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少女漫画と小説の感想ブログです

囚われの君のもとに 全速力で駆け寄ることなら 私にも出来るから。

アオハライド 4 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第04巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

悠里と洸の関係が気になる双葉。一方、他人を深入りさせずに距離をおく洸の過去に起こったことに踏み込んでいこうとする双葉だが…。

簡潔完結感想文

  • 奇襲攻撃。彼の何もかもが知りたいから 帰るふりして後ほど合流。合コンの手口か!
  • 安全保障。貴方の心の平和は私が守る。それは恋愛解禁の合図。ここからが真の本編。
  • 先制攻撃。不利でも「自分の好きな自分でい」られるギリギリ ボーダーラインだから。

いに 出し抜き、出し 抜かれ(『ふりふら』の語調で)、の 4巻。

『2巻』では双葉が、『3巻』では作品が、
そして『4巻』では洸(こう)が いよいよ本気を出し始める。

本気を出した洸は すごいことになっている。

  • 学問。成績低迷による留年の危機から一転、成績上位者となる。
  • 生活。目の前にある大切なものを見失わずに生きるようになる。
  • 恋愛。中学以来の照れという感情を取り戻す。そこにまたキュン。

いよいよ内面まで整った完璧男子になってきましたね。

そして ここが本作における構成の秀逸さ、だと思います。
もし本編開始の時点から この洸が読者の前に現れたら、読者は どう思うか。

答えは簡単。それ、蓮くん で見たんで。(前作『ストロボ・エッジ』

そう、咲坂作品の完璧男子なら既に蓮(れん)くんがいる。

多くのファンを獲得した『ストロボ』後の連載となった本書。
大ヒット曲や、大ヒットドラマと同じく 二の矢が難しい場面。
似たものを期待されているが、同じものになったら落胆される。

そこで編み出されたのが、ヒーローの作中での成長ではないか。
蓮くんでは描き切れなかったことを洸が担う。

2人のヒーローはタイプが違う。
蓮くんが生来の人格者で、洸は出世魚だろうか。

物語の最終巻での彼らの魅力は甲乙つけがたい。
どちらも等しく優しくて、どちらも等しく温かい心を持っている。


と言っても『4巻』の見どころは、洸の変革の一日でしょう。

学校で勉強会を開催していたクラス委員の5人。
だが 洸はトイレに立つふりをして 一人で帰宅してしまう。

双葉たちを受け入れているようで、まだ「心の扉」を閉ざしている洸。
「鍵穴どころか ドアノブも作り忘れちゃった」洸の「心の扉」を開けることは出来るのか…。

これまでも夕食時に ふらりと外出し、繁華街の人の集まりに身を寄せていた洸。
以前、洸をストークして この場所の存在を知っていた双葉は、洸を探しに その街に向かう。

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4年後の私も 変わらずに君の味方だから。私が君の閉じた心にタッチするから。

思えば 中学1年生の時の「ドロケー」は象徴的なシーンである。

あの時、扉のない円で描かれた「ろうや」の中に 一人で座っていた 「田中くん」。
それは今の洸も同じ。周囲に人がいても、そこにいるのは たった独りの洸。

彼は今、自分で自分を囲った牢獄の中に独り座っている。

かつて自分を守ってくれた「田中くん」、そして新しい自分の契機となった再会後の洸。
同一人物でありながら断絶してしまった その2人を今度こそ助けるために全速力で走る双葉。

「ドロケー」では無残にも捕まってしまったが、
様々な経験を経て一回りも二回りも成長した双葉は
自身が 洸の内奥に触れる鍵となることが出来た。

双葉は体当たりで洸の扉をぶち破り、そして洸を嘲笑する者を ぶっとばすことを約束する。
そうして扉から出てきたのは洸の 生きることへの罪悪感と 流れる涙だった…。

この場面、中1の あの日から ちょうど4年後の同じ日、という可能性は どのぐらいあるんでしょうか。
どちらも夏休み前だし、作者なら そういう裏設定を仕掛けてきそうな気もする。

早くもクライマックスの様相を見せています。
洸の過去が露見してから、ここまでの展開が早いのも良かったです。


こから始まる洸の変革も涙なしでは読めない。

双葉も、兄・田中先生も認める通り、洸は「優しくて いい子」だ。
だから ずっと母の無念に寄り添ってしまったのだろう。

子供にとっての母は、特に男の子にとっての母は
その人が弱るなんてことを考えたくもない存在だろう。

洸は、優しくて いい子で、そして賢い子だから 母を失う前から
自分の過失に思い当たってしまい絶望に苛まれ続けていた。

手段と目的を はき違えて、目の前の幸せを逃してしまった自分の罪。

高校入学後の洸の成績低迷も その絶望に結ばれていた。
もう 優秀な成績がもたらす未来の中に母の姿が消えてしまったから…。

かつて母と食卓を囲まなかったことへの後悔から、
今の家での家族との食事を敬遠していた洸。

そんな彼が囲むことを決意した男3人の食卓風景にはもらい泣き。

その前に起こった恋愛漫画としては ベタな、
告白への雰囲気が流れている中で お腹が鳴るという場面も重要な前振りとなっている。
今回ばかりは犯人の双葉を責めないで あげたい。

お腹が鳴って、食事の話題が出て、洸の自宅で田中先生が食事を作って待ってる、
と双葉が伝えなければ、この場面は生まれなかったのだ。
(ただ この時 告白してれば傷つく人が最小限になった気もするが…)

そして翌日、学校で会った洸は、泣いた気恥ずかしさもあってか
双葉と目が合っては 目を逸らす。これは「田中(洸)くん」復活か?

自分を許した洸は、恋愛解禁にもGOサインを出しただろう。
今度こそ本当に ここからが本編。

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新生・洸は母性本能をくすぐることを覚えた。仮面が剥がれた 少し幼い表情が洸の本当の顔か。

洸の一連の過去が明らかになった際は 小畑友紀さんの『僕等がいた』を連想しました。
あちらより穏便に、あちらより迅速に解決に向かって胸を なでおろした次第。

そういえば単行本に掲載されている登場人物のプロフィールの項目が
「家族構成」ではなく「兄弟、姉妹構成」になっているのは その後の洸の展開を考えてのことか。

洸のプロフィールが載っていた『2巻』の時点で
彼の家族構成を載せちゃうとネタバレになっちゃいますもんね。
細部にまで気配りがされていることに頭が下がる。


れまでは再読時にはアオハライド side 洸」と視点を変えて読んできましたが、
もう洸が「全力 出さない俺 カッコよくね?」と「スカし」たヤツでは なくなったので、
今回は「side 悠里」として読んでみました。

その視点から読むと浮かび上がるのは、双葉のグイグイ加減。

『4巻』でも、悠里と洸の間に秘密があることを嗅ぎ取った双葉は、
皆と洸の家から帰ったと見せかけて、もう一度 洸の家を訪ねている。
本能的に自分が蚊帳の外なことを悟って、男の人の家に単独で上がり込むとは大胆である。

後の夏祭り回で、双葉は 悠里のグイグイを『女子』と評していたが、双葉も負けていない。
悠里からすれば、夏祭りでの告白は双葉の行動に焦燥感を煽られての大勝負だったのでしょう。

洸の秘密を巡っては悠里にも利己的な考えがあったので両成敗として落とし込んでいるが、
立場を逆にしてみると、双葉の攻めの姿勢がよく分かる。

登場人物たちの自分本位の一歩手前の、適度な利己的な性格に親近感を覚える。


『4巻』の悠里と双葉の出し抜き、出し抜かれの勝負は嫉妬との戦いでもある。

悠里の黒い感情は意図的に描かれていないのだろう。
だが視点を変えると、悠里の柔らかな表情の下に焦りと葛藤の日々があったと思い当たる。

悠里の告白への心の動きもリアルな感情で、そして彼女の出した結論が好きだ。

自分の不利を自覚して、頑張っているけど手応えが無くて、
双葉だけが特別な地位にいることが許せないのも正直な心境。

そんな黒い感情が自分を呑み込んでしまう前に、一縷の望みに託す。

自分が行動を起こさないまま一方的に友達を嫌いになりたくない、
たとえ自分が傷ついても踏ん切りをつけたい という悠里の勇気に感服します。

これは『1巻』で女生徒たちにどう思われても「自分の好きな自分でいたい」という悠里の言葉に通じますね。

この言葉を守れる自分でいられたことが悠里の成長でしょう。
この精神が堕ちそうになる自分を踏みとどまらせ、結果的に友情を保持できた。
告白は彼女の勇気、彼女の強さです。


愕したのが、もう一人の重要人物・菊池くんと双葉の出会いとなる場面。

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少年誌の衝突からのパンチラのように、少女漫画では この展開が定番になるかも⁉

こういう場面、私初めて見ました。
事故で倒れて顔が近づくとか、キスしちゃうとか、
着替えている男性の裸を見ちゃう場面は 少女漫画の あるある ですが、
このように物理的接触を果たす場面は初だ。

この発想は なかった。
少年誌やアニメの「ラッキースケベ」を少女漫画的に変換すれば、こうなるか??

そんな被害者・菊池 冬馬(きくち とうま)くん は残念ながら名前の通り 当て馬だろう。

高校生の吉岡 双葉が自分を回復した後、
悠里の洸への気持ちによって、自分の本心と向き合った。

そして高校生の洸が自分を許した後、
菊池くんの存在によって、双葉への積極的な行動に移っている。

そうか、こう見ると悠里は菊池くんと同じ 当て馬ポジションなんですね…。不憫。

だが被害者の菊池くんは、この一件が忘れられない。
今はまだ名前も知らない吉岡双葉という存在が彼の「意識にあが」ってきたから。

『4巻』の双葉は 洸の心にタッチして、菊池くんの あそこにタッチしたんですね…(苦笑)

そういえば図書室で菊池くんが動物関連の本を読んでいたのは、実家の影響か(後に判明)。

アオハライド 4 (マーガレットコミックス)

アオハライド 4 (マーガレットコミックス)

  • 作者:咲坂 伊緒
  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: コミック