《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

失われた恋が今 満たされていく。これは私の初恋が成就する物語。成仏もするけど ☆彡

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やまもり 三香(やまもり みか)
ひるなかの流星(ひるなかのりゅうせい)
第12巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

沖縄で馬村と、初めて2人きりでお出かけ。はしゃぐすずめの目に映ったのは…獅子尾!? 考えないように避けてきた気持ちを確かめるため、走り出したすずめ。最後に選んだ答えは――。感動の最終巻!

簡潔完結感想文

  • 沖縄。彼氏との水族館デート。大好きな魚よりも目を奪われるのは、あの人に似ている後ろ姿。
  • 東京。たんこぶ に続いて 切り傷。あの一族は俺の額の同じ場所ばかり狙って怪我させている!
  • xx。好きな人の胸に頭から飛び込む すずめ。実らないはずの初恋が実るのが少女漫画(誤誘導)

前が、お前たちが俺の翼だっ! と言い出さないだけ誠実な結末を迎える 最終12巻。

いよいよトライアングル ストーリーも最終巻。

様々な ご意見はございましょうが、私としては、
最終回までこんなに緊張感を持続させてくれる作品に出会えて良かったと心から思っている。

まぁ、確かに主人公・すずめ が最後に誰を選んだのか、
という点 以外では腑に落ちないところがなくはない。

私の好きなミステリに即して言えば、フェアじゃない部分と、
論理として弱いと思う部分が確かにある。

ネタバレを前提に話を勧めますが、
『1巻』の1話目にヒーローが登場しないのは、
少女漫画の作法としてフェアじゃなかったのではないか。

掲載ページ数に限りがあるのでしょうがないにしても、
1話で馬村(まむら)の隣に座る場面までは描いて欲しかった。

また、このエンディングに持っていくための伏線がもっと欲しかった。

ラスト2巻では、読者へのミスリードばかりが目について、
それに比べると すずめ が馬村を選ぶ理由が少しだけ弱く感じてしまう。

そのせいで本書は乙女ゲームのようにマルチエンディング(といっても2ルートのみだが)が、
用意されていたのではないかと邪推する余地を残している。

先生ルートにも進路変更がいつでも可能だったのでは、
というところが読了後のカタルシスを阻害している。

どちらの男性も拮抗している本書の面白さであるので痛し痒しではあるのだが…。


だ、全体を通して、作者のやりたいこと・描きたいことは明確だし。
論理的でありながら、登場人物たちの心の機微も描けている。

感想を書くために再読して一層、物語の構造が鮮明になった気がする。

浅はかな考えによる誤読かもしれないが、
2人の男性の何もかもを徹底的に五分五分の状態に持っていき、
その上で すずめ が心を整えて、真摯に相手と向き合う様子が描かれていた。

私は本書の肝は、しっかり2人と交際している点だと思う。
そして結末を踏まえて、もっと踏み込んで言及すれば、
すずめ の2つの恋が、ラスト2話の中で成就している点だと思う。
こんなアクロバティックなことをやってのけたことは称賛に値する。

本書は、いわゆる「運命の人」論ではない。
自分はどんな恋がしたいのだろうか、と実体験を通して学んでいく。

現実的に比較・対照していき、自分で選んだ人との恋を成就させる漫画なのである。
システムとしては非常に画期的ではないかと思う。


そしてメタ視点としては、当て馬が幸福になる稀有な漫画。
既成概念を打ち破る作品ではないか。
そして、今まで数々のヒーローよりも魅力的だった当て馬の無念を晴らす作品である。
当て馬界のヒーローだよ。馬村は。


終『12巻』は、夏休み中に企画された自由参加の体験学習での様子から始まる。

馬村を誘って一度は断られたものの、
お互い言いたいことを言い合える関係を構築しようと
すずめ が歩み寄ったことで、馬村の参加も決まり旅行気分。

3泊4日の日程の、3日目に予定されている自由行動は馬村と2人きりで出掛けることも決まり、
2人で美ら海水族館に向かうことに。

水着姿に胸が高鳴ったり、
いつもより可愛い彼女の姿に緊張したり、
顔が急接近して2人してドギマギしたり、
旅行ならではの高揚感を楽しむ2人。

ただ、そこに水を差すのは、すずめ の心の中の初恋の人・獅子尾(ししお)の存在。

水族館の人混みの中で獅子尾に似た人の後ろ姿を見つめる すずめ、
そして すずめ の視線の先にいる人の姿を分かってしまう馬村。

そんな中、すずめ の叔父の諭吉(ゆきち)から、
獅子尾が、命には別条ないが、病院にいることを知らされ動揺する すずめ。

さて、すずめ が選ぶのは、緊急事態の東京の獅子尾か、
沖縄で変わらず隣にいてくれる馬村か。
すずめ の最後の決断が下される…。


状況が分からない獅子尾の様子に顔が青ざめる すずめ。
そんな すずめ だが、馬村が問うても正直には話さない。

馬村に遠慮して余計なことを言わないようにする すずめ に対して、
チョップで対応してくれる馬村。

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気を遣って言いたいことも言えない関係は、アイツの時と同じじゃねーか。ばーか。

すずめ に対する暴言と暴力は馬村の真心。
(DVの言い訳にも成りかねないけど…)

運動会での獅子尾と すずめ の保健室の一件を盗み聞いてから、
仏の馬村になったのに比べれば、
今回は、ちゃんと馬村のままで対応してくれている。

ちゃんと話し合って、ちゃんとコミュニケーションをする、
という2人の目指す2人の関係性が実を結んでいる証拠ですね。

自分の不安を、馬村にとって快くない存在である獅子尾の話をする すずめ を、
馬村はそっと抱きしめる。
そして「行けよ」と すずめ を奮い立たせるのであった。

混乱する すずめに対して、
「お前はまだ あいつのことが好きなんだ」と指摘する。
そして それを完全には否定できない すずめ。

馬村は すずめを第一に思っているから行けよ、と言える。
どんな結果でも、この時が来たんだ、と思える覚悟を決めている。

それよりも すずめ が自分の気持ちから逃げて、
このまま交際を続けることの方が馬村には心苦しい。

馬村が欲しいのは、「100% 自分の方を向いて(『10巻』)」いる すずめ なのだ。


でもない馬村から後押しされて、向かった東京。
近所の病院を駆け回って探し当てた病院に、獅子尾の姿があった…。

獅子尾の怪我は額を2針縫う程度。
落下する酒ビンから諭吉を守ろうとして、逆に諭吉の肘によってメガネが割れて怪我したらしい。

先生は、落ちてくる物からその人を守ろうとして、自分が怪我する運命なんですね。
『4巻』でも すずめを守ろうとして同じ個所を怪我してましたね)


そんな事故の経緯から、段々と会話の核心に入っていく2人。
運動会の日、すずめ が聞くことを拒んだ獅子尾の言葉の続きが語られていく…。

獅子尾から語られるのは謝罪の言葉。
すずめ に本音を言えないような関係性であったこと、
2人で過ごした かけがえのない時間を今でも大事に思ってること、
すずめ を守るためという一方的な理論を構築して、
自分の気持ちを偽って別れを告げたこと。

そして、あの別れの日、「好きじゃない」と言ってしまったことを取り下げる。

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時を経て重なる2つの心。ありがとう さよなら先生。今日が私の初恋の卒業式。

獅子尾はちゃんと すずめ のことを好きでいてくれていた。
最初から最後まで。
ずっとずっと同じ気持ちで歩いていたのだ。


こうして、すずめ の初恋は再度 成就する。
そこに半年以上の時間差はあったものの、
あの日、心から欲しかった言葉をもらえた。
だからもう、未練はなく、その心は成仏していく。

これは すずめ の初恋の卒業式ですね。
先生に一緒に歩いてきた日々を実感し、先生から巣立っていく。


この場面、結局 すずめ の結論が、獅子尾を過去形にすることならば、
すずめ がナゼ、馬村のもとを離れてまで東京に来なければならなかったのか、
という疑問は湧いて当然かと思います。

作品を擁護する形で考えるならば、
獅子尾の怪我は、キッカケに過ぎなかった。
先生と2人きりで会って、先生と会話する機会を すずめ は窺っていた。

裏を返せば それは、それだけ馬村と100%向き合いたいと すずめ が思っていたからではないか。

獅子尾への初恋に決着を付けることが、馬村の胸に思いっ切り飛び込む最後の障害。

テストで間違えたところは、
自分のミスに気付いて、立ち止まって、どこで間違ったのかを分析しないと
復習にならない。今後の自分の糧にならない。
間違えた自分を、間違えない自分にするために、先生に会う必要があったのだろう。

先生とお別れする前後(『7巻』ぐらい?)の感想文で、
何度か封印、という言葉を使いましたが、
先生との対話で、そんな気持ちを無理矢理に封じ込めるのではなく、
大事に仕舞うという段階に移行したかったのではないか。

そうすることで、今は封をしている先生から貰ったガラスのケースも、
いつか飾って眺められるようになる。
あれが私の初恋。青春の最初の一ページ、と。

先生と話すことが、すずめ にとって何よりも優先し、必要な儀式だったのではないだろうか。


繰り返しになってしまうが、最終回の何が凄いって、
初恋を実らせながら、ちゃんと別の人と幸せになっているところである。

本命視されたヒーローが好きだと言っているのに、
当て馬と思われた真のヒーローとの幸せを選ぶ。

あの日、負った傷がみるみる回復していく、
だけど、それはそれ。
若いために新陳代謝が早い身体は、もうあの日の自分とは違うもので構成されている。
そんなスピード感が『ひるなか』っぽいのではないか。


獅子尾自身も認めるところではあるが、先生は確かに卑怯。
プライドを捨てて男になった、といえば聞こえはいいけど、
かつて担任していた生徒同士が交際したことに腹を立てての告白にも思える。

大人の選択 → ガキの選択、に戻っていったことが、彼の2回目の罪ではないか。

すずめに謝罪するなら、嘘を言ってゴメン、あの時はそうするのが一番だった、
馬村と幸せになれよ、と傷を塞ぐことを優先すべきだった気もする。


もし、本書を20巻ぐらいまで存続さろ、という出版社側の要望があったとしたら、
先生とくっつくという選択肢もあったのかな。

ただ先生と再交際しても、どうにも幸せになる未来が見えてこない。
この後は人目を忍んで交際しなきゃならないし、
馬村の視線も刺さるように痛いだろう。
そして最後のクライマックスは交際が学校側にバレるというお約束の展開かもしれない。

そんな『ひるなか』は もはや『ひるなか』の雰囲気ではないので、
私は この結論で良かったと思います。

あと、そもそも論ですが、15歳(当時)に好意を抱く教師って、単純にキモい。
先生のストライクゾーンの広さには底知れないものを感じます。


方で、沖縄で敗戦を覚悟した馬村。

彼の回想で、馬村の生い立ち、馬村の母の離婚などが想起される。

ここで、初めて兄の大志(だいし)初登場。
なんと馬村は三兄弟だったのです。
この時、初めて知り目を丸くした。
美形兄弟ですね。

両親の離婚は、馬村が小学生中学年ぐらい(推定)の時で、兄は中学生ぐらいか。

推理を補強する材料としては、馬村の中学生時代は学ランで、
一コマだけ登場の馬村(兄)も学ラン着用なので、中学生ではないかと思われる。

そうすると、馬村の5,6個上か?
今は大学生か社会人か。

家に居る気配がないので、一人暮らししているのかな。
馬村のお弁当を兄が作ってくれているという設定も良いのだが…(妄想)


さて、その日の昼に すずめ を東京に送り出してから、
自分と彼女のことばかり考えている馬村。

眠れずに海辺を歩く馬村が見たのは、全速力で近づいてくる すずめ の姿。

馬村に向かう時は走っている。
それが すずめ の今の心境。

初めての馬村への告白。
そして初めてのキス…。


ムードなど関係なしに、キスをはじめてすると告白するすずめ。

馬村はさすがに獅子尾との交際の進行度は知り得ないでしょうから、
初めてのキスと聞いて馬村は嬉しかったのでしょうか。安堵したのでしょうか。


本編の最後の台詞は馬村の「ばーか」。

酷い…。
でも繰り返しになりますが、馬村の暴言は愛情の証。
こんな言葉でも、思った言葉を即座に伝えることが出来るのが信頼の証。

「好きだよ ばーか」「大好きだよ ばーか」「愛してるんだぞ ばーか」

幸福感に溢れた素晴らしいラストだったのではないでしょうか。


は最も残念なのは、すずめ の叔父・諭吉が無罪なこと。

先生は先生の罪を受けて不幸になっているけど(しかも数年間)、
諭吉叔父さんは ちょっと残念ですね。

すずめ へ真実を明かすこともしないし、謝罪もない。

すずめ の親代わりではあるけど、
本当の親じゃないことが裏目に出た気がする。

すずめ と ここのところ没交渉だったというのに、
ちょっと出しゃばりすぎだし、お前が言うな。
と、本書で一番嫌なヤツになったかもしれません。


表紙は『1巻』と同じ4人で、各人ほぼ同じ構図になっている。

1巻の頃と見比べて考えてみると馬村というキャラは育ったなぁ、と感慨深いものがある。
逆にキャラ自体は良かったのに、活躍度でいうと ゆゆか は大人しくなってしまった。

ライバルキャラから勝手にフェイドアウトしていって、
自身の恋も1巻につき数ページの進展という地味な活躍で終わった。

友人としては良い働きをしたんですけどね。

ひるなかの流星 12 (マーガレットコミックス)

ひるなかの流星 12 (マーガレットコミックス)