《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お前が体育座りで独りでいるなら 今度は俺が助け出しに行くから。

アオハライド 11 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第11巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

中学時代のつらい記憶を、みんなと塗り替えることのできた洸。洸の気持ちは次の段階へ──。双葉は冬馬との関係を作っていこうと努力するが、洸とある行動に出てしまう。波乱が広がる修学旅行──。

簡潔完結感想文

  • 知ったかぶり。初めて大事な人を失う経験を分かったこと、それでも変わらないこと。
  • 知らんぷり。予防線を張り続けることで、その人の傍に居続ける。ホントの心は無視。
  • 知らないふり。彼女の度重なる問題行動も なかったことにする「イレイサー菊池」。

ったかぶり、知らんぷり、知らないふり、の 11巻。

知ったかぶりを悔いるのは小湊(こみなと)。

洸の不憫な片想いに対して負い目のある修子(しゅうこ)に引き続いて、
小湊も自分の過去の行いの中にある不遜に思い至る。

身近な人の訃報に接して、これまで実体験のないまま、
洸に成海(なるみ)との距離を説教してきた自分を反省する。

だが、小湊は「何も分かってないまま」「えらそうな事 言ってきた」と思うものの、
「それでも やっぱり俺の言ったことは間違ってたとは思わない」と結論付ける。
その上で「俺は前 見なきゃって思う」。

ここで私たちは知る。
小湊はもう強かったんだ。前を向いていたんだ、と。

少年漫画的に言えば、恋愛を通して次々と「覚醒」していったクラスメイト5人組。

順番的に次は小湊だったが、小湊は初登場時から覚醒していたことが分かる。
この1年で変わっていないのは小湊だけだろう。
例え、その前向きさで傷ついたとしても、そういう自分を貫いてきた小湊。
だから小湊は前を向く。

彼が強くなった要因は、喘息持ちの妹の存在があったらしい。
その強さの来歴を1年以上前に修子に教えてくれたのが、
今回 亡くなった駄菓子屋の ばーちゃん。

洸と小湊が駄菓子屋で待ち合わせした1か月ほど前は
元気だったのに駄菓子屋のばーちゃん…。

これは、ちょっと作為的かなぁ。
まぁ 高齢だからそういうこともあるんだろうけど。

「リー研(『2巻』)」で見た昇る朝日が生や若さの始まりなら、
沈む夕日は死や老いの象徴だったのか。
洸が夕日を見ると不吉なことが起きちゃうのか…?


今回の小湊関連のお話は、話を出すタイミングが素晴らしかったですね。
恋愛のタイミングは最悪な本書ですが(主に洸)、
時系列の入れ替えなど、演出面のタイミングに周到な準備を感じさせる。

修子は洸や他の男子のように、小湊くんのことを
「クソガキ」とは言ったことがないと思うが(記憶の限り)、
それは1年以上前から彼の強さを既に知っていたからも影響しているのでしょう。

そんな小湊が修子を女神と奉るキッカケも初出し。
自分が獲得した強さを認めてくれた人だからなんだなぁ。


変わらず知らんぷりを続けるのが双葉。

洸が計画していた、修学旅行中の長崎ハウステンボスからほど近い
中学時代の自分が暮らしていた町の思い出散歩。

園内から出ようとする洸を発見した双葉は彼を追い、彼女も偶発的に外に出てしまう。

そんな双葉に洸は「一緒に行く?」
「でも 誰かと一緒のほうが心強いなって 今 思っちゃった」と伏し目がちに語る。

さすが本書のヒロイン。やることが あざとい(笑)

巧みに心を誘導するメンタリスト・洸。菊池くんといい 心理学に精通している⁉

そして双葉も洸が「トモダチ代表」という言葉に大義名分を得て、
その裏で 彼がちらつかせる両想いの希望にすがる。

洸の変化を見てみたい という願望は、決して「トモダチ」としてではない。
双葉は、菊池くんにお願いなどしたことがない。

彼女は自分の一切合切の気持ちに知らんぷりを決め込む。

長崎で洸が暮らした町を一緒に回り、洸の心情に思いを馳せる双葉。
彼の心細さや頑張りを、そして悲しみを双葉なりに消化していく。


この双葉の同行は、後々に大きな意味を生むと思われる。

一緒に長崎を回る経験が、洸という人間を理解する一助となった。
それは双葉が手にすることが出来なかった洸の欠けたピース。

これまでは成海だけが占有していた思い出だが、
今回、一緒に巡礼の旅をして、双葉も肌感覚で彼の思い出に触れる。

これは今回、小湊が実体験をもって人の死を理解したのに近い感覚だろう。

そうして洸にとって成海という人がどれだけ重要な位置にいるのか、
それを理解した上で今の自分も洸を助けられる自信を持つ。
洸が悲しみや弱さに囚われてしまっても、いつだって駆け付ける自分でいると決める双葉。
もちろん「友達代表」として。
その座を誰にも譲りたくないほど、
彼の「変わっていく 一瞬一瞬を見逃したくない」ぐらい強い想いの「友達」だから…。


して洸も 支えられるだけじゃなく、強い自分を目指し始める。

いよいよ洸の最終的な覚醒が始まりそうですね。
ようやく、恋愛のスタートラインに立つ資格を得た、という感じでしょうか。
この身辺を綺麗にして、恋に専念できる環境をと整えてから、
最後に畳みかける構成と攻勢が咲坂作品の醍醐味かもしれません。


2人が長崎の小さな町で最後に向かったのは洸の母親の墓前。

夏からの4か月(?)ほどで違う心境で墓前に向き合う洸。
そして双葉も自分を含めた友達たちが「洸くん」を見守ることを墓前に誓う。

洸の中にくすぶっていた後悔や未練が昇華され、彼も笑顔を見せる。
多分、彼の中の母親も これからは ずっと笑いかけてくれるだろう。
もう この辺りから 洸が無邪気に笑っているだけで、こちらが泣いてしまう。
日程的に母の命日にほど近かったりするのだろうか。

右ページの洸の笑顔を見られたら御母堂も安心だろう。恋の方も応援してください。

墓前に報告を終えた際、洸が躊躇いながら呼んだ双葉の苗字。
その後に続く言葉は「さん」、だろうか。
中学1年生の初恋の頃の彼女の呼び方。

「田中くん」と呼んでいた彼女が
今日は「洸くん」と呼んでくれたからお返しに呼びたかった名前。

そういうとこだぞ、お前が可愛いのは(笑)

でもね、双葉がやっていることは全部 菊池くんへの裏切りだよ…。


葉の一連の行動を知らなかったふりをするのが菊池くん。

洸と園を抜け出したことを菊池くんに報告しようとするが切り出せない双葉。
ましてや その2日前には、宿泊先のホテルで洸と2人でいたことを報告したばかり。

体調不良も重なり、2人きりの時間を楽しく過ごすことが出来ない。
そんな中でも、菊池くんは笑顔を絶やさず、常に双葉を優先的に考えてくれた。

…だが、彼は最初から全てを知っていたのだった。


意地悪な見方をすれば、これは双葉の罪悪感をマックスにするには最適な お仕置きだ。

面と向かって叱責されるよりも、怖いのが沈黙だろう。
自分の中の不安が渦巻いて、居たたまれなさに 身もだえる。

彼に黙っていたことよりも、知っていたことを知ることが大きな罰となる。
そして、これからは双葉は菊池くんに忠誠を誓うしかない。
これからは「ドミネイター菊池」と呼称しようかしら。


…というのは妄想で、菊池くんが咎めなかったのは、
寛大だからではなく、話を切り出すことで一気に関係が終わるのを恐れていたらしい。

それが分かるのが修学旅行から帰った後のこと。
双葉は改めて菊池くんと会い、その際に自分の中でも洸の存在を無視している彼を発見する。
さすが「イレイサー菊池」、双葉からだけでなく、自分にも記憶消去をするとは。

双葉は菊池くんと向かい合って話し合うことで、
彼との関係をより良好なものにしていく手立てを確保する。

お揃いのストラップがある限り、双葉は菊池くんに身を預けるだろう。
だが、菊池くんの方が洸の不気味な存在を消せないでいた…。


の お揃いのストラップが巻き起こす騒動が修学旅行編の最終盤。

古今東西、少女漫画においてアクセサリーやストラップは重要なアイテム。
それを失くすということは持ち主の相手への気持ちを失くすことに繋がる。

ストラップのついたカバンごと置き引きに遭った双葉は、
犯人を追いかけて よく知らない町を疾走する。

双葉は よく走りますね。
そして今回は本物の泥棒を追いかける警察の役だ(ドロケー)。
けど、いくら必死でもローファーを犯人の顔面に当てるのはどうかと思うぞ…。


迷子になり、連絡不能で行方不明になった双葉を探し出したのは洸。

この時、双葉が体育座りだったのは「ドロケー」の再現だったりするんでしょうか(『1巻』)。
双葉さん、見ようによってはセクシーショット連発です。

そしてこの時、洸が助け出しに来てくれるのも、
これまでとは逆で、洸の覚醒の象徴のような気がしますね。
彼は双葉に手を差し伸べる権利を得たと言えます。

元から体調不良だった双葉は高熱で倒れる。

そして洸は よく双葉に もたれかかられますね。
おんぶ の方が楽だろうに、今回は お姫様抱っこ。まぁ洸にしたら役得か。

この双葉の発熱は、菊池くんへの罪悪感と葛藤の知恵熱だったり、
ロボット洸と同じく(『7巻』)、自分の気持ちにフタをした
精神的な無理が引き起こした熱だったりするんでしょうか。
一応、髪を乾かさずに寝たという原因は見受けられますが。
理論的な作者が髪のことを描いたのだから、心因的な線は薄いか。


続いてアクセサリーの付いたカバンも双葉のもとに戻ってくる。
それもまた洸の尽力によるものだった。

一応、かつて住んでいた町に近いとはいえ、
勉強と母の闘病をしていた洸には地の利があるとは言えないだろう。

その中でも、双葉を見つけ、そしてカバンを発見する洸の執念が
双葉への想いの強さを表している。

だからこそ菊池も、カーディガンのボタンを取った時のような(『7巻』)
洸はフラフラして いい加減だという認識を改め、そして恐怖の対象となったのだろう。

覚醒した洸は無敵なのか?
次巻の成海との話し合いで、彼の成長が確かめられる。


余談ですが、三角関係の漫画のamazonなどでの評価って、
○○派として我慢が出来ないというレビューばかりでウンザリしますね。

○○派に なるほど没入している時点で作品に価値があるじゃん、と私など思いますが。

感謝こそすれ、貶めてまで作品を批判する気持ちが理解できません。
「ここは お前の世界じゃないんだよ」と深夜ラジオの言葉を送りたい。