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少女漫画と小説の感想ブログです

最後に青葉くんから聞き出したかったことは、彼が傷つけた様々な人への謝罪の言葉。

青葉くんに聞きたいこと(8) (なかよしコミックス)
遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

青葉くんのために、聞き屋として青葉くんのお母さんのもとへ通う麻陽。ようやく二人を引き合わせることに成功する。ところが、青葉を信じて待つことに決めた麻陽に、また新たな試練が…!? 感動の涙があふれる最終巻。

簡潔完結感想文

  • 愛を回復してから、当て馬を正式拒否。二股保険をかけた感が どうかと思う。
  • 似た者母子は秘密を話し出すまでが長く、秘密を話してからは あっという間。
  • ラストは とってつけたような遠距離危機。誰が その設定 覚えているんだ…。

ケメン・ヒーロー無罪、メンヘラ無罪が まかりとおる 最終8巻。

好意的に捉えれば、内気だったヒロインも、心に闇を抱えていたヒーローも成長したハッピーエンドであるが、彼らと違って私の胸にはモヤモヤが残る。その原因はヒーローにある。

本書の中でヒーロー・青葉(あおば)が傷つけた人は少なくとも3人。
1人目は中学時代に自分のバスケ人生を棒に振ってまで青葉に献身的に尽くそうとしたのに、青葉が問題を直視せず逃避し続けることで、彼女の想いも宙ぶらりんになってしまった元カノ・梅木(うめき)。『5巻』で麻陽(まよ)が指摘した通り、彼女の人生の選択は彼女のもので、この点において青葉は加害者ではない。しかし付き合っていた相手に十分な説明をしないまま自然消滅を狙い、高校生になって別に好きな人が出来たと言い出す身勝手さは青葉の罪だろう。

2人目は麻陽。こちらも彼女のためと考えたのかもしれないが青葉は身勝手に彼女を遠ざけるばかりでなく、別の男性・尚(なお)を あてがうデリカシーの無さを見せた。その一方で自分が我慢できなくなると欲望のまま彼女に近づいて、それでいて いよいよトラウマに悩まされると簡単に彼女を手放す。悪いのはメンタルヘルスが不安定な心の病気ということを免罪符にしているが、一度ばかりでなく二度も尚との幸せを一方的に望み、麻陽の心を無視する青葉は罪人である。

3人目は その尚。おそらく計3回ぐらい青葉は尚の前で言った言葉を裏切って来たのではないか。自分は誰も好きにならない → いつの間にかに麻陽に告白。でも やっぱり怖くなって尚に麻陽を託す → 結局 麻陽を諦め切れない。

梅木も麻陽も青葉を好きになってしまったから、彼の回復を見届けたくて自分の出来ることをしてきたが、尚の場合、完全に青葉が嘘つきでしかないので この中で一番 最悪のパターンではないか。どれだけ裏切られても青葉を許す尚こそ本書における聖人で、彼が幸せになれないことが この世界の不条理に感じる。特に尚が麻陽を好きになってからは、彼は青葉に ちゃんとライバル宣言をして、青葉の意思を確認して動いているのに、青葉は自分勝手に暴れまわるだけ。そんな青葉に対し尚は怒りを見せず、彼の親友であり続ける。何と完成された人格か。尚の再評価が高まるにつれ、青葉は本当にヒーローなのか疑問が残る。

世界中が お前のことが大好きなんだよ、という男ヒロイン中心の世界観が広がっていく。

して最も残念だったのは、青葉が その罪を最後まで自覚しないこと。1人目の梅木に対しては、彼女が途中で一時的に悪役令嬢化したことで、梅木が謝罪し、青葉は それを寛大に許すという訳の分からない決着となっているのも首を傾げる。そもそも青葉が梅木に対して不誠実だったから、彼女は闇堕ちしたのだ。そういう問題の根源を分からない間抜けな青葉に腹が立つ。

麻陽に対しても それは同じ。メンヘラ発動中とはいえ彼女を悲しませ続けてきた自分を青葉は少しも反省しない。最後の最後まで麻陽を振り回し続け、そして勝手に幸せになっている。
尚は いっそのこと青葉を一発 殴って全てを水に流して欲しかったが、人間の出来た尚は そんな感情すら自分で消化できるようだ。

以前に書いた通り青葉は「男ヒロイン」だと思うが、本当に悪い意味でヒロイン無罪が通用する少女漫画世界におけるヒロインである。何をしても罪に問われず、周囲は変わらずヒロインのことを大好きでい続ける歪んだ空間と同じものが本書にも広がっている。誰からも糾弾されない、誰からも実は愛されていた(ライバルの遥真(はるま)でさえも)青葉。

おそらく彼は幼少期に心に傷を負った頃から少しも成長できていないのだろう。だから周囲は そんな精神年齢の低い青葉を温かく迎え入れる。イケメンでメンヘラで幼稚なヒーローに誰も苦言など呈することは出来ない。そういう自分だけが苦しんでいると思い込んでいる男ヒロインの愛され物語でしかないのが、本書を評価できない点だ。
麻陽や尚レベルで深く青葉を愛し、彼の全てを許容できる人だけが彼の良さに気づくことが出来るのだろう。

最後に細かいことだけど、聞き屋の主人が麻陽の母親の姉ならば、叔母ではなく伯母の表記が正しいのではないか。


葉が自分を好きという気持ちを勇気に変えて、再び麻陽は青葉の母親に話を聞きに向かう。相手は一筋縄では いかないが、恋をする麻陽は諦めない。

麻陽は この勇気は尚に貰った気持ちだというが、結局 本命の人と よりを戻したからキープしようとした尚を切るだけではないか、という順序になっているのが残念だ。メンヘラの青葉との関係に限界を感じて、別の人に心が動くのは とてもリアルな描写だと思うが、どうも青葉といい麻陽といい中途半端な覚悟で相手を振り回している。内気だった麻陽が自分を好きな人に断るのも とても勇気の必要なことなのは分かるんだけど。
これだけ麻陽を、相手のために動ける聖女として描き続けてきたのなら、尚に対しても先に断っても良かったのに、変にリアルに心の二股をしていて違和感が残る。尚は青葉にも麻陽にも振り回されており、彼だけが一番 純粋な存在のように思える。

青葉も麻陽との両想い復活で前向きになったのか、部活に参加は出来ないが見学を望む。この時の、青葉に変なプレッシャーを かけまいとする先輩たちのツンデレが面白い。聖人の尚は青葉に対して恨みも言わず、彼が居やすいようにマネージャとして働くことを勧める。


陽は青葉の母親への出張を続けていて、ある日、彼女が家の外で待っている際に近づこうとして転んでしまう。その麻陽に母親は駆け寄り、大きな声で心配をしてくれた。これが彼女の本来の声だと考えた麻陽は、彼女の発した言葉を足掛かりに、彼女から言葉を引き出す。

そこで語られるのは母親の息子への期待がエスカレートしたこと、そのプレッシャーが息子を苦しめていたことを知った母親は そこで自分の存在が彼の人生の重荷になっていることを思い知らされ、彼の前から姿を消した。そして自分は、青葉のことを息子だと思わないように生きることで その罪を背負い続けていたのだった。それが息子に対して一層の傷になることを考えられないあたり、さすが青葉の母親である。

自分で勝手に出した結論を 誰にも言わず実行してしまう、青葉母子の罪が全ての元凶。

親の胸中を知った麻陽は、彼女を青葉の前に連れ出そうとする。母親は拒否するが、麻陽が付き添うこと、そして麻陽に初めて自分の秘密を話せたことで彼女の心は軽くなっていた。麻陽は母と子、どちらに対しても同じ働きをしている。そして将来の姑に恩を売って、結婚までのコースを確保している。

部活の終わった体育館でマネージャー仕事をしていた青葉の前に母親は現れる。青葉は自分の不甲斐なさが母親の家出に繋がったと考えているが、それが誤解であることを、母親は ゆっくりと心に届くように話し始める。

『1巻』の青葉と同じように、母親は秘密を抱えて生きていて苦しかった。その秘密を誰かに話すことに恐怖を覚え時間がかかったのも母子で同じ。そして母親は「一番にならなくていい」「好きなことをしていい」と最も大事な事を息子に伝え、彼にかけられた呪いを解く。

そうして青葉は「好き」を認める態勢が整った。息子に呪いをかけた母親は、その解除を見届けて再び姿を消そうとする。だが青葉は ぎこちなくではあるが母親と距離を縮め、家族の再生を願っていた。まだ罪を背負っている母は快諾はしないが、母の心を動かすのは父と子、2人の男性たちの今後の働きかけ次第だろう。

バスケへの興味も戻りつつあり、彼は これからもバスケに関わるようだ。それは麻陽への気持ちも同じで、一度 消失した感情は すぐに戻ってこないようだが、青葉は時間をかけて ゆっくりと回復させることを麻陽に誓い、彼女に待っていてもらう。


ストは そんな設定であることも忘れていた麻陽の家庭の話。麻陽の母親は子供みたいな人で お金はあるだけ使ってしまって、だから麻陽は聞き屋のバイトをして生活費を確保する必要があったのだが、彼女は娘の頑張りを見て改心することを誓う。その態度の変化からなのかパート先で社員登用の話が出るのだが、それには転勤という条件があった。つまり麻陽は転校しなければならない。麻陽が母と別れて暮らすことは、まだ生活力に信用が置けない母のためにならないため選択肢に あがらない。

ウィンターカップという日本一を決める大会の観戦にバスケ部が向かう。その決勝に駒を進めたのは遥真(はるま)たちが いる高校。そこで青葉は梅木と再会し、彼女の謝罪を受け入れる。ここで青葉が被害者なのに梅木を責めないという寛大な対応をしているように見えるが、上述の通り、青葉の無罪に違和感がある。

遥真のワンマンプレーは治っておらず、実力とプレースタイルが合っていない彼は苦境に立つ。そんな遥真は青葉のために父親を紹介する働きを見せたことを尚から聞かされた青葉は、遥真への わだかまりを消滅させ、大声で遥真の応援をする。青葉は遥真を叱咤激励することで彼の曲がった根性を正し、チームが結束していく。こうして ずっとプレーを楽しめなかった遥真が楽しそうに試合をする姿を見て、青葉の心にもバスケへの関心に火が点く。そこに「好き」の回復を見たチームメイトたちは来年、同じ地で今度は観客席ではなくコートに立つことを誓い合う。だが その未来に麻陽はいない。


突に最終回直前で唐突に遠距離展開となる。麻陽は遠距離になるから青葉が自分を好きという気持ちを取り戻さなくていいと笑顔で伝え、青葉の前から去る。彼がバスケへの情熱を取り戻した。それは1話での麻陽の目標が達成されたことであり、自分の存在意義を感じられるものだと麻陽は思うようにする。恋愛に関しても、以前 言っていた通り次の人と青葉が幸せになれば それで十分。

青葉に話した後、部員たちにも伝えるが、愛されマネージャーは それぞれから温かい言葉をもらう。剛(つよし)先輩は最後までツンデレのツン行動しか出来ず、デレる前に麻陽との時間が終わってしまった。永久に愛されるマネージャーだという確証を得て、麻陽は頭を下げて感謝を述べる。

青葉は麻陽の引っ越し当日まで以前のような麻陽への好意を取り戻せなかったが、いつまでも胸にある心の空白は、麻陽が隣にいてくれたという事実だということに思い当たる。
だから聞き屋に別れの挨拶をしていた麻陽に会いに行き、彼女に最後に話を聞いてもらう。これが麻陽の聞き屋としての最後の仕事になる。青葉は学校に咲いた冬桜の木の下で彼女への愛を誓う。青葉の中の麻陽への好意は消失したのではなく眠っていただけ。だから青葉はハッキリと麻陽が好きだと伝える。『1巻』で「青葉より桜のほうが ずっと好き」と言っていたが、それは青葉が苦しんでいる自分しか考えられない自己愛から解放され、桜=麻陽を ちゃんと愛せるようになったということなのか。作者は『1巻』と同じような構図を狙って桜の木の下の告白に こだわったのだろうけど、あまりにも季節外れである。当初の構想を駆け足で詰め込んだ感じが拭えない。

1年後、バスケ部は本当にウィンターカップの決勝の舞台に立っており遥真の高校と対戦する。万全な状態の青葉の初めての試合だけど、その描写は割愛される。そこに麻陽も応援に駆け付け、彼らが勝利したことが1枚の写真で表される。その写真が飾ってあるのは結婚後の麻陽と青葉が住む家だった。遠距離にも時間にも負けず、彼らは愛を貫いたことが明かされる。やっぱり駆け足。

「描き下ろし番外編」は麻陽の結婚前の話。出会って10年で結婚らしいから26歳前後か。意外と現実的な年齢である。マネージャーだった松前(まつまえ)さんは岩瀬(いわせ)と、梅木はプロ選手になった遥真と交際しているという状態のようだ。本編の最後で青葉も遠征試合に行く描写があるから彼もプロ選手のようだ。麻陽はプロの聞き屋になっているのだろうか。