する。

今回の修子の告白は、いわば退路を断つような告白。
修子自身も上手くいくと思っていないはず。
というか上手くいったら また先生を悩ませる、苦しめるだけ。

自分の行動がこれ以上大胆にならないように、
先生に釘を刺してもらうための儀式でもあるだろう。

しかし、まさか修子が ホクロを利用してキスをしていたなんて。
現在進行形ではない隠された過去を、一番効果的な場面で使っているなぁ。

修子って、家庭はお金持ちだけど不和の不幸な育ち、
だから精神年齢が高く、そして年上の男性に惹かれてしまう、
っぽい雰囲気ムンムンですが、そんな設定は一切ないんですよね。

洸以外には家庭の描写や背景などが ほとんどないのは作者の剪定作業の結果でしょうか。


改めて修子に「学校がどんどん楽しくなっ」たと言われると嬉しさが込み上げてきますね。

恋愛面では上手くいかないことばかりの本書ですが、
それだけじゃない青春の全てが描かれているから作中は爽やかだ(秋だし)。


そんな修子の想いに対して「それ(嬉しい)以上の気持ちにはなった事ない」
という田中先生の姿には、なぜか影が差している。

涙を流しながら自分へ感謝の言葉を述べる修子の姿を見た時と、
彼女が退出して空を見上げた一呼吸にも、影は差す。
そして その影は田中先生の肉体の中に静かに落ちていく。

修子が辛いだけと予想された告白シーンは、
それ以上に田中先生の痛切な痛みと我慢を感じた。

田中先生も洸のお兄ちゃんロボットだったんだね。

教師の鑑ではあるが、こうやって身を切る選択しか出来ないことが辛い。
今度は田中先生が発熱してしまうかもしれない。

悠里(ゆうり)に続いて修子まで失恋。
でも失恋もまた行動の結果。勇気の証明だ。
彼女たちの 清々しい表情を間近で見てきた双葉は感化される。

俯瞰的にみると、同じ失恋でも、
双葉しか見えていない洸に恋した悠里に比べて、
修子の恋は、出会い方が違えば上手くいったかもしれない恋だった。

それは読者だけが知り得る視点。
双葉の恋も同じで、この視点があるから もどかしい。だからこそ面白い。


葉の知らないところで、洸と菊池(きくち)くんの小競り合いが勃発。
いよいよ対決構造が露わ になりました。

なぜか色々な情報が舞い込んでくる情報収集が上手な菊池くん。
頭が良いからなのか相手の弱みを良く知っています。
恋のハンターが動き出しすのは 彼の中で勝ち筋が見えていた時だろう。

彼の動向が物語を大きく左右する、はず。

自覚的に利己的で、自分の欲望に正直な、
菊池くん や成海(なるみ)さん の方が得をしている気がするなぁ。


ストロボ・エッジ』の仁菜子(になこ)ちゃんと蓮(れん)くんが カメオ出演してましたね。

既に2人が交際している秋のある日、
ということは彼らも同級生で高校2年生なのかな?

双葉が洸とデートする日が来たら、彼らと出会う場面も見てみたい。