《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君が漂わす 君の髪の匂いすらも 俺だけのものだと 思っているから。

アオハライド 3 (マーガレットコミックス)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
アオハライド
第03巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

過去の洸ではなく、16歳の今の洸を好きだと自覚した双葉。しかし大事な友達・悠里も洸の事が好きだと知らされ心は揺れる。双葉が選んだのは…? 修子の恋を描いた番外編「星の引力」も収録。

簡潔完結感想文

  • 3巻にして少女漫画が本格始動。どんな匂いでも君から香れば君の匂い。俺だけの匂い。
  • 3巻は三角関係の 3。友情は一方的に消失する恐れがある。でも恋情は消えてくれない。
  • 少女漫画の定番、勉強回。…二週間後。もう教えることはない。師を超えたな。グフッ。

女漫画はじめました、の 3巻。

『2巻』では主人公・双葉(ふたば)が自分改革に本気を出してましたけど、
『3巻』では作品自体が少女漫画として本気を出し始めた。

一度 感知してしまうと逃れられないのが恋の重力。

これまでは主に 洸(こう)の えり足の匂いに誘われていた双葉だが、恋は細部に宿り始める。

「わりときれいな字とか 骨ばった手とか 肩とか
 前髪の すき間から少しだけ見える目とか」、彼の全てに惹かれていく双葉。


だがしかし、少女漫画を始めてしまったからには逃れられない宿命があった。

それが「少女漫画の3巻、三角関係の始まり説」

始まったばかりの恋は、明確に自覚する前から、
始まったばかりの友情との板挟みが運命づけられていた。

髪の匂いに、唇の色に好きを宿らせた双葉の恋が いよいよ始まる…。


当に『3巻』は これまで以上に胸キュンシーンが満載です。

どうやら洸に恋をしてしまった悠里(ゆうり)への遠慮から、
双葉は洸に惹かれまいと抗うが、こんな時に限って彼は素直な優しさを見せる。

洸と2人の学級委員でも 一緒にレポートを書いてくれるし、
その提出に双葉が職員室に向かっても下駄箱で待っててくれるし、
駅で洸が電車に乗り込んでから忘れ物をしたといえば 取りに戻るために電車を降りてくれる。

(多少 不自然な理由を付けてでも 一緒に下校するのが夢だったんだから)帰るぞっ!

怒涛の胸キュン ラッシュである。『3巻』は キュンです。
そんな洸の優しさ と自問自答の結果もあって、
自分は この好きを やめることが出来ないと観念した双葉。

今後 予想される友情と恋の板挟みに早くも懊悩する双葉に対して洸は体調を気遣う。
洸が差し出すペットボトルの水を飲み、隣り合って座る駅のベンチ。
2人の距離は風が運んだ髪の匂いが届くぐらい近い。


『3巻』の洸の態度が少し軟化しているのは、
彼らの間に「同じ温度」が流れ始めているからでしょうか。

頭の匂いを嗅ぎ合って 敵ではないことを認識した、猫のような2人である(笑)


女漫画として本気を出した途端、双葉の乙女心が前面に出ている。

これがガサツな自分を自己演出する前の、
押し込めていた本来の、中学1年生の頃の双葉の性格でしょうか。

恋の始まりの一歩前に、自己の回復と 真なる友情が成立しているところが憎い構成。

悠里と心を通わせた直後に、洸への気持ちも開通してしまう。

失いたくないから自分を欺瞞してでも封じ込めようとした気持ち。
その上に中学時代の友人とのエピソードを添えて、双葉の足踏みに説得力を持たせている。
(この友人、『1巻』の前日譚、中学1年生の「ドロケー」の場面にいた人ですね)

友情は簡単に消え失せてしまう、
だが恋情は簡単には消えてくれない。
私は どちらかを選ばなくてはならないのだろうか…。

そんな中学時代の思い出は双葉にとって経験則の戒めとなる。

かつて ちょっとした視線の動きだけで完全に「独り」なった双葉。
今回、初めて友人と同じ人を好きになり、恋する乙女の心理を身をもって知った。

もし あそこで、かつての友人との再会がなければ、
双葉が理不尽な行動の被害者としての記憶が甦らなければ、
双葉も嫉妬に身を焦がし、悠里の心配をよそに、彼女から離れたかもしれない。

でも一度は負の感情を自覚しながらも、正しい行動に移れる登場人物たちが好ましい。

そして彼らの行動の選択が、読者の戒めになって、
少しでも悲しい被害者が減るように、という作者の祈りが聞こえる気がする。


果的に告白大会となった女子会@ドーナツ屋も、
綺麗事だけじゃない綺麗事、というバランス感覚が好きです。

双葉と同じ人を好きになったことを知って泣いて感情を整理する悠里。
そんな彼女の心の動きを察知しながらも話題には出さず、
代わりに、自分の好きな人を告白し出す修子(しゅうこ)。
そして他人様の恋愛事情をペラペラと喋らない悠里への信頼が生まれる。

その前段階で双葉にしては長く悩んでいたことが前振りになって、
10数ページの中でジェットコースターのように変化する心理状態が面白い。

友情も好きも、降り積もっていって消えることがないと実感が出来る『3巻』である。


そんな秘密厳守の悠里は、洸との間である秘密を共有した様子。
それが何であるかが分かるのは次巻以降。

双葉と洸、2人だけではなく、周囲と 彼らの背景まで巻き込んでいく展開に世界が広がっていくのを感じる。


も ダメだ。
再読時におけるアオハライド side 洸」の視点だと 何もかもが笑えてきてしまう。

上述した胸キュン シーンも再読すると どうしても吹き出す場面に変わっていく。

駅のホームのベンチで休む双葉にペットボトルを差し出した洸。
水を飲み、一息ついた双葉に「水、俺も」と手を伸ばす洸。

も、もしかして これ 気遣いじゃなくて、その後の間接キッス狙い だったの⁉

そう思うと、その前の「水 飲めば 少しは気分 良くなんじゃね?」という台詞も
棒読みで聞こえてくるから不思議だ(笑)

その前の一連の流れだって全ては双葉と一緒の時間を
少しでも確保しようとする並々ならぬ努力の痕跡に見えてくる。

少女漫画では たまに見られますが、
実は男性の方がヒロイン気質だったという現象が起きているのだろうか。
(最終『13巻』のあとがきによると、その逆転現象も狙ったらしい)

そう考えると洸が どんどんと おバカさん になるのも説明がつく。

本当は別の理由があるのだが、それは脇において妄想すると、
洸は 少女漫画のヒロイン ≒ 勉強が出来ない という数式を ちゃんと自分を当てはめようとしたのかも。

『3巻』で本格的に始まった少女漫画的な展開。
それに合わせて洸も、世にも珍しい「男ヒロイン」の自覚が芽生えてきたか。

そうして発生するのが少女漫画の定番・勉強回。

君が腐ったミカンじゃないことを証明してやろうぜッ☆ えっ、腐っても鯛だったの!?

急遽、洸の部屋でクラス委員の5人で開催されることになった勉強会。
当初は乗り気じゃなく、無視とふて寝を決め込んでいた洸が、なぜ やる気になったのか。

どうも その やる気スイッチは、独占欲と嫉妬からだと思われる。
双葉の隣に座る小湊(こみなと)には彼女の髪の匂いを嗅がせるわけにはいかない。

田中先生との宿泊体験(語弊あり)目当てで委員会を引き受けた修子といい、
今回の洸といい、動機が不純である。

でも髪の匂いも汗の匂いも 一種のフェロモンだもん。
萌えるし、好きのスイッチが入りかねない。
そりゃ 焦るよね、ヒロイン(笑)

だからポテトチップスを食べたかった振りをして、
2人の身体の間に手を伸ばし、自然な流れを装い2人の間に座る。

ただ この一連の流れ、双葉にはバレていないが、
洸に好意をもって観察していた悠里には勘付かれる。

いよいよ完璧男子・馬渕 洸のメッキが剥がれてきたのか。
ガサツな双葉の中には乙女が潜んでいたが、洸の中に潜むものは何だろうか…。


んな洸の一連の動作を観察すると利他的/利己的は表裏一体なのかもしれないと考えさせられる。

例えば、双葉が惹かれる洸の優しい部分。

双葉は洸が自分に掛けてくれる言葉や気遣い、心配も
おんぶも、水も、手助けも、全部が無償の優しさだと思っている。

でも そこには洸にも計算高い部分が少なからずあって、全てが純粋な優しさではない。

そう考えると、この世で一番 罪深いのはナチュラルに優しい人かもしれない。
優しくされた側は自分に向けられる優しさは 自分が「特別」だからだと錯覚してしまう。

こと 恋愛においては少々 利己的で、態度が分かりやすい人の方が無駄な涙が流れないかも。


そして「ごっこ」生活を続ける洸にとって、双葉だけが「特別」な存在なのだろう。

小湊が かつてのクラスメイトから揶揄される洸に対して本気で怒ったように、
洸も双葉が好奇の視線で見られることを本気で嫌悪していた。

この後も ずっと悩む双葉の姿は、洸の気持ちを知っている再読の私からしてみれば、杞憂も杞憂でしかない。
洸の行動原理は全て双葉のためなのは自明である。


それにしても精神面はともかく、洸は表に出る表情が豊かですね。

変顔に 困った顔、両側から ほっぺを挟まれる顔など百面相を見せる。
ロボット疑惑すらあった前作『ストロボ・エッジ』の蓮くんとは また違う魅力が見られます。

余談ですが、小湊が2泊3日の「リー研」にエロ本を持ってきたことに割と ひいてます…。


アオハライド 番外編 星の引力」…
村尾 修子の回想編。彼女が 独りだった背景が語られる。
実は頑なな人ほど、あっという間に胸襟を開くのかもしれません。

そして田中先生。彼は かの男ヒロイン・洸の実兄である。
どれもこれも分かってて やっているに違いない(笑)

『ストロボ』の時は、興味の湧かない脇役たちの番外編だらけで正直 辟易した部分もあったのですが、
本書の番外編は、この1編だけ(だったはず)。

前日譚である この話以外の、現在進行形の話は、
全部、本編に落とし込んでくれているので、スムーズに読めました。