
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
メンズ校(メンズこう)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
ド僻地(へきち)にある全寮制名門男子校。顔も頭もイイ男ばかりなのに、女がいねえ!? 美男乱れ咲き! 海まで5分。最寄りの駅からは車で50分。そんなド僻地(へきち)にある全寮制名門男子高校・私立栖鳳(せいほう)。そこで繰り広げられる恋もH(エッチ)もやりたい盛りのメンズ達の狂宴の行方は…!? 和泉かねよしが描く、性春MAX★ボーイズライフ!! 「そんなんじゃねえよ」幻の番外編も収録!! ●収録作品/メンズ校/うさぎのくに
簡潔完結感想文
- 少女漫画ゆえに主人公ヒロインは不幸に出来ないが、男性主人公なら不幸も可。
- 男子校を舞台にした群像劇で語られるのは彼らの失恋または失敗アンソロジー。
- 前作『そんなんじゃねえよ』っぽい話から『そんなんじゃねえよ』の前日譚へ。
早熟な僕らの青臭い青春、の 1巻。
一応 主人公に男性・牧(まき)が設定されているものの『1巻』は牧が見聞きする3人の同級生の失敗談、そして前作『そんなんじゃねえよ』の前日譚の合わせて4つのエピソードが収録されている。
一見、前作の読者を引っ張ってくるための構成のようで、内容的に この並びは しっくりくる。大きく言えば4つの話は どれも男性の苦い恋愛失敗談という共通点があり、その内の3つは中学時代に その時の自分では手に余る問題を抱えた話でもある。
本書は俗世と隔絶された場所に位置する全寮制の私立男子校(メンズ校)が舞台となる。本編で登場する男子生徒たちの問題は女性との新たな出会いに乏しいことではない。問題は恋愛の思い出が冷凍保存され更新されないことではないか。だから彼らは過去の(主に中学時代の)恋愛経験をいつまでも引きずる。もし彼らが共学校に進学したのなら新しい出会いによって過去の恋愛は忘却し、更新され、そして若かったと自分で笑えるようになる。しかし彼らは恋愛をするスタートラインにも立てない場所に収監されて、自分の傷を何度も見つめるしかなくなる。例え恋によって新しい傷が出来たとしても、その傷が古い傷の痛みを忘れさせてくれるが、彼らは一つの傷だけを いつまでも見つめる。だから青いはずの春が暗くなる。
共学校は自分の社会の中での異性との価値を否応なく思い知らされる暴力的なシステムではあるが、その暴力の中で立ち居振る舞いを学ぶ場でもある。しかし男子校の中にいる彼らは そのシステムに組み込まれず、新たな経験をせず、中学時代と同じ不器用さを保持し続ける。本書は そんな男子力が一向に向上しないダメンズたちの失敗譚である。
最後に もう1つ4つのエピソードの共通点を挙げると、男性4人とも相手のことを優先できる という点ではないだろうか。失恋や それに類するものに直面する4人の男性たちは、女性の幸福を追求し、傷の痛みを最小限にしてあげる努力をする。その優しさが、失敗ばかりの男性視点の物語でも少女漫画読者のキュン要素になっているのではないか。
これまでの和泉作品は女性が、その世界でNo.1の男性と並び立てるように、ライバルたちに負けないように女子力を磨く展開が多かった。けれど本書は これまでの和泉作品ならNo.1男性として描かれるような人も切ない恋をする。
また少女漫画ではヒロインと設定された女性は、いくら地味でも いくら間違っても最終的にハッピーエンドになることを半ば強制されているが、男性たちのエピソードでなら上手くいかなかった恋も描ける。男性視点で、しかも複数の男性を用意することで これまでの作品では描けなかったバッドエンドや、男性側の滑稽な失敗を描いていく。
少女漫画家としてのキャリアが長くなると こういう作品も描きたくなるのだろう。作者は男女ともにネタを提供してくれる友人に囲まれているみたいだし、こういう自爆系のエピソードは これまでの作品内に勘違い男やイタイ女を登場させて描いてきた。私は愉快ですという雰囲気が やや鼻につく部分もあるが、リアリティと幻想の ちょうど中間のような物語は少女漫画読者に新しい視点を与えてくれるのではないか。
作品が主人公は設定されておりながらアンソロジーっぽい構成なので、私は途中で挫折しかけましたが…。
最寄駅から車で50分、一日二回のフェリーが外界との連絡手段、312人の全校生徒がいる全寮制男子校 私立栖鳳(せいほう)高校。この学校は超ド僻地にあり脱出不可能なことからアルカトラズ刑務所の日本支店と呼ばれている。
1話は乙女系男子・花(はな)ちゃん こと花井 衛(はない まもる)の男女恋愛における失敗の お話。
自分の嗜好を隠さない花ちゃんは入学当初に男子校の異端者として差別されかけたが、気の短いクラスメイト・牧が差別を暴力で撲滅。花ちゃんは中学までは自分のセクシャリティに悩み、女性との交際に挑戦した。高校進学による物理的な距離で その交際は自然消滅したと思っていたけれど、その彼女が来校するという。自分のセクシャリティを知られることで彼女が傷つくことを回避したい心優しい花ちゃんのために友人たちは鼻息を荒くしながら協力する。


花ちゃんは自分の中の男性を振り絞って彼女・木梨 ミキ(きなし ミキ)との時間を やり過ごすが、彼女は家出してきたと発表したことで、女人禁制の寮で面倒を見る。花ちゃんの部屋は乙女趣味のため、現在 同室の生徒(野上・のがみ)がいない牧の部屋に匿(かくま)う。バレたら退学処分となる緊迫感の上に女性と同じ空間にいることを牧は意識してしまうが、地獄の一夜を何とか やり過ごす。
翌朝、花ちゃんはミキの説得に臨むが、彼の説得には帰れという含意はあるが、ミキの家出の理由を聞こうともしないことにミキは不満を抱え寮から脱走する。それを牧が確保して、ミキと花ちゃんの来歴を知る。彼女は花ちゃんの性的志向を見抜いていた。交際中に花ちゃんの演技が分かり、それでも彼のことが好きで一緒にいたかったため、ミキも物分かりのいい彼女を演じ始めた。進路が別になることへの反対も言えず、自然消滅に近い状態になった。それは花ちゃんの巧みな誘導だったのかもしれない。でもミキは演技を見抜いていることを花ちゃんに気づいて欲しかった。今回の訪問は2人の関係に嘘を無くすためであって、交際の継続を彼女は望んでいない。
そんなミキの葛藤を知った牧は露悪的に花ちゃんに接し、ミキの貞操の危機を演出する。自転車でミキを攫って逃亡する牧を必死で追いかける姿の中に、花ちゃんが彼なりにマキを大切にしていたかが滲む。追いついてミキを心配して余裕がなくなった花ちゃんから おネェ言葉が飛び出し、ミキは それを指摘する。
一件落着し、心残りの無くなったミキは てっきり牧に新しい恋を見い出すかと思ったら、そんな都合の良い展開は牧(男性)側の甘い妄想でしか起きない。ミキは、女友達である花ちゃんに、女の勘で牧には大事な女性がいる気がすると打ち明けていた。後にこれが事実だと分かり、ミキは何でも見抜く察しの良い女性であることが証明される。
続いては牧と同室の野上 英敏(のがみ ひでとし)の話。野上は軽い胃潰瘍を患い入院していたため登場が遅くなった。性欲を含めた歯に衣着せぬ発言で周囲をドン引きさせるのが野上の特徴。
そんな野上が狙いを定めたのは保健医の福原 綾子(ふくはら あやこ・26歳)。けれど野上は、学校の外の世界である「外界」でモテてきた人間。そこに全国レベルの高い偏差値と高いプライドが加わって、女性へのアプローチが下手すぎる というダメンズである。ただ熱烈とも言えなくもないアプローチは自己肯定感の低い福原先生(通称・フク)の心を刺激した。しかし彼女が奮起したのは野上ではなく学校一いい男・神木(かみき)だった。


フクは卑屈。26歳の自分との10歳差の年の差なんてモテ格差を帳消しにしてしまい委縮してしまう。その相談相手に野上と牧が付き合わされる。牧は お人好しの巻き込まれ型主人公というだけでなく、他人のために動ける性格だから貧乏クジを引いてしまうタイプのようだ。
野上は理想だけは高いフクの意識とルックスを改造する。少し気を遣えば抜群に良くなることを野上は見抜いていた。そこから野上はフクの特訓に付き合うが、実践には行かせない。それはフクが野上に感謝せず、神木だけを見ていることへの不満の表れだった。そしてフクが神木に振られて傷つくことを恐れているからだった。
そんな野上の気遣いを知らず待て状態に痺れを切らしたフクは独断専行する。遅れて告白現場に到着した野上は、神木の前で泣いているフクを発見し、神木にフクの良いところを並べ立てる。間接的な告白になった上、フクは野上の顔が浮かんで神木へ告白をしていなかったことが判明。そこで改めて野上がダメ押しの一手を打つところ場面で野上は下手を打つ。そういうダメンズなのだ。野上というモテを経験した男も、この隔離施設では経験値がリセットされるのだろうか。
続いては学校一のいい男・神木 累(かみき るい)のお話。異性の目を気にしない閉鎖世界で入学から半年が経過すると本性が見えてくる。神木はパーフェクトなルックスに反し、性格はズボラ。自分の恰好に頓着しない。彼が半年間はパーフェクトでいた理由は姉の真奈(まな)の影響だった。これまでは真奈がコーディネイトした服を着用していたが、夏に実家に帰らなかった神木は秋以降の服を持っていなかったズボラさが露呈する。


真奈が今回 訪問したのは18歳での結婚を前に、最後にズボラな弟の面倒を見に来るためだった。けれども牧が神木から聞き出したのは この姉弟に血の繋がりはないことだった。神木が12歳、真奈が14歳の時に再婚相手の連れ子同士と2人は出会った。再婚で中年の恋を謳歌する両親たちのもと、神木たちも仲の良い姉弟を演じていた。だが2人は密かに惹かれ合っていた。神木が実家を早く出たがったのも、真奈が早い結婚を選んだのも根底には同じ理由がある。姉弟の枠を超えないように2人は別々の道を強行する。血の繋がりがないからといって『そんなんじゃねえよ』を再開する訳にはいかないのだ。
そんな2人の姉弟の現状を把握した牧は お節介を試みようとし、神木も行動を起こす。しかし神木が想いを漏らしても真奈は現状を優先する。結婚が この苦しみから逃れる救いだと思ったからこそ彼女は行動した。その自分のワガママに巻き込んだ人たちを不幸にする訳にはいかない。その真奈の優しさを知り、神木は姉への想いを冗談にする。それでも神木にとって真奈は大切な女性である。
「うさぎのくに そんなんじゃねえよ番外編」…
当時 中学生だった哲(てつ)が出会った大学2年生の女性・ナナとの過去。哲は実の妹かもしれない静(しずか)への叶わない想いを抱えており、そんな時 出会った南 ナナ(みなみ ナナ)は既婚男性と不倫をしていた。泥酔したナナの荷物を届けることで2人は関わり、そして他人だからこそ互いの秘密を打ち明け合えた。精神的に依存する関係の行く末を、人生経験が豊富な哲の母親は分かっていたようだ。
ナナが寂しさから哲の身体で自分を慰め、そして哲はナナを支えようと奮起する。しかし寂しさを支え合っていたはずの2人は傷つけあってもいて、哲の初めての交際は終わる。互いに逃避した交際だったけど、これで2人は負の連鎖から逃れ幸せになれたかもしれない。しかし それが出来なかったからこそ、本編の哲は ずっと苦しむことになる。哲の出来たばかりの恋愛のトラウマを静が癒やしたことで、彼女は本格的に哲のヒロインになったと言える。

