《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君の名前を呼ぶのは まだ少し恥ずかしいけど、俺は自分の名前に胸を張って生きるよ。

アオハライド 13 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第13巻評価:★★★★☆(9点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

やっとやっと思いが通じた双葉と洸。修子と小湊、田中先生もそれぞれ新たな関係へ―。そして、洸が決めたこととは―。懸命にもがき、駆け抜けた青春ストーリー堂々完結! 【同時収録】ストロボ・エッジ 特別編

簡潔完結感想文

  • バレンタイン回。様々な思惑が交錯して情報大渋滞。からの 心がスッキリするカタルシス
  • サプライズ。休み明けに色々と かましてくる かまってちゃんの洸。最新版ちょっとウザい。
  • 特別編。仁菜子とケンカする蓮くんが見られるだけで有難い。蓮くんも日々アップデート中。

手のアルバムならばボーナストラックのような 最終13巻。

ラブラブな2人が見たいであろう読者にファンサービスをしつつ、
最終話まで手を抜かず、というよりも、ここに真髄があることを見せつける。

私は最終話を読んで、作者が描きたかったことが初めて見えた気がする。

最終話が『1巻』の前日譚「unwritten」という原点に繋がり、
中学1年生の主人公たちに芽生えた初恋が ここで初めて結実したことが示された。
あぁ、これは洸の自己回復の物語だったんだ と納得した。
最後まで卓越した構成力を見せつけてくれる。

作者の力量なら、一定のクオリティを保ちながら この後の学校生活も描けると思うが、
やはり原点回帰した地点が本書の終わりに相応しいだろう。

私は、少女漫画における高校3年生は気軽に手を出してはいけない領域だと思っている。
恋愛中心の漫画が進路問題に重心を移しても成功する確率は高くない。

当初の構成通りに物語を潔く終わらせられる強さと聡明さに感謝したい。

バレンタイン回を読んで、あれ、そういえば去年のバレンタインは…と考えたが、
作中では1回しかバレンタインを過ごしてないんですね。
濃密な1年を描いたんだなぁ、と改めて実感した。


年末に晴れて両想いになった双葉(ふたば)と洸(こう)。
恋人として新年を迎え、洸の部屋で冬休みの宿題に取り掛かっている場面から始まる。

これまでの経緯から洸が恋愛に どっぷりハマるのは予想できたが、
恋をしている双葉が こんなにも欲張りで重い奴なのは予想外だった。

「好きだと 欲張りになっちゃう」んだって。
きっと、して欲しい行動、言って欲しい言葉が無限に湧き出るんだろうなぁ。

菊池くん、刮目せよ。これが恋する双葉の本当の姿だ。…ハンカチ、貸すよ。

でも、双葉の そういう描写があればあるだけ、元カレの菊池(きくち)くんが可哀想だ。
何にもお願いされなかったもんね…。
2人が付き合い始めた事実よりも、
自分の場合と洸の場合、2人でいる時の双葉の反応の違いに 深く傷を負いそうだ。


んな勉強デート中の2人のもとに、おフランス帰りの小湊(こみなと)が来訪ざんす。

小湊も遂に告白へ動き出す覚悟が生まれた。
ホントに 本書は告白推奨漫画ですね。

小湊は、双葉たちと修子(しゅうこ)のWデートを計画する。

その手のことが嫌いそうな洸だが、彼は彼なりに
小湊の幸せを応援しているので、計画の参加を了承する。

こういう風に明確に洸の変化と成長、そして友情がわかると心が温かくなりますね。

Wデートの計画を練る3人に対して、
夕食は一緒にお鍋を食べようと誘う洸の実兄・田中(たなか)先生、可愛いな、おい。
男子ヒロインである洸と その兄の兄弟は 実は姉妹なのかもしれません。
彼女たち 割と あざといと思います(笑)

皆で鍋を囲む夕食時に、かつて洸が拾った黒ねこの名前が判明(『5巻』)。

これは洸のファンでも「さすがに ひく」かもしれませんね。
流石、男子ヒロイン。乙女チックですわ。
これは「同じ温度」の言葉と同様に、委員会5人組に ずっと語り継がれる話になりそう。

そのことが発覚したのを契機に、洸の双葉への呼び方も変わる。
夢見るヒロインだから、このまま吉岡 呼びのままだと
結婚した時に不便だし、とか思ってるのかもしれません(笑)

そういえば双葉は、中学生の洸が双葉の名前を記したノートを見ずに終わりましたね。
まぁ、見ないでも既に幸せですが。

いつか喧嘩した時や、20年後ぐらいの家の大掃除の時に見つけて、
10代前半の彼の純真さに思わず微笑む という展開を希望します。


せの中に、少しだけ不穏な空気を潜ませるのが上手い。

ただラブラブな毎日だけじゃなく、
その中でも変わっていく日々を技巧を駆使して描いている。

そして個々人の秘密の計画が 色々と渋滞を起こしているなぁ。

バレンタインデーの小湊の作戦が近づく中、洸の様子に少し違和を感じる双葉。
双葉が学校で田中先生と喋っているだけで少し苛立っている様子。

この場面、洸の異変を描きながら、双葉の会話にも意味があるようだ。

そして洸が苛立っていた原因が何なのかを考えると楽しい。
自分の秘密が兄にバラされるのではないかと思ったんでしょうね。
何だかワガママな末っ子だね、最新版の洸は。
1年生の時なんて約1年間、双葉の周辺情報をリサーチしていただけだったのに。

この場面だけで何重にも伏線があるので、ページを戻って読み返したくなります。


湊と修子の恋愛にも決着がつく。

修子が かつて好きだった田中先生の身の振り方を絡めることで、
小湊の告白にフェアさを出して、
そして、修子の出す結論に迷いがないことの証明にしている。

疑問の余地を残さないように事前に整理する手際が見事です。
修子の方に選択権を委ねないと、小湊が繰り上げ当選みたいになっちゃいますからね。

小湊には決定打となる「かっこいいとこ」は無かったかもしれないが、
定期的にヒットを打って、高い打率を見せたことが修子に伝わったのだろう。

歯に衣着せぬ修子から、無情な言葉を投げつけられない時点で小湊は かなり特別な存在なのだ。
少しずつ好きが降り積もり続けた結果が、修子の答えだろう。


田中先生は弟の洸の成長と、そして忍ぶ愛だった修子の行く末を
見届けることが出来たから一区切りだったのでしょう。

修子に対しても、小湊になら預けられると託した兄みたいだ、
といったら田中先生の恋心に失礼か。


たもや技巧が光るのが、洸の問題のミスディレクション

3年生進級時にクラス替えのない学校だから、問題ないと思いきや、
洸には上(特進クラス)を目指すという選択肢もあった。

夢オチからバッドエンドまで数多の可能性を予感させつつ、
その中から最良のものが選ばれた感じが良いですね。

双葉が、休み明けに洸の存在が学校から消えたと肝を冷やすのは3回目。

1回目、中1の夏休み明けは長崎へ転校し、
2回目、高2の夏休み明けは洸がロボットになっていた。

そして今回、3回目、高3へと進級した春休み明けの洸は、
クラスにも特進クラスにも姿がなくて…。

この時の座席票の見せ方も素敵だ。
ページを戻った時に再確認できるのが憎い心意気。

しかし このクラスに同じ苗字の人がいなくて良かったね。
同じ苗字が2人いて、××(洸)になっていたらバレバレだった。

作者からの挑戦状。読者にも謎を解くヒントは与えられている。フェアな描写です。

ここで明かされるのが、神経質に進められていた洸の計画。

私は両想いになった『12巻』のラストよりも、
洸が「田中 洸」に戻った場面に強く胸を打たれました。

あぁ、本当に本書は田中 洸の物語なのだ、と作者の狙いが鮮明に浮かび上がった。

自分にはどうにもならない運命に翻弄された「田中くん」が、
かつての自分と 新しい自分を受け入れて成長していく物語。

作中で洸は何回バージョンアップしたのだろうか。
そして、その中でも たった一つ変わらなかったのが「吉岡さん」への想い。

洸、あんたは本当に正統派の少女漫画の男子ヒロインだよ。
不器用で完璧でないからこそ、完璧を装った初期型 洸も愛おしい。


ラストシーン、雨宿りの時に回想される中学生の双葉が、
「もし 次があったら今度は もっと気の利いた事を」言い返したかった言葉は何だろうか。

私の中では「私 田中くんの事が好きなんだ」かなぁ。

今回、双葉が耳打ちした言葉と5年前のが同じ言葉だとすると、
あの日、中学1年生の双葉が抱えながらも、言えないまま宙ぶらりんになった言葉を選ぶだろう。

しかも洸は もう馬渕(まぶち)じゃなくて、あの時と同じ「田中くん」なんだから。

そうして、あの日、置き去りにされた初恋は成仏する。
人生で最初で最後の恋として…。


うーん、違うかなぁ…。
これは「急に降ってきたよな(ね)」に対する返しじゃないんですよね。

「雨が止むまで一緒にいられて嬉しい」とか でもいいかなぁ。


そして菊池くんも最後に報われて(?)良かったね。
まぁ、これは本格的な恋愛の予感というよりも、捨てる神あれば拾う神あり、の例示だろうけど。


欲を言えば、もう一度、委員会5人組に「同じ温度」の一体感が欲しかったかなぁ。
田中先生の送別会で顔を揃えているから、
そこの場面での会話をフィーチャーして欲しかった。


ストロボ・エッジ 特別編」…
(体育祭の応援)団長と気軽に話す仁菜子(になこ)に蓮(れん)が やきもちを焼き ケンカ中。
どうやら蓮は団長にだけ過剰に反応するらしいが…。

前作『ストロボ・エッジ』の特別編。
掲載雑誌のタイミングからすると実写映画化の公開直前での特別編だったんですね。
商売の においがしますわ。

でも久々の面々に会えてうれしい人が大多数だろう(私は1年ぶりだけど)。

本編では描かれなかった仁菜子ちゃんと蓮くんのプチ言い争いだけで楽しい。
そして蓮くんは何回か鎖骨触ってる。
前作のファンには、そんな読みどころ満載の短編。
元 ロボットの蓮くんも人間の機微を学習して日々成長しているみたいです。

安堂には反応せず、団長には過剰に反応する蓮。当て馬にも なれない哀れな 安堂。

団長の心境は、捻くれていた頃の洸の心境に似ているかもしれませんね。

支えきれなかった洸と違って、団長は己の力量をしっかりと見極めているが、
恋人との関係性を見誤ったみたいです。
ある意味で今回も女性ヒーローに 男性ヒロインといった感じですね。

本編の『7巻』にも後方で少し登場した2人ですけど、
今度は がっつりと会話をする4人が見たいものだ。
蓮くんも洸も、互いの彼女が少しでもアチラの彼氏に優しくしたら嫉妬の炎で身を焦がすかと思われる(笑)