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少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛感情の変化によるライフスタイルに合わせて2L♥DKにも『L♥DK』にもなる新居

未成年だけどコドモじゃない(1) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
未成年だけどコドモじゃない(みせいねんだけどコドモじゃない)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

民法七百五十三条(婚姻による成年擬制)未成年が婚姻したときは、これによって成年に達したものとみなす。今回の水波ワールドは、結婚からはじまる恋。親の決めた結婚とはいえ、大ノリ気の香琳と、親と別居したいばかりに、しぶしぶ結婚を承諾した尚の、波瀾万丈新婚ラブコメディー。結婚したら、未成年じゃなくなるなんて、知らなかった。結婚ってもっとバラ色かと思っていた。怒濤の結婚生活を送る中で、少しずつ芽生える相手への思いやりや恋ゴコロ。「今日、恋をはじめます水波風南の波瀾万丈新婚ラブコメディー第1巻!! ぜひぜひ、新しい水波ワールドへ誘われてください!

簡潔完結感想文

  • 心から望まれていた結婚のはずが、望まれたのはステータスだけ。ヒエヒエな新婚生活開幕。
  • 「大っ嫌い」発言が珍しく男性側から発せられるが、それは間違いなく恋愛成就のフラグ。
  • 高飛車だけど一生懸命なヒロインの姿に早くもツンがデレに変化。「帰る家には恋がある」。

女漫画では愛ある同居開始は少なく、同居中に愛が生まれる、の 1巻。

つくづく少女漫画のヒットは水物である。私は本書を水波作品の既読4作の中で断トツに面白いと思っているけれど、どうも作者の作品の中では話題性や売上がいまいちだったようだ(実写映画化まで されているけれど)。ハッキリ言って前作『今日、恋をはじめます』が なぜ少女たちの心を掴んだのか分からないし、そして本書が心を掴み損ねたのか その違いを説明できない。

これまで通り ヒロインがヒーローや環境に振り回される設定だし、ヒーローがハラスメントをすることでヒロインは被害者ポジションになって読者の同情 = 応援を受けやすい仕組みも用意されている。1話の中で十分に興味を引く内容も用意できている。

一つ考えられるのは水波作品の特徴であるハラスメント男の方向性が読者が望むものではなかった、という点か。ここまで長編1,2作目はセクハラ(それ以上の性暴力)、3作目はパワハラ、そして4作目の本書はモラハラだろうか。まさにモラハラ夫という存在だから結婚生活に憧れを抱く少女の夢を壊してしまったのか。

16歳の香琳の結婚相手は金銭援助目的で自分に近づくモラハラ夫であることが判明

に本書には工夫もいっぱいあって、作者が狙い通り少女漫画のゴールである結婚を最初に済ませる構成も面白いし、これによって作者が まだ手を出していない同居生活も成立している。そして何より これまでとは違いヒロインがヒーローを最初から好き、という過去作との明確な違いも示せている。ヒロイン側が初恋を成就させるために努力を惜しまない展開は受けるはずなんだけど…。ヒロインが素直になれなくて想いが上手く伝わらないから空回りしてしまう展開も いじらしいではないか。

リアル読者は1話で強引にキスしてくるような(本書もしてるか…)展開や、男性の方が絶対的な圧力を持って女性を屈服させる(女性も本心では嫌がらない)ような内容が好きなのか。

ただし こうやって擁護する気満々の私でも失敗しているな、と思うのはヒロイン・香琳(かりん)の性格。構成として彼女がワガママであればあるほど、この後の展開による変化の落差が大きくなるから それは許せるだろう。
でも作者は加減を間違えた。『1巻』後半ではヒーローの厳しい言動の中に優しさや配慮が見えてくるが、前半のヒロインの言動にも一定のラインが必要だったと思う。例えば香琳が食事に文句を言ったりするのは許容範囲内だけど、親の用意してくれたドレスを食事で汚すのは見るに堪えない。また自分に甘い父親に対しては激昂しないとか、そういう香琳なりのラインが欲しかったが、精神に異常があるのではないかと思うレベルで ただ荒れ狂うだけ。

矯正の予定があるとはいえ狂ったように怒り出す あたおか香琳は敬遠されて当然か

平凡なヒロインが男性側の事情に巻き込まれるのは同情を買うが、奇抜なヒロインが飛んで火にいる夏の虫、になっても同情は買えないということか。読者から愛されないのも無理はない。作者の狙いは分かるが演出が間違っている。作者が香琳を愛されるように慎重に育てて欲しかった。1話で読者を掴むと そのまま平凡な展開でも売れるのが少女漫画の法則。『今日、恋』が その最たる例だと私は思っている。逆に本書は1話で掴み損ねた読者が多すぎたということだろうか。かなり無理のある急展開になるかもしれないが、3話のヒーローが香琳を奈落に落とすところ前を1話にまとめれば結果は違ったような気もする。主題を結婚ではなく同居生活に見えるようにすれば もう少し読者受け良かったのだろうか。でも渡辺あゆ さん『L♥DK』が連載中に あからさまな模倣は避けるか。

悪くない作品なのに評価が芳しくなく、作者を落胆させているのは可哀想。でも本書のシチュエーションや構成を面白いと思ってくれる人がいたから実写映画化が実現したのだろう(制作側の二匹目のどじょうっぽさも否めないが)。そうして評価してくれる人がいるから、救済を経ての完結編となる『5巻』やファンブックの出版になったのだろう。私は最低だと思っていた作者への思いを翻すほど本書を評価している。

2022年の民法改正によって16歳の幼妻という少女漫画の人気ジャンルは消滅した。最低結婚可能年齢は18歳となり、高校在学中でも結婚は可能だけれど16歳ほどのインパクトはない。高校3年生で結婚してもハネムーン期間がないまま進路問題などの現実に直面するし、大学生で結婚すると未熟感が薄れてしまう。高校生であり妻であるというインパクトが受けていたのだ。民法改正後の最初から結婚するストーリーには まだ出会っていないけれど、どなたか挑戦しているのだろうか。


16歳の誕生日を迎えてもワガママ放題で世界を自分の都合に合わせて変える折山 香琳(おりやま かりん)。両親は一人娘のワガママを どうしても聞いてしまうから香琳は増長する。

しかし誕生会の後、父親は娘に週末に自分が決めた結婚相手と結婚するように伝える。香琳は自分のことを棚に上げて親の身勝手に全身全霊で抗議。香琳が結婚話に断固 反対するのは好きな人がいるから。しかし親が決めた結婚相手が その好きな人だったため香琳は結婚を すぐに了承。なんと彼の方も自分との結婚を望んでいることを知り、香琳は親が決めた相手だから仕方なく受諾、という体で嬉々として結婚する。相手の鶴木 尚(つるぎ なお)は高校3年生の先輩で香琳の初恋の相手だったのだ。尚は これまでの水波作品同様にエリートイケメン。そして特定の相手はいない。そのことを香琳は尚のサッカー部の活動を毎回 見学することで熟知している。


婚話に浮かれて学校内で結婚のことを漏らしかねない香琳を尚は上手に誘導し、言動をコントロールする。しかし香琳の家を訪問した尚は他者の目のない時には香琳に甘い言葉を囁き、この結婚を楽しみにしていたことが窺える。

こうして自分の好きな人に望まれて臨む結婚式が始まる。列席者は互いの両親だけ。これは高校生同士の結婚に好奇の目が向けられないようにするため。でも香琳は自分の初恋成就と不可侵条約とも言える結婚を周囲に喧伝したい。その気持ちを知った尚は「2人だけの秘密」というスリルに変換することで香琳を満足させる。
懐柔させるのが上手いのは尚に真の目的があるから色々と我慢できるのだろう。そして香琳が自分に惚れている力関係を尚が理解しているからだと思うのだけど、そうであっても自分の目的遂行を優先する尚は人でなしと言える。

誓いのキスを躊躇する香琳に尚は ほっぺにする と言いながら本当に口づけを交わす。この行動に赤面する香琳に尚もまた頬を赤らめている。このキスは強引ではない合法的な それでいて突然のキスという読者サービスの意味があるのだろう。けれど ほっぺでも許されるところを口にする尚の動機は分からない。


婚式が終わってから、2人が どういう経緯で婚約者になったかが語られる。2人の両親は同じ大学の同じ専攻。尚の両親が大学4年の時に子供を生み、その2年後に香琳が生まれた。若くして親になった4人は自分たちの子供が結婚したら素敵、という話を16年後も有効にしていた。お花畑感が否めないが、話を進めるために仕方がない。

気になるのが全編を通して全く存在感のない香琳の母親。なかなか優秀なはずなのに仕事をしている訳でもなく、夫の意思に従うだけの存在になっている。話の都合上、出しゃばる訳にもいかないのか。これなら香琳は母親と死別してから悲しみから逃れるようにワガママになったという設定の方が良かった気がする。
あと大学の同級生の仲良しグループとなると、吉住渉さんの某作品のように香琳と尚が実は義理の兄弟疑惑も出てくるが、そういう展開には一切ならない。尚の両親(特に母親の負けん気)の関係からすると あり得なくはないと思うけど。


みたいな結婚式の後に香琳を待ち受けるのは圧倒的な現実。
新居は香琳の両親が貧乏だった頃に暮らしていた安アパート。香琳は生粋のセレブではなく、一代で成功した成り上がり。実家が豪邸なのは税金対策。しかし心身ともに充実していたのは、この頃の暮らしなので2人にも「厳しい環境」で愛を育んで欲しいと願っていた。

両親は香琳が この生活を望んでいないことは分かっているだろう。それでも強引に話を勧めるのは この結婚が娘にとって最後の矯正の機会だと思っているからではないか。実はワガママ娘に手を焼いていて、娘の能天気さに付け込んだのだろう。さすが有能な人だ。ニコニコしながら娘を叱らず、過酷な試練を与える。獅子は我が子を千尋の谷に落とす、という心境なのだろうか。謎だ。


婿養子に入った尚は新居に反対しない。彼もまた香琳の操縦術をマスターしているので、同居という響きで香琳を丸め込む。しかし2人で新居に入った瞬間、尚は豹変。もう香琳と名前で呼ばず、折山さんと心理的に隔絶。そして物理的には、旅館の宿泊時のように並べられた布団を分け、1つの部屋として使える空間をドアで仕切ることで隔てて2部屋にする。

同居空間を愛で満たすのが少女漫画の役割。0%から始まるから物語は面白くなる

作業が終わった後、尚は この結婚には愛がないと宣言。尚は両親の扶養から抜け出すために婿養子になり家を出た。尚の両親はケンカが絶えない関係で、父親は借金を背負っていた。尚が婿養子になることで鶴木家は折山家による借金の肩代わりと今後の援助が保証された。尚自身も折山家の息子として大学進学と生活環境の整備、そして香琳の父親の薫陶を受けられるメリットがあった。

この結婚を進めたがっていたのは鶴木家。そこに娘の再教育のため折山家が乗っかったという形。やっぱり香琳の父親は育て方を間違えた娘を手放したように見える。


琳は自分の名誉のために自発的な結婚だと訴えるが、それが告白に繋がるためプライドを優先し、尚が辛うじて合格点だったと言ってしまう。そうして香琳は尚を見た目だけで選んだ女に認定されてしまい、尚は香琳を嫌悪し、自分の都合に巻き込む罪悪感を相殺できたと安堵する。

結婚生活は ただの同居生活になり、尚により他人であることを強調するルールが施行される。尚は自分が独り立ちするまでの間の結婚生活だと考えており、その後は離婚するつもり。だから恋愛も自由だと浮気や不倫を許容する。こういうモラハラモラルハザードも読者からの反感を買う原因か。


福の絶頂から奈落に落ちた絶望の一日が終わり、香琳は眠る。翌日、目が覚めると既に10時を回っており、尚は香琳の存在を無視して登校。香琳は身支度を自分で済ませることから悪戦苦闘し、学校に自力で辿り着いた頃には全ての授業は終わっていた。

そんな香琳の異変に気づいたのは幼なじみの男子生徒・海老名 五十鈴(えびな いすず)。五十鈴にも事情を話せない香琳は、彼から送迎者の使用の提案は受け入れない。代わりに同居している尚に道案内を間接的に頼むのだが、尚ファンの一人かのような扱いを受けて、下校の際も迷子になる。

どうにか一人で帰宅した香琳に尚は生活力の無さや不用心さ、そして学校内で自分たちの関係を匂わせようとした軽率さを指摘し注意する。尚が厳しく香琳に教え込むのは、家庭内別居とはいえ共同生活のルールがあるから。このまま香琳にストレスを溜め込んで彼女を生理的に嫌いになってしまうと尚の大望に影響が出るからだろう。自分の都合ばかりなのはモラハラ夫の典型。


かし尚の香琳への嫌悪感のほとんどは彼女のお嬢様育ちの弊害で、初日の錯乱は香琳が自力で現実に奮闘した結果だと尚も理解する。そうして尚は香琳に再教育を施す。

冷たいように見える尚だけど、鍵を持たずに出かけた香琳が困らないように帰宅まで待っていてくれた。そして胸キュン展開として、翌朝 隣人の女性が尚が香琳の帰宅まで落ち着かなかったことが明かされる。

だからキツすぎた自分の態度を謝罪し、香琳を1人の人間として見直し始める。ラストでは学校までの行き方を記した地図を用意し、1日だけ一緒に登校することを許可する(ただし接近禁止)。ツンツンだった尚が早くもデレ始めている。同居とは互いのことを知る機会。尚は香琳への先入観や偏見、そして女性をテリトリーに入り込ませないためのガードを少しずつ解いていく。香琳と尚の距離は現時点でも他の どの女性たちよりも近い。それは確かだろう。

今日、恋をはじめます 番外編」…
24歳のクリスマス、つばきは美容師として研鑽を重ねている。京汰(きょうた)は京都の大学院生。一足早く社会に出た つばき と多忙な京汰は半年ほど会えていない。突然、京汰が目の前に現れ、そして来年の9月からアメリカを拠点にすることが発表される。遠距離恋愛宣言を告げられ、それが別れに繋がると怯える つばき に京汰は結婚して一緒に渡米することを提案する。つばき は自分のスキルアップの他に、いつか京汰の人生に付いていくための英語力も身につけていた。さすが努力の人である。
こうして翌年夏に2人は挙式。この結婚式で つばき は毒親になりかけた母親と完全に和解し、新しい苗字と新しい人生を踏み出すことになる。

『15巻』の番外編でも描かれず空白になっていた渡米への道のり、結婚式が描かれている。完全にファンサービスと商業主義色の強い一編で特に印象の残らない話としか思えなかった。